契約不適合責任の免責特約は有効?現況有姿の限界
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士築古の家を売るとき、「責任を負わない」と契約書に書いておけば安心できるのか。
個人が売主なら、この特約そのものは有効です。
ただし、知っていて告げなかったことについては、特約があっても責任を免れられません。
裁判でも、免責の定めがありながら売主の賠償が認められた判決があります。
この記事では、裁判所名・判決日・結論まで示して2件を紹介します。
そのうえで、福岡市で築古の家を売るときに、契約書と告知書をどう組み合わせるかをまとめました。
「現状有姿で、責任を負わない形で売りたい」と考えている売主に向けた記事です。
2. 特約が効かなかった判決はありますか
3. 「現状有姿」と「免責特約」は同じものですか
4. 特約があっても、告知書は要りますか
5. 福岡市で築古の家を、責任を負わない形で売るには
「責任を負わない」と書けば、本当に免責されますか
個人が売主なら特約は有効ですが、知っていて告げなかったことには効きません。
効く範囲と効かない範囲は、法律のほうで分けられています。
ここを取り違えると、特約を書いたはずなのに責任だけが手元に残る。
まず、売主が誰かによって使えるルールが変わるところから見ていきます。
個人が売主なら、免責特約そのものは有効です
民法は、売主が担保の責任を負わない旨の特約を結ぶことを認めています。
築年数の経った家を、直さずそのまま引き渡す取引では、実際によく使われる定めです。
当社が福岡市内で扱う築古の戸建てでも、この形で契約することがあります。
買主の側も、価格に反映されていれば納得したうえで買う判断ができる。
出典:e-Gov法令検索 民法
知っていて告げなかったことには効きません
民法572条は、免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れられないと定めています。
つまり、特約が守ってくれるのは「売主も知らなかった不具合」までです。
知っていた雨漏りやシロアリを黙っていれば、特約は盾になりません。
ここが、免責特約をめぐる裁判のほとんどで争点になるところ。
売主が知っていたかどうかを、買主が状況証拠から立証しにいく形になります。
宅建業者が売主だと、2年より短い特約は無効です
宅地建物取引業法40条は、宅建業者が自ら売主になる場合の特約を制限しています。
引渡しの日から2年以上とする特約を除いて、民法より買主に不利な特約は無効です。
不動産会社が売主になる取引で、全部免責という形は使えません。
一方、個人の売主にはこの条文が当たりません。
同じ「現状有姿」でも、売主が業者か個人かで効き方が変わる理由がここにあります。
特約が効かなかった判決はありますか
免責の定めがありながら、買主の請求が認められた判決が公表されています。
ここで紹介するのは、そのうち東京地方裁判所の2件。
どちらの契約書にも、免責をうかがわせる文言が入っていました。
出どころは一般財団法人 不動産適正取引推進機構(RETIO)の判例紹介です。
特約が効いた判決もありますが、ここでは効かなかった型のほうを先に押さえます。
免責特約があっても賠償が認められた例(東京地裁 平成21年2月5日)
宅建業者の媒介で土地建物を買った人が、建物に雨漏り等があったとして起こした裁判です。
契約には、瑕疵担保責任を免責する定めが置かれていました。
東京地方裁判所は平成21年2月5日、売主と媒介業者の双方について請求の一部を認めています。
売主が契約の前に説明すべき事実を説明していなかったため、信義則上、買主の損害賠償請求は妨げられないと判断されました。
免責の定めがあることと、説明しなくてよいことは別だという読み方になります。
この事件の雨漏りの経過は、雨漏りを隠して売却したら|裁判になった3件の結論で詳しく扱いました。
「現況有姿」の一文が免責と認められなかった例(東京地裁 平成28年4月13日)
売主が、瑕疵担保責任は特約で免責されていると主張した事案です。
契約書には、瑕疵担保責任の条項を抹消し、建物は現況有姿で引き渡す旨が書かれていました。
東京地方裁判所は平成28年4月13日、この定めを免責の特約とは読みませんでした。
少なくとも土地については、特約を除外して民法の規定によらせる趣旨だと解釈しています。
そのうえで、民法の瑕疵担保責任まで免除する意図なら、契約書にそう明示すべきだとしました。
結論として、買主の請求が認められています。
「現況有姿」と書いただけでは、免責の意思が伝わらないことがある、という判断です。
2件から読み取れること
2件に共通しているのは、契約書の文言だけで結論が決まっていない点です。
裁判所が見ているのは、売主が何を知っていて、どこまで伝えたかのほう。
免責特約は、書けば終わりという道具ではありません。
説明を尽くしたうえで置く特約が、効く特約です。
売主にとっての実務は、文言を強くすることではなく、告知書を厚くするほうに向きます。
強い文言だけを置いた契約は、平成28年の判決のように、あとから読み直されて意味を削られました。
告げてある不具合が多いほど、免責が働く範囲のほうは広がります。
個別の事案で特約が効くかどうかは、弁護士や司法書士に確認したうえで判断してください。
「現状有姿」と「免責特約」は同じものですか
別のものです。
現状有姿は引き渡す状態の話で、免責特約は責任の話になります。
この2つを1行にまとめて書いたために免責と認められなかったのが、平成28年の判決でした。
契約書では、はっきり分けて書きます。
