一棟アパート・ビル売却の税金|減価償却で手取りが減る理由
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士長く持ってきたアパートや賃貸マンション、ビルを売ろうとしている個人オーナーの方へ書いています。
「売値の割に手取りが少なかった」という話を耳にして、売る前に税金の仕組みを確かめておきたい方が対象です。
手取りが減る理由は、賃貸用の建物では毎年の申告で減価償却費を経費にしてきたぶん、売るときの取得費が減っているためです。
取得費が減れば譲渡益が増え、同じ値段で売った自宅よりも税額が大きく出ます。
自宅なら使える3,000万円の特別控除も、賃貸用の一棟には使えません。
この記事で扱うのは、取得費の計算・耐用年数・2億円で売る計算例・特例の可否・福岡市の取引データ・そろえる書類の6つです。
個別の税額を決めるのは税理士の仕事なので、ここでは国税庁の公表資料で確かめられる制度の範囲を書きます。
2. 減価償却は、どの方法で何年かけて行うのですか
3. 2億円で売ると、税金と手取りはいくらになりますか
4. 自宅のような特例は、賃貸用の一棟でも使えますか
5. 福岡市の一棟ものでは、建物の取得費はどのくらい残っていますか
6. 売る前に、何をそろえればよいですか
なぜ賃貸用の建物は、自宅より譲渡益が大きく出るのですか
毎年の不動産所得で経費にしてきた減価償却費の合計が、売るときに建物の取得費から差し引かれるからです。
経費にした年は所得税が減っていますが、その同じ金額が、売った年の譲渡益として戻ってくる形になります。
譲渡所得は「売った金額−取得費−譲渡費用」
国税庁は、譲渡所得の金額を、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算すると説明しています。
個人が土地や建物を売ったときの税金は、給与や事業の所得とは分けて計算する分離課税です。
取得費に入るのは、購入代金・建築代金・購入手数料のほか、あとから支出した設備費や改良費など。
ただし建物は、購入代金や建築代金の合計から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費になります。
土地は時間がたっても価値が減らない資産とされているので、差し引くものがありません。
この目減りは一棟に限らず、転勤などで自宅を貸していた期間にも起こります。
自宅を貸した場合の扱いは転勤で家は貸すか売るか|3年の期限と住宅ローンの約束で説明しています。
譲渡費用にあたるのは、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売るときに借家人へ払った立退料など。
建物を取り壊して土地を売るときの取り壊し費用も、ここに入ります。
一方で、賃貸用の資産を買ったときの登録免許税や不動産取得税は、取得費に含まれません。
すでに不動産所得の必要経費に入れているものを、売るときにもう一度引くことはできないためです。
賃貸用は「毎年の償却費の合計」、自宅は1.5倍の年数でゆっくり引く
差し引く減価償却費相当額の出し方は、建物が事業に使われていたかどうかで分かれます。
事業に使われていた建物で使うのは、取得してから売るまでの毎年の減価償却費の合計です。
国税庁はここに注記を付けていて、必要経費にしていない部分があったとしても、毎年の額を合計することに変わりはないとしています。
つまり「申告で償却費を入れ忘れた年があるから、そのぶん取得費が残る」という計算にはなりません。
事業に使われていなかった建物、たとえば自宅はどうでしょうか。
こちらは、耐用年数を1.5倍にした年数に対応する旧定額法の償却率で、1年あたりの額を求めます。
算式は「建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」で、上限は取得価額の95%。
鉄筋コンクリート造の償却率は0.015なので、賃貸用(旧定額法・47年)の0.022と比べると、1年に減る額はおよそ3分の2です。
同じ建物でも、貸していたほうが取得費の減り方が速い、というのがこの違いの中身です。
自宅の一部で民泊をした家も、民泊に使った部分と期間は業務用の計算になるため、同じ理由で取得費が早く減ります(民泊に使った家を売るときの税金)。
減価償却は、どの方法で何年かけて行うのですか
平成10年4月1日以後に取得した建物は、旧定額法または定額法だけを使い、法定耐用年数にわたって原則として毎年同じ額を経費にしていきます。
年数は構造と用途で決まり、財務省令の別表に定められています。
法定耐用年数は、木造の住宅用で22年・RC造の住宅用で47年
