利回りから売却価格を逆算|0.5%違うと価格はいくら動く?
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士買主や不動産会社から「利回り5%なら買います」と言われて、その5%が自分の物件の何を指しているのか分からないまま話が進むことがあります。
収益物件の価格を決めるのは、売主の希望額ではなく、1年間の純収益を利回りで割った数字です。
この式は電卓1つで引けるので、提示された利回りを自分で価格に翻訳できます。
この記事は、買主から利回りを示された一棟のオーナー、または査定書の利回りに納得できていないオーナーに向けて書きました。
目標は2つ。
提示された数字を自分の価格に直せること、そして0.5%の差がいくらに相当するかを言えることです。
査定の3つの手法そのものは収益物件の査定方法3つにまとめているので、ここでは電卓の使い方だけを扱います。
当社は福岡市博多区の売却専門で、一棟ビル・一棟マンションの売却では売主側の仲介として入ります。
2. 買主が言う「利回り5%なら買う」は、どの利回りですか?
3. 利回りが0.5%違うと、価格はいくら動きますか?
4. 純収益を100万円増やすと、価格はいくら増えますか?
5. 売る前に、オーナーは何をそろえますか?
収益物件の売却価格は、利回りからどう逆算するのですか?
1年間の純収益を還元利回りで割った金額が、収益還元法で出てくる価格です。
国土交通省の不動産鑑定評価基準は、一期間の純収益を還元利回りで還元する方法を直接還元法と呼んでいます。
式は「純収益 ÷ 利回り」の1行
純収益が1,000万円、利回りが5.0%なら、価格は1,000万円÷0.05で2億円。
割る数が小さくなるほど、出てくる価格は大きくなります。
つまり買主が低い利回りで満足してくれるなら、売主の受け取る価格は上がる関係です。
逆に買主が高い利回りを求めると、同じ家賃でも価格は下がります。
この式は、逆からも使えます。
買主の求める利回りを下げてもらうのではなく、純収益のほうを動かすという手もあるからです。
希望する価格が決まっているなら、純収益を希望価格で割れば、その値段で売るために買主に受け入れてもらう利回りが出ます。
純収益1,000万円の物件を2億5,000万円で売りたいなら、必要な利回りは4.0%。
その水準を買う人がいるかどうかが、希望価格が通るかどうかの判断になります。
純収益は、1年の総収益から総費用を引いたもの
鑑定評価基準では、純収益は一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるとされています。
総収益に入るのは家賃・共益費・駐車場代など、総費用に入るのは管理委託料・修繕費・固定資産税・都市計画税・共用部の水道光熱費などです。
家賃の合計そのものは純収益ではないので、ここを混同すると価格が実態より大きく出ます。
共益費や駐車場代も収益に入りますが、サブリースで一括して借り上げられている場合、売主の手元に入る金額と入居者が払う金額は別の数字です。
買主が見るのは売主の手元に入る側なので、契約書でどちらの金額かを確かめておいてください。
サブリース契約が付いた一棟の売り方は、サブリース付きの一棟は売れる?解約の条件と買主の見方にまとめました。
建物を含む不動産では、減価償却費を引く前の純収益を使い、それに対応した利回りで割るのが基本とされています。
総費用に入る公租公課のうち、福岡市の都市計画税は市街化区域内の土地と家屋が対象で、税率は0.3%です。
固定資産税とあわせて納めるため、納税通知書の課税標準額を見れば、運営費に入る年額をそのまま拾えます。
一棟では金額が大きいので、ここを概算で置くか通知書の実額で置くかで、純収益が数十万円動くことも。
出典:福岡市 都市計画税
自宅用の手取り試算は、一棟には使えません
当社のサイトにある手取りの試算は、マイホームの売却を前提に作っています。
3,000万円特別控除や居住用の軽減税率が入っているため、賃貸用の一棟に当てはめると税額が合いません。
一棟の税金は一棟アパート・ビル売却の税金で考え方だけ整理しています。
個別の税額と、どの選択が有利かの判断は税理士の領域です(税理士法52条)。
買主が言う「利回り5%なら買う」は、どの利回りですか?
