収益物件の買取はなぜ安い?仲介との差と買取が向く場面
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟アパートや一棟ビルを業者に買い取ってもらうと、仲介で買主を探した場合より価格は下がります。
理由は、業者が買ったあとに自分で売り直すことを前提にしているからです。
売り直すまでの修繕費・空室を埋める費用・借入の金利・自社の利益・税金を、先に価格から引いて提示します。
ここで大事なのは、下がったぶんの中身が「売主が払わずに済む費用」と重なっている点です。
この記事では、差額の内訳・買取が向く場面・両方の金額を並べて比べる手順を、一棟ものに絞って書きます。
2. 買取と仲介は、何がどう違うのですか
3. どんなときに買取が向きますか
4. 買取と仲介の金額は、どう並べて比べますか
5. 福岡市では一棟ものがどれくらい動いていますか
6. 次にやること
収益物件の買取は、なぜ仲介より安くなるのですか
買取業者は、再販までにかかる費用と自社の利益を、買う時点の価格から引いています。
だから差額は値引きではなく、業者が引き受けた仕事と時間の見積もりだと考えてください。
業者が価格から引く5つのもの
一棟ものの買取で引かれるのは、おおむね次の5つです。
| 引かれるもの | 中身 |
|---|---|
| 修繕費 | 外壁・屋上防水・給排水管・共用部。再販のときに買主が指摘する箇所 |
| 空室を埋める費用 | 原状回復・広告料・フリーレント。埋まるまでの賃料の損も含む |
| 期間中の金利 | 買ってから売るまでの借入の利息と、固定資産税などの保有コスト |
| 再販の利益 | 業者が事業として取る利益 |
| 税金 | 取得時の登録免許税・不動産取得税、再販時に業者側で発生するもの |
自宅の買取と違うのは、上の2つが「稼働率」とつながっていることです。
空室が多い一棟は、業者が埋め直してから売ることになります。
その手間と期間のぶんが、提示額から引かれます。
見積もりでいちばん幅が出るのは、修繕費と空室を埋める費用の2つ。
どの工事をいくらで見ているかを聞けば、提示額が低い理由はそこで分かります。
「安い」の中身は、売主が払わない費用でもある
修繕も空室対策も、仲介で売るなら売主が自分でやるか、価格に織り込んで買主と交渉する項目です。
買取に出すと、その作業と費用の負担が業者側へ移ります。
外壁の工事を売主が先に入れてから仲介で売る形も選べます。
ただし工事の期間と費用が先に出ていくので、資金と時間の余裕が必要です。
工事のあいだも、借入の返済と固定資産税は止まりません。
どちらが得かを決める材料は、工事に出せる現金と、売り終えたい時期の2つ。
この2つを先に決めずに見積もりを並べると、金額の大きいほうを選んで時間に詰まります。
一棟の割合は、確かめた数字が無いので出しません
自宅の買取では、相場の5〜7割という目安が使われます。
内訳は買取価格が相場の5〜7割になる理由に分けて書きました。
ただし一棟ものについて、当社は割合の裏付けとなる公的な資料を確かめられていません。
戸数・稼働率・構造・築年数・テナントの契約内容で、引かれる額の幅が大きく変わるからです。
だから当社は、一棟の買取に「相場の何割」という数字を当てません。
見積もりを受け取ったら、割合ではなく上の5項目の内訳を聞いてください。
買取と仲介は、何がどう違うのですか
違いは、誰が買主になるかと、売主がどこまで責任を持つかの2点です。
価格の差は、その2点から出てくる結果です。
誰が買主になるか
買取では、不動産会社そのものが買主になります。
仲介の場合、当社は売主側に立って、買主を外から探す役です。
買主を探す期間が要るかどうかが、終わる日の差になります。
当社は売主側の仲介として入り、囲い込みをしません。
買主側に別の会社が付くこともあります。
仲介でも買主が業者や投資家になる
仲介だからといって、買主が個人に限られるわけではありません。
一棟ものでは、不動産会社・投資法人・資産管理会社が買主になる取引もあります。
その場合、買取との違いは「誰が売主の立場に立つか」だけ。
仲介なら当社が売主側で条件を詰め、買取なら相手が買主本人として条件を出します。
同じ業者が買主でも、横に誰がいるかで詰められる項目が変わるということです。
手数料と契約不適合責任の扱い
仲介では、成約したときに仲介手数料がかかります。
上限の額と、建物に消費税がかかる取引での計算は一棟の仲介手数料にまとめました。
買取で業者が直接の買主になる場合、売主から見た仲介手数料は発生しません。
そのぶんは提示額の中に織り込まれていると考えてください。
買主が業者か個人かで、契約不適合責任の免責がどこまで通るかも変わります。
その線引きは一棟売却の契約不適合責任で分けて書いています。
どんなときに買取が向きますか
買取が向くのは、価格より「終わること」を先に決めたい場面です。
具体的には、建物の状態・法令上の制約・期限・秘密保持の4つが理由になります。
建物の傷みと空室が多いとき
外壁や設備に手を入れないと買主が融資を受けにくい状態だと、仲介での買主探しは長くなります。
空室が多い場合も、買主は埋まる前提の利回りを信用しません。
満室にしてから売るか、空室のまま売るかの判断は満室にしてから売る?空室のまま売る?に書きました。
埋め直す体力が無いときは、その作業ごと引き受ける相手に売る形が残ります。
既存不適格・検査済証が無いとき
容積率が今の基準を超えている建物や、検査済証が見つからない建物は、買主の融資が付きにくくなります。
融資が付かないと、現金で買える相手にしか売れません。
事情は容積率オーバー・既存不適格の一棟を売ると検査済証がないビル・アパートは売れる?に分けてあります。
