外壁・屋上防水は売る前に直す?一棟の修繕と売却価格
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟アパートや一棟ビルを持っていて、大規模修繕の時期が近づいている方に向けた記事です。
「どうせ売るなら、直してからのほうが高く売れるのでは」というご質問が、この題材の出発点でしょう。
結論から申し上げます。
原則は、直さずに売って、その分を価格で調整する形です。
収益物件の価格は賃料と利回りから組み立てるため、工事費がそのまま上乗せされる仕組みになっていません。
ただし「直さない」と「放っておく」は別の話です。
買主が見ているのは工事そのものより、修繕の履歴と、次の修繕の時期と、雨漏りの有無の3つです。
この記事では、その3つの整え方と、判断の順番をご説明します。
2. 買主は、修繕の何を見ていますか
3. 知っている不具合は、伝えなくてよいですか
4. 福岡市では、定期報告の期限も日程に入ります
5. 修繕履歴が残っていないときは、どう整えますか
6. 税の扱いと、次にやること
外壁や屋上防水は、売る前に直したほうがよいですか
原則は、直さずに売って差額を価格で調整します。
先に工事を発注してしまうと、選択肢がそこで1つに固定されてしまうためです。
順番としては、見積もりを取る、査定を受ける、2つを並べて比べる形になります。
直した分がそのまま価格に乗るとは限りません
自宅の売買では、設備や内装の状態が価格の印象を左右します。
一棟ものは、そこが違います。
収益物件の査定は、賃料収入を利回りで割って価格を出す収益還元法が中心です。
この式に入るのは賃料と経費なので、外壁を直した費用そのものは式に入りません。
つまり1,000万円かけて直しても、賃料が変わらなければ、計算上の価格は動かないという形になります。
実際の査定では、建物の再調達原価から減価を引く積算法も併せて見ます。
そちらでは修繕が建物の評価に効く余地がありますが、収益物件の値付けの軸は賃料のほうです。
査定方法の違いは収益物件の査定方法3つに分けて書きました。
なお当社の手取りの試算は自宅の売却を前提に作ってあるため、一棟ものには使えません。
直すほうが有利になるのは、収益が動くときです
では、直したほうがよい場合はないのでしょうか。
あります。
修繕によって賃料を上げられる場合、または空室が埋まる場合です。
この2つは収益還元法の式に入る数字なので、価格に反映される道筋があります。
もう1つが、外観の劣化が理由で内見まで進まない場合です。
買主が投資家でも、現地を見て決めるのは変わりません。
ただし、どちらも「直せば必ず上がる」という話ではなく、賃料が実際に動くかどうかで決まります。
逆に、直さずに売る場合の価格はどう決めるのでしょうか。
買主が見込む修繕費を、売出価格から引く形で調整します。
ここで効くのが、売主が持っている見積もりです。
見積もりが無いと、引かれる額は買主の想定だけで決まります。
見積もりがあれば、根拠のある金額で話ができるでしょう。
判断の順番は、見積もりが先です
工事の見積もりを取ること自体は、売るときにも役に立ちます。
買主に渡す材料になるからです。
そのため、見積もりは取る、工事は決めない、という進め方をおすすめしています。
当社は売主側の仲介として入るので、修繕を発注するかどうかはオーナー様の判断です。
買主は、修繕の何を見ていますか
工事そのものではなく、3つの材料を見ています。
修繕の履歴、次の大規模修繕の時期と金額、雨漏りの有無です。
この3つが揃っていれば、直していない建物でも値付けができます。
修繕履歴は「いつ・どこを・いくらで」の3点です
買主が知りたいのは、建物がきれいかどうかではありません。
いつ何にお金をかけてきたかという記録です。
屋上防水を10年前に打ち替えてあるなら、次の時期がおおよそ読めます。
記録が無い建物で買主が置くのは、最悪の想定の費用です。
その積み増しが、そのまま価格の引き下げになって返ってきます。
次の大規模修繕の時期と金額を、先に出しておきます
買主は購入後の支出を見積もってから値段を決めます。
そこを売主側で用意しておくと、買主の読みが幅を持たずに済みます。
用意するのは、修繕の見積もり1通と、どこまでを含む工事なのかという範囲です。
見積もりは1社でもかまいません。
金額の正しさより、根拠のある数字が1つあることのほうが効きます。
工事の範囲が広がると、建築確認が必要になる場合があります
売る前の修繕で見落としやすいのが、工事の手続きです。
2025年4月から、建築確認が必要な工事の範囲が広がりました。
対象は、階数2以上または延べ面積200平方メートル超の建築物です。
その建物で主要構造部を過半にわたり修繕・模様替する工事が、確認申請の対象になります。
一棟ものは階数の条件にほぼ当てはまります。
外壁の塗り替えや屋上防水の打ち替えは、通常は仕上げの工事なので対象になりません。
ただし下地まで造り替えるような範囲に広がると、話が変わります。
対象になると、工期と費用に確認申請の分が乗ります。
判断の目安は大規模修繕・リフォームに建築確認は必要?に整理しました。
見積もりを取る段階で、工事の範囲を業者と確かめてください。
雨漏りは、直っていても跡を伝えます
雨漏りは、買主がいちばん警戒するところです。
過去に雨漏りがあって直してある場合、その事実と工事の内容を伝えてください。
黙っていても、天井のしみや工事跡から買主側の調査で分かります。
先に出した情報は材料になり、あとから出た情報は不信のもとです。
知っている不具合は、伝えなくてよいですか
