一棟ビル・一棟マンション売却の流れ|自宅と違う5つの点
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士福岡市内に一棟ビル・一棟マンション・アパートを持ち、売却を考え始めた個人オーナーと資産管理法人の代表の方へ書いています。
自宅の売却なら想像がつくが、一棟ものは何が違うのかが分からない、という段階を想定しました。
先に結論を言うと、手続きの骨組みは自宅と同じで、違いは5つに絞れます。
この記事では、相談から決済・引渡しまでに何がどの順で起き、どこで時間がかかるのかを追っていきます。
税額の計算や賃貸借の細かい論点には踏み込まず、全体の地図を渡すことを目的にしました。
2. 相談から決済まで、何がどの順で起きますか
3. 福岡市で一棟ものは、どのくらい取引されていますか
4. 最初にそろえる資料は何ですか
5. 媒介契約と買主の探し方は、どう決めればよいですか
6. 買付証明書から引渡しまでに、何が起きますか
一棟ビルや一棟マンションの売却は、自宅の売却と何が違うのですか
違うのは、価格の決まり方・買主・入居者の扱い・契約前の調査・消費税の5つです。
査定を頼み、媒介契約を結び、買主を探して契約と決済に進むという骨組みは、自宅の売却と変わりません。
変わるのは、それぞれの段階で見られるものです。
| 項目 | 自宅(居住用) | 一棟ビル・一棟マンション・アパート |
|---|---|---|
| 価格の決まり方 | 近くで売れた似た物件との比較が中心 | 賃料収入から入り、土地建物の積み上げと取引事例で確かめる |
| 買主 | 自分で住む個人 | 個人の投資家・事業法人・不動産会社 |
| 買主の資金 | 住宅ローン | 事業用の融資。付き方で出せる価格が変わる |
| 売るときの状態 | 空けて引き渡すのが一般的 | 入居者・テナントが居るまま引き渡す |
| 契約前の確認 | 内見と重要事項説明 | 加えて買主の調査(賃貸借・建物・法令)が入る |
| 消費税 | 個人の自宅の売却にはかからない | 課税事業者が売ると建物の部分にかかる |
| 引渡しのあと | 鍵を渡して終わる | 入居者へ賃貸人の変更を通知し、敷金を引き継ぐ |
右の列はどれも、貸して収益を得ている建物だという一点から出てきます。
価格は賃料収入から入り、買主の融資で動く
自宅の査定は、近くで売れた似た物件の価格と比べるのが中心です。
一棟ものでは、買主が最初に見るのは「この建物が年にいくら稼ぐか」という数字になります。
査定でも、賃料収入から価格を求める収益還元法を軸に置く形です。
そこへ、土地と建物を別々に積み上げる原価法と、取引事例比較法を重ねて確かめます。
3つの手法の中身と、会社ごとに査定額が違ってくる理由は収益物件の査定方法3つで解説しています。
買主の側は、自分で住む個人ではありません。
個人の投資家、自社で使う事業法人、買い取って再販売や建て替えをする不動産会社の3つに大きく分かれます。
使う資金も住宅ローンではなく、事業用の融資です。
金融機関は建物の構造・築年数・賃料収入を見て、貸す額と期間を決めます。
同じ建物でも、買主が借りられる額が違えば、出せる価格も違ってくるわけです。
買付の金額だけでなく、その買主に融資が付く見込みまで確かめるのはそのためです。
課税事業者が売ると、建物の部分に消費税がかかる
個人が自宅を売っても、消費税はかかりません。
消費税がかかるのは、事業者が事業として対価を得て行う取引だからです。
国税庁は、住宅賃貸用や店舗賃貸用の建物を売却した場合も課税の対象になると説明しています。
一方で、土地の譲渡は非課税です。
そのため売買代金を土地と建物に分け、建物の部分にだけ消費税がかかる形です。
代金が区分されていないときの分け方として、国税庁は時価の比率や固定資産税評価額を基にした按分などを挙げています。
納税の義務があるかどうかは、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかなどで決まります。
基準期間は、個人なら前々年、法人なら前々事業年度。
住宅の家賃は非課税の売上ですが、事務所や店舗の家賃は課税の売上に入ります。
インボイスの登録を受けている事業者は、売上の額にかかわらず納税の義務が免除されません。
個別の税額と納税義務の判定は、契約の前に税理士へ確認してください。
土地と建物の分け方と、納税義務の判定の仕組みは収益物件の売却と消費税に書きました。
相談から決済まで、何がどの順で起きますか
資料の準備、査定、媒介契約、買主探し、買付証明書、買主の調査、売買契約、決済・引渡し、入居者への通知の順に進みます。
