福岡市の商業地の地価|一棟ビルの売却にどう関わる?
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士令和8年の基準地価で、福岡市の商業地は平均8.1%上がりました。
一棟ビルや収益物件を持っていると、この数字をそのまま売却価格に重ねたくなります。
ところが収益物件の査定は、地価ではなく賃料と利回りから価格を出すのが基本です。
この記事では、福岡市の商業地の数字を区ごとに並べたうえで、地価が一棟の価格のどこに効くのかを分けて説明します。
対象は、福岡市内に一棟ビル・一棟マンション・店舗をお持ちのオーナーの方です。
なお、先の値段がどうなるかという予想は書いていません。
2. なぜ福岡市の商業地は上がり続けているのですか?
3. 同じ商業地でも、地点によってどれだけ違いますか?
4. 地価が上がると、一棟の売却価格も上がるのですか?
5. 売却を考えるなら、何から準備すればよいですか?
福岡市の商業地の地価は、令和8年にどう動きましたか?
市全体で8.1%上がり、1㎡あたりの平均価格は1,668,500円になりました。
前年の変動率は10.2%でしたから、上がってはいるものの上がり幅は縮んでいます。
この「上がり続けているが、勢いは落ち着いた」という形が、令和8年の福岡市の商業地です。
7区の変動率と平均価格
区ごとに並べると、上がり方と価格の水準が別の順番になることが分かります。
| 区 | 変動率(前年) | 平均価格(円/㎡) |
|---|---|---|
| 東区 | 7.1%(7.9%) | 416,000 |
| 博多区 | 8.5%(11.0%) | 2,159,700 |
| 中央区 | 6.4%(8.9%) | 3,277,300 |
| 南区 | 8.4%(9.2%) | 642,700 |
| 城南区 | 8.1%(10.7%) | 443,000 |
| 早良区 | 10.1%(13.1%) | 725,300 |
| 西区 | 10.3%(11.3%) | 367,200 |
価格の水準でいちばん高いのは中央区の3,277,300円です。
いちばん低い西区の367,200円とは、8.9倍の開きがあります。
ところが変動率では、西区の10.3%が中央区の6.4%を上回りました。
価格が高いエリアほど上がり方も大きい、とは限らないわけです。
水準の側も見ておきましょう。
中央区の3,277,300円は、博多区の2,159,700円の約1.5倍です。
東区の416,000円と比べると、7.9倍の開きになります。
同じ「福岡市の商業地」という言葉でも、天神のビルと香椎のビルでは土地の値段の桁が違います。
区の数字を使うときは、自分のビルがその区のどのあたりにあるかを合わせて考えてください。
平均価格の伸びと、変動率がずれる理由
市全体の平均価格は、前年の1,576,400円から1,668,500円になりました。
割り算をすると5.8%ほどの増加で、発表された変動率8.1%とは一致しません。
これは、調査の地点が年によって入れ替わるためです。
変動率は同じ地点を1年前と比べた数字、平均価格はその年の地点をならした数字で、作りが違います。
年をまたいで平均価格を比べるときは、あくまで目安として見てください。
工業地は9.5%、倉庫や工場も動いている
福岡市の工業地は9.5%上がりました(前年11.8%)。
住宅地の5.5%や商業地の8.1%と並べると、工業地の上がり方は小さくありません。
倉庫や工場の底地をお持ちの方は、商業地の数字ではなく工業地の欄を見てください。
用途ごとに別の市場だと考えたほうが、判断を誤りません。
自分の土地がどの用途区分で調べられているかは、近くの地点の説明で確かめられます。
商業地と工業地が隣り合う地域は、福岡市では港湾や幹線道路の周りに多くあります。
なぜ福岡市の商業地は上がり続けているのですか?
国土交通省は、観光客の増加による百貨店売上とホテル稼働率の好調、天神地区・博多駅前の再開発、空室率の低下を挙げています。
どれも、ビルを借りる側の動きです。
借りる需要が強い場所では、賃料から逆算する収益物件の価格も支えられます。
国が挙げた3つの材料
1つめが観光です。
国土交通省は、観光客の増加で百貨店の売上やホテルの稼働率が好調だと説明しています。
2つめが再開発で、天神地区と博多駅前でオフィスの供給が進み、賃料は上昇傾向だと書かれています。
3つめが空室率の低下です。
この3つが重なって、商業地の上昇が続いたという整理になっています。
いずれも2026年7月1日時点までに起きたことの説明で、先の見通しではありません。
オーナーの立場で読み替えると、見るところは1つです。
自分のビルの賃料と空室が、この説明と同じ向きに動いているかどうか。
天神や博多駅前のオフィスの話は、郊外の店舗ビルにはそのまま当てはまりません。
直近2年の入居率と賃料の推移を並べてから、地価の数字を重ねてください。
それでも上がり幅が縮んだ理由
国土交通省は、地価と建築費の上昇によって上昇幅は縮小したとも書いています。
買う側から見ると、同じ建物を建てるのに去年より費用がかかる状態です。
取得にかけられる金額には上限があるので、土地に出せる額も抑えられます。
博多区が11.0%から8.5%へ、城南区が10.7%から8.1%へと縮んだ背景がここにあります。
同じ商業地でも、地点によってどれだけ違いますか?
