古いビルの売却とPCB・アスベスト|2027年3月の期限
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士1990年ごろより前に建ったビルや一棟マンションには、PCBを含む機器が残っていることがあります。
入っているとすれば、受変電設備の変圧器やコンデンサー、それに古い蛍光灯の安定器です。
PCBには法律で決められた処分の期限があり、低濃度のものは2027年3月31日までとなっています。
アスベストのほうは性格が違い、売主に調査の義務はありません。
調べた記録があるときに、その内容を買主へ説明する決まりです。
どちらも、あるからといって売れなくなるものではありません。
売れなくなるのは、あるかどうか分からないまま売り出した場合です。
この記事では、福岡市で古いビルをお持ちの方が、売る前に何をどこまで確かめればよいのかを整理しました。
2. PCBは、どの設備に入っているのですか
3. 高濃度と低濃度では、期限が違うのですか
4. 福岡市では、どこへ届け出るのですか
5. アスベストは、売主が調べる義務があるのですか
6. 売る前に、何をすればよいですか
古いビルを売るとき、PCBとアスベストは何が問題になるのですか
PCBは法律の期限がある話、アスベストは買主への説明がある話で、売主のやることが違います。
PCBは「期限」、アスベストは「説明」
PCBを含む廃棄物を保管する事業者には届出の義務があり、決められた期日までに処分を委託しなければなりません。
建物に付いたまま引き渡せば、その義務は買主へ移ります。
アスベストは、売主に調べる義務がありません。
ただし調べた記録があるなら、重要事項説明でその内容を買主へ伝えることになっています。
この違いは、売ったあとに誰が何を負うかの違いでもあります。
PCBは物として建物に残り、アスベストは情報として契約に残るもの。
どちらも、売り出す前に有無を確かめておくと話が早く進みます。
買主と金融機関も、同じところを見る
一棟ものの買主は、投資家か法人です。
投資として見ているぶん、判断の材料は数字と書類です。
買ったあとに義務が回ってくるものは、買う前に確かめます。
融資を出す金融機関も、担保に取る建物の状態を資料で読みます。
売主が先に調べてあれば、その時点で交渉の材料が1つ減る形です。
逆に「分かりません」のまま売り出すと、買主は重いほうの想定で値段を引いてきます。
福岡市では、事務所・店舗の21%が築41年以上
当社が国土交通省の取引価格情報を集計したところ、福岡市7区の事務所・店舗の建物は10年で651件が取引されていました。
このうち築41年以上が21%にあたる135件、築31〜40年が22%です。
共同住宅のほうは10年で2,982件あり、築31年以上が31%を占めます。
これは買主へのアンケートに回答があった取引だけの集計で、全数ではありません。
それでも、この記事の対象になる年代の建物が、福岡市で普通に売買されていることは読み取れます。
PCBは、どの設備に入っているのですか
変圧器・コンデンサーと、蛍光灯などの安定器です。
建物の年代が合うなら、まずこの2つを疑ってください。
受変電設備そのものが無い小さな建物なら、変圧器・コンデンサーの心配は要りません。
その場合でも、古い照明の安定器は残っていることがあります。
変圧器・コンデンサーは1953年から1972年の製造分
環境省は、昭和28年から昭和47年までに国内で製造された変圧器・コンデンサーに、絶縁油としてPCBが使われたものがあるとしています。
西暦でいえば1953年から1972年です。
ビルの受変電設備、いわゆるキュービクルの中にある機器が対象になります。
テナントビルでは、屋上や地下の電気室に置かれていることが多い設備です。
安定器は1957年1月から1972年8月の製造分
照明器具の安定器については、昭和32年1月から昭和47年8月までに製造されたものにPCBが使われています。
蛍光灯や水銀灯の器具の中に入っている部品です。
共用廊下や階段、機械室の照明に、当時のまま残っている場合があります。
器具ごと交換していれば残りませんが、交換の記録が無ければ確かめてください。
銘板は、自分で見に行かない
PCBが入っているかどうかは、機器に付いている銘板の型式と製造年で判別します。
ただし環境省は、通電中の変圧器・コンデンサーに近づくと感電のおそれがあると注意しています。
確認は、必ず電気主任技術者などに依頼してください。
銘板で判別がつかない機器は、絶縁油を採取して濃度を測ることになります。
高濃度と低濃度では、期限が違うのですか
違います。
分け目は、絶縁油に含まれる濃度
高濃度と低濃度を分けるのは、絶縁油に含まれるPCBの濃度です。
