一棟ビル売却でテナントにいつ伝える?通知の時期と文面
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟ビルやアパートを売るとき、入居者やテナントにいつ何を伝えるかで迷う方に向けた記事です。
結論からいうと、通知は決済と所有権移転登記が終わったあとに、売主と買主の連名で出すのが通例です。
決済の前に知らせるよう義務づけた法律はありません。
ただし、売却活動の途中には建物調査や内覧で立ち入る場面があるので、そこでの説明だけは先に決めておいてください。
この記事は、通知の時期と文面に絞っています。
敷金や保証金が誰に移るのかという法律の話は一棟のオーナーチェンジ売却、買主候補へ情報を出す順番は収益物件を知られずに売るにあります。
2. 通知には何を書きますか
3. 誰が、どうやって届けますか
4. 振込先の変更を装った詐欺は、どう防ぎますか
5. 売却活動中、立ち入りをお願いするときは何と言いますか
6. 福岡市で一棟を売るとき、当社がしていること
テナントへは、いつ伝えるのですか
決済と所有権移転登記が終わったあとです。
買主が賃料を請求できる立場になるのは登記を済ませてからなので、その前に通知を出すと、テナントは誰に払えばよいか分からなくなります。
決済前に知らせる義務を定めた法律は無い
売却活動の段階で入居者やテナントへ知らせることを義務づけた定めは、民法にも借地借家法にも置かれていません。
一棟のまま売る場合、入居者の同意も要りません。
ただし、これは「黙っていてよい」という話であって、「嘘をついてよい」という話とは別です。
登記が終わってから出す理由
民法605条の2は、賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡されると、賃貸人の地位が買主へ移ると定めています。
同じ条文の3項が置いているのが、所有権の移転の登記をしなければ買主はその地位を賃借人に対抗できないという決まり。
つまり、登記の前に「今月から新しい振込先へ」と案内すると、法律上の裏付けがないまま払わせることになります。
登記は決済当日に申請し、完了までに数日かかるので、差出日はそれを見てから決めてください。
出典:e-Gov法令検索 民法
差出日は、賃料の締めから逆算する
前払いの契約なら、翌月分の賃料は前月末までに振り込まれます。
その締めに間に合わない日に通知を出すと、テナントは旧オーナーの口座へ1回多く振り込むことになります。
振り込まれた賃料を売主から買主へ回す手間が増えるだけなので、締めの前に届く日を選んでください。
決済日が月末に近いときは、切り替えを翌々月分からにして、1か月分は旧口座のままにする決め方もあります。
口座振替で集金している建物は、振込よりも切り替えに日数がかかります。
金融機関の手続きとテナント側の届出が要るので、切り替え月を1つ後ろに置くほうが取りこぼしが出ません。
家賃保証会社が入っている場合は、保証会社への貸主変更の届出も同じ時期に動かします。
通知には何を書きますか
必要なのは7項目で、どれも「次に誰へ、いくらを、どこへ払うのか」を迷わせないためのものです。
文面は長く書くより、項目を並べた1枚のほうが読まれます。
通知に並べる7つの項目
- 貸主が変わった日(決済日)
- 新しい貸主の名前・住所・連絡先
- 賃料の新しい振込先と、何月分から切り替えるか
- 敷金・保証金を新しい貸主が引き継いだこと
- 管理会社が変わるかどうか(変わるなら新しい連絡先と、緊急時の電話)
- 賃料・契約期間・その他の条件は変わらないこと
- 問い合わせ先(新しい貸主と、旧貸主の両方)
金額や名前を入れた見本をそのまま写すのではなく、この並びに自分の建物の内容を当てはめる形が安全です。
管理会社が入っている建物では、管理会社が文面を用意して各戸へ届ける流れになります。
通知のあとに来る問い合わせに、どう答えるか
テナントから返ってくるのは、たいてい「家賃は上がるのか」「出ないといけないのか」の2つです。
貸主が変わっても、賃料・契約期間・更新の条件はそのまま引き継がれます。
条件を変えるには、あらためて双方の合意が要ります。
普通借家の契約で貸主の都合だけで終わらせられない仕組みは、一棟のオーナーチェンジ売却に書きました。
通知の文面に「条件は変わりません」の1行を入れておくと、この問い合わせそのものが減ります。
書かないほうがよいこと
売却価格、売った理由、買主がどういう会社かという説明は、通知に要りません。
テナントが知りたいのは支払先と連絡先だけで、それ以外は不安の材料になります。
「オーナーの事情により」といった説明も、詮索の入口になるので置かないほうがよいでしょう。
事業用テナントには、請求書の扱いも添える
事務所や店舗のテナントが気にするのは、支払った家賃を仕入税額控除に使うための書類。
国税庁の説明では、家賃を口座振込で払う場合、記載事項の一部がある契約書と銀行の振込金受取書をあわせて保存すれば足りるとされています。
つまり、毎月の請求書を出し直す必要はありません。
2023年9月30日より前からの契約では、契約書に登録番号などの記載が足りていないことがあります。
その場合は、貸主から不足している事項の通知を受け、契約書とともに保存すればよいとされています。
したがって、新しい貸主が適格請求書発行事業者なら、その登録番号を通知に書き添えておいてください。