番号を振ると、次の9段階です。
- 資料をそろえる(レントロール・賃貸借契約書・修繕履歴など)
- 査定を受ける
- 媒介契約を結ぶ
- 買主を探す(公開するか、限られた相手にだけ打診するか)
- 買付証明書を受け取る
- 買主の調査(デューデリジェンス)を受ける
- 売買契約を結ぶ
- 決済・引渡しをする
- 入居者へ賃貸人の変更を通知する
自宅の売却の標準的な段取りは売却の流れにまとめました。
見比べると、1番の資料と6番の調査、9番の通知が一棟ものに特有の段階だと分かります。
時間がかかるのは、資料・買主の融資・買主の調査の3か所
1つ目は、最初の資料集めです。
レントロールや修繕の記録は役所で取れる書類ではなく、オーナーか管理会社の手元にしかありません。
ここが薄いと査定の幅が広がり、買主の検討も前に進まなくなります。
2つ目は、買主の融資の審査。
事業用の融資は、金融機関が物件の資料を読み込んでから結論を出します。
資料の出し直しが起きると、そのたびに審査が止まるのが実情です。
3つ目が買主の調査で、賃貸借契約・建物・法令の3方向から確かめが入ります。
全体の期間を測る物差しになるのが、媒介契約の有効期間です。
専任と専属専任では、3か月を超えられないと法律で決まっています。
更新はできますが、1回の契約期間の中で3つの山をどう越えるかを、先に話し合っておくと途中で慌てません。
福岡市で一棟ものは、どのくらい取引されていますか
福岡市7区では2016〜2025年の10年間に、一棟の共同住宅が2,982件、事務所・店舗の建物が651件取引されています。
当社が国土交通省「不動産情報ライブラリ」の取引価格情報を、2026年9月19日に集計した数字です。
この情報は買主へのアンケートに回答があった取引だけを載せたもので、全数ではありません。
1年あたりでは、共同住宅が232〜402件、事務所・店舗が50〜84件でした。
回答があったぶんだけでも、福岡市では一棟ものが年に数百件取引されている計算です。
直近の年の件数は回答があとから届いて増えるため、年ごとの増減はここでは比べません。
直近2年の価格帯は、1億円以上が共同住宅の47%・事務所店舗の67%
下の表は、2024年第2四半期から2026年第1四半期までの8四半期の内訳です。
| 価格帯 | 共同住宅(490件) | 事務所・店舗(146件) |
|---|---|---|
| 5,000万円未満 | 110件(22%) | 24件(16%) |
| 5,000万〜1億円 | 152件(31%) | 24件(16%) |
| 1億〜3億円 | 138件(28%) | 49件(34%) |
| 3億〜5億円 | 44件(9%) | 20件(14%) |
| 5億円以上 | 46件(9%) | 29件(20%) |
共同住宅は5,000万〜1億円がいちばん厚く、事務所・店舗は1億〜3億円が中心でした。
1億円以上の取引は、共同住宅で47%、事務所・店舗では67%にのぼりました。
当社が集計している博多区の3LDKマンションの中央値2,700万円とは、桁が1つ違う取引です。
金額が大きくなると、契約書に貼る印紙も変わります。
売買代金が1億円を超えて5億円以下なら、軽減後の税額は契約書1通あたり6万円です。
1,000万円を超えて5,000万円以下の契約にかかる1万円と比べると、6倍にあたります。
この軽減が当たるのは、2027年3月31日までに作成される契約書です。
仲介手数料の実額は一棟の仲介手数料の早見表で確かめられます。
築31年以上が共同住宅の3割。取引は区によって偏る
10年間の共同住宅のうち、築31年以上の建物は31%を占めていました。
事務所・店舗では築41年以上が21%、築31〜40年が22%で、合わせて4割を超えます。
構造は、共同住宅が木造47%・鉄筋コンクリート造33%、事務所・店舗が鉄骨造52%・鉄筋コンクリート造22%。
区別に見ると、共同住宅は東区622件・博多区553件・南区539件の順に多く、この3区で全体の57%になります。
事務所・店舗は博多区215件と中央区165件で58%を占め、都心の2区に寄っていました。
築年数が進んだ建物や木造のアパートも、実際に売買されていることが数字から読めます。
ただし件数は過去の事実であり、これからの価格や売れやすさを示すものではありません。
最初にそろえる資料は何ですか
最初にそろえるのは、レントロール・賃貸借契約書・修繕履歴・固定資産税の課税明細・確認済証と検査済証・登記事項証明書の6つです。
全部がそろわなくても、査定は始められます。
ただ、買主と金融機関が最後に見るのはこの6つなので、早く集めるほど後ろの段階が短く済みます。
