埋蔵文化財包蔵地の土地は売れる|届出60日前と試掘の話
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士福岡市の土地を売ろうとして、そこが埋蔵文化財包蔵地だと分かり、不安になる方がいます。
この記事は、福岡市内に土地を持っていて、遺跡の範囲に入っていると知った所有者に向けたものです。
結論を先に書きます。
埋蔵文化財包蔵地にあるというだけで、土地が売れなくなることはありません。
持つことにも売ることにも制限はかからず、効いてくるのは買主が着工するときです。
売主がやるべきなのは、売り出す前に範囲を確かめ、買主に先へ伝えておくこと。
あとから分かると、買主は工期とお金の両方を読み直すことになり、値引きの話に変わります。
2. 自分の土地が包蔵地かどうかを調べる
3. 着工前の届出は60日前まで
4. 試掘調査では何が起きるのか
5. 本調査になったときの費用と工期
6. 売り出す前に、売主がやっておくこと
埋蔵文化財包蔵地にある土地は売れるのか
売れます。
埋蔵文化財包蔵地は、貝塚や古墳など、地下に遺跡があると知られている土地のことです。
所有権に制限がつくわけではなく、売買そのものを止める仕組みもありません。
実際、福岡市では包蔵地の中で毎年たくさんの住宅が建ち、土地の取引も続いています。
博多区や中央区の中心部で建っているビルや住宅の多くは、遺跡の範囲の中にあるものです。
制限がかかるのは「掘るとき」だけ
文化財保護法が求めているのは、土地を掘る前の届出です。
売るだけなら届出は要りませんし、更地のまま持ち続けるぶんにも手続きはありません。
効いてくるのは、買主が建物を建てるために基礎を掘る段階から。
つまり、売主にとっては「買主の工事が何日止まるか」という形で跳ね返ってきます。
もう1つ、範囲の外だから関係ない、とは言い切れません。
福岡市は、包蔵地の中だけでなく、隣接地で土木工事をするときにも事前の照会と届出を求めています。
地図で見て境目にかかる土地ほど、自分で判断せずに市へ聞いたほうが早く片づきます。
買主が気にするのは工期とお金
買主、とくに建売の会社が真っ先に聞いてくるのは、試掘や発掘調査でどれだけ待つのかという点です。
資金の借り入れに期限がある買主ほど、待つ期間が読めない土地を避けます。
建売の会社は、土地を仕入れてから建物を引き渡すまでの日数で採算を見ているからです。
そこに60日の届出と試掘の待ち時間が乗れば、その分を仕入れ値から差し引いて帳尻を合わせようとします。
「遺跡の上の土地は安くなる」と言われるときの中身は、たいていこれです。
だからこそ、売主の側で調べた結果を先に出しておくと、買える相手が減りません。
出典:文化庁 埋蔵文化財
自分の土地が包蔵地かどうかを調べる
福岡市では、市の文化財ホームページと福岡市Webまっぷで、おおよその範囲を自分で調べられます。
地図で見て境目にかかっていたら、埋蔵文化財課への照会で白黒をつけてください。
手順1:「包蔵地外リスト」を見る
福岡市は、包蔵地の外にある町名を一覧にした「包蔵地外リスト」を公開しています。
自分の土地の町名がここにあれば、その時点で手続きは要りません。
逆に、リストに無い町名なら、次の地図で位置まで確かめてください。
同じ町名の中でも、道1本で範囲の内と外が分かれることがあるためです。
手順2:Webまっぷの包蔵地分布地図で位置を見る
福岡市Webまっぷには、埋蔵文化財(遺跡)の分布地図が載っています。
自分の土地を画面で探し、色のついた範囲に入っているかどうかを見てください。
博多駅の周辺なら、ほとんどの土地が博多遺跡群の範囲に入ります。
博多遺跡群は、JR博多駅の北側に南北1.6km・東西0.8kmの広がりを持つ遺跡で、弥生時代から近世までの跡が重なっています。
中世の貿易都市「博多」そのものの跡なので、範囲の広さは福岡市ならではです。
博多区以外の土地でも、同じ地図で確かめられます。
「うちは駅から離れているから関係ない」と決めてしまう前に、一度は画面で見ておいてください。
手順3:境目のときは照会を出す
地図では判断がつかない場合、「埋蔵文化財の有無について(照会)」を市へ出します。
窓口は経済観光文化局文化財活用部の埋蔵文化財課で、場所は福岡市中央区天神1丁目8番1号の市役所14階。
電話番号は092-711-4667です。
持参のほか、電子申請(スマート申請)でも受け付けています。
照会の回答は書面で返ってくるので、売却が終わるまで手元に残しておいてください。
買主から「本当に調べたのか」と聞かれたときに、その1枚が答えになります。
売却の準備で区役所や法務局を回る予定があるなら、福岡市7区の手続き窓口ガイドも合わせてご覧ください。
着工前の届出は60日前まで
包蔵地で土木工事をするときは、着手の60日前までに届け出なければなりません。
根拠は文化財保護法第93条で、届出先は都道府県・政令指定都市の教育委員会です。
福岡市の場合、窓口は先ほどの埋蔵文化財課になります。
届出に付ける図面
福岡市へ出すのは、照会と届出の書類、それに工事の計画図面です。
図面として求められるのは、位置図・現況図・配置図・基礎伏図・断面図、そして地盤改良の施工図など。
どこをどの深さまで掘るかが分からないと、市も判断できないためです。
「60日前」は売買の日程に直接効く
ここが売主にとっていちばん実務的な数字です。