どの書類をどう保存するかの判断は、テナントそれぞれの税理士の領分なので、こちらは番号を伝えるところまで。
誰が、どうやって届けますか
売主と買主の連名で1通にまとめ、建物の型に合わせて届け方を変えます。
別々に2通届くと、どちらが本物かを確かめる手がかりがありません。
連名で1通にする
1枚の文書に売主と買主の両方の名前・連絡先を載せます。
旧オーナーの名前があることが、テナントにとっては何よりの裏付けになります。
長く入っているテナントほど、旧オーナーに電話して確かめようとするためです。
住居は投函、事業用テナントは持参
当社が国土交通省の取引価格情報を集計したところ、福岡市7区の10年間で取引された共同住宅は東区622件・博多区553件・南区539件の順。
事務所・店舗の建物は博多区215件・中央区165件で、この2区に58%が集まっています。
買主へのアンケートに回答があった取引だけの数字で、全数ではありません。
アパートや一棟マンションは戸数ぶんの投函になり、郵送を重ねるなら差出日をそろえる手間が出ます。
事務所・店舗が博多区と中央区に集まる一方、住居系は東区・南区にも広がるため、持参して回れる建物かどうかは型で分かれるでしょう。
法人テナントは、送付先を確かめてから出す
法人が借りている区画では、現地の店舗と、契約書に書かれた本店の住所が別のことがあります。
経理が本店にあるなら、現地へ投函しただけでは振込先の変更が届きません。
契約書の宛先を見て、現地と本店の両方へ出すか、本店宛てにするかを決めてください。
届いたかどうかを確かめる
投函だけで終えると、受け取っていないテナントが旧口座へ払い続けます。
管理会社が届けた記録を残すか、事業用テナントには受領の控えをもらう形にしてください。
1か月後に入金を照合して、旧口座に残っている分がないかを見る作業まで、売主の段取りに入れておきます。
照合で見つかった分は、売主から買主へ送金するか、買主の了解を得て相殺します。
どちらにするかは売買契約の決め方によるので、決済の前に買主と確かめておくほうが早い。
出した通知は、売主側も1通残す
通知の控えは、売主も手元に残しておいてください。
旧口座に振り込まれた賃料を買主へ回すとき、どの月分から切り替えたかの証拠になります。
決済日をまたぐ月の賃料は日割りで精算するのが通例で、その計算の前提も通知の記載と合っている必要があります。
振込先の変更を装った詐欺は、どう防ぎますか
書面と口頭の両方で伝え、変更の案内を1回だけにすることです。
貸主が変わった直後は、本物の変更案内と偽の案内がいちばん見分けにくい時期。
書面と口頭を重ねる
通知を出したあと、管理会社か新しい貸主から電話や訪問で一言添えてください。
このとき「振込先の変更を電話やメールだけでお願いすることはありません」と伝えておきます。
テナント側に「書面以外の変更案内は疑う」という基準ができるので、あとから届く偽の案内が効かなくなります。
案内は1回で済ませる
通知を出したあとに口座を変えると、2回目の案内が本物かどうかを誰も判断できません。
買主側の口座は、通知を出す前に確定させておいてください。
旧貸主の連絡先を文面に残しておけば、不審な案内が届いたテナントにも確かめる先が残る形。
売却活動中、立ち入りをお願いするときは何と言いますか
建物調査や点検として伝えられる範囲と、隠しきれない場面を先に分けておきます。
答えを決めずに現地へ行くと、その場で口がそろわなくなります。
言わないことと、嘘をつくことは別
共用部の確認や外壁の調査であれば、そのまま伝えて差し支えありません。
一方で「売却の予定はない」と答えてしまうと、通知を出した日に信用を失います。
決まっていない段階では「決まったことがあればお知らせします」と返す形にとどめてください。
隠しきれない場面を数えておく
買主候補が複数回来る、測量が入る、室内を見せてほしいと言われる、この3つは入居者の目に付きます。
室内を見る必要があるのは、空室か、退去予定の部屋に限るのが通例です。
入居中の部屋まで見せるよう求められたら、断れる範囲だと考えて構いません。
現地に看板を出すかどうかも、ここで決まります。
一棟の売却では看板を出さずに買主候補へ個別に当たる進め方が取れるので、売り方の選択で露出を減らせます。
自社ビルで従業員にどう伝えるかは、収益物件を知られずに売るに書きました。
福岡市で一棟を売るとき、当社がしていること
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入ります。
囲い込みはしないため、買主側に別の不動産会社が付くこともある形です。
通知の文面は、決済の前に用意しておく
決済日が決まってから文面を作ると、差出日が後ろへずれます。
当社は売買契約のあと、買主と管理会社を交えて文面と差出日を先に決める段取りでご案内しています。
代表が最後まで担当するので、テナントへの伝え方も途中で引き継ぎになりません。
税金と登記は、それぞれの専門家へ
売却に伴う税額の個別の判断は税理士、登記は司法書士の仕事です。
当社は連携している専門家へおつなぎする形にしています。
なお、当サイトの手取りの試算ページは自宅の売却を前提にしているため、一棟の計算には使えません。
一棟の売却の進め方は福岡市の一棟ビル・一棟マンション売却にまとめています。
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