一棟売却の契約不適合責任|買主が業者か個人かで変わる免責
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士築年数のたった一棟アパートやビルを売るとき、引渡したあとの請求が心配になります。
雨漏り、給排水の漏れ、エレベーターの故障。
結論から申し上げると、個人の売主は特約で責任を負わない形にできますが、知っていて告げなかったことは免責の外に残ります。
この記事は、福岡市やその近郊で一棟ものをお持ちで、売ったあとの責任をどこまで切れるのか知りたいオーナーに向けて書きました。
自宅の売却とは違う点に絞り、法律の線引きと、買主によって条件が変わる理由を並べました。
2. 特約で免責にしても、免れないものは何ですか?
3. 売主が宅建業者になると、免責はどう制限されますか?
4. 買主が業者か個人かで、何が変わりますか?
5. 設備とテナントのことは、どう書けばよいですか?
6. 売る前に、何から手を付ければよいですか?
一棟を売るとき、契約不適合責任はどこまで負うのですか?
契約の内容に合っていない部分について、修補・代金の減額・損害賠償・解除を求められる責任を負います。
ただし個人の売主なら、特約でこの責任を負わない形にすることも可能です。
特約を置かなければ、民法の規定がそのまま働きます。
何が「契約の内容に合っていない」にあたるのか
対象は、種類・品質・数量と、権利に関する不適合です。
一棟ものでは、建物の躯体や設備の状態、実際の面積、そして借家権や越境の有無が問題になります。
「古いから仕方ない」で済むかどうかは、築年数ではなく契約書に何と書いたかで決まります。
築50年の建物でも、契約書に「雨漏りなし」と書けば、雨漏りは不適合です。
逆に、雨漏りがあることを書いて売れば、その雨漏りは不適合になりません。
一棟ものでは、数量の不適合も自宅より効いてきます。
土地が広いぶん、登記簿の面積と実測の面積の差がそのまま金額に出ます。
登記簿の面積で売買する公簿売買にするのか、実測して精算するのかを契約書で決めておいてください。
公簿売買と書いておけば、あとで面積の差が出ても精算しない取り決めになります。
期間はいつから数えるのか
買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知すれば、買主の権利は残ります。
引渡しから1年ではなく、気づいた時が起点です。
この起点のため、特約を置かない売買では責任が長く残ってしまいます。
期間の数え方は契約不適合責任はいつまで?個人が売主のときの期間の数え方に分けて書きました。
特約で免責にしても、免れないものは何ですか?
売主が知りながら告げなかった事実については、免責の特約があっても責任を免れません。
民法572条が、この例外を定めています。
ここが、一棟の売却でいちばん争いになるところです。
民法572条が残す2つ
条文が残しているのは、知りながら告げなかった事実と、売主が自ら第三者のために権利を設定した場合などの2つです。
前者は、オーナーが分かっていた不具合を黙って売ったときに働きます。
後者は、売る直前に誰かへ使用権や担保権を付けたような場合です。
免責の特約を結んでいても、この2つは特約の外にあります。
「現況有姿」と書いても同じです
「現況有姿で引き渡す」は、状態をそのまま渡すという取り決めにすぎません。
知っていた不具合を告げなかった事実を、この一言が消すことはありません。
免責の文言が効かなかった裁判例は契約不適合責任の免責特約は有効?現況有姿の限界に並べました。
一棟で「知っていたこと」になりやすいもの
管理会社との往復や修繕の記録に残っているものは、知っていた側に入ります。
- 入居者から出た雨漏り・漏水の連絡と、その対応の履歴
- エレベーターや受水槽の点検で出た指摘と、先送りした修繕
- テナントとの係争、賃料の滞納、立退きの交渉
- 行政から受けた是正の指導
- 過去に起きた火災・漏水事故と、その補修の範囲
管理を任せているぶん、オーナー自身が把握していない記録もあります。
売ると決めた時点で、管理会社から過去3年ぶんの報告を取り寄せてください。
取り寄せていないものは、告げようがありません。
告げるときは、口頭ではなく書面に残してください。
物件状況報告書に書き、必要なら覚書を1枚付ける形です。
「内覧のときに口で伝えた」は、あとから確かめられません。
伝えた側と聞いた側の記憶が食い違えば、記録のあるほうが通ります。
書面に残すのは買主のためではなく、売主が自分の免責を守るためだと考えてください。
売主が宅建業者になると、免責はどう制限されますか?
引渡しの日から2年以上とする特約を除き、民法より買主に不利な特約は無効になります。
宅地建物取引業法40条が定めている制限です。
つまり、売主が宅建業者であれば、全部免責はできません。
この制限が当たる場合・当たらない場合
当たるのは、売主が宅建業者で、買主が宅建業者でないときです。
売主と買主の双方が宅建業者である取引には、この制限は及びません。
個人のオーナーが自分の一棟を売る場合は、通常この制限の外にあります。
ただし法人名義で、業として不動産の売買を行っている場合は、売主が宅建業者の側に入ります。
資産管理法人で持っている方は、自社が宅建業の免許を持っているかどうかをまず確かめてください。
法人で売るなら、専門家に先に当てる
法人が売主になる取引では、契約不適合責任のほかに消費税の扱いも絡みます。
当社は売主側の仲介として入り、税理士・司法書士と連携して進めます。
個別の税額や有利不利の判断は、税理士の領分です。
消費税の按分と契約書の書き方は収益物件の売却と消費税|土地建物の按分と契約書の書き方にまとめました。
買主が業者か個人かで、何が変わりますか?