5,000mg/kg以下のものが低濃度PCB廃棄物にあたります。
これを超えるものが高濃度で、処理する施設も期限も別に決められていました。
銘板でPCB使用と分かる古い機器は、高濃度のほうである可能性が高くなります。
銘板では判別できず、絶縁油を分析して初めて低濃度と分かる機器も少なくありません。
高濃度の処分期間は、九州ではすでに終わっている
高濃度PCB廃棄物は、国が指定した施設で処理する仕組みでした。
九州の事業者が使う北九州の施設では、変圧器・コンデンサーの処分期間が2018年3月末で終了しています。
安定器などの汚染物は、2021年3月31日が期限でした。
期日までに処分を委託しなかった場合、改善命令などの行政処分の対象になります。
いま見つかったものをどう扱うかは、後で触れる福岡市の窓口にご相談ください。
売る予定があっても、処分の話を先に片づけるほうが結局は早く進みます。
低濃度の期限は2027年3月31日
低濃度PCB廃棄物の処分委託の期限が、2027年3月31日です。
この記事を書いている時点で、残りは1年半ほど。
処分できる事業者は国の認定や都道府県の許可を受けた業者に限られるため、駆け込みの依頼が集中すると順番待ちになります。
期限を過ぎてから見つかっても、処分の義務が消えるわけではありません。
売却の予定があるなら、有無の確認だけでも先に済ませておくのが安全です。
1994年以降の機器なら、可能性は否定できる
新しい機器まで疑う必要はありません。
環境省の整理では、コンデンサーのような封じ切りの機器は1991年以降に国内で製造されたものなら汚染の可能性がないとされています。
変圧器のように絶縁油を入れ替えられる機器は、1994年以降の出荷で、絶縁油の入替やメンテナンスが行われていないことが確認できれば同じ扱いです。
つまり確かめる順番は、まず製造年、次にメンテナンスの履歴になります。
福岡市では、どこへ届け出るのですか
届出先は福岡市環境局の産業廃棄物指導課、場所は市役所の行政棟13階です。
毎年6月30日までの届出
PCB廃棄物を保管している事業者は、毎年6月30日までに保管及び処分状況等届出書を福岡市長へ提出します。
提出は3部、郵送か持参のどちらかです。
この届出は公表されるため、買主が調べられる情報でもあります。
出していない期間があると、買主からその経緯を聞かれます。
売却の話を進めるときは、過去の届出の控えも一緒に用意してください。
電話でも相談できるので、判断に迷う段階で聞いてしまうのが早道です。
新しく見つけたときは、速やかに届け出る
これまで把握していなかったPCB含有製品が見つかった場合は、速やかに新規発生の届出をします。
写真や分析の結果があれば添えてください。
期限が過ぎているものが出てきても、隠したまま売る選択はありません。
建物に付いたまま買主へ渡れば、届出と処分の義務がそのまま買主に移るからです。
アスベストは、売主が調べる義務があるのですか
売買のために調べる義務はなく、調べた記録があるときに説明する義務があります。
調査の義務はない。記録があるときの説明義務はある
宅地建物取引業法の重要事項説明では、建物の石綿の使用の有無の調査結果が記録されているときに、その内容を説明することになっています。
これは記録があるときの説明を求める決まりであって、調査そのものを義務づけるものではありません。
記録が無ければ「記録が無い」と説明します。
売主に、売るために新しく調査を入れる義務は生じません。
どこに使われていた建材か
アスベストは、鉄骨の耐火被覆に使う吹付け材や、配管まわりの保温材に使われてきました。
屋根・外壁・天井の成形板に含まれているものもあります。
建てた年で一律に決まるわけではないので、建材の種類ごとに見てください。
調べるときも、建材ごとに見ていくことになります。
記録があるなら、早めに仲介会社へ渡す
記録が残っていない建物のほうが、実際には多いのが現状です。
過去に大規模修繕や内装工事をしていれば、そのときの調査結果が残っていることがあります。
設計事務所や施工会社、管理会社の手元を確かめてください。
記録が出てきたら、査定の段階で仲介会社へ渡すのが早いやり方です。
売買契約の直前に出てくると、条件の話がそこからやり直しになります。
買主が自分の費用で調査を入れたいと言ってくることもあります。
その場合、売主が断る理由はありません。
結果は記録として残り、次に売るときの説明の対象になります。
売るときの説明と、壊すときの調査は、別の決まり
ここまで書いてきたのは、売買のときの説明の話です。
建物を解体したり改修したりするときには、これとは別に、アスベストの事前調査の義務があります。
2021年4月から、工事の規模にかかわらず、解体・改修する部分のすべての材料を調べることになりました。