福岡市の商業地では、東区箱崎1丁目が14.6%上がった一方で、中央区天神1丁目は0.3%でした。
区の平均を見ているだけでは、この幅は見えません。
自分のビルがどちら寄りの地点に近いかで、読み取るべき数字が変わります。
箱崎14.6%と天神0.3%
市内の商業地でいちばん上がったのは、東区箱崎1丁目の地点(福岡東5-1)の14.6%です。
いちばん小さかったのは、中央区天神1丁目の地点(福岡中央5-15)の0.3%でした。
東区の平均は7.1%、中央区の平均は6.4%なので、どちらの地点も区の平均から大きく離れています。
天神は福岡市の商業の中心で、1㎡あたりの価格の水準は市内で最も高い帯にあります。
その天神で0.3%という数字が出ているのは、価格の高さと上がり方が別の話だということです。
自分のビルの近くの地点を、番号で押さえる
区の平均ではなく、物件の近くの地点を1つ決めてしまうのが早道です。
国土交通省の不動産情報ライブラリで、住所か駅名から地図を開けば、近くの地点が出ます。
そのとき、用途区分を商業地に絞ってください。
同じ町内の住宅地の地点を見てしまうと、数字の意味が変わります。
探し方の手順は基準地価の調べ方にまとめました。
近くに地価調査の地点が無いときは、地価公示の地点を使ってください。
地価公示は毎年1月1日時点の価格で、基準地価と一部の地点を共通にした関係です。
どちらも1㎡あたりの土地の価格なので、同じように読めます。
地点の説明には前面道路の幅員と用途地域も書かれているので、自分の土地と見比べられます。
地価が上がると、一棟の売却価格も上がるのですか?
一棟の価格は賃料と利回りから出すのが基本で、地価の上昇がそのまま売却価格に乗るわけではありません。
買主の多くは投資家や事業者で、その物件が1年にいくら稼ぐかを見ています。
地価は、そこに別の角度から関わってきます。
価格の軸は、賃料と利回り
収益物件の査定では、収益還元法が軸になります。
1年の純収益を利回りで割って価格を出すやり方です。
純収益は、満室想定の賃料から空室・未収と運営費を引いた額です。
つまり、賃料が下がれば価格は下がり、空室が埋まれば価格は戻ります。
3つの査定方法の違いは収益物件の査定方法3つで説明しています。
仮の数字で確かめてみます。
純収益1,000万円の物件を、仮に利回り5.0%で割ると2億円です。
この物件がある区の地価が8.1%上がっても、賃料と空室が去年と同じなら収益価格は2億円のままです。
反対に1室空いて純収益が950万円になれば、同じ5.0%で1億9,000万円になります。
地価の8.1%は、この1,000万円の目減りを埋める働きをしません。
ここで置いた利回りは、計算を見せるための仮の数字です。
地価が効くのは、積算と土地値の下支え
地価が出てくるのは、もう1つの査定方法である積算(原価法)のほうです。
積算では、土地を公示地価や路線価から、建物を再調達原価から見積もります。
この土地の評価が上がると、積算の金額は上がります。
築古のビルでは、積算が「これ以上は下がらない」という下支えとして働くこともあります。
とくに建物の評価がほとんど残っていない物件では、土地の値段が価格の土台です。
買主の見方も2通りに分かれます。
収益として持ち続ける買主は、賃料と利回りで値段を考えます。
建て替えや自社利用を考える買主の見方は、土地としていくらかという一点です。
後者の買主が動く立地では、地価の上昇が価格の話に出てきやすくなります。
どちらの買主を想定した査定なのかを、はじめに確かめてください。
空室や賃料の下落は、地価では埋まらない
地価が8.1%上がった区にあっても、空室が増えた物件の価格は上がりません。
純収益が減れば、同じ利回りで割った価格は下がる計算になります。
売却を考えるときに先に見るのは、地価の発表よりレントロールのほうです。
退去予定と更新時期を並べてから、売り出しの時期を考えてください。
オーナーチェンジで引き継ぐ敷金や保証金の扱いは一棟のオーナーチェンジ売却に書きました。
売却を考えるなら、何から準備すればよいですか?
レントロールと賃貸借契約書、修繕の履歴、そして近くの商業地の地点の番号をそろえるところから始まります。
査定を依頼する前にこの4つがあると、やり直しが起きません。
そろえておく4つ
- レントロール(各室の賃料・敷金・契約期間が分かるもの)
- 賃貸借契約書と、直近の更新・退去の予定
- 修繕の履歴と、見積もりが出ている工事
- 近くの商業地の地点の番号と、今年の変動率
古いビルでは、PCBを含む機器やアスベストの調査記録も必要です。
この2つには期限のある手続きが絡むので、古いビルの売却とPCB・アスベストを先に読んでください。
4つめの「地点の番号」を入れているのには理由があります。
査定書に出てくる土地の評価が、どの地点を基準にしたものかを確かめられるからです。
売却にかかる費用の目安は一棟売却の仲介手数料に早見表を載せました。
発表の時期を、段取りに組み込む
公的な土地の価格は、年に2回のタイミングで新しくなります。
7月1日時点の基準地価が9月、1月1日時点の地価公示が3月です。
査定書に載っている土地の評価が、どちらの時点のものかを確かめてください。
春に取った査定を秋まで持っていると、半年前の地点の数字で話していることになります。
金額を据え置いて売り出しを続けている物件では、ここを一度見直す意味があります。
査定は、根拠の書き方で比べる
一棟の査定書は、金額ではなく「どの利回りで割ったか」を見て比べます。
その利回りをどこから持ってきたのか、何件の取引を参考にしたのかを聞いてください。
答えが出てこない査定書は、金額だけ高くても根拠を持っていません。
当社の一棟・収益物件の取り扱いは一棟ビル・一棟マンションの売却にまとめています。
金額のご相談は無料査定から、建物の種類を選んでお送りください。
レントロールが手元に無い段階でも、所在地と延床面積だけで話を始められます。