免責の特約に合意してもらえるかどうかが変わります。
不動産業者や投資法人は、買う前の調査で自分で建物を見ます。
見たうえで買うので、責任を負わない条件でも話が進みやすい側です。
買主が業者・投資家のとき
買付の前に、建物・設備・レントロール・契約書の中身を調べます。
この調査で見つかったものは価格に織り込まれ、そのうえで免責の特約が置かれる形になります。
ただし調査に協力しない売主には、買主は免責を認めません。
資料を出さずに免責だけ求めると、価格を下げられるか、話がまとまらずに終わります。
調査の進み方と契約前の書類は買付証明書・秘密保持・DDとは?一棟売却の契約前の3書類に書きました。
業者の買主がいちばん細かく見るのは、賃料の一覧と契約書の中身が合っているかどうかです。
一覧に書いた賃料と、契約書に書かれた賃料が違う部屋が出てきます。
更新のときに下げた金額が、一覧に反映されていないという形が多い部分です。
この食い違いは権利に関する不適合の話になるので、免責の特約では片づきません。
売ると決めたら、部屋ごとに契約書を1枚ずつ突き合わせてください。
買主が融資を使うとき・自分で使うとき
融資を使う買主の場合、金融機関が建物の状態を見ます。
修繕が必要と判断されれば、その見積もりが融資の条件に入るでしょう。
免責の特約があっても、価格や引渡しの時期はそこで動きます。
自分で住む、あるいは自社で使う個人が買主のときは、調査の体制がありません。
そのぶん、売主側が資料を揃えて説明する必要が出てきます。
短い免責期間を求められたら、物件状況報告書を厚くして交渉する形が現実的でしょう。
設備とテナントのことは、どう書けばよいですか?
物件状況報告書に、設備ごとの状態と、分かっている不具合をそのまま書いてください。
書いたものは不適合になりません。
書かなかったもののうち、知っていたものが民法572条で残ります。
エレベーター・受水槽・空調の書き方
一棟ものの設備は、自宅の売却には出てこない項目です。
エレベーターは保守の契約形態と、直近の点検で出た指摘を書きます。
受水槽は清掃と水質検査の実施時期、空調は設置年と更新の履歴が要ります。
「不具合なし」と書けるのは、点検の記録で確かめたものだけです。
確かめていない設備は「不明」と書いてください。
この「不明」が、あとで自分を守ります。
「不明」と書くと買主が不安がるのではないか、と心配される方もいるでしょう。
実際には逆で、全項目に「不具合なし」と並んだ報告書のほうが疑われます。
築30年を超えた建物で不具合が1つも無いという書き方は、調べていない証拠に見えるためです。
分かっているところと分かっていないところを分けて書くほうが、買主の調査も進みます。
そして調査が進んだ物件ほど、免責の特約は受け入れられやすくなるのです。
福岡市では定期報告の控えが資料になります
建築基準法12条は、一定規模の建築物と設備に定期報告を義務づけています。
福岡市の場合、建築物・建築設備・防火設備の報告先は福岡市の監察指導課で、電子申請が原則です。
昇降機と遊戯施設だけは提出先が異なり、一般社団法人福岡県建築住宅センターへ紙で出します。
昇降機は、建物の用途に関わらず毎年の報告が対象になります。
この報告書の控えは、設備の状態を第三者が調べた記録です。
買主に出せば、こちらの説明より強い資料になります。
手元に無ければ、制度の問い合わせ先である福岡市の建築審査課(092-711-4583)で確かめてください。
テナントとの係争と滞納
賃貸借の中身は、オーナーチェンジでそのまま買主に移ります。
滞納、立退きの交渉、原状回復をめぐる言い合いも一緒に移る形です。
これを書かずに売れば、知っていて告げなかった事実そのものになります。
敷金・保証金の引継ぎは一棟のオーナーチェンジ売却|敷金・保証金はどう引き継ぐ?に書きました。
入居者への通知の時期は一棟ビル売却でテナントにいつ伝える?通知の時期と文面に分けています。
売る前に、何から手を付ければよいですか?
管理会社から過去の報告と点検記録を取り寄せるところから始めてください。
免責の特約は、資料が揃っているほど通りやすくなります。
売る前にそろえるものは、次の3つです。
- 設備ごとの点検記録と、定期報告の控え
- 修繕の履歴と、入居者から出た不具合の連絡の記録
- レントロールと、賃貸借契約書の原本
この3つが揃っていれば、物件状況報告書を具体的に書けます。
具体的に書けた項目は不適合から外れるので、免責の特約に頼る範囲がそのぶん狭くなります。
資料が無いまま免責だけ求める形は、買主から見ると隠しているのと区別がつきません。
古いビルではPCBとアスベストの調査も絡むので、古いビルの売却とPCB・アスベスト|2027年3月の期限も見ておいてください。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入る立場です。
囲い込みはしないので、買主側に別の会社が付くこともあります。
代表の野上が最後まで担当し、税理士・司法書士と連携して進めます。
一棟の売却の全体像は福岡市の一棟ビル・一棟マンション売却に、流れは一棟ビル・一棟マンション売却の流れ|自宅と違う5つの点にまとめました。
なお手取りの試算は自宅の売却を前提にしているため、一棟ものには当てはまりません。
金額を知りたい方は無料査定の依頼から、物件の種別で一棟を選んでお進みください。