調べる義務を負うのは、工事を請け負う元請業者や自主施工者で、売主や買主ではありません。
2023年10月からは、建築物の調査は建築物石綿含有建材調査者などの有資格者が行います。
床面積80㎡以上の解体と、請負代金100万円以上の改修は、結果を元請業者が電子システムで報告します。
つまり、売却では「記録があれば説明する」、買主が壊すか直すときは「施工側が必ず調べる」という二段構えです。
売主が調査をしていなくても、買主が工事に入る段階で調査は行われます。
そのとき買主が最初に頼るのが、売主から渡された過去の記録です。
解体を前提にした売却の流れは旧耐震ビル・一棟マンションの売却に書きました。
過去の調査結果は、範囲と調べた人まで確かめる
手元に調査の記録が見つかったら、結果だけでなく、中身を3点読んでください。
- いつ調べたか(石綿に関する決まりが強化された2021年より前かどうか)
- どの部分を調べたか(屋上・設備室・天井裏・配管まわりまで含むか)
- 誰が調べたか(調査者の資格が記されているか)
「アスベストなし」と書かれていても、調べた範囲が居室だけなら、そこ以外は分かっていません。
範囲が限られた記録は、限られたまま買主へ渡し、調べていない部分は調べていないと伝えます。
範囲を広げて書き換えたり、都合のよい部分だけを抜いて渡したりすると、あとで説明の食い違いになります。
吹付けアスベストなら、福岡市の補助がある
福岡市には、民間建築物の吹付けアスベスト(レベル1)を対象にした補助制度があります。
分析調査は費用の全額(上限25万円)、除去などの工事は費用の3分の2(上限300万円)です。
対象は市内の建築物の所有者で、申請より先に市への事前相談が必要です。
交付決定の前に契約した工事は対象にならず、予算がなくなれば受付が終わることもあります。
2026年度の申請期限は、除去等が11月27日、分析調査が12月25日とされています。
売却を考えているなら、見積りを取る前に、市の建築調整課(092-711-4586)へ使えるかどうかを尋ねてください。
売買が決まったあとの買主に補助が引き継げるかどうかは、確認できていません。
この点は市の窓口で確かめるまで、買主に約束しないでください。
調査や除去の費用は、価格か条件で買主と分ける
調査や除去に費用がかかると分かったとき、売主が先に払うか、買主が負担するかは、契約の条件で決めます。
法律が決めているのは調査と飛散防止の手順で、費用をどちらが持つかではないからです。
よくある整理は3つです。
- 売主が除去してから引き渡す(価格はその前提で付ける)
- 現況のまま引き渡し、除去費の見積りを価格から差し引く
- 買主が調査を入れ、結果が出たあとで条件を協議する
見積りがなければ、どれも金額を決められません。
先に調査をすれば費用が出ますが、結果が出た以上、買主へ伝える対象にもなります。
調べるかどうかも、価格や条件と合わせて仲介会社と決めるのが順序です。
PCBは別の制度なので、費用の考え方もアスベストと混ぜずに分けて整理してください。
売る前に、何をすればよいですか
建物の年代を確かめ、設備の製造年を調べ、必要なら見積もりを取る、の順です。
順番は3つ
- 建物の竣工年を確かめる(1990年ごろより前なら、以下へ進む)
- 電気主任技術者か管理会社に、受変電設備と照明の安定器の製造年を確認してもらう
- 該当するものがあれば、処分できる業者から見積もりを取る
2番目は、管理会社に頼めば点検のついでに見てもらえる場合もあります。
竣工年は、登記事項証明書か台帳記載事項証明書で分かります。
書類の取り方は収益物件の売却に必要な書類にまとめました。
3番目まで進めば、買主に出せる材料がそろいます。
そこまで行かなくても、1番と2番まで分かれば査定は始められる段階です。
費用は、見積もりを見てから考える
処分や除去の費用は、機器の種類・台数・設置場所で大きく変わります。
そのため、この記事では金額を挙げません。
売主が負担して先に処分するのか、その分を価格に織り込んで買主に引き継ぐのかは、見積もりが出てから決める話です。
どちらにしても、金額が分からないまま売り出すと、買主との交渉で足をすくわれます。
次に何をすればよいですか
まず竣工年を確かめて、1990年より前なら設備の製造年まで調べてください。
調べた結果は、あっても無くても書面にしておいてください。
「無いことを確かめた」という記録も、買主にとっては情報です。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入り、囲い込みをしません。
代表が最後まで担当し、必要に応じて税理士・司法書士と連携します。
売却の全体の流れは一棟ビル・一棟マンション売却の流れに、ご相談は無料査定からお進みください。
