隣の塀が越境したまま売れる?境界の説明義務と裁判例
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士隣家の塀がこちらの敷地に少し出ている。
境界の杭が見当たらず、どこまでが自分の土地なのか分からない。
この状態でも、土地や戸建ては売れます。
取引が止まるのは、越境があるからではなく、越境を知りながら買主に伝えないまま引き渡したときです。
実際の裁判でも、争点になったのは越境の有無ではなく、売主と仲介業者が何を説明したかでした。
この記事では、越境をめぐって争われた東京地裁の判決3件を、裁判所名・判決日・結論まで示して紹介します。
そのうえで、福岡市で売る前に確定測量をするかどうかの判断と、越境が見つかったときに作る覚書の中身をまとめました。
隣地との境目があいまいなまま、実家や土地の売却を考えている売主に向けた記事です。
2. 越境をめぐる裁判で、裁判所は何を見ましたか
3. 筆界と所有権界は、何が違いますか
4. 売る前に確定測量をするかどうかは、どう決めますか
5. 越境が見つかったら、売主は何をすればよいですか
6. 次に何をすればよいですか
隣の塀が越境したままでも、土地は売れますか
売れます。
越境しているというだけで売買契約ができなくなるという決まりは、法律にも宅建業法にもありません。
実務でも、越境したまま現状のとおり引き渡す取引は珍しくない形です。
分かれ目になるのは、その事実を契約の前に書面にしてあるかどうか。
越境そのものは、契約の書き方で処理できます
売買契約書には、越境の状態を確認したうえで現状のまま引き渡す、という定めを置けます。
実際の裁判で取り上げられた契約書にも、次のような条項が入っていました。
「本物件について東南側隣接地からの門塀の越境があることを確認し、現状のまま引渡しを受けるものとします」。
つまり越境は、消してから売るものではなく、書いてから売るものだという扱いになります。
売主が撤去費用を負担して更地同然に整えなければ売れない、という話ではありません。
買主が本当に気にしているのは、建て替えとローンです
買主が越境を嫌がる理由は、見た目ではなく将来の工事にあります。
越境した塀や屋根が敷地の上にあると、建て替えのときに隣地と交渉するのは買主自身になるからです。
境界が確定していないと、金融機関が担保評価を出しにくく、住宅ローンの審査が止まることもあります。
ここに「将来こうする」という取り決めがあれば、買主の不安はかなり小さくなります。
隠したときだけ、引渡しのあとに争いになります
売主が越境を知っていながら伝えず、買主が引渡し後にそれを知る。
裁判になっているのは、ほとんどがこの形です。
越境を伝えたうえで値段を決めた取引は、そもそも争いになりません。
伝えるか伝えないかで、売主の手元に残るものが変わります。
越境をめぐる裁判で、裁判所は何を見ましたか
裁判所が見ているのは、越境があったかどうかではありません。
その越境によって買主が実際に何を失ったのか、という一点です。
失ったものが金額で示せなければ、説明が足りなかったとしても賠償までは認められていません。
下の3件は、いずれも東京地方裁判所の判決です。
| 判決 | 争われたこと | 結論 |
|---|---|---|
| 東京地裁 平成28年2月16日 | 隣地建物の私道への越境の説明 | 買主の請求を棄却 |
| 東京地裁 平成27年1月15日 | 擁壁の軽微な越境の撤去・築造 | 買主の請求を棄却 |
| 東京地裁 平成29年12月7日 | 売買対象の一部が国有地だったこと | 買主の請求を一部認容 |
説明義務違反として訴えたが、退けられた例
買主は購入の際、隣地建物の一部が私道に越境していることについて、取り決めはないと説明されていました。
ところが引渡しのあとになって、隣地所有者と売主との間で、その越境を認める確認書が交わされていたことが分かります。
買主は売主と仲介業者に対し、詐欺的な行為があった、説明義務に違反したとして損害賠償を求めました。
東京地裁は平成28年2月16日の判決で、詐欺的な行為はなく、損害も発生していないとして、この請求を棄却しています。
軽微な越境で、撤去まで求めた請求が退けられた例
買主は宅地建物取引業者で、土地の決済が済んだあとに、擁壁が隣地へ越境していることが判明しました。
越境の程度は、測量で最大2センチほどと確認されたものです。
買主は、その解消のために擁壁を取り壊して築き直す費用を売主に求めました。
東京地裁は平成27年1月15日の判決で、軽微な越境について撤去と築造まで行うのは過剰な対応だとして、買主業者の請求を棄却しました。
越境が見つかれば売主が直さなければならない、という考え方が通らなかった例です。
説明が無く、買主の請求が一部認められた例
店舗付きの共同住宅を買った買主が、売買の対象とされた土地の一部が国有地であり、建物がそこに越境していることを知りました。
売主からも仲介業者からも、その説明は受けていません。
買主は国有地を買い取らざるを得なくなり、その購入費用、過去の使用料相当額、払いすぎた代金分などの賠償を求めます。
東京地裁は平成29年12月7日の判決で、国有地の購入に要した費用等に限って買主の請求を認めました。
説明しなかった側が責任を負った一方で、認められたのは実際に支出した部分だけでした。
ここが「越境を隠されたのだから全部取り返せる」とはならなかったところです。
筆界と所有権界は、何が違いますか
土地の境界には、筆界と所有権界という2つの線があります。
筆界は、その土地が登記されたときに範囲を区画するものとして定められた線で、所有者どうしの合意では変更できません。
