相続・空き家の売却仲介の進め方|登記・特例・士業連携
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士相続した実家や、親が住まなくなった空き家の売却相談は、売買仲介の中でも段取りの多い案件です。
この記事は、売買仲介の経験があり、エージェント(業務委託)として相続・空き家の案件を受けることを考えている方に向けて書いています。
査定や販売活動の進め方そのものは、通常の売却と大きくは変わりません。
違うのは、売る前に片づける手続きと、税の特例の期限が売り出しの時期を縛る点です。
ここで扱うのは、法務省と国税庁の公式ページで確かめた制度と、当社(おもいで不動産)の運用の2つで、両者は分けて書いています。
2. 相続登記の義務化で、売却の前に何を確かめる?
3. 税の特例は、売る時期の決め方にどう関わる?
4. 司法書士・税理士へは、どの場面でつなぐ?
5. 時間のかかる相続案件は、どう進める?
6. 福岡で相続・空き家の売買を担うと、どんな案件に出会う?
相続・空き家の売却相談は、通常の売却と何が違う?
相続・空き家の売却相談は、「誰が売るのか」と「いつ売れる状態になるのか」がまだ決まっていない段階で始まる点が、通常の売却と違います。
そのため最初の面談は、査定より先に名義と相続人の状況を確かめる場です。
売る人が、まだ決まっていない
通常の売却では、登記簿の所有者がそのまま売主になります。
相続では、登記簿の名義が亡くなった方のままということが珍しくありません。
相続人が複数いれば、誰が取得するのか、共有のまま売るのかを相続人の間で決める必要があります。
相談に来た方が相続人の一人にすぎない、という場面もあるでしょう。
共有のまま売るなら、売買契約には共有者の全員が売主として加わることになります。
この段階で媒介契約の話を急ぐと、ほかの相続人から「聞いていない」という反発を受けかねません。
エージェントがまず確かめるのは、相続人が誰で、全員が売却に前向きかどうかという点です。
時間の単位が、月ではなく年になる
遺産分割の話し合い、相続登記、家財の片づけ、建物を残すか解体するかの判断。
売り出しまでに、これだけの工程が挟まるわけです。
相続人が県外に住んでいれば、書類の郵送と署名・押印のやり取りだけでも数週間が過ぎていきます。
工程が重なれば、最初の相談から成約までが1年を超える見通しになることも考えておく必要があるでしょう。
業務委託の報酬は成約に応じて支払われるので、この時間の長さは収入の入り方にそのまま響きます。
報酬の仕組みと入金の時期は、不動産エージェントの報酬の仕組みで整理しました。
相続登記の義務化で、売却の前に何を確かめる?
2024年4月から相続登記が義務になり、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内の申請が求められています。
売却の前提として名義を相続人へ移す必要があるので、エージェントは最初に登記の状況を確かめます。
義務の中身:3年以内と、10万円以下の過料
法務省によると、相続で不動産の所有権を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります。
2024年4月より前に始まった相続も対象で、その場合の期限は令和9年3月31日です。
期限内に遺産分割がまとまらないときは、「相続人申告登記」という簡易な申出で申請義務を果たしたものとみなされます。
ただし相続人申告登記では、名義は相続人に移りません。
売却して買主へ所有権を移すには、遺産分割などを経た相続登記が別に要ります。
最初の面談で確かめる4つのこと
相続の売却相談で、査定の前に確かめておきたいことは次の4つです。
- 登記簿の名義人は誰か(亡くなった方のままか、さらに前の代のままか)
- 相続人は何人で、どこに住んでいるか
- 遺言書があるか、遺産分割の話し合いはどこまで進んだか
- 建物にいま誰か住んでいるか、家財は残っているか
名義が祖父母の代のままなら、相続人の数が増え、戸籍を集めるだけで時間がかかります。
ここで見通しを伝えておくと、売り出しが遅れたときに依頼者の不信を招きません。
登記の手続きそのものは司法書士の仕事なので、エージェントは状況を聞き取って橋渡しをする立場です。
税の特例は、売る時期の決め方にどう関わる?
相続した不動産の売却には、売る時期に期限がある税の特例が2つあり、どちらを使えるかで売り出しの時期の組み立てが変わるからです。
エージェントは税額を計算する立場ではありませんが、期限の存在を知らないと、依頼者が使えた特例を逃す原因になります。
取得費加算の特例:相続開始から3年10か月以内
相続税を納めた人が、相続した土地や建物を一定の期間内に売ると、納めた相続税の一部を取得費に加えられます。
国税庁が示す期間は、相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで。
申告期限は相続開始から10か月なので、実務では「3年10か月以内」と覚えておくと整理しやすくなります。
相続税がかかっていない人には使えない点も、押さえておきたいところです。
相続空き家の3,000万円控除と、併用できない組み合わせ
亡くなった方が一人で住んでいた家を相続して売ると、一定の要件のもとで譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
主な要件は、1981年5月31日以前に建てられた家であること、区分所有の建物ではないこと、売却代金が1億円以下であることです。
売る期限は、相続開始から3年目の年末まで。
建物を残して売るなら耐震基準を満たすこと、取り壊して土地で売るなら取壊し後にその土地を使っていないことも要件に入ります。
令和6年1月1日以後の売却では、売った年の翌年2月15日までに耐震改修か取壊しを済ませる形も認められるようになりました。
建物を残すか解体するかの判断が、そのまま特例の使い方に関わってくるということです。
令和6年1月1日以後の売却で相続人が3人以上いるときの控除の上限は、2,000万円です。
そして、この特例と前の取得費加算の特例は併用できず、どちらか一方を選ぶことになります。
どちらが有利かは税額の計算しだいなので、判断は税理士に委ねるところです。
福岡市内の家でこの特例を使うには、福岡市が交付する「被相続人居住用家屋等確認書」を確定申告に添える必要があります。
この確認書は空き家だったことを市が確かめる書類で、特例が使えるかどうかを最終的に判断するのは税務署です。
司法書士・税理士へは、どの場面でつなぐ?
