収益物件の査定方法3つ|収益還元法と積算の違い
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟マンションやビルの査定を複数の会社に頼むと、金額が数千万円ちがうことがあります。
どちらかが間違っているとは限りません。
収益物件の価格は、3つの手法のどれを軸に置くかで変わるためです。
さらに同じ収益還元法でも、純収益をいくらに置き、還元利回りを何%に置いたかで金額は動きます。
この記事は、複数の会社から違う査定額を出されて、どれを信じればよいか迷っているオーナーに向けて書きました。
読み終えたときに、査定書のどこを見て、何を質問すればよいかが決まるように並べています。
2. 収益還元法は、どう計算するのですか?
3. 純収益は、どう出すのですか?
4. 利回りが0.5ポイント違うと、価格はいくら変わりますか?
5. 積算(原価法)は、どこを見ていますか?
6. 会社によって査定額が違うのは、なぜですか?
収益物件の査定額は、何から決まりますか?
決まるのは、収益還元法・原価法・取引事例比較法の3つのうちどれを軸に置いたかと、その中で使った数字の置き方です。
この3つは、国土交通省の不動産鑑定評価基準が定める基本的な手法になります。
3つの手法は、それぞれ何から価格を出すのか
| 手法 | 何から価格を出すか | 一棟での使われ方 |
|---|---|---|
| 収益還元法 | 将来生み出すと期待される純収益 | 価格の軸になる |
| 原価法(積算) | いま建て直した場合の原価から、古くなったぶんを引く | 金融機関の担保評価に近い |
| 取引事例比較法 | 似た物件の取引事例との比較 | 収益価格の答え合わせ |
鑑定評価基準は、収益還元法を「不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求める手法」としています。
原価法は、価格時点での再調達原価を求め、そこから減価修正を行って価格を出す手法です。
取引事例比較法は、多数の取引事例を集めて比較し、対象の不動産と補正しながら価格を求めます。
どれか1つが正解という関係ではありません。
鑑定評価基準は、対象の不動産に応じて複数の手法を適用するよう求めています。
一棟では、収益還元法が軸になる
買主が一棟ものを買うのは、そこから家賃が入るからです。
ですから査定の軸になるのは、自宅の売却で使う取引事例比較法ではなく、収益還元法になります。
積算(原価法)は、金融機関が担保をどう見るかに近い考え方です。
収益価格が積算価格を大きく上回る物件では、買主が借りられる額が足りず、話が進まないことがあります。
逆に積算が収益価格より高く出る物件は、土地の値段で支えられている建物という見方ができます。
その土地の値段が福岡市の商業地でどう動いたかは、福岡市の商業地の地価に区ごとの数字を並べました。
査定を1社だけに頼むと、その会社が軸に置いた手法の金額しか出てきません。
2社以上に頼めば、手法の違いがそのまま金額の違いとして見えてきます。
売却の順番そのものは一棟ビル・一棟マンション売却の流れにまとめました。
収益還元法は、どう計算するのですか?
計算のしかたは2つで、直接還元法とDCF法です。
どちらも純収益から価格を出しますが、何年ぶんを見るかが違います。
直接還元法は、1年の純収益を利回りで割る
直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りで割り戻して価格を求めます。
純収益が1,000万円、還元利回りを5.0%と置けば、収益価格は2億円です。
計算は1,000万円 ÷ 0.05 で、割り算ひとつで出ます。
建物を含む不動産では、減価償却費を引く前の純収益を使い、それに対応した利回りで還元するのが基準の考え方です。
売却の査定で多く使われるのは、この直接還元法です。
ここで使う還元利回りは、広告に出ている「表面利回り」とは別のものになります。
表面利回りは年間の家賃収入を価格で割った数字で、運営費を引いていません。
査定で使う還元利回りが対応しているのは、運営費を引いたあとの純収益のほうです。
2つを取り違えると、同じ建物でも価格が大きくずれて出ます。
DCF法は、各年の収支と売却価格を割り引いて足す
DCF法は、保有する期間の各年の純収益と、期間の終わりに売る価格を、それぞれ現在価値に割り引いて合計します。
大規模修繕の予定や、定期借家の満了による収入の変化を、年ごとに織り込めるのが違いです。
そのぶん、前提の置き方が結果を大きく動かします。
保有期間を5年で置くか10年で置くかだけでも、合計する純収益の本数が変わります。
査定書にDCF法の表が付いていたら、何年保有する前提か、期間の終わりの売却価格をいくらに置いたかを確かめてください。
前提の書かれていないDCFの金額は、売主の側で検算のしようがありません。
純収益は、どう出すのですか?
満室を想定した家賃ではなく、空室のぶんを引いた収入から、運営にかかる費用を差し引いて出します。
ここを満室想定のまま計算すると、価格は実力より高く出ます。
満室想定から、空室と未収を引く
出発点になるのは、いま実際に入っている賃料と共益費の合計です。
10戸のうち2戸が空いている建物なら、空室のぶんは収入に数えません。
駐車場・自動販売機・看板の使用料があれば、それも収入に加えます。
いま満室の建物でも、査定では数%の空室を見込むのが一般的です。
買ったあとに一度も退去が出ない前提を、買主も金融機関も置かないためです。
この数字の作り方はレントロールの作り方で手順にしました。
運営費に入るもの、入らないもの
収入から引く運営費は、建物を貸し続けるために毎年出ていくお金です。
- 管理会社への管理委託料
- 共用部の電気代・水道代
- 清掃、消防設備やエレベーターの点検
- 日常の小修繕
- 固定資産税・都市計画税
- 損害保険料
- 入居者を募集するときの費用
いっぽう、ローンの返済額と減価償却費は、ここでは引きません。
返済は買主ごとに違う条件であり、減価償却は現金が出ていく費用ではないためです。
この2つを引いてしまうと、純収益が小さく出て、価格も低く計算されます。
運営費の金額は、過去3年ぶんの確定申告の決算書と、管理会社の収支報告から拾えます。
年によって大きく動く修繕費は、1年だけを見ずに3年の平均で置くほうが実態に近い数字です。
10年に一度の大規模修繕にかかる費用は、毎年の運営費とは分けて考えるのが一般的です。
言葉の意味を1つずつ確かめたい方は用語集もご覧ください。
利回りが0.5ポイント違うと、価格はいくら変わりますか?
