収益物件の売却と消費税|土地建物の按分と契約書の書き方
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士アパート・賃貸マンション・テナントビルを売ろうとしている個人オーナーと、資産管理法人の方へ向けて書いています。
自宅を売ったときには出てこなかった「建物の消費税」が、収益物件の売却では契約書の1行として現れます。
先に結論を書くと、土地の譲渡は非課税、建物の譲渡は課税です。
ただし実際に納める義務があるかどうかは、オーナーごとの課税売上高と、インボイスの登録の有無で分かれます。
この記事が扱うのは、納税義務の判定・売った年の翌々年への影響・土地と建物の按分・売買契約書の書き方・福岡市で評価額を確かめる窓口の5つです。
個別の税額と、どの方法が有利かの判断は税理士の仕事なので、ここでは国税庁のページで確かめられる仕組みまでを書きます。
2. 消費税を納める義務があるのは、どんなオーナーですか
3. 免税事業者のまま売れた場合、あとで何が起きますか
4. 土地と建物を一括で売ったとき、建物の金額はどう決めますか
5. 売買契約書には、何を書いておけばよいですか
6. 福岡市では、評価額をどの書類で確かめますか
収益物件を売ると、消費税はかかるのですか
土地にはかからず、かかるのは建物です。
国税庁は主な非課税取引の1番目に「土地の譲渡および貸付け」を挙げており、借地権も土地に含まれます。
一方で建物は非課税の一覧に入っていません。
タックスアンサー No.3240 は、住宅賃貸用や店舗賃貸用の建物を売却した場合も課税の対象となる、と明記しています。
個人か法人かは、この結論を左右しません。
自宅の売却で消費税が出てこなかった理由
消費税が課されるのは、事業者が事業として対価を得て行う取引です。
国税庁は、賃貸業を営んでいる個人も事業者に当たると説明しています。
事業に使っていた建物を売ることは、事業に関連して行う取引として課税の対象に入る、という整理です。
反対に、生活用に使っていた資産を個人が売っても、事業として行う取引にはなりません。
自宅の売却で消費税の話が出なかったのは、税率が違うからではなく、そもそも課税の対象から外れていたためです。
同じ人が自宅とアパートを続けて売ると、片方にだけ消費税の欄が現れます。
消費税を納める義務があるのは、どんなオーナーですか
基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者と、インボイスの登録を受けている事業者などです。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則としてその課税期間の納税義務は免除されます。
建物の売却が課税の対象であることと、そのオーナーに納める義務があることは、別々に判定する話です。
基準期間・特定期間・インボイスの3つで判定する
基準期間とは、個人事業者ならその年の前々年、事業年度が1年の法人なら前々事業年度を指します。
2026年に売る個人オーナーであれば、見るのは2024年の課税売上高です。
基準期間が1,000万円以下でも、免除されない場合がいくつか定められています。
1つ目は、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合。
特定期間は、個人なら前年の1月1日から6月30日まで、法人なら原則として前事業年度の開始から6か月間です。
この判定は、課税売上高に代えて給与等の支払額の合計で行うこともでき、どちらを使うかは納税者が選べます。
2つ目は、適格請求書発行事業者、いわゆるインボイスの登録を受けている場合です。
登録を受けていれば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されません。
事務所や店舗のテナントに求められて登録したオーナーは、売上の大きさにかかわらず課税事業者として建物を売ることになります。
課税事業者選択届出書を出している場合や、資本金1,000万円以上の法人の設立1期目・2期目にも、免除は働きません。
資産管理法人で売る方は、法人の設立時期と資本金もあわせて税理士に伝えてください。
住宅の家賃は非課税、事務所・店舗の家賃は課税
1,000万円の判定に入るのは課税売上高だけで、非課税の売上は数えません。
国税庁は、住宅の貸付けを非課税としています。
住宅には一戸建てのほか、マンション、アパート、社宅、寮、貸間も含まれ、入居者が負担する共益費も家賃の一部です。
アパートや賃貸マンションだけを持つオーナーは、家賃収入が年に数千万円あっても、課税売上高はごく小さくなります。
家賃の大半が1,000万円の判定に入らないので、免税事業者のまま売却の年を迎える形が生まれるわけです。
事務所や店舗の家賃は、住宅の貸付けに当たらないので課税です。
1階が店舗で上が住宅という建物では、住宅部分の家賃だけが非課税になり、店舗部分と合理的に分けることになります。
見落としやすいのが駐車場でしょう。
住宅の駐車場が非課税になるのは、1戸あたり1台分以上が割り当てられ、かつ家賃と別に使用料を受け取っていない場合に限られます。
月極の使用料を別に受け取っているなら、その分は課税売上高に入ります。
貸付期間が1か月未満の貸付けや、旅館業に当たる施設の貸付け、いわゆる民泊も非課税の対象外です。
福岡市では、住宅系と事務所・店舗系の取引はどのくらいの比ですか