現状有姿は「引き渡す状態」の話
現状有姿とは、いまある状態のまま引き渡すという意味です。
売主が修繕せずに渡すこと、買主がその状態を受け入れることを決めた条項。
掃除や残置物をどうするかを決めるときにも使われます。
ただし、引渡し後に見つかった不具合の責任まで消す言葉ではありません。
免責特約は「責任」の話
免責特約は、契約不適合責任を負わないと決める条項です。
どの範囲を免責するのかを、建物・土地・設備に分けて書きます。
範囲を書かずに「一切の責任を負わない」とだけ置くと、意味の解釈で争われます。
平成28年の判決は、まさにその解釈で売主の主張が通らなかった例。
設備表は、告知書ともまた別の書面です
売買では、告知書のほかに付帯設備表という書面も作ります。
エアコン・給湯器・照明など、どの設備を残し、どれが故障しているかを一覧にしたもの。
設備の不具合は、この表に「故障あり」と書くことで扱いが決まります。
告知書が建物そのものの話、設備表が付いている機器の話と分けて考えると迷いません。
当社は契約の前に、この2枚と免責の条項を並べて突き合わせています。
空欄が1枚でも残っていれば、引渡し後に「聞いていない」が出る余地を残すことになる。
契約書にどう書き分けるか
当社は、引き渡す状態の条項と、責任の条項を別の条に分けています。
そのうえで、告知書に書いた不具合を条文から名指しで参照する形にします。
「告知書に記載の雨漏りについては責任を負わない」という書き方。
どの不具合について合意したのかが、あとから読んでも分かります。
特約があっても、告知書は要りますか
要ります。
特約が効く範囲を決めているのが、告知書に何を書いたかだからです。
告知書は、正式には物件状況等報告書と呼ばれる書面。
売主が記入して買主に渡すもので、不動産会社が作る重要事項説明書とは別に用意します。
告知書が特約を支える理由
民法572条が効かないのは、売主が知りながら告げなかったときです。
裏返すと、告げてあれば、その不具合について特約は働きます。
当社がお客様からいちばん多く受ける質問が、「知っている不具合は伝えないといけませんか」です。
答えはいつも同じで、必ずお伝えくださいとお願いしています。
事前に告知して契約書に記載しておけば、その部分は責任の対象外にできるからです。
福岡市の築古物件で、当社が書いていただいている項目
雨漏り・シロアリ・給排水の故障の3つは、必ず埋めていただきます。
当社では、契約不適合責任を負う期間を引渡しから3か月とするのを標準にしています。
期間を区切れるのも、何を告げたかがはっきりしているからです。
築古のマンションでは、これに加えて給湯器と配管の交換時期をうかがいます。
戸建てでは、屋根と外壁の直近の工事を書いていただく形。
実際にお預けする欄は、次の4つが軸になります。
| 欄 | 書いておくこと |
|---|---|
| 雨漏り | 時期・場所・直したかどうか・施工した会社 |
| シロアリ | 駆除をした年と、保証が残っているかどうか |
| 給排水 | 詰まりや漏水の履歴と、交換した部分 |
| 増改築 | いつ・どこを・確認申請を出したかどうか |
この4つが埋まっていれば、免責の条項から名指しで参照できます。
思い出せないときの書き方
分からない欄は、分からないと書いてください。
空欄にすると、聞かれなかったのか隠したのかが、あとから区別できません。
「平成20年ごろに屋根を直したが、施工会社は不明」という書き方で足ります。
相続した実家のように、売主が住んでいなかった物件では、この書き方が助けになる。
必要な書類の一覧は売却に必要な書類にまとめてあります。
福岡市で築古の家を、責任を負わない形で売るには
責任の重さを下げる道は2つあり、売り方を選ぶところから始まります。
1つは買取、もう1つは仲介で特約と告知書を組み合わせる形です。
どちらを選ぶかで、価格と手離れの早さが変わります。
福岡市では2年間で4,980件が動いています
当社が集計している国土交通省の取引価格情報では、福岡市7区の取引はマンション3,739件、戸建て1,241件でした。
対象期間は2024年第2四半期から2026年第1四半期までの2年間。
マンションは中央区1,109件と博多区951件だけで、7区全体の半分を超えています。
取引の多い区ほど、買主が並べて比べる材料も多い。
区ごとの相場は福岡市の売却相場で確認できます。
買取なら、責任を負わない形にしやすい
買主が宅建業者になる買取では、契約不適合責任を負わない契約にしやすくなります。
買主が建物の状態を自分で見たうえで買い取るため、引渡し後の争いが起きにくいからです。
そのぶん、価格は仲介より下がります。
仲介・買取・リースバックの違いは3つの売り方の比較にまとめてあります。
仲介で売るときの落としどころ
仲介では、免責特約と告知書をそろえて置く形が現実的です。
買主が個人なので、全部免責を求めると、そこが値段を下げる交渉材料になります。
当社は、告げた不具合を名指しで免責し、それ以外は期間を区切る形をすすめています。
どの契約の形で任せるかを決めるときは、媒介契約の種類をご覧ください。
次にやること
まず、告知書に書ける材料を家の中から集めてください。
工事の見積書・領収書・保険の請求書・写真の4つがそろえば、ほとんどの欄が埋まります。
そのうえで無料査定に出すと、免責の条件込みの価格が見えてきます。
特約の書き方で迷っている段階なら、15分無料相談でその一点だけをお聞きください。
特約が自分の事案で効くかどうかといった個別の法律判断については、弁護士・司法書士にご相談ください。