表面利回りの5%か、純収益ベースの5%かで、同じ物件の価格が8,800万円ひらきます。
同じ物件で、2つの利回りを並べてみる
計算のために、次の数字を仮に置きます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 満室想定の年間賃料 | 1,440万円 |
| 空室などによる減り | −144万円 |
| 年間の運営費 | −296万円 |
| 年間の純収益 | 1,000万円 |
この物件が2億円で売れたとすると、表面利回りは1,440万円÷2億円で7.2%。
純収益ベースの利回りは1,000万円÷2億円で5.0%になります。
同じ1つの物件に、7.2%と5.0%という2つの数字が同時に存在するわけです。
差の2.2ポイントは、空室の見込みと運営費のぶんです。
この物件の運営費は年296万円で、満室想定の賃料1,440万円に対して約2割。
割合が小さい物件もあれば大きい物件もあり、ここが大きいほど表面利回りと純収益ベースの差は開きます。
だから表面利回りだけで2つの物件を比べても、どちらが収益を生むかは分かりません。
「5%なら買う」を価格に直すと、答えが2つ出る
表面利回り5%なら、価格は1,440万円÷0.05で2億8,800万円。
純収益ベース5%なら、価格は1,000万円÷0.05で2億円です。
どちらの意味で言っているかを確かめないまま進めると、8,800万円の認識の差を抱えたまま交渉することになります。
聞き方は一言で足ります。
「その5%は満室想定の賃料で計算した数字ですか、運営費を引いた純収益で計算した数字ですか」。
満室想定か現況かで、もう一段変わる
いまの入居状況が満室でない場合、賃料の合計には2つの数字が出てきます。
上の例で1戸が空いていて現況の年間賃料が1,296万円なら、表面5%換算の価格は2億5,920万円。
満室想定の1,440万円で計算した2億8,800万円と比べると、2,880万円の差です。
鑑定評価基準も、純収益と還元利回りは把握の仕方で整合がとれたものでなければならないとしています。
売主の側でそろえる賃料の資料はレントロールの作り方にまとめました。
買主が借入を使うと、収益価格より低い金額になることもある
利回りから出した価格で買主が必ず買えるとは限りません。
借入を使う買主は、金融機関が建物と土地をいくらと評価するかにも縛られます。
その評価は収益還元法ではなく、建て直した場合の原価から古くなったぶんを引く積算の考え方に近いものです。
築年数が進んだ建物では、積算の評価が収益価格を下回ることがあり、そのぶん買主が出せる金額が下がります。
2つの考え方の違いは収益物件の査定方法3つで比べてください。
利回りが0.5%違うと、価格はいくら動きますか?
純収益1,000万円の物件なら、利回りが低い帯では2,222万円、高い帯では1,282万円動きます。
0.5%刻みで並べた価格と、隣との差
純収益を1,000万円に固定して、利回りだけを動かした計算が次の表です。
| 利回り | 価格 | 0.5%上がると下がる額 |
|---|---|---|
| 4.5% | 2億2,222万円 | −2,222万円 |
| 5.0% | 2億円 | −1,818万円 |
| 5.5% | 1億8,182万円 | −1,515万円 |
| 6.0% | 1億6,667万円 | −1,282万円 |
| 6.5% | 1億5,385万円 | — |
この表の利回りは、計算の形を見せるために置いた仮の数字です。
福岡市でいま実際に使われている利回りの水準ではないので、相場として読まないでください。
実際に採用される利回りは、立地・築年数・構造・入居の状況・買主の資金の調達方法で変わります。
同じ0.5%でも、低い帯ほど金額が大きい
4.5%から5.0%への0.5%で2,222万円、6.0%から6.5%への0.5%で1,282万円。
同じ0.5%の動きなのに、金額では1.7倍の差になります。
割り算なので、割る数が小さいところほど1目盛りの重みが大きくなるからです。
低い利回りで取引される物件ほど、0.5%の置き方をめぐる交渉の金額が大きくなるという意味です。
だから利回りの根拠を聞くことに意味があり、聞いて説明が返ってこない数字は交渉の材料になりません。
純収益を100万円増やすと、価格はいくら増えますか?
