収益物件の査定書の読み方|収益還元法で確かめる5つの数字
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟アパートやビルの査定書は、いちばん大きく書かれた金額の欄だけを見ても、妥当かどうか判断できません。
確かめるのは5つの数字です。
満室想定賃料・空室損の見込み・運営費・純収益・還元利回りの5つで、この順に積み上げた結果が査定額になります。
この記事は、一棟の査定書を1社または複数社から受け取り、金額の根拠が読み取れずにいるオーナーに向けて書きました。
読み終えたときに、書面のどの行を指して何を質問すればよいかが決まる並びにしています。
査定の手法そのもの(収益還元法・原価法・取引事例比較法)の説明は、収益物件の査定方法3つのほうにまとめました。
こちらは、受け取った書面を読む側の記事です。
なお、この記事に出てくる金額はすべて仮の例で、福岡市の利回りの相場は書きません。
2. 満室想定賃料と空室損は、どこを確かめますか?
3. 運営費と純収益は、どこを確かめますか?
4. 還元利回りの根拠は、どう書かれていますか?
5. 複数社の査定書は、どう並べて比べますか?
収益物件の査定書は、どの5つの数字を見れば足りますか?
満室想定賃料から空室損と運営費を引くと純収益になり、それを還元利回りで割ると価格が出ます。
この5つが書面に並んでいれば、査定額は自分の電卓で再現できる数字です。
5つの数字と、書面での呼び方
| 数字 | 書面での呼び方の例 | 確かめること |
|---|---|---|
| 満室想定賃料 | 総潜在収入・満室時年収 | 現行の賃料か、募集中の希望賃料か |
| 空室損 | 空室損失・稼働率 | 何%で置いたか、その根拠 |
| 運営費 | 運営費用・諸経費 | どの費目が入っているか |
| 純収益 | NOI・純収益 | 償却前・返済前の数字か |
| 還元利回り | 還元利回り・キャップレート | 根拠と、その時点 |
国土交通省の不動産鑑定評価基準では、一期間の純収益を還元利回りで割り戻す方法を直接還元法と呼んでいます。
査定書の多くが、この直接還元法の形です。
仮の数字で、1回だけ計算してみる
満室想定賃料が年1,200万円、空室損が5%、運営費が300万円、還元利回りが5.5%の物件で考えます。
空室損60万円を引いた実効総収入は1,140万円です。
そこから運営費300万円を引くと、純収益は840万円になります。
840万円を5.5%で割ると、価格は約1億5,272万円です。
査定書の数字を入れて同じ金額にならない場合は、どこかに書かれていない調整が入っています。
なお、収益価格の求め方には、複数の期間の純収益と復帰価格を現在価値に割り引くDCF法もあります。
DCF法で出した査定書なら、保有期間と割引率、期間の終わりに売る前提の価格が書かれているはずです。
どちらの形で出したのかは、書面の表題か計算欄の見出しに出ています。
数字が書かれていないときの聞き方
5つのうち1つでも空欄なら、「この価格の純収益と還元利回りはいくらですか」と1行で聞けます。
答えられない査定書は、他社と比べる材料になりません。
当社は売主側の仲介として入るので、根拠の説明は査定の段階でお出ししています。
満室想定賃料と空室損は、どこを確かめますか?
満室想定賃料が「いま実際に入っている賃料」か「空室の募集賃料を含めた希望の金額」かを確かめてください。
ここが実態より高く置かれていると、そのあとの計算すべてが上に寄ります。
満室想定は、現行の賃料表と突き合わせる
手元のレントロール(部屋ごとの賃料表)と、査定書の満室想定を1行ずつ照らし合わせます。
空室の1戸を月6万円で埋めた前提なら、年間では72万円です。
この72万円を還元利回り5.5%で割ると、価格では約1,300万円にあたります。
1戸の置き方だけで1,000万円を超えて動くので、満室想定は金額への影響がもっとも大きい行です。
古い賃料で入居が長い部屋は、退去後に同じ賃料で埋まらないこともあります。
レントロールで見るのは、部屋ごとの賃料・契約日・敷金・契約の種類の4つです。
定期借家か普通借家かで、退去をお願いできる場面が変わります。
店舗や事務所が入っている一棟では、1区画の退去が総収入を大きく動かします。
空室損が5%と10%では、いくら違うか
先ほどの例で空室損を5%から10%に変えると、実効総収入は1,080万円です。
純収益は780万円になり、5.5%で割った価格は約1億4,181万円になります。
差は約1,090万円で、空室損の置き方1つでこれだけ動きます。
査定書に稼働率だけが書かれている場合は、100%から引いた数字が空室損です。
一時金や駐車場の扱いも見る
礼金・更新料・駐車場・自販機の収入を満室想定に入れているかどうかで、総収入は変わります。
入れている場合は、毎年必ず入る前提になっていないかを確かめてください。
更新料は入居者の更新時期に左右されるため、毎年同額で続く収入ではありません。
運営費と純収益は、どこを確かめますか?