収益を示す資料:レントロールと賃貸借契約書
レントロールは、部屋や区画ごとの賃料・共益費・敷金・契約の始期と終期を1枚にまとめた一覧表です。
管理会社に任せているなら、毎月の送金明細と一緒に出してもらえます。
買主は、レントロールの数字を賃貸借契約書と入金の記録に突き合わせて確かめます。
契約書が見つからない部屋、口約束で賃料を下げた部屋、滞納が続いている部屋があれば、先に書き出してください。
あとから出てくると、価格の再交渉か、契約の延期につながるためです。
当社の無料査定のフォームには、一棟アパート・一棟マンション・一棟ビル用の入力欄があります。
必須は種別・土地面積・延床面積・総戸数・築年・入居率・年間賃料収入の7つで、建物名は任意です。
年間賃料収入は、レントロールの月額を合計して12を掛けた現況の数字で足ります。
そのレントロールを自分で作るときの欄の一覧と、買主や金融機関が見る5点はレントロールの作り方にまとめました。
建物と権利を示す資料:修繕履歴・確認済証と検査済証・登記と課税明細
修繕履歴は、いつ・どこを・いくらで直したかの記録です。
屋上防水、外壁、給排水管、エレベーターの4つは金額が大きく、買主からの質問が集まります。
工事の契約書や請求書が残っていれば、それがそのまま履歴として使えます。
確認済証と検査済証は、建物が建築基準法の確認と検査を受けたことを示す書類です。
紛失していても、再発行はされません。
福岡市では、建築確認等台帳記載事項証明書を市役所本庁舎4階の建築指導課で取れます。
手数料は1件300円で、申請は誰でもでき、委任状も要りません。
ただし福岡市は、この証明書が確認済証や検査済証を再発行するものではないと明記しています。
現存する建物の適法性を証明するものでもなく、台帳が残っていないために発行できない場合もある、という説明です。
登記事項証明書は法務局で取り、固定資産税の課税明細は納税通知書に付いているものを使ってください。
課税明細には土地と建物の評価額が別々に載っているので、代金を土地と建物に分けるときの材料にも使える資料です。
そのほかの書類は売却に必要な書類の一覧で、取り寄せ先は福岡市の手続き窓口ガイドで確認できます。
どの書類をどこで、いくらで取るかは収益物件の売却に必要な書類に5群の表で並べました。
媒介契約と買主の探し方は、どう決めればよいですか
先に決めるのは「情報をどこまで広く出すか」で、それによって選べる媒介契約の種類が決まります。
入居者やテナントが居る建物では、売却の話が先に広まると、退去や賃料交渉のきっかけになりかねません。
一方で、声をかける相手を絞れば、比べられる買付の数は減ります。
この2つの綱引きを、媒介契約の段階で書面にして決めるわけです。
専任・専属専任には、レインズへの登録義務があります
宅地建物取引業法34条の2は、専任媒介契約を結んだ会社に、物件を指定流通機構(レインズ)へ登録するよう義務づけています。
登録の期限は、専任媒介が7日以内、専属専任媒介が5日以内。
国土交通省の標準媒介契約約款では、契約を結んだ日の翌日から数え、会社の休業日は含めません。
登録した会社は、登録を証する書面を売主に渡さなければなりません。
レインズは不動産会社だけが使える仕組みですが、登録すれば、ほかの会社が物件の情報を検索できる状態になります。
つまり「専任で任せるが、どこにも登録せずに売る」という頼み方は、法律の決まりと両立しません。
同じ条文が、この登録義務に反する特約を無効と定めているためです。
一般媒介契約には、法律上の登録義務がありません。
標準媒介契約約款でも、一般媒介の契約書には「指定流通機構への登録の有無」を有・無で選ぶ欄が置かれています。
限られた相手にだけ打診したいなら一般媒介で登録を「無」に、広く探すなら登録する、という対応関係です。
業務の報告は、専任が2週間に1回以上、専属専任が1週間に1回以上と決まっています。
3つの契約の違いは媒介契約の選び方に、登録の確かめ方はレインズの登録証明書の見方に書きました。
公開するか、限られた相手にだけ打診するか
公開して探す方法は、比べられる買付が増えるかわりに、売却の事実が広く伝わります。
限られた相手への打診は、その逆です。
どちらを選んでも、書面で決めておく項目は変わりません。
- 物件名と住所を、どの段階で出すか
- レントロールを、どの段階で渡すか(秘密保持の書面を先に交わすか)
- 現地を見せるときに、入居者へどう説明するか
- いつまで限定で進め、いつ公開に切り替えるか
当社は売主の側の仲介として入り、買主は広く探します。
買主の側に別の不動産会社が付くこともあり、ほかの会社からの問い合わせを止める囲い込みはしません。