この条件では、買取の提示額と仲介の見込み額の差が小さくなることもあります。
仲介でも結局は現金で買う業者が相手になるからです。
期限があるとき、知られずに終えたいとき
相続の申告や借入の返済期限が決まっている場合、終わる日を先に固定できる買取に意味が出ます。
テナントや入居者、同業者に知られずに進めたい場合も、買取なら情報が広がる範囲を狭められます。
仲介でも情報を出す順番は調整できるので、まず収益物件を知られずに売るを読んで比べてください。
秘密保持の約束と、買付証明書の扱いは買付証明書・秘密保持・DDとは?にまとめています。
逆に、買取を急がなくてよい場面
稼働率が高く、建物の修繕履歴が残っていて、期限も無い一棟は、仲介で買主を探す余地があります。
投資家が見るのは、まず賃料の入り方と修繕の履歴です。
その2つが資料で説明できる物件は、業者を通さずに買える相手が増えます。
資料の並べ方はレントロールの作り方と収益物件の売却に必要な書類にまとめました。
先に資料をそろえてから買取の提示を取ると、提示額そのものが変わることもあります。
買取と仲介の金額は、どう並べて比べますか
並べるのは提示価格ではなく、手元に残る額と、売り終わる日の2つです。
価格だけを横に並べれば、買取のほうが低く出るのは当然です。
比べるのは「手取り」と「終わる日」
買取は、提示額から仲介手数料を引かない形で残ります。
仲介のほうは、成約額から仲介手数料と、売るまでにかけた修繕費や広告の費用を引いた額。
さらに、売れるまでの月数ぶんの固定資産税・借入の返済・空室の損も続きます。
この保有コストを月単位で入れると、2つの差は価格の差より縮みます。
残る額を変えるもうひとつが、譲渡所得の税率です。
個人名義なら、所有5年以下の短期は39.63%、5年超の長期は20.315%になります。
法人名義の場合は計算が別になるので、税理士に確かめてください。
比べる表の作り方
紙に3列の表を作り、買取・仲介(3か月で成約)・仲介(9か月で成約)を横に置きます。
縦には、成約額・仲介手数料・修繕と広告の費用・保有コスト・譲渡所得税・手取り・引渡しの月を並べます。
仲介の成約額は、査定書の根拠を見て自分で2段に分けてください。
3か月で売れる想定と、9か月かかる想定の両方を置くのが要点です。
これを埋めると、価格差の何割が時間の代金かが見えます。
埋められない欄が出たら、そこが聞き足りていない項目です。
自宅用の試算ツールは一棟に使わない
当サイトの手取りの試算は、自宅の売却を前提にしています。
居住用の3,000万円控除や軽減税率を組み込んでいるので、収益物件には合いません。
建物に消費税がかかる取引や、減価償却で簿価が下がっている場合も、この画面では扱えません。
一棟の税金の考え方は一棟アパート・ビル売却の税金と収益物件の売却と消費税に分けました。
個別の税額と有利不利の判断は、顧問の税理士へお願いしてください。
福岡市では一棟ものがどれくらい動いていますか
当社が国土交通省の取引価格情報を集計したところ、福岡市7区の10年で共同住宅2,982件、事務所・店舗の建物651件でした。
この数字は、買主へのアンケートに回答があった取引だけで、全数ではありません。
価格帯(直近8四半期)
2024年第2四半期から2026年第1四半期の共同住宅490件は、価格帯で次のように分かれます。
| 価格帯 | 共同住宅 | 事務所・店舗 |
|---|---|---|
| 5,000万円未満 | 110件 | 24件 |
| 5,000万〜1億円 | 152件 | 24件 |
| 1億〜3億円 | 138件 | 49件 |
| 3億〜5億円 | 44件 | 20件 |
| 5億円以上 | 46件 | 29件 |
共同住宅は1億円未満に半分以上が入り、事務所・店舗は1億円を超える取引のほうが多い形です。
価格帯が上がると買える相手が絞られるので、買主探しにかかる月数も変わります。
築年数と構造
10年の合計で見ると、共同住宅は築31年以上が31%を占めます。
築41年以上の取引も290件ありました。
事務所・店舗は築41年以上が21%、築31〜40年が22%です。
構造は、共同住宅が木造47%・鉄筋コンクリート33%。
事務所・店舗は鉄骨造52%・鉄筋コンクリート22%です。
木造で築年数が進んだ一棟は、融資の年数が取りにくいため買主が絞られます。
その見方は木造アパートは築22年を過ぎても売れる?に書きました。
区ごとの件数
共同住宅の10年の件数は、東区622・博多区553・南区539・城南区357・中央区356・早良区318・西区237でした。
事務所・店舗のほうは博多区215・中央区165・東区107の順でした。
博多区と中央区に偏るのは、オフィスが集まる場所がそこだからです。
なお2025年の件数が少なく見えるのは、回答があとから届くためです。
減ったと読まないでください。
次にやること
最初にやるのは、買取の提示を受ける前に、仲介で売った場合の見込み額を自分で持つことです。
比べる相手が無い状態で提示額だけ見ると、高いか安いかを判断できません。
仲介の見込み額は、査定書の根拠まで読んで初めて使える数字になります。
査定の依頼から査定書が届くまでの流れは一棟の査定はどう頼む?にまとめました。
当社は福岡市博多区の売却専門で、代表が最後まで担当します。
一棟ものの売却の進め方をまとめたのが福岡市の一棟ビル・一棟マンション売却のページです。
当社は税理士・司法書士と連携して進めるので、税と登記の確認も並行できます。
見込み額から確かめたい方は無料査定からお申し込みください。
買取の提示だけを見て決める前に、仲介の数字を横に置いてみてください。
