収益物件を知られずに売る|情報を出す順番と媒介契約
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟マンションや自社ビルの売却でよくあるご心配が、「売りに出したことが入居者やテナントに伝わらないか」です。
先に結論を書きます。
「絶対に知られない」と約束できる売り方は、ありません。
売主が決められるのは、誰に・何を・どの順番で出すかという範囲だけです。
逆にいえば、そこは書面で決められます。
この記事は、福岡市で一棟ものや自社ビルをお持ちの方が、売り出す前にその範囲を決められるように書きました。
手順の全体像は一棟ビル・一棟マンション売却の流れにまとめてあるので、ここでは情報の出し方だけを細かく追います。
2. 情報は、どの順番で出していけばよいですか?
3. 媒介契約は、どれを選べばよいですか?
4. 入居者とテナントには、いつ知らせるのですか?
5. 相手を絞ると、何を差し出すことになりますか?
入居者やテナントに知られずに、一棟を売ることはできますか?
知られる可能性をゼロにはできませんが、伝わる相手と時期は絞れます。
広告を出さずに、限られた相手にだけ打診する進め方が可能だからです。
ただし、その進め方には引き換えがあります。
約束できるのは「出す範囲と順番」まで
不動産会社が約束できるのは、自社が出す情報の範囲です。
広告を出さない、物件名を伏せる、資料を渡す前に秘密保持の書面を交わす。
ここまでは契約で決められます。
いっぽうで、買主候補が誰かに話すことまでは止められません。
「絶対に知られません」と言い切る会社があれば、その根拠を聞いてみてください。
伝わる経路は、広告だけではない
売却の事実が外に出る道は、インターネットの広告のほかにもあります。
- 買主候補が現地を見に来たとき、入居者や近隣の方が気づく
- 管理会社や清掃業者に、見学の立ち会いを頼んだとき
- 買主側に付いた不動産会社が、社内や取引先に共有したとき
- 土地家屋調査士や設計事務所へ、調査を依頼したとき
広告を止めるだけでは、このうち1つも塞げません。
どの段階で誰を巻き込むかを、先に決めておく必要があります。
情報は、どの順番で出していけばよいですか?
住所や物件名を伏せた概要から始めて、段階ごとに出す相手を絞っていきます。
4つの段階に分けて考えると、決めやすくなります。
それぞれの段階で「ここから先へ進む相手は誰か」を決めるのが、売主の仕事です。
第1段階:住所と物件名を伏せた概要だけを出す
最初に出すのは、物件が特定できない範囲の情報に限ります。
載せてよいのは、区の名前、用途、構造、おおよその規模、満室想定の賃料収入まで。
伏せるのは、住所、建物の名前、外観の写真、最寄り駅からの分数です。
とくに外観の写真は、地元の同業者ならすぐ物件を特定します。
この段階で反応が無い相手には、それ以上の情報を渡しません。
第2段階:秘密保持の書面を交わしてから、収益の資料を出す
物件が特定できる資料は、秘密保持の書面を交わしたあとに渡します。
ここで渡すのは、レントロール、賃貸借契約書の写し、修繕の履歴、登記事項証明書。
書面には、目的外に使わないこと、第三者へ渡さないこと、検討を終えたら返すか廃棄することを書きます。
レントロールには入居者の氏名を載せず、部屋番号・面積・賃料・敷金・契約期間だけにしてください。
氏名を伏せても、買主が投資の判断をするのに支障はありません。
秘密保持の書面は、相手が法人なら会社名で取り交わしてください。
担当者の個人名だけで交わすと、その方が異動したあとに効き目が薄くなります。
有効な期間も入れておくこと。
検討が流れたあと、何年先まで守ってもらうのかを決めずにいると、返還や廃棄を求める根拠があいまいになります。
資料の中身は一棟ビル・一棟マンション売却の流れの「最初にそろえる資料」に一覧で書いています。
第3段階:現地を見せるのは、条件がそろってから
現地を見てもらうのは、価格と条件がおおよそ固まってからです。
順番を逆にすると、まだ買う気の固まっていない相手が何組も現地に現れることになります。
外からの確認だけなら、入居者に気づかれる可能性は低いままです。
共用部や空室の中まで見るときは、立ち会う人数と時間帯を決めてください。
平日の昼間は、在宅している入居者が少ない時間帯になります。
第4段階:買主の調査は、範囲を先に決める
買付の条件が合意できると、買主が建物や権利の調査に入ります。
ここで外部の専門家が現地に来るため、いちばん人目につく段階です。
誰が・いつ・何のために来るかを、事前に一覧にしてください。
立ち会いを管理会社に頼むか、売主側で対応するかも、このときに決めます。
調査の内容そのものは買主が決めることなので、売主が減らせるのは人数と時間帯だけです。
媒介契約は、どれを選べばよいですか?