国税庁が公表している「主な減価償却資産の耐用年数表」から、一棟ものに関係する行を抜き出しました。
| 構造 | 住宅用 | 事務所用 |
|---|---|---|
| 木造・合成樹脂造 | 22年 | 24年 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 47年 | 50年 |
| 金属造(骨格材の肉厚が4mm超) | 34年 | 38年 |
| 金属造(3mm超・4mm以下) | 27年 | 30年 |
| 金属造(3mm以下) | 19年 | 22年 |
木造と金属造では、店舗用も住宅用と同じ年数です。
鉄筋コンクリート造の店舗用だけは別の行で、39年と定められています。
木造アパートの22年は、鉄筋コンクリート造の賃貸マンションの47年と比べて半分以下。
同じ9,000万円の建物でも、木造のほうが1年に経費へ入る額が大きく、取得費もそのぶん速く減ります。
給排水・衛生設備やガス設備などの建物附属設備は15年です。
建物本体と分けて資産に計上していれば、附属設備は本体より早く償却が終わります。
平成19年3月31日以前に取得した建物は、旧定額法で計算する
長く持ってきた建物は、取得した時期によって算式が変わります。
平成19年3月31日以前に取得した建物に使うのは旧定額法で、1年の償却費は「取得価額×90%×旧定額法の償却率」です。
償却費の合計が取得価額の95%に達すると、その翌年からは残りを5年間で1円まで均等に償却します。
平成19年4月1日以後に取得した建物は定額法で、1年の償却費は「取得価額×定額法の償却率」。
こちらは90%を掛けず、最後は1円まで償却する仕組みです。
耐用年数47年の償却率は旧定額法・定額法とも0.022、22年はどちらも0.046と、国税庁の償却率等表に載っています。
年の途中で取得したり売ったりした年は、その年に業務へ使っていた月数で按分する決まりです。
平成10年3月31日以前に取得した建物では、旧定率法を選んでいた可能性もあります。
どの方法で償却してきたかは、毎年の確定申告書に付けた減価償却費の計算欄を見れば分かります。
2億円で売ると、税金と手取りはいくらになりますか
25年前に1億5,000万円で取得したRC造の賃貸マンションの例では、譲渡所得は8,788万4,000円、税額はおよそ1,785万円です。
取得時の内訳は、土地が6,000万円、建物が9,000万円。
売値との差だけを見れば、値上がりは5,000万円です。
ところが税金の計算に使う譲渡益は、それより3,788万円ほど大きく出ました。
25年ぶんの償却費4,455万円が、取得費から引かれる
計算を追えるように、前提を単純にしています。
- 2001年1月に新築で取得し、その月から貸している(住宅用・法定耐用年数47年・旧定額法・償却率0.022)
- 建物附属設備を分けず、9,000万円の全部を建物本体として償却してきた
- 2026年の初めに売り、2001年から2025年までの25年ぶんを償却済みとする
- 譲渡費用は仲介手数料だけを数える(印紙代などは省く)
1年の償却費は、9,000万円×0.9×0.022で178万2,000円です。
これを25年続けると、合計は4,455万円になります。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 売った金額 | 2億円 | 売買契約書の金額 |
| 土地の取得費 | 6,000万円 | 購入代金のまま |
| 建物の取得費 | 4,545万円 | 9,000万円−償却費の合計4,455万円 |
| 譲渡費用 | 666万6,000円 | (2億円×3%+6万円)×1.1 |
| 譲渡所得 | 8,788万4,000円 | 2億円−1億545万円−666万6,000円 |
| 税額 | およそ1,785万円 | 8,788万4,000円×20.315% |
| 売値から手数料と税を引いた残り | およそ1億7,548万円 | 借入金の返済は含まない |
仮に償却費を引かずに計算すると、譲渡所得は4,333万4,000円、税額はおよそ880万円でした。
実際の税額との差はおよそ905万円で、25年かけて経費にしてきた4,455万円に税率を掛けた額にあたります。
同じ建物が自宅だった場合、償却率は0.015なので、25年ぶんの減価償却費相当額は3,037万5,000円にとどまる計算です。
自宅にはさらに3,000万円の特別控除があり、税金がかかる金額は4,370万9,000円まで下がります。
賃貸用の8,788万4,000円と比べると、ほぼ半分です。
当社の手取りの試算は居住用の住まいを前提にした道具で、賃貸用の減価償却は織り込んでいません。