当社は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の取引価格情報を、福岡市7区について集計しました(2026年9月19日集計)。
買主へのアンケートに回答があった取引だけの数字で、全数ではありません。
| 建物の種類 | 家賃の消費税 | 10年の件数 | うち博多区・中央区 |
|---|---|---|---|
| 共同住宅(一棟マンション・アパート) | 住宅の家賃は非課税 | 2,982件 | 909件(30%) |
| 事務所・店舗の建物 | 家賃は課税 | 651件 | 380件(58%) |
2016年から2025年までの10年で、共同住宅は事務所・店舗のおよそ4.6倍でした。
事務所・店舗は博多区215件・中央区165件と、2区で全体の58%を占めます。
共同住宅は東区622件・博多区553件・南区539件の順で、博多区と中央区を合わせても30%です。
家賃が課税になる建物の取引は都心の2区に寄り、家賃が非課税の建物は7区に広く散らばっている、という分かれ方です。
売る建物がどちらの側かで、判定の出発点になる課税売上高の大きさが変わります。
免税事業者のまま売れた場合、あとで何が起きますか
建物の売却代金がその年の課税売上高に入るので、1,000万円を超えると、その年を基準期間とする翌々年は納税義務が免除されなくなります。
売った年に納める義務が無かったとしても、話はそこで終わらない仕組みです。
売った年の課税売上高は、翌々年の判定に使われる
個人オーナーが2026年に建物を売ると、2026年は2028年の基準期間になります。
国税庁の通達は、基準期間に免税事業者だった場合、その期間に受け取った金銭等の全額が課税売上高になるとしています。
建物の価格が8,000万円なら、それだけで1,000万円の線を大きく超える計算です。
売却が1月から6月までの間であれば、その期間は翌年の特定期間にも当たります。
この場合は2028年を待たず、2027年の判定に関わる話です。
ただし特定期間は給与等の支払額でも判定できるので、結論は人によって違います。
売る月を決める前に、税理士へ「上半期と下半期で判定が変わるか」を尋ねてください。
課税事業者になった年に、消費税がかかるもの
課税事業者になった年に課税の対象となるのは、その年の課税売上です。
事務所・店舗の家賃、別料金の駐車場の使用料、そしてその年に売る次の建物がこれに当たります。
住宅の家賃しか無いオーナーであれば、課税事業者になっても、課税される売上そのものがほとんどありません。
影響が大きいのは、複数の棟を年をまたいで順に売る場合と、テナントビルを持ち続ける場合です。
1棟目を免税のまま売れても、2年後に売る2棟目の建物には納税義務が生じうる、という順番です。
ここに書いたのは制度の仕組みで、実際にどうなるかは届出の状況や他の売上によって変わります。
納める額の計算には、簡易課税制度という選択肢も用意されています。
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、事前の届出によって使える制度です。
届出の期限は原則としてその課税期間の初日の前日までなので、売ると決めてからでは間に合わない年があります。
使えるかどうか、使ったほうがよいかどうかは、税理士に判断を仰ぐ項目です。
土地と建物を一括で売ったとき、建物の金額はどう決めますか
売買代金を、土地の部分と建物の部分に合理的に区分して決めます。
課税されるのは建物の部分だけなので、区分のしかたが、そのまま消費税の額の差になるからです。
国税庁が挙げている3つの区分方法
国税庁はタックスアンサー No.6301 のQ&Aで、建物代金が区分されていないときの方法を次のように示しています。
- 譲渡時における土地および建物のそれぞれの時価の比率による按分
- 相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分
- 土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含む)を基にした按分
文面は「以下の方法などにより」となっており、この3つに限るとは書かれていません。
所得税または法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算で区分しているときは、その区分した金額による、というただし書きも付いています。
質疑応答事例「建物と土地との一括譲渡の場合の課税標準」も、同じ趣旨の回答です。
同じ物件でも、方法が違えば建物の割合は違う数字になります。
どの方法がその取引にとって合理的かは、手元に残っている資料と物件の状態で決まる話です。
固定資産税評価額で按分した計算例
固定資産税評価額が土地6,000万円・建物4,000万円の一棟を例にします。
評価額の比は土地6対建物4です。
消費税の税率は、地方消費税と合わせた標準税率の10%で計算しました。
金額の決め方には2通りあり、どちらの前提かで式が変わります。
| 項目 | 前提A:本体の合計が2億円(消費税は別) | 前提B:消費税込みの総額が2億円 |
|---|---|---|
| 土地 | 1億2,000万円 | 1億1,538万4,615円 |
| 建物(税抜) | 8,000万円 | 7,692万3,077円 |
| 建物の消費税 | 800万円 | 769万2,308円 |