所有権界は、所有権の範囲を画する線で、売買や交換によって移動することがあります。
この2つがずれている土地は、実は珍しくありません。
「隣と話がついている」は、筆界を動かしません
隣地の方と昔から「ここが境目」と決めていた。
その話し合いで動くのは所有権界のほうで、登記上の筆界は動かないままです。
法務局の筆界特定制度は、筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における筆界の位置を筆界特定登記官が明らかにする仕組み。
新しく筆界を決める制度ではなく、もともとあった線を明らかにする制度です。
そして、この制度は所有権がどこまであるのかまでは特定しません。
出典:法務局 筆界と所有権界
ずれていると、引き渡す範囲があいまいになります
売買契約で引き渡すのは、登記された土地です。
筆界と実際に使っている範囲がずれていると、買主が受け取る土地と、現地で見た土地が一致しません。
登記簿では自分の土地なのに、隣家の塀の向こう側にある部分が出てくる。
売主としては、どちらの線で話しているのかを買主に伝えておくと、引渡し後の食い違いを防げます。
登記簿・公図・地積測量図がそれぞれ何を示しているかは、売却に必要な書類のページにまとめてあります。
売る前に確定測量をするかどうかは、どう決めますか
買主が住宅ローンを使う個人なら先に測り、買主が現況のまま買い取る会社なら測らずに進める。
この分かれ目で決めてください。
確定測量の費用は40〜60万円ほど、期間は1〜3か月かかります。
3,000万円で売れる土地なら、売却価格の1〜2%にあたる金額です。
判断の材料は、売り先・隣地の状況・引渡しまでの余裕の3つ。
先に測っておいたほうが早いとき
買主が住宅ローンを使う個人の場合、境界が確定していないと審査で止まることがあります。
土地を分けて売るときや、買主が建て替えを前提にしているときも同じです。
隣地が公道や水路に接していると、官民境界の立会いに役所の日程が入るため、そのぶん期間が延びます。
売り出してから測ると、この待ち時間がそのまま引渡しの遅れになる。
費用と期間の内訳は、確定測量の費用は40〜60万円|期間と官民境界の待ち時間にまとめました。
現況のまま進めても止まらないとき
買主が不動産会社で、現況有姿の条件で買い取る取引なら、測量を省いて進められることがあります。
マンションの一室のように、土地の境界が問題にならない物件も同じです。
越境がごく小さく、隣地の方と覚書を交わせる関係にあるなら、測らずに書面で処理する判断もあります。
測るか測らないかは、売り急ぐかどうかではなく、買主が何を求めるかで決めてください。
越境が見つかったら、売主は何をすればよいですか
隣地の方と覚書を交わし、その内容を告知書と重要事項説明に写す。
この2段階を踏めば、越境は取引の障害ではなく、条件のひとつになります。
撤去してほしいという交渉から始めると、隣地の方との関係のほうが先にこじれてしまう。
当社が福岡市で土地や戸建てを預かるときも、先に資料をそろえてから隣地へ伺う順番にしています。
公図と地積測量図を持って伺うと、話が「どちらが正しいか」ではなく「どの線で合意するか」になるためです。
覚書に書く3つのこと
1つ目は、いまどこに何が越境しているかという現状の確認です。
2つ目は、その越境物をいつ解消するかという取り決めで、多くは建て替えや取り壊しのときと定めます。
3つ目は、土地の所有者が代わってもこの約束が引き継がれるという承継の定めです。
3つ目が抜けていると、買主に引き渡した時点で覚書が効かなくなるおそれがあります。
覚書ができたら、その写しを買主へ渡す資料に入れてください。
では、隣地の方が署名に応じないときはどうなるでしょうか。
その場合は、越境の状態を売主の側で写真と図面に残し、告知書に書いて買主へ渡す形になります。
覚書が無いことも含めて伝えたうえで値段を決めれば、あとから「聞いていない」とは言われません。
隣地との交渉がまとまらないこと自体は、売却を止める理由になりません。
福岡市で資料をそろえる窓口
公図と地積測量図は法務局で取得します。
福岡法務局の本局は福岡市中央区舞鶴にあり、電話番号は092-721-4570です。
福岡市内でも、土地のある区によって本局と出張所のどちらが扱うかが分かれるため、管轄は福岡法務局の一覧で確かめてください。
前面道路が市道であれば、道路台帳や道路査定図は福岡市の道路下水道局(中央区天神)が窓口になります。
これらの資料は当社が査定の段階で取り寄せるので、売主に動いていただく必要はありません。
区ごとの窓口は福岡市7区の手続き窓口ガイドにまとめてあります。
出典:福岡法務局 管轄のご案内
次に何をすればよいですか
まず、手元の公図と地積測量図を見て、境界杭が現地にあるかどうかを確かめてください。
杭が見つからない、あるいは隣家の塀が明らかにこちらへ出ているなら、その状態のまま当社にご相談ください。
越境の程度によって、覚書で足りるのか、確定測量を先に入れたほうが早いのかが変わるからです。
土地の測量・境界・接道の調査をどう進めるかは、福岡市の土地売却のページに書いています。
まだ売ると決めていない段階でも、15分の無料相談で現況の整理だけを行えます。
おおよその価格を先に知りたい場合は、無料査定からお申し込みください。
なお、この記事で紹介した判決は、公表された裁判例の紹介です。
越境物の撤去を請求できるか、賠償が認められるかは、土地ごとの事情によって結論が変わります。
ご自身のケースで請求が通るかどうかの判断は、弁護士や司法書士にご相談ください。
