居抜き物件の仲介で気をつけること|造作譲渡と許可の注意点
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士この記事は、店舗の賃貸仲介を経験した営業職の方に向けて書いています。
テナント仲介を続けるか、エージェント(業務委託)として働くかを比べている方が、居抜き物件の扱いを点検できるようにまとめました。
居抜きの基本や、事業用の賃貸で見る項目の全体はテナント仲介の仕事内容とは?で触れています。
ここで扱うのは、その先の「契約書に何を書くか」と「開業までに誰の許可が要るか」の2つ。
2. 造作譲渡契約には、何を書いておくのですか?
3. オーナー様の承諾と原状回復は、どう詰めるのですか?
4. 飲食店の居抜きで、保健所と消防に何を確かめますか?
5. 居抜きの仲介は、どんな段取りで進めるのですか?
居抜き物件の仲介では、何から確かめればよいですか?
最初に確かめるのは、オーナー様が居抜きでの引き継ぎを認めるかどうかと、3つの取引をどの順番で結ぶかです。
この2つが決まらないうちに造作の値段の話を進めると、あとで全部やり直しになりかねません。
居抜きは3つの取引が重なっている
居抜きの1件には、性格の違う取引が3つ含まれます。
- オーナー様と次のテナントの賃貸借
- 前のテナントと次のテナントの造作譲渡
- 前のテナントとオーナー様の賃貸借の終了と、原状回復の取り決め
当事者の組み合わせは3通りあり、誰か1人が首を縦に振らなければ話は止まります。
仲介する人の役目は、3つの取引の条件が互いに食い違わないように並べること。
住居の賃貸なら2者の調整で済むところを、3者の利害で組み立てるのが居抜きの難しさです。
順番を誤ると、誰が損をするか
よくあるつまずきは、造作の代金を先に払ったのに、賃貸借の審査が通らない形です。
次のテナントは使えない造作の代金を払ったことになり、返金をめぐって前のテナントと揉めることになります。
逆に、前のテナントが解約の予告を出したあとで居抜きの話が流れたらどうなるでしょうか。
前のテナントは、残り少ない期間で原状回復の工事を急いで手配するしかありません。
そこで、賃貸借が成り立つことを造作譲渡の条件にしておくのが、一般的な守り方です。
前のテナントの解約予告の期限がいつかも、話の最初に聞いておきます。
造作譲渡契約には、何を書いておくのですか?
造作譲渡契約には、譲る物の一覧、代金と支払いの時期、賃貸借が成り立たなかったときの扱い、引き渡し後の不具合の扱いを書きます。
「店の中にある物を一式で」という書き方では、引き渡しの日に何が残っているかで揉める原因になるからです。
譲る物を一覧にし、リース品を外す
一覧には、内装・厨房機器・空調・看板・家具など、譲る物を1つずつ載せます。
写真を添えておけば、引き渡しの日に「あったはずの物が無い」と言われても確かめられるでしょう。
見落としやすいのが、リース契約で借りている機器です。
業務用の冷蔵庫・製氷機・食器洗浄機・券売機・POSレジなどは、所有者がリース会社になっていることがあります。
前のテナントの物ではないため、造作として譲ることはできません。
機器にリース会社の名前のシールが貼られていないか、前のテナントにリース契約の写しが無いかを確かめておきましょう。
引き継ぎたい機器があるなら、次のテナントがリース会社と別に話をつけることになります。
反対に、次のテナントが要らない物を置いていかれる「残置」も起こりがちです。
撤去するのは誰で、費用はどちらが持つのかも、一覧と一緒に決めておきます。
代金・支払いの時期と、話が流れたとき
代金は、賃貸借の契約と同じ日か、鍵の引き渡しの日に合わせて払う形にしておくと安全です。
手付けのような前払いを求められたら、賃貸借が成り立たなかったときに全額を返すと書いておきます。
造作の値段は、前のテナントが内装にかけた金額で決まるわけではありません。
次のテナントにとっての値打ちは、その設備を使ってどれだけ工事費と開業までの期間を減らせるかで測るものです。
値段の話が出たら、同じ設備を新しく入れた場合の見積もりと並べて見せると、次のテナントも判断しやすくなります。
引き渡し後に壊れていたとき
中古の設備なので、引き渡しの時点の状態で譲る「現状有姿」とする取り決めがよく見られます。
その場合でも、動作を確かめた日と、確かめた範囲は書面に残しておくべきでしょう。
空調・給湯器・排気ファンなど、開業前に直すと費用がかさむ設備は、内見の段階で実際に動かしてもらいます。
修理の履歴や、ダクトの清掃をいつしたかも、次のテナントの判断材料になる情報です。
排気や給排水の不具合は、内装を仕上げたあとに見つかると、壁や床を開けて直すことになり費用が膨らみます。
オーナー様の承諾と原状回復は、どう詰めるのですか?
