相続した一棟ビル・アパートはいつまでに売る?3つの期限
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士親が持っていた一棟アパートやビルを相続すると、自宅を相続したときとは違う困り方をします。
入居者がいるので、翌月にはもう家賃が入ってきます。
いっぽうで、兄弟姉妹の共有になっていて、誰も名義を動かせていない。
この記事は、その状態から「いつまでに何を決めるのか」を並べ直すために書きました。
期限は3つあります。
そして、早く売る方向に効く制度と、持ち続けることが条件の制度が、同時に存在します。
2. なぜ「早く売る」と「持ち続ける」が逆を向くのですか?
3. 相続登記が済んでいないと、売れませんか?
4. 遺産分割が決まるまで、家賃は誰のものですか?
5. 福岡市で、一棟ものはどのくらい取引されていますか?
6. 売ると決めたら、何から始めればよいですか?
相続した一棟ビルは、いつまでに何を決めればよいですか?
期限は10か月・3年・3年10か月の3つです。
どれも起算日が「亡くなった日」ではなく「知った日」から数える形になっています。
カレンダーに書き写すときは、そこを間違えないようにしてください。
自宅や実家の売却に効く期限も、同じように日付がばらけています。
制度ごとの締め切りは不動産売却の期限カレンダー|2027年からの一覧に一覧にしました。
3つのうち3年10か月の期限だけは、引き渡しを終える日を指します。
売り出しをいつ始めるかまで落とした表は、取得費加算の3年10か月を逆算|いつ売り出すかにあります。
3つの期限を並べると
| 期限 | いつまで | 何をするか |
|---|---|---|
| 相続税の申告・納税 | 10か月 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 |
| 相続登記の申請 | 3年 | 不動産を取得したことを知った日から3年以内 |
| 取得費加算の特例 | 3年10か月 | 相続開始から3年10か月以内に譲渡する |
相続税の申告先は、相続人の住所地ではありません。
亡くなった方の死亡時の住所地を管轄する税務署です。
福岡市は区によって管轄が5つに分かれているので、福岡市7区の手続き窓口ガイドでご確認ください。
2024年3月以前に相続した分の期限は2027年3月31日
相続登記の申請義務は2024年4月に始まりました。
制度開始より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年3月31日までです。
取得したことを知った日が2024年4月以降なら、その日から3年以内。
正当な理由なく申請しないと、過料の対象になります。
制度の中身は相続登記が義務化。3年の期限と罰則を解説にまとめました。
なぜ「早く売る」と「持ち続ける」が逆を向くのですか?
売る時期に効く特例と、保有を続けることが要件の特例が、どちらも相続した賃貸物件に関係するからです。
取得費加算は、期限内に売ってはじめて使えます。
いっぽう貸付事業用宅地等の特例は、申告期限まで貸付と保有を続けることが条件です。
取得費加算は3年10か月以内に売ること
相続税を納めた人が、相続した財産を一定期間内に売ったとき、納めた相続税の一部を取得費に足せる制度です。
期間は、相続開始から3年10か月以内の譲渡。
取得費が増えれば、その分だけ譲渡所得が小さくなります。
詳しい計算は取得費加算の特例の期限は3年10か月をご覧ください。
貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額
小規模宅地等の特例のうち、賃貸に使っていた土地に当たるのが貸付事業用宅地等です。
限度面積は200㎡、減額割合は50%。
要件に入るのは、その貸付事業を相続税の申告期限まで引き継いで行っていること、そしてその宅地等を申告期限まで持っていることの2つ。
つまり申告期限前に売ってしまうと、この要件から外れます。
相続開始前3年以内に貸し始めた土地は、原則として対象外
亡くなる前3年以内に新しく貸付事業に使い始めた宅地等は、この特例の対象から外れます。
ただし、被相続人が相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付事業を続けていた場合は、その除外に当たりません。
「節税のために直前に貸した」形を切り分けるための線引きです。
順番としては、10か月の時点で相続税の申告内容が決まり、そこから売却を考える時間が約3年残る形になります。
売るかどうかを10か月までに決め切る必要はありません。
ただし、申告で貸付事業用宅地等の特例を使ったかどうかで、その後に取れる動きが変わります。
どちらの特例が自分の場合に効くのかは、相続税と譲渡所得税の両方を並べないと判断できません。
当社は不動産会社なので、個別の税額とどちらが有利かの判断はできず、税理士におつなぎする形になります。
相続登記が済んでいないと、売れませんか?
売れません。
名義が亡くなった方のままでは、買主へ所有権を移す登記ができないためです。
売買契約の前に、相続人への名義変更を済ませておいてください。
名義を移すのにそろえる書類
相続登記には、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍が要ります。
除籍や改製原戸籍も含むので、本籍を何度か移していると、複数の市区町村へ請求することになります。
ほかに相続人全員の戸籍と住民票、遺産分割協議書、固定資産評価証明書。
遺産分割協議書には相続人全員の実印と印鑑証明書が付きます。
本籍が県外にまたがると、戸籍がそろうまでに1か月以上かかることもあるので、早めに動いてください。
共有で相続したら、売るには全員の同意が要る
兄弟姉妹の共有で相続した場合、その一棟を売るには共有者全員の同意が必要です。
民法251条が、共有物に変更を加えるには他の共有者全員の同意を要すると定めています。
1人でも反対すれば、建物全体を売ることはできません。
持分だけを売ることは理屈のうえでは可能ですが、買い手は大きく限られるでしょう。
共有のまま進める場合の段取りは共有名義の不動産売却にまとめています。
3年で分割がまとまらないときは、相続人申告登記
遺産分割の話し合いが、3年以内にまとまらないこともあるでしょう。
その場合は、相続人申告登記を単独で行えば、申請義務を果たしたとみなされます。
ただし、これは義務への対応であって、売れる状態になったわけではありません。
売却の前に残るのは、分割を決めて名義を移す作業です。
相続と並行した進め方は相続した不動産の売却でご説明しています。
遺産分割が決まるまで、家賃は誰のものですか?