限られた相手にだけ打診したいなら、一般媒介契約で登録を「無」にする形になります。
専任媒介・専属専任媒介には、レインズへ登録する義務があるためです。
ここを取り違えると、契約した数日後に物件が同業者の検索に出ます。
専任・専属専任には、レインズへの登録義務がある
宅地建物取引業法34条の2は、専任媒介を結んだ会社にレインズへの登録を義務づけています。
期限は休業日を除いて、専任媒介が7日以内、専属専任媒介が5日以内。
同じ条文が、この義務に反する特約を無効と定めています。
つまり「専任で任せるが、どこにも登録しない」という頼み方は成り立ちません。
レインズは不動産会社だけが見る仕組みですが、登録すれば同業者が検索できる状態になります。
一般媒介なら、登録の有無を選べる
一般媒介契約には、法律上の登録義務がありません。
国土交通省の標準媒介契約約款でも、一般媒介の契約書には登録の有無を選ぶ欄が置かれています。
限られた相手にだけ打診するなら「無」、広く探すなら「有」という対応関係。
どちらを選んだかは契約書に残るので、口約束で済ませないでください。
3つの契約の違いは媒介契約の種類に、登録されているかどうかの確かめ方はレインズの登録証明書の見方に書いています。
当社がどう入るか
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主の側の仲介として入ります。
買主の側に別の不動産会社が付くこともあり、ほかの会社からの問い合わせを止める囲い込みはしません。
担当は代表が最後まで務め、登記や税務は司法書士・税理士と連携して進めます。
購入を希望される方からお預かりしている条件は購入希望者の条件一覧で公開しています。
一棟の売却そのものの考え方は福岡市の一棟ビル・一棟マンション・アパートの売却にまとめました。
入居者とテナントには、いつ知らせるのですか?
賃貸人が変わったことの通知は、引渡しが終わってから出すのが通例です。
決済の前に知らせるよう義務づけた法律はありません。
入居者の同意も、一棟のまま売るときには要りません。
通知は、決済後に新旧の連名で出す
賃貸物件が売られると、賃貸人の地位は買主へ移ります。
買主が賃料を請求できるようになるのは、建物の所有権の移転登記を済ませたあとです。
そのため通知は、登記が終わってから出すのが順番として自然になります。
文面に載せるのは、新しい賃貸人の名前、賃料の振込先、いつ分から変わるかの3点です。
売主と買主の連名にしておくと、入居者は本物かどうかを判断しやすくなるでしょう。
賃貸人が変わった直後は、振込先の変更を装った詐欺と見分けがつきにくい時期でもあります。
差出日の決め方と、文面に並べる項目は一棟ビル売却でテナントにいつ伝える?通知の時期と文面にまとめました。
現地を見せるときの説明は、決めてから臨む
入居者や従業員から「あの人たちは誰ですか」と聞かれる場面は、来るものと考えておくほうが安全です。
そのときの答えを、見学の前に決めておいてください。
建物の調査や点検といった説明にするのか、何も言わないのか。
事実と違う説明をすると、あとで通知を出したときに不信につながります。
言わないことと、嘘をつくことは別だと考えてください。
自社ビルの場合は、従業員への伝え方も同じ問題になります。
売却が決まっていない段階で社内に広まると、退職や取引先への連絡が先に動き出しかねません。
知らせる範囲を、役員までにするのか、経理までにするのか。
建物を売ったあとも同じ場所で事業を続けるなら、買主と賃貸借の条件を決めてから社内に出すほうが、説明が1回で済みます。
相手を絞ると、何を差し出すことになりますか?
比べられる買付が減り、価格の根拠が弱くなります。
打診する相手が3社なら、出てくる金額も最大で3つです。
そして福岡市の一棟の市場は、もともと厚くありません。
福岡市で動いている一棟ものの件数
当社が国土交通省の取引価格情報を集計したところ、福岡市7区の直近8四半期で、共同住宅が490件、事務所・店舗の建物が146件でした。
月あたりに直すと、共同住宅が約20件、事務所・店舗が約6件になります。
価格帯で見ると、共同住宅490件のうち1億円以上が228件、事務所・店舗146件のうち1億円以上が98件。
10年をまとめると、共同住宅2,982件のうち東区が622件で最も多く、西区は237件でした。
構造で見ると、共同住宅は木造が47%、鉄筋コンクリート造が33%。
事務所・店舗の建物は鉄骨造が52%、鉄筋コンクリート造が22%です。
木造アパートと鉄骨造の事務所ビルでは、買う人も、使える融資も別ものになります。
打診できる相手が何社あるかは、この違いでも変わってきます。
なおこの数値は、買主へのアンケートに回答があった取引だけを数えたもので、実際の取引の全数ではありません。
いつ公開へ切り替えるかを、先に決めておく
限定で進める期間を、媒介契約のときに日数で決めてください。
「3か月は限られた相手にだけ打診し、その時点で買付が無ければ公開へ切り替える」という形です。
期限を決めずに始めると、売れないまま時間だけが過ぎます。
そのあいだも、空室や修繕の費用は出ていきます。
切り替えの判断を、そのときの気分でしないための取り決めです。
公開へ切り替えるときは、限定で打診した相手にも先に一報を入れてください。
黙って広告に出すと、検討中だった相手の社内で話が止まります。
また、限定のあいだに出た金額は必ず書面で残しておくこと。
公開したあとに出てくる買付と比べる材料が、それしかありません。
次に何をすればよいですか
まず、絶対に知られたくない相手を書き出してください。
入居者なのか、テナントの本社なのか、従業員なのか、同業者なのか。
相手によって、伏せる情報も、通知の時期も変わります。
そのうえで媒介契約の形を決めると、順序を間違えずに済みます。
なお手取りの試算はご自宅の売却を前提にした計算なので、一棟ものには使えません。
税額の有利不利は税理士の領域になるため、当社では個別の判断をいたしません。
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