利回り5.0%なら2,000万円、6.5%なら約1,538万円の増加として価格に乗ります。
運営費を下げると、価格が上がる計算になる
純収益が1万円増えたときの価格の増え方は、1を利回りで割った倍率です。
利回り5.0%なら20倍、6.0%なら約16.7倍、6.5%なら約15.4倍。
管理委託料や修繕の契約を見直して年間の費用が100万円下がれば、5.0%の物件では価格が2,000万円上がる計算。
空いている1戸が埋まって年間144万円の賃料が戻った場合も、同じ倍率で効いてきます。
ただし相場より安い賃料で埋めると、その差額も同じ倍率で価格から引かれます(満室にしてから売る?空室のまま売る?一棟の判断基準)。
10戸で月2,000円ずつ賃料が上がれば、年間では24万円。
5.0%で計算すると、価格では480万円ぶんにあたります。
月2,000円という小さな金額が、倍率を通すと数百万円の話になる構造です。
同じことは逆向きにも働きます。
空室を早く埋めるために10戸の賃料を月2,000円下げれば、年間24万円の減り。
5.0%で割ると、価格では480万円を下げる判断と同じ重さになります。
売却を考えている時期の募集条件は、空室を埋める効果と価格への影響の両方で見てください。
ただし、一度きりの数字では利回りを動かせない
純収益は、その年だけ安く済んだ費用ではなく、続く見込みで見られます。
たまたま修繕が無かった年の数字を純収益として出しても、買主は過去の支出から平均に戻して計算するはずです。
逆に、大規模修繕を終えた直後で数年は支出が少ないと説明できる場合、その根拠を資料で示すほうが通ります。
どの数字をどう置いたかを説明できるかどうかが、価格の交渉の材料になります。
売る前に、オーナーは何をそろえますか?
純収益の根拠になる資料と、相手が言う利回りの中身を聞く準備の2つです。
純収益の根拠になる資料
賃貸借契約書、レントロール、過去3年ほどの収支の記録、管理会社からの報告書。
固定資産税と都市計画税の納税通知書、それに修繕の履歴と見積り。
これがそろっていないと、買主は安全側に寄せた数字で計算するので、純収益は低めに置かれます。
資料をそろえることは、価格を上げる作業と同じ意味を持ちます。
当社が媒介をお受けする場合、最初にお伝えするのは、どの資料が足りていないかです。
建物に消費税がかかる取引では、土地と建物の金額の分け方も価格の話に関わってきます(収益物件の売却と消費税)。
相談から決済までの順番は一棟ビル・一棟マンション売却の流れに並べました。
査定書では、利回りの根拠を聞く
査定書に利回りが書かれていたら、その数字の出どころを尋ねてください。
近隣で成約した似た物件から求めたのか、社内の基準なのかで、話の進め方が変わります。
査定書のどこを見るかは収益物件の査定書の読み方に5つの数字として整理しました。
言葉の意味を確かめたいときは不動産売却の用語集もあります。
当社が売主側で何をするか
当社は売主側の仲介として入り、囲い込みをしません。
買主側に別の不動産会社が付くこともあり、そのほうが買う側の候補は広がります。
当社に買いたい方の条件をご登録いただいたものは購入希望者の条件一覧で公開しています。
一棟の査定は無料査定から、物件の種類で一棟アパート・一棟ビルを選んでお送りください。
登記は司法書士、税額の判断は提携する税理士が担当し、代表の野上が最後までご相談を受けます。
売ると決める前の段階でも、お手元の資料から純収益を計算して、どの利回りならいくらになるかを並べてお渡しできます。