| 買主が支払う総額 | 2億800万円 | 2億円 |
前提Aは、本体の合計2億円を6対4に分け、建物8,000万円に10%を掛けただけの形です。
前提Bでは、土地と税抜の建物の比を6対4と置き、「土地+建物×1.1=2億円」になる金額を逆算しました。
国税庁のQ&Aは区分の方法を挙げるところまでで、税込の総額からの逆算の式までは示していません。
実際の契約でどの式を採るかは、税理士と決めてください。
建物の割合が動いたときの差も見ておきます。
前提Aで建物が4割から3割に下がると、建物は6,000万円、消費税は600万円で、差は200万円です。
同じ前提Aで本体の合計が1億円の取引なら、割合が1割動くごとに消費税は100万円動きます。
直近8四半期の福岡市7区では、共同住宅490件のうち228件、事務所・店舗146件のうち98件が1億円以上の取引でした。
売買契約書には、何を書いておけばよいですか
土地の価格、建物の価格、建物にかかる消費税の額の3つを、総額とは別に明記します。
総額だけの契約書では、建物がいくらだったのかを、売主と買主がそれぞれ後から計算することになるためです。
売主と買主で利害が逆になる
課税事業者である売主にとって、建物の割合が小さいほど、預かって納める消費税は小さくなります。
買主の側は逆です。
国税庁の説明では、建物は減価償却資産で、土地は時の経過で価値が減らないため減価償却資産ではありません。
建物の割合が大きいほど、買主が毎年の必要経費にできる金額が増える関係にあります。
利害が逆向きの2者が別々に按分すると、何が起きるでしょうか。
同じ取引なのに、建物の金額が2つできてしまいます。
契約書に金額が書いてあれば、双方が同じ数字で申告できます。
書けば何でも通る、という意味ではありません。
消費税法基本通達は、それぞれの対価を合理的に区分しなければならないとしています。
合理的に区分されていない場合は、通常の取引価額を基礎として区分する、という注記付きです。
按分の根拠を後から問われたときに示せるよう、評価証明書や鑑定の資料は契約書と一緒に保管してください。
建物の金額は仲介手数料にも関わり、料率を掛けるのは消費税を抜いた本体価格です(一棟の仲介手数料)。
売却益にかかる所得税の側は一棟の売却と手取りで、減価償却との関係から説明しています。
印紙税と固定資産税の精算金にも関わる
消費税の額を区分して書くことは、契約書に貼る印紙にも影響します。
課税事業者が作る不動産の売買契約書で消費税額が区分記載されていれば、その額は印紙税の記載金額に含めません。
「消費税10%を含む」とだけ書いた場合は、税額が明らかでないとして総額で判定されます。
免税事業者にはこの取扱いが無く、消費税として金額を書き分けても記載金額に含める、というのが国税庁の説明です。
決済日に受け取る固定資産税の精算金は、消費税法基本通達10-1-6に定めがあります。
未経過分を売買代金と別に受け取っても、その金額は資産の譲渡の金額に含まれる、という扱いです。
建物に対応する精算金は、建物の対価として課税の対象に入ることになります。
精算金そのものの計算は固定資産税の日割り精算の記事にまとめました。
福岡市では、評価額をどの書類で確かめますか
毎年春に届く納税通知書の課税明細書と、区役所で取る固定資産評価証明書の2つです。
福岡市は令和8年度の納税通知書を4月7日に発送し、添付の課税明細書に土地・家屋の評価額を記載しています。
按分の比を出すだけなら、まず手元のこの1枚で足ります。
評価証明書の窓口と手数料
福岡市の固定資産評価証明書は1件300円です。
担当窓口として市が挙げている場所を並べます。
- 各区役所の納税課
- 早良区入部出張所・西区西部出張所
- 千早証明サービスコーナー(東区なみきスクエア内)
- 天神証明サービスコーナー(市役所1階)
- 博多区証明発行コーナー(博多区役所2階)
2つの証明サービスコーナーは、平日の9時から17時15分までの取り扱いです。
請求できるのは原則として本人で、代理人には家族であっても3か月以内の日付の委任状が求められます。
法人名義の物件では、代表者本人が行くか、法人印を押した申請書を持参するかで必要書類が変わるので、行く前に確かめてください。
窓口ごとの場所と持ち物は福岡市の手続き窓口に、回る順番は窓口の回り方の記事にまとめてあります。
売却全体で要る書類を並べたのが必要書類の一覧です。
次に何をすればよいですか
手元でできることは次の4つ。
- 前々年と前年上半期の課税売上高を、家賃の種類ごとに書き出す
- インボイスの登録と、過去に出した消費税の届出書の控えを探す
- 課税明細書で、土地と建物の評価額の比を確かめる
- 買付の条件や契約書の案に、土地・建物・消費税の金額が分けて書かれているかを見る
この4つがそろうと、税理士への相談が1回で済みやすくなります。
個別の税額と、どの按分方法や届出が有利かの判断は、税理士に確認してください。
当社は福岡市博多区の売却専門の会社で、売主側の仲介として入り、囲い込みをしません。
買主は広く探すので、買主側に別の会社が付くこともあります。
税理士・司法書士と連携しており、契約書の案を一緒に読みながら、土地と建物の金額の書き方を整えていきます。
査定の入口には、一棟アパート・一棟ビル用の入力欄を用意しました。
一棟の売却で当社がどう進めるかは、福岡市の一棟ビル・マンション・アパート売却のページにまとめました。