一棟ものの数字をそのまま入れると税額が小さく出るので、目安としても使わないでください。
長期か短期かは「売った年の1月1日」で決まり、税率は倍近く違う
長期譲渡所得になるのは、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものです。
同じ日の時点で5年以下なら短期譲渡所得になり、税金の計算も別々に行います。
税率は、長期譲渡所得が20.315%、短期譲渡所得が39.63%です。
所有期間が5年を超える場合の内訳は、所得税15%、その2.1%にあたる復興特別所得税、住民税5%の3つ。
上の例の譲渡所得8,788万4,000円に短期の税率を当てると、税額はおよそ3,483万円になり、長期の1,785万円の2倍近くまで増えます。
判定に使うのは売った日ではなく、その年の1月1日です。
買ってから丸5年が過ぎていても、その年の1月1日にまだ5年を超えていなければ短期になります。
相続や贈与で取得した建物の所有期間は、原則として、亡くなった方や贈与した方が取得した日から数えます。
自宅のような特例は、賃貸用の一棟でも使えますか
居住用財産の3,000万円特別控除は、賃貸用の一棟には使えません。
対象になる資産が、売った人自身の住まいに限られているためです。
国税庁が挙げている対象は、現に自分が住んでいる家屋と、以前に住んでいた家屋、そしてその敷地です。
以前に住んでいた家屋には、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る、という期限が付いています。
人に貸すために建てたアパートやビルは、このどちらにも当たりません。
一棟のうち1室にオーナー自身が住んでいる場合の扱いは、建物の使い方によって変わる個別の判断です。
その部分は、申告を頼む税理士に建物の図面と入居の状況を見せて確かめてください。
相続した一棟は、取得費と取得時期を引き継ぐ
親から相続した一棟を売るときの取得費は、親がその土地建物を買い入れたときの購入代金などを基に計算します。
取得の時期もそのまま引き継ぐので、長期か短期かは親が取得した時から数えた所有期間で判定されます。
建物について、所有期間中の減価償却費相当額を差し引く点は変わりません。
相続税を納めている場合は、相続税額のうち一定の金額を取得費に足せる特例が用意されています。
この取得費加算の特例を使えるのは、相続開始から3年10か月以内に売った場合です。
期限の数え方と要件は取得費加算の特例の期限にまとめました。
相続の手続きと売却を並行して進める段取りは、相続した不動産の売却のページで説明しています。
法人名義なら法人税、建物には消費税もかかる
ここまでの話は、個人が売る場合の分離課税の仕組みです。
資産管理会社などの法人が売る場合は分離課税にならず、売却益はその事業年度のほかの損益と合算されて法人税の対象になります。
長期と短期の区分も、法人にはありません。
会社名義で売る前に税理士へ渡しておく項目は、法人名義のビルを売る前に|税理士に聞いておく10のことに10並べました。
もう1つ、建物の売却には消費税の問題があります。
土地の譲渡は消費税が非課税ですが、建物の譲渡は非課税取引に入っていません。
売主が消費税の課税事業者であれば、建物の代金に対する消費税を申告して納めることになります。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら原則として納税義務は免除されますが、適格請求書発行事業者の登録を受けていると免除されません。
住宅の貸付けは非課税取引ですが、事務所や店舗の家賃はそこに入らないので、ビルのオーナーは課税事業者にあたる場合があります。
売買契約書で土地と建物の金額をどう分けるかは、消費税にも買主側の減価償却にも響くので、契約の前に税理士へ確認してください。
按分の方法と計算例は収益物件の売却と消費税にまとめてあります。
福岡市の一棟ものでは、建物の取得費はどのくらい残っていますか
福岡市で取引された共同住宅のおよそ3割は築31年以上で、木造であれば法定耐用年数の22年をすでに過ぎています。
新築から持ち続けてきた売主であれば、建物の取得費がほとんど残っていない計算です。
共同住宅の31%が築31年以上、構造は木造が47%
当社は、国土交通省の不動産情報ライブラリが公開している取引価格情報を、福岡市7区について集計しました(2026年9月19日集計)。
2016年から2025年までの10年間で、共同住宅(一棟マンション・アパート)は2,982件、事務所・店舗の建物は651件です。
この件数は買主へのアンケートに回答があった取引だけを数えたもので、全数ではありません。