買主が引渡しの翌週に着工したくても、60日前の届出という決まりがある以上、そのとおりには進みません。
売買契約から引渡しまでを1〜2か月で組む取引だと、届出の期間はまるまる重なる計算です。
売主が先に照会を済ませておけば、買主は契約前から日程を引けるので、この待ち時間が交渉材料になりにくくなります。
引渡しまでの段取りは売却の流れで全体を確かめてください。
試掘調査では何が起きるのか
市が届出の内容を見て、工事が遺跡に影響しそうだと判断すると、試掘調査が入ります。
試掘は、遺物や遺構があるかどうかと、その深さを確かめるための調査です。
本格的な発掘調査が要るかどうかの判断も、この試掘の結果次第です。
試掘は原則として公費、ただし更地が前提
福岡市は、試掘調査を原則として公費で行っています。
費用の心配は要りませんが、条件が1つあります。
試掘は原則として更地の状態で行うので、掘れる状態にする準備は申請者の側の仕事です。
古家が建ったまま売る予定なら、解体の時期と試掘の時期が前後する点に気をつけてください。
木造戸建ての解体費は1坪あたり5〜8万円が目安で、30坪なら150〜240万円ほど。
解体して更地で売るか、古家付きのまま売るかの判断は実家の解体費用はいくら?福岡の坪単価と更地の注意点にまとめています。
何も出なければ、そこで終わる
試掘をしても遺構や遺物が出ないことは珍しくありません。
その場合、本格的な発掘調査には進まず、工事はそのまま始められます。
包蔵地の中だからといって、全部の土地が長く止まるわけではない、ということです。
どちらに転ぶかは、掘ってみるまで分かりません。
ただし、試掘は工事の計画が決まってからの調査です。
届出に基礎伏図や断面図を付ける決まりがある以上、建てるものが決まっていない売主の段階では進められません。
売主にできるのは照会までで、試掘から先は買主と一緒に動くことになります。
それでも、照会の回答を持っているかどうかで、買主の見込みの立て方はまるきり変わります。
掘ったあとの舗装は元に戻らない
試掘のあとは埋め戻されますが、駐車場のアスファルトのような舗装まで市が復旧することはありません。
月極駐車場として貸したまま売る土地では、この点が費用として残ります。
誰がいつ舗装を直すのかを、契約の前に決めておいてください。
本調査になったときの費用と工期
試掘の結果、遺構が見つかって本格的な発掘調査に進むと、費用は原則として事業主の負担になります。
ただし、扱いは建てるものによって変わるので、一律ではありません。
個人の専用住宅と、事業目的とで違う
個人の専用住宅を建てる場合、福岡市は公費で調査を実施できるとしています。
年度ごとに予算の限りがあるため、必ず公費になると決まっているわけではありません。
個人事業主の事業についても、調査費用の一部を公費で負担できる場合があります。
マンションや分譲住宅の用地として売る土地では、買主である事業者が調査費用を見込んで価格を組み立てます。
整理すると、次の3通りです。
| 買主が建てるもの | 調査費用の扱い |
|---|---|
| 個人の専用住宅 | 公費で実施できる場合がある(年度ごとの予算による) |
| 個人事業主の事業 | 一部を公費で負担できる場合がある |
| 事業者の分譲・賃貸 | 原則として事業主の負担 |
同じ土地でも、買う相手によって価格の付き方が変わるということです。
自宅を建てたい個人へ届く売り方をするか、まとめて買う事業者に持ち込むかで、手取りが変わってきます。
仲介と買取の違いは仲介・買取・リースバックの比較で見比べてください。
工期は「想定より出たら協議」と決まっている
発掘の途中で想定以上の埋蔵文化財が出た場合や、天候で工程が遅れた場合、福岡市は工期と費用を協議するとしています。
最初に示された期間が上限ではない、という意味です。
買主が事業者なら、この読めなさを織り込んで価格を下げてきます。
売主にできるのは、分かっていることを先に出して、読めない幅を小さくすることだけ。
まれな話として、見つかった遺跡を壊さないよう、工事の計画の変更を求められる場合もあります。
基礎の深さや杭の位置を見直す、といった形です。
ここも市との協議になるので、買主が事業者なら、設計に余地を残したうえで計画を立ててきます。
売り出す前に、売主がやっておくこと
やることは2つです。
包蔵地に入っているかを確かめること、そして買主へ先に伝えること。
埋蔵文化財包蔵地であることは、宅地建物取引業法で定められた重要事項説明の対象になっています。
仲介会社が調べて説明するので、隠したまま契約まで進むことはありません。
だとすれば、値段を決める前に自分から出したほうが、話が早く済みます。
接道や境界と同じで、土地は調べるほど売りやすくなるものです。
当社が売り出す前に確かめているのは、包蔵地かどうか、試掘の要否、そして買主の着工予定との兼ね合いの3点です。
この3点がそろっていれば、買主は日程を引けるので、待ち時間を理由にした値引きは通りにくくなります。
逆に、契約のあとで届出が要ると分かった取引は、引渡し日そのものを組み直すことになります。
前面道路が私道の場合の調べ方は私道に接する土地の調べ方に書きました。
当社は福岡市の土地売却で、包蔵地の照会や境界の調査を売主に代わって進めています。
遺跡の範囲に入っていると言われて迷っている方は、15分の無料相談でその土地のことだけ聞いてください。