オーナー様には、居抜きでの入居を認めるかに加えて、「次のテナントが出るときに、どこまで戻すのか」を契約書に書いてもらうよう詰めます。
ここが空白のままだと、退去の段階で前のテナントの分の撤去費まで次のテナントが負うことになりかねません。
賃借権の譲渡には、承諾が要る
民法では、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲り渡したり転貸したりできないと定めています。
承諾なしに第三者に使わせたときは、賃貸人が契約を解除できるという定めです。
居抜きでは、前のテナントの契約を引き継ぐのではなく、オーナー様と次のテナントが新しく賃貸借を結ぶ形が多く見られます。
どちらの形にするかで、保証金の返し方や原状回復の起点が変わります。
オーナー様と最初に決めておきたい点です。
退去時に戻す範囲を、契約書に書く
民法621条は、通常の使用による損耗と経年変化を除いて、賃借人が受け取った後の損傷を原状に戻す義務を定めています。
問題は、居抜きで引き継いだ造作が「受け取った後」に付いた物なのか、最初からあった物なのかが曖昧になりやすい点です。
そこで、次のテナントの契約書には、次のどちらかをはっきり書いてもらいます。
- 退去時は、引き継いだ造作も含めて撤去する(スケルトンに戻す)
- 退去時は、入居した時点の状態に戻せばよい
前のテナントとオーナー様のあいだは、「原状回復の工事を、次のテナントへの造作の引き継ぎで済ませる」という合意になります。
この合意が書面に無いと、前のテナントが保証金の精算で不利益を受けるおそれがあるため、残しておくのが安全です。
造作買取請求権と、特約
借地借家法33条は、賃貸人の同意を得て付けた造作について、賃借人が賃貸借の終わるときに時価での買い取りを請求できると定めています。
この条文は、同じ法律の37条が挙げる「賃借人に不利な特約を無効とする」規定に含まれていません。
そのため、事業用の賃貸借では、造作の買取請求をしないとする特約を置く例があります。
居抜きで造作を買っても、出るときにオーナー様へ買い取ってもらえるとは限らない、ということです。
次のテナントには、契約の前にこの点を伝えておきます。
飲食店の居抜きで、保健所と消防に何を確かめますか?
飲食店の居抜きでは、保健所の営業許可を取り直すのか承継できるのか、消防へはいつまでに何を出すのかを確かめます。
どちらも内装の工事を始める前に窓口へ相談しておけば、手戻りが減るでしょう。
営業許可は、前の店のものを使えるか
飲食店の営業には、食品衛生法に基づく営業許可が要ります。
福岡市では、施設の所在地を管轄する保健所の窓口か、オンラインの食品衛生申請等システムで申請する仕組みです。
相談先は、店のある区の保健福祉センター衛生課(食品係)。
福岡市によると、2023年12月13日から、事業譲渡も合併・分割・相続と同じ扱いになりました。
譲受人は新しく許可を取らずに、届出で営業者の地位を引き継げます。
ただし、居抜きの多くは厨房や内装といった「物」を買う取引です。
前の店の営業そのものを譲り受けるのか、設備だけを買って新しく許可を取るのかは、区の衛生課に図面を持って確かめるのが確実でしょう。
許可の施設基準は都道府県や保健所を置く市が条例で定めるので、業種が変われば、前の店で許可が出ていても手直しが要る場合があります。
消防への届出と、席・間取りの変更
福岡市消防局は、新しくテナントを使う場合、使用開始の7日前までに防火対象物使用開始届出書を出すよう求めています。
提出先は、建物の所在地を管轄する区の消防署です。
席を増やす、間取りを変える、出入口を塞ぐといった変更で、消防用設備の追加が必要になることがあると市は案内しています。
居抜きでも「前の店と同じ配置なら何もしなくてよい」とは限りません。
消防用設備の工事をするときは、着工の10日前までに工事整備対象設備等着工届出書を所轄消防署の予防課へ出すことになっています。
業態を変えるなら、用途変更も
物販の店や事務所だった区画を飲食店にするなら、建築基準法の用途変更に当たるかも確かめます。
確認申請が要る規模の線引きは、テナント仲介の仕事内容の記事で国土交通省の資料とあわせて書きました。
飲食店から飲食店への居抜きでも、ビル全体の用途や消防の区分に影響しないかは、管理会社を通じてオーナー様に聞いておくと安心です。
居抜きの仲介は、どんな段取りで進めるのですか?
一般的には、オーナー様の承諾、窓口への相談、賃貸借と造作譲渡の同日の締結、届出、引き渡しの順で進めます。
前のテナントの解約予告の期限と、次のテナントの開業日の両方から逆算して組むのがこつです。
開業までの段取りを表にすると、次のようになります。
| 段階 | 確かめること | 相手 |
|---|---|---|
| 1. 打診 | 居抜きの可否、新しい賃貸借の条件 | オーナー様・管理会社 |
| 2. 現地確認 | 譲る物の一覧、リース品、設備の動作 | 前のテナント |
| 3. 窓口への相談 | 営業許可の取り方、消防の届出 | 区の衛生課・消防署 |
| 4. 契約 | 賃貸借と造作譲渡を同じ日に結ぶ | 3者 |
| 5. 届出と引き渡し | 使用開始届(7日前まで)、鍵と造作の引き渡し | 消防署・前のテナント |
表の3と4の順番を入れ替えないことが、居抜きの事故を減らすいちばんの近道になります。
天神や博多のようにビルの建て替えが続く地域では、移転する側と入る側の時期が重なることもあるでしょう。
都心の動きは、テナント仲介の記事の後半にまとめました。
当社のテナント賃貸エージェントが担う範囲
当社のテナント(事業用)の賃貸エージェントは、居抜き物件の造作の調整と、賃料・保証金・フリーレントなどの条件の交渉を担います。
重要事項説明書・賃貸借契約書の作成と、用途地域・建物の用途の役所調査は当社の受け持ちです。
重要事項説明も、当社の宅地建物取引士が行います。
応募の条件は、店舗・事務所など事業用の賃貸仲介の実務経験です。
飲食店の居抜き物件の経験や、天神・博多のビルオーナー様・管理会社とのつながりは歓迎します。
働き方は業務委託・専業。
業務委託料の率と月額のサポート利用料は、面談で契約書と一緒にお見せします。
職種の詳しい中身はテナント(事業用)の賃貸エージェント募集、制度の全体はエージェント募集のページにあります。
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