名義や遺産分割の手続きは司法書士へ、税額の計算や特例の選び方は税理士へ、それぞれ相談が具体的になった時点でつなぎます。
エージェントが受け持つのは、依頼者の状況を整理して、専門家が早く判断できる形で渡すところまでです。
エージェントが答えないこと
「この特例は使えますか」「税金はいくらになりますか」という質問に、営業が言い切るのは危うい場面です。
特例の要件は細かく、相続人ごとの事情で結論が変わることもあります。
答えるべきは、制度があることと期限があること、そして誰に聞けば確かな答えが出るかという点です。
登記の申請を代わりに進めることも、エージェントの仕事ではありません。
線を先に示しておけば、依頼者は誰に何を聞けばよいかで迷わずに済みます。
つなぐときに渡す情報
士業へ取り次ぐときは、次の情報をそろえておくと、初回の相談が空回りしません。
- 相続が始まった日(亡くなった日)
- 相続人の人数と、売却への意向
- 物件の所在地、建てられた年、登記の名義
- 相続税の申告をした(する)かどうか
- 売却を考えている時期と、建物を残すか解体するか
相続が始まった日と建てられた年が分かれば、どの期限が関わるかの見当がつきます。
相続税の申告をしたかどうかは、取得費加算の特例が候補に入るかどうかの分かれ目です。
当社では、士業への取り次ぎは会社が担う業務の一つです。
提携する士業の窓口は会社が持ち、エージェントには入ってすぐのオンボーディング(2週間)で取り次ぎ方をお伝えします。
エージェントが一人で士業を探し、紹介の関係を一から作る必要はありません。
時間のかかる相続案件は、どう進める?
時間のかかる相続案件は、売り出しまでの工程を区切り、いまどこで止まっているかを依頼者と共有しながら進めます。
止まっている理由が分かっていれば、待つ時間も依頼者との関係を保つ時間に変えられるはずです。
工程を区切り、止まっている理由を書き残す
相続案件の多くは、遺産分割、登記、片づけ、売り出しの順に進みます。
どこで止まっているのかを、依頼者と同じ言葉で共有しておくと、連絡の間隔が空いても話が戻りません。
たとえば「いまは相続人のうちお一人の同意を待っています」と伝えれば、依頼者は自分が何をすべきか分かります。
エージェントの側も、案件ごとに次の連絡日を決めて記録しておくと、取りこぼしが防げます。
期限のある特例が関わるなら、その期限から逆算した売り出しの目安も一緒に書いておくと安心でしょう。
相続案件だけに偏らない持ち方
相続案件は1件ごとに時間がかかるため、それだけを抱えていると、成約の時期が何か月も先にずれ込みます。
住み替えなど比較的早く進む売却とあわせて持つと、案件の動きに波が出にくくなります。
業務委託では仕事の組み立てを自分で決めるので、この配分もエージェント自身の判断です。
業務委託という働き方の全体は、不動産エージェント(業務委託)とは?にまとめました。
福岡で相続・空き家の売買を担うと、どんな案件に出会う?
福岡市の空き家の多くは市場に出ていますが、出ていない空き家も約1.3万戸あり、相続が売却の相談につながる余地があります。
当社の売買エージェントは、福岡市内のマンション・戸建て・土地を中心に、こうした事情のある相談を受け持ちます。
福岡市の空き家の状況
福岡市によると、令和5年の住宅・土地統計調査で、市内の空き家は約7.9万戸でした。
そのうち約6.6万戸が賃貸・売却用や別荘などで、それ以外の「その他の住宅」は約1.3万戸です。
市は、この「その他の住宅」が長く放置されると管理の行き届かない空き家になるおそれがあるとして、流通を促す取り組みを進めています。
相続した実家がこの約1.3万戸のうちの1戸になる前に、売るか貸すかの相談に乗れるかどうか。
そこが、相続・空き家に強い売買エージェントの出番です。
出典:福岡市 空き家の流通促進
当社の売買エージェントが担うこと
当社のサイトには、相続した実家、住み替え、離婚に伴う売却など、事情を抱えたご相談が多く寄せられます。
そうした売却のご相談は、状況に応じてエージェントにお渡しします。
エージェントが担うのは、相談とヒアリング、査定の説明と価格の提案、販売活動、条件交渉、引き渡しまでの伴走です。
物件調査、重要事項説明書と売買契約書の作成、重要事項説明、決済の立会、士業への取り次ぎは当社が担います。
募集は売買エージェント1名、業務委託・専業で、条件は売買仲介の実務経験です。
相続・空き家・共有名義の案件のご経験は歓迎します。
月額のサポート利用料と業務委託料の決まり方は、面談で契約書と一緒にお見せします。
職種の詳しい内容は売買エージェントの募集、制度の全体はエージェント募集のページをご覧ください。