共同住宅のうち築31年以上は31%を占め、構造別では木造が47%、鉄筋コンクリート造が33%でした。
事務所・店舗は築41年以上が21%、築31〜40年が22%で、構造は鉄骨造が52%を占めます。
区別に見ると、共同住宅は東区622件・博多区553件・南区539件の順に多く、事務所・店舗は博多区215件・中央区165件に集まっていました。
築年数と構造は別々に集計した割合なので、「築31年以上の木造が何%」とまでは言えません。
それでも、築31年以上の建物が3割あり、半分近くが木造だという2つの数字から、償却を終えた建物が珍しくないことは読み取れます。
木造は新築から28年で残り1円、RC造は築31年でもまだ残る
木造の住宅用を旧定額法で償却すると、1年に減るのは取得価額の4.14%(0.9×0.046)です。
計算上は23年目に取得価額の95%へ達し、その翌年から5年で1円まで償却します。
新築で建てて持ち続けた木造アパートが築31年なら、建物本体の未償却残高はすでに1円です。
この場合、取得費として残っているのは、ほぼ土地の購入代金だけになります。
買主の融資の期間が耐用年数の残りで決まる話は、木造アパートは築22年を過ぎても売れる?に分けて書きました。
鉄筋コンクリート造の住宅用は47年なので、築31年の時点でも建物の取得費は残っています。
鉄骨造の事務所は、骨格材の肉厚が4mmを超えるもので38年。
築41年以上の事務所ビルを新築から持っているなら、こちらも法定耐用年数を過ぎた計算です。
ただし、途中で大規模な改修をして資産に計上した支出があれば、そのぶんは別に残っています。
中古で買った建物は、買った金額と買った時点から償却が始まるので、新築時からの年数では測れません。
自分の建物がどこまで償却されているかは、直近の申告書の「未償却残高」の欄に書いてあります。
申告先は物件の場所ではなく、売主の住所地の税務署
所得税の確定申告書を出す先は、納税地を所轄する税務署で、納税地は一般的には住所地です。
福岡市内の管轄は、福岡税務署が中央区と南区、博多税務署が博多区と東区の一部、香椎税務署が東区の一部となっています。
西区・城南区・早良区にお住まいなら、西福岡税務署です。
県外に住みながら福岡市の一棟を持っているオーナーは、福岡ではなく、お住まいの地域の税務署へ申告します。
売る前に、何をそろえればよいですか
そろえるのは、取得したときの契約書と、毎年の確定申告書に付けた減価償却費の計算欄の2つです。
この2つが無いと実際の取得費を示せず、売った金額の5%で計算することになりかねません。
取得時の契約書と、収支内訳書・青色申告決算書
取得費の出発点は、買ったときの売買契約書、または建てたときの建築請負契約書に書かれた金額です。
土地と建物を一括で買っている場合は、契約書のどこかに建物の金額か消費税額が書かれていないかを探してください。
減価償却の累計は、白色申告なら収支内訳書、青色申告なら青色申告決算書の「減価償却費の計算」の欄で確かめられます。
そこには取得価額・償却方法・耐用年数・その年の償却費・未償却残高が、資産ごとに並んでいます。
集めた書類を翌年の申告でどう使うのかは収益物件を売った翌年の確定申告|必要書類と減価償却の扱いに分けました。
取得費が分からないときは、売った金額の5%相当額を取得費とすることができる、というのが概算取得費の決まりです。
先の2億円の例にこの概算取得費を当てると、取得費は1,000万円、譲渡所得は1億8,333万4,000円まで膨らみます。
税額はおよそ3,724万円で、契約書と申告書がそろっていた場合の1,785万円の2倍を超えました。
書類が見つからないときの探し方は、取得費が不明なときの注意点に書いています。
売却の全体で要る書類の一覧は必要書類のページです。
次に何をすればよいですか
手元でできることは3つあります。
- 取得時の売買契約書・建築請負契約書を探し、土地と建物の金額を確かめる
- 直近の収支内訳書か青色申告決算書で、建物と附属設備の未償却残高を見る
- 売った年の1月1日時点で、所有期間が5年を超えているかを数える
この3つが分かれば、査定額が出た時点で税理士が税額を見積もれます。
税額がいくらになるか、どの特例を使うかという個別の判断は、税理士に確認してください。
当社は福岡市博多区の売却専門の会社で、売主側の仲介として入り、囲い込みをしません。
代表が最後まで担当し、税理士・司法書士と連携して進めています。
いま探している買主の条件は購入希望者の一覧で公開中です。
一棟の売却で当社がどう進めるかは、福岡市の一棟ビル・マンション・アパート売却のページにまとめました。
福岡市で一棟アパートや一棟ビルの売却を考えている方は、無料査定からご相談ください。