購入を希望する方からお預かりしている条件は、購入希望者の条件一覧で公開中です。
この4項目をどう決めるかは、収益物件を知られずに売る|情報を出す順番と媒介契約で段階ごとに書きました。
買付証明書から引渡しまでに、何が起きますか
買付証明書で条件が出そろい、買主の調査を経て売買契約を結び、決済の日に建物と賃貸借をまとめて引き渡します。
この段階で出てくる秘密保持契約・買付証明書・デューデリジェンスの3書類は、契約前の3書類の記事で1つずつ分けました。
買付証明書は、価格のほかに4つの条件を読む
買付証明書は、買主が「この条件で買いたい」と示す書面です。
法律で様式が決まった書類ではなく、売買契約そのものでもありません。
読むところは、価格のほかに4つ。
- 融資を使うか。使うなら、どの金融機関とどこまで話が進んでいるか
- 融資が付かなかったときに、契約を白紙に戻す条件を求めているか
- 調査にどのくらいの期間を求めているか
- 手付金の額と、契約・決済の希望時期
価格がいちばん高い買付でも、融資の見込みが立っていなければ、決済まで届かないことがあります。
他社から届いた買付の条件を一緒に読むご相談も、当社の入口の1つです。
買主の調査(デューデリジェンス)で見られるもの
買付のあと、買主は契約の前に建物と賃貸借を詳しく調べます。
調べる方向は3つです。
- 賃貸借:レントロールと契約書・入金記録の一致、滞納、敷金の預かり額、解約の予告
- 建物:劣化の状態、修繕の履歴、設備の点検記録、アスベストの調査の有無
- 法令と権利:確認済証と検査済証、増築や用途変更の有無、境界と越境、抵当権
金額の大きい取引では、買主が建築士や調査会社を入れて報告書を作ることもあります。
調査で見つかった点は、価格の再交渉か、契約書の特約のどちらかに形を変えて戻ってくるものです。
売主が知っていて伝えなかった不具合は、引渡しのあとに契約不適合責任を問われる火種になります。
知っていることは、調査の前に書面で出しておいてください。
売買契約と決済で、賃料・敷金・固定資産税を精算する
売買契約では、宅地建物取引士が買主へ重要事項を説明し、契約書を交わして手付金を受け取ります。
決済の日に行うのは、残代金の受け取り、抵当権の抹消、所有権の移転登記の3つです。
一棟ものでは、ここに3つの精算が加わります。
- 賃料:引渡しの日を境に、その月の賃料を日割りで分ける
- 敷金:売主が預かっている額を確定させ、買主へどう引き継ぐかを契約書に書く
- 固定資産税:起算日を決めて日割りで分ける
固定資産税の分け方は固定資産税の日割り精算で説明しました。
決済当日の動きは売買契約から引渡しまでをご覧ください。
引渡しのあと、入居者へ賃貸人の変更を通知する
建物の所有者が替わると、賃貸人の地位は買主へ移ります。
民法605条の2は、賃貸借が対抗要件を備えている場合、不動産が譲渡されると賃貸人の地位も譲受人に移ると定めています。
建物の賃貸借では、入居者が建物の引渡しを受けていることが、その対抗要件です。
ただし買主は、所有権の移転登記をしなければ、賃貸人になったことを入居者に主張できません。
敷金を返す義務も、買主が引き継ぎます。
入居者が敷金の返還を求める相手は買主になるので、決済での敷金の精算を飛ばすと、買主が自分の資金で返すことになりかねません。
実務では、売主と買主の連名で、賃貸人が替わったことと新しい振込先を入居者へ書面で知らせます。
振込先の変更は入居者から見ると詐欺を疑う場面なので、前のオーナーの名前が入っていることに意味があるわけです。
保証会社・火災保険・管理会社との契約の引き継ぎも、この通知と並行して進めます。
事業用テナントの保証金まで含めた引き継ぎは一棟のオーナーチェンジと敷金で扱いました。
賃貸人の地位の移転と敷金には、ここで触れた以外の論点もあるため、個別の契約の読み方は司法書士や弁護士に確認してください。
次に何をすればよいですか
手元でできることは3つです。
- レントロールを最新の状態にする(管理会社に任せているなら依頼する)
- 確認済証・検査済証・修繕の記録がどこにあるかを確かめる
- 売却を誰に、いつまで知られたくないのかを書き出す
税金は、所有期間や減価償却、消費税の立場によって計算が変わります。
個別の税額は、税理士に確認してください。
当社は福岡市博多区の売却専門の会社で、代表が最初の相談から決済まで担当します。
税理士・司法書士と連携しているので、税務や登記の確認が要る場面ではおつなぎできます。
一棟の売却で当社がどう進めるかは、福岡市の一棟ビル・マンション・アパート売却のページにまとめました。