伝える必要があります。
引渡し後に契約の内容に合わない部分が見つかると、売主が責任を負うことになります。
これが契約不適合責任で、修補・代金の減額・損害賠償・解除の請求につながるものです。
告げずに売ると、引渡しのあとに請求が来ます
一棟ものは金額が大きいため、請求の額も大きくなります。
外壁のひび割れ、屋上の防水の切れ、雨漏り、給排水の不具合は、知っていれば書面に書きます。
書いたうえで売れた価格は、あとから揺れません。
書き込む先は、物件状況確認書という書面です。
自宅の売買で使うものと同じ書面を、一棟でも使います。
雨漏り、シロアリ、給排水の不具合、過去の修繕といった欄が並んでいるので、知っていることをそこへ書きます。
どこまで書くかの考え方は付帯設備表と物件状況確認書の書き方にまとめました。
免責の特約が効く範囲は、買主によって変わります
「現況のまま」「責任を負わない」といった特約を入れることがあります。
ただし、この特約が効く範囲は買主が誰かで変わります。
買主が宅地建物取引業者かどうかで扱いが違うため、契約の前に確認してください。
免責の線引きは一棟売却の契約不適合責任にまとめています。
福岡市では、定期報告の期限も日程に入ります
一定の規模と用途の建物には、建築基準法にもとづく定期報告の義務があります。
売却の日程を組むときに見落としやすいのが、この期限です。
報告の控えは、買主へ渡す資料にもなります。
令和8年度から、提出先が福岡市になりました
福岡市では、建築物・建築設備・防火設備の定期報告の提出先が福岡市監察指導課になり、電子申請が原則になりました。
昇降機と遊戯施設だけは従来どおりで、福岡県建築住宅センターへ紙で提出します。
報告の周期は、建築物が3年に1度、建築設備と防火設備が毎年です。
建築物の報告は、7月1日から10月31日までの間に行うことになっています。
対象かどうかの案内は市から届きますが、届かなくても対象であれば報告が必要です。
控えが見つからない場合は、調査を担当した建築士事務所に残っていることがあります。
そこにも無ければ、次の報告の年を確かめて、売却の日程と並べてください。
外壁は10年を超えると、全面打診が必要になります
定期報告のなかで、売却前の修繕の判断に直接関わる項目があります。
タイルなどの外壁の調査です。
国土交通省の告示では、竣工・外壁の改修・前回の全面打診のいずれかから10年を超えた建物が対象になります。
そのうえで3年以内に全面打診を行っていない場合、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面打診が必要とされています。
除かれるのは、3年以内に外壁の改修が確実に行われる場合などです。
つまり、10年目が近い建物では「全面打診を受ける」か「外壁を改修する」かの選択が、売却とは別に発生します。
ここが近づいているなら、売る前に直すかどうかの判断材料が1つ増えるわけです。
適用は建物の状況と特定行政庁の運用で変わるため、管轄にご確認ください。
修繕履歴が残っていないときは、どう整えますか
請求書と図面から組み直します。
完全な履歴が無い建物は珍しくないため、「無い」まま出すよりは組み直したほうが通ります。
そろえる順番は、大きい工事から先です。
工事の請求書と、管理会社の記録から拾います
探す先は4つあります。
- 工事業者の請求書・見積書の控え
- 管理会社の月次報告と修繕の記録
- 確定申告で経費に入れた資料
- 前回の定期報告の控え
年と工事の内容だけでも分かれば、買主の読みは狭まります。
金額が分からないものは、年と内容だけ書いてください。
まとめ方は、1枚の表で足ります。
左から、年、工事の部位、工事の内容、金額、資料の有無の5列です。
この表があると、買主側の調査でこちらに問い合わせが来る回数が減ります。
問い合わせが減ると、契約までの日数も短くなります。
無いものは「無い」と書きます
埋めたくなるのは分かりますが、推測で年を入れてはいけません。
あとで請求書が出てきて食い違うと、他の記載も疑われます。
資料の集め方と取得先は収益物件の売却に必要な書類に一覧にしました。
税の扱いと、次にやること
売る前の修繕には、税の扱いという別の論点があります。
同じ工事費でも、修繕費になるか資本的支出になるかで、その年の経費にできるかが変わります。
そのため、工事の時期を決める前に税理士へご確認ください。
修繕費と資本的支出の分かれ目
国税庁は、おおむね3年以内の周期で行う修理や、1つの修理の金額が20万円未満のものは修繕費として必要経費に算入できるとしています。
外壁や屋上防水の大規模修繕は、周期も金額もこの範囲を超えることが多い工事です。
その場合は資本的支出として、減価償却で年数をかけて経費にする扱いになります。
売る直前に支出しても、その年の経費として落ちるとは限らないという意味です。
個別の有利不利は物件と名義で変わるため、税理士の判断が必要です。
まず何をすればよいですか
修繕の見積もりと、一棟の査定を同じ時期に取ってください。
直した場合と直さない場合の2つを並べないと、どちらが残るか分かりません。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入ります。
囲い込みはしないため、買主側に別の会社が付くこともあります。
最後まで担当するのは代表です。
税の判断は税理士、登記は司法書士との連携です。
一棟の売却の進め方は福岡市の一棟ビル・一棟マンション売却にまとめています。
査定のご依頼は無料査定から承ります。