相続開始後から遺産分割までに生じた賃料は、各相続人に法定相続分に応じて帰属します。
これは判例で示された考え方で、その賃料は原則として遺産分割の対象になりません。
分割が決まるのを待つ必要は無い、ということです。
1人が管理していても、申告は各自で行う
遺産分割が確定していない間、その財産から生じる所得は、各共同相続人に相続分に応じて帰属します。
兄弟のうち1人が家賃を預かって管理している場合でも、確定申告は法定相続分で各自が行います。
管理している人がまとめて申告する形にはなりません。
出典:裁判所 遺産分割Q&A
あとから分割が決まっても、さかのぼって直せない
遺産分割協議が整って分割が確定しても、その効果は未分割だった期間の所得の帰属には及びません。
分割が決まったことを理由に、過去の申告について更正の請求や修正申告を行うことはできない扱いです。
話し合いが長引きそうなら、家賃の入金口座と記録の残し方を先に決めておいてください。
福岡市で、一棟ものはどのくらい取引されていますか?
10年間で、共同住宅が2,982件、事務所・店舗の建物が651件動いています。
1年あたりにすると、共同住宅が232〜402件、事務所・店舗が50〜84件。
数えたのは、当社が国土交通省の不動産情報ライブラリの取引価格情報を2016年から2025年まで集計したものです。
この数字は買主へのアンケートに回答があった取引だけを集めたもので、全数ではありません。
2025年の件数が少なく見えるのは、回答があとから届くためです。
価格帯は5,000万円から1億円が中心
直近8四半期(2024年第2四半期〜2026年第1四半期)の共同住宅490件を価格帯で分けると、次のようになります。
| 価格帯 | 共同住宅 | 事務所・店舗 |
|---|---|---|
| 5,000万円未満 | 110件 | 24件 |
| 5,000万〜1億円 | 152件 | 24件 |
| 1億〜3億円 | 138件 | 49件 |
| 3億〜5億円 | 44件 | 20件 |
| 5億円以上 | 46件 | 29件 |
区ごとの10年の件数では、共同住宅が東区622件・博多区553件・南区539件と続きます。
事務所・店舗は博多区215件・中央区165件・東区107件。
相続で出てくる一棟は築年数の経ったものが多く、共同住宅は築31年以上が31%。
築41年以上の共同住宅だけで290件あり、事務所・店舗も築41年以上が21%を占めました。
構造で見ると、共同住宅は木造が47%、鉄筋コンクリート造が33%。
事務所・店舗は鉄骨造が52%で、鉄筋コンクリート造は22%でした。
取得費と減価償却は、親のものを引き継ぐ
相続で取得した一棟は、取得費と取得時期を被相続人から引き継ぎ、建物の減価償却も引き継ぎます。
親が長く持っていた建物ほど帳簿上の価値が減っているため、売ったときの譲渡益が大きく出ます。
仕組みと試算は一棟アパート・ビル売却の税金で説明しました。
なお当サイトの手取りの試算はご自宅の売却を前提にしているため、一棟の計算には使えません。
売ると決めたら、何から始めればよいですか?
名義の確認と、入居者に関する資料集めの2つを同時に始めてください。
名義は登記事項証明書で確かめられます。
資料のほうは、管理会社や親の書類棚から出てくるまでに時間がかかるところ。
とくに入居者が10室を超えると、契約書の年月日と更新の有無を突き合わせるだけで数日かかります。
亡くなった方が自主管理していた場合は、契約書そのものが見つからないこともあるでしょう。
その場合は、家賃の入金記録から契約内容を組み直す作業が先に来ます。
先にそろえる資料
賃貸中の一棟で買主が見るのは、建物そのものより契約の中身です。
- レントロール(部屋ごとの賃料・契約期間・敷金の一覧)
- 各室の賃貸借契約書
- 管理委託契約書と、直近の収支の記録
- 確認済証・検査済証、あれば竣工図
- 修繕の履歴と、大規模修繕の見積り
敷金は買主へ引き継ぐお金なので、決済のときに精算します。
貸主が変わったことを入居者に主張するには所有権移転の登記が要るため、通知は引き渡しのあとになります。
売り出しの段階で入居者に知らせる義務はありません。
退去の動きを誘ってしまうと、家賃収入が減った状態の資料で買主に見られることになります。
流れの全体は一棟ビル・一棟マンション売却の流れに並べてあります。
当社がお受けできること
当社は福岡市博多区の不動産売却専門店です。
売主側の仲介として入り、囲い込みはしません(買主側に別の会社が付くこともあります)。
代表が最後まで担当し、必要に応じて税理士・司法書士と連携して進めます。
一棟の売却全般は福岡市の一棟ビル・一棟マンション・アパートの売却をご覧ください。
まず金額の目安を知りたい方は、無料査定から物件の種別に一棟を選んでお申し込みください。