純収益を1,000万円で固定して計算すると、5.0%と5.5%では1,800万円以上の差が出ます。
査定額の差の多くは、この利回りの置き方から生まれます。
純収益1,000万円で計算した場合
| 還元利回り | 収益価格 | 5.0%との差 |
|---|---|---|
| 4.5% | 2億2,222万円 | +2,222万円 |
| 5.0% | 2億円 | — |
| 5.5% | 約1億8,182万円 | −1,818万円 |
| 6.0% | 約1億6,667万円 | −3,333万円 |
| 6.5% | 約1億5,385万円 | −4,615万円 |
この表の利回りは、計算を見せるために置いた仮の数字です。
実際に使われる利回りは、立地・築年数・構造・入居の状況で変わります。
大事なのは、0.5ポイントの置き方の違いが、2億円の物件で1,800万円動くという幅のほうです。
だから、利回りの根拠を聞く
査定書に利回りが書いてあったら、その数字をどこから持ってきたのかを聞いてください。
近隣で成約した似た物件から求めたのか、社内の基準なのかで、意味が変わります。
根拠を説明できない査定額は、高くても低くても交渉の材料になりません。
買主から示された利回りが表面か純収益ベースかで価格がどれだけ変わるかは、利回りから売却価格を逆算で並べています。
査定額の高さだけで会社を選ばない理由は不動産会社の選び方にも書きました。
積算(原価法)は、どこを見ていますか?
土地と建物を別々に評価して足す方法で、金融機関が担保を見るときの考え方に近いものです。
収益が出ていない物件でも、土地の値段という下支えを示せます。
土地は公示地価や路線価、建物は再調達原価から
土地は、公示地価や相続税路線価をもとに、面積を掛けて見積もります。
公示地価の価格時点は、毎年1月1日です。
国土交通省が公表していて、福岡市分は市のページにまとまっています。
建物は、いま同じものを建てた場合の原価を出し、築年数に応じて古くなったぶんを引きます。
引く年数は構造ごとに違い、木造は鉄筋コンクリート造より短く見られるのが通例です。
標準地の価格をそのまま使うのではなく、対象の土地との距離・道路づけ・形の違いを補正します。
角地や間口の広い土地は高く、間口が狭くて奥行きの長い土地は低く見られます。
福岡市の一棟は、築古と木造が多い
当社は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の取引価格情報を集計しました。
2016年からの10年で、福岡市の共同住宅は2,982件が取引されています。
そのうち築31年以上が31%を占め、築41年以上も290件あります。
構造では木造が47%、鉄筋コンクリート造が33%でした。
築年数のたった木造では、建物の積算がほとんど残らないことがあります。
それでも入居が続いていれば収益価格は出るので、積算だけを見て「価値がない」と判断しないでください。
この集計は、買主へのアンケートに回答があった取引だけを集めたもので、全数ではありません。
会社によって査定額が違うのは、なぜですか?
違いが生まれるのは3か所です。
どの手法を軸にしたか、純収益をいくらに置いたか、還元利回りを何%に置いたかの3つになります。
金額そのものを比べても、この3つが分からなければ、どちらが実態に近いかは判断できません。
査定書で確かめる3点
査定書に手法の名前すら書かれていない場合は、その1行を聞くところから始めてください。
1つ目は、価格の軸にした手法です。
収益還元法で出したのか、積算で出したのか、両方を出して調整したのかを見てください。
2つ目は、純収益の置き方になります。
満室想定か現況か、運営費に何を入れたか、空室をどれだけ見込んだかが書いてあるはずです。
3つ目が、還元利回りとその根拠です。
この3点がそろっていれば、2社の査定額の差がどこから来たのかを机の上で並べられます。
書面のどの行をどう読むかは、収益物件の査定書の読み方に5つの数字として分けて書きました。
たとえば、2社の査定額が2億円と1億8,000万円だったとしましょう。
純収益がどちらも1,000万円なら、差の正体は利回りを5.0%と置いたか5.5%と置いたかだけです。
純収益の置き方が違うのであれば、食い違っているのは空室の見込みか運営費のどちらかです。
どちらの話なのかが分かれば、売主として反論すべき点も決まります。
他社の査定書を、一緒に読むところから
手元に査定書が何通かあるなら、それを持ったままご相談いただけます。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入り、囲い込みをしません。
買主側に別の会社が付くこともありますが、それが売主にとっていちばん買い手の広がる形です。
代表が最後まで担当し、税金の判断は提携する税理士へ、登記は司法書士へつなぎます。
なお、サイトにある手取りの試算は自宅の売却を前提にしているので、一棟の計算には使えません。
賃貸用の建物は減価償却の計算が入るため、税額は税理士に確かめてください。