運営費に管理委託費・修繕費・固定資産税と都市計画税・損害保険料・共用部の光熱費が入っているかを見ます。
費目が抜けていると運営費が小さくなり、純収益と価格はそのぶん大きく出る形です。
抜けやすいのは修繕費と固定資産税
管理委託費は入っていても、修繕費が0円で置かれた査定書があります。
固定資産税と都市計画税は毎年かかる費用なので、運営費に含めるのが筋です。
福岡市の場合、土地と家屋の固定資産税は市が課税し、納期は年4回に分かれています。
仮の例で運営費を300万円(賃料の25%)から360万円(30%)に変えると、純収益は780万円です。
価格では約1億4,181万円になり、空室損を5ポイント増やしたときと同じだけ下がります。
出典:福岡市 固定資産税
純収益に減価償却やローン返済を混ぜていないか
純収益は、減価償却費を引く前で、ローン返済も引く前の数字です。
不動産鑑定評価基準の運用上の留意事項でも、純収益と還元利回りは償却前か償却後かをそろえる必要があるとされています。
償却後の純収益に、償却前を前提とした利回りを当てると、価格は低く出ます。
査定書に「償却前」「償却後」の記載があるかを確かめてください。
返済額を引いた数字が純収益の欄に入っていれば、それは買主の借入条件を混ぜた別の指標です。
還元利回りの根拠は、どう書かれていますか?
取引事例から求めたのか、公表された調査を引いたのかと、その数字の時点が書かれているかを見ます。
根拠と時点の2つが無い利回りは、他社の査定書と比べられません。
根拠として書かれうるもの
不動産鑑定評価基準は、還元利回りの求め方として、類似の不動産の取引事例との比較を挙げています。
ほかに、借入金と自己資金のそれぞれの利回りを加重平均する方法や、土地と建物の利回りを加重平均する方法も示されています。
実際の査定書では「近隣の取引事例から」「公表されている投資家調査から」と書かれることが多いところです。
どの方法でも構わないので、何を見て決めたのかが1行あるかを確かめてください。
公表されている投資家調査を引いている場合は、調査の名前と発表の時期も見てください。
同じ福岡市でも、中心部と周辺で区分を分けている調査があります。
自分の物件がどの区分で見られたのかが分かると、その利回りの高低まで読み取れる形です。
書かれた利回りを自分で価格に直す手順は利回りから売却価格を逆算にまとめました。
取引価格そのものは、国土交通省の不動産情報ライブラリでオーナー自身も調べられます。
時点が書かれていないと比べられない
還元利回りは時点によって動く数字なので、いつの事例や調査を使ったかで前提が変わります。
この記事で福岡市の利回りの相場を書かないのは、同じ理由です。
記事の数字を自分の物件に当てはめると、時点と立地の違いがそのまま判断の誤りになります。
仮の例で利回りを5.5%から6.0%に変えると、純収益840万円に対する価格は約1億4,000万円です。
5.5%のときとの差は約1,272万円で、0.5ポイントの置き方が1,000万円を超えて効きます。
複数社の査定書は、どう並べて比べますか?
金額を比べる前に、満室想定賃料・空室損・運営費の3つを同じ前提にそろえ、そのうえで利回りの差だけを見ます。
前提がそろっていない査定書を金額で並べると、いちばん上に来るのは強気な前提を置いた会社です。
そろえてから比べる4つの手順
1つ目は、各社の査定書から満室想定賃料・空室損・運営費・純収益・還元利回りを書き写すことです。
2つ目に、満室想定賃料を現行のレントロールの金額でそろえます。
3つ目に、空室損と運営費を、各社がいちばん慎重に置いた数字でそろえ直します。
4つ目は、そろえた純収益を各社の利回りで割り、金額を出し直す作業です。
仮にA社とB社の査定書を並べると、次のような表になります。
| 項目 | A社 | B社 | そろえた前提 |
|---|---|---|---|
| 満室想定賃料 | 1,200万円 | 1,260万円 | 1,200万円 |
| 空室損 | 5% | 3% | 5% |
| 運営費 | 300万円 | 240万円 | 300万円 |
| 純収益 | 840万円 | 982万円 | 840万円 |
| 還元利回り | 5.5% | 5.8% | 各社のまま |
| 価格 | 1億5,272万円 | 1億6,934万円 | A社 1億5,272万円/B社 1億4,482万円 |
書面のままでは、B社のほうが約1,662万円高い査定に見えます。
前提をそろえると、B社は利回りを高く置いているぶん、A社より約790万円低い金額になりました。
この並べ替えをしないまま金額だけで会社を選ぶと、売り出しの途中で価格を下げることになります。
ここまでやると、残る差は利回りの置き方だけになります。
そのうえで、なぜその利回りにしたのかを各社に聞いてください。
積算価格や取引事例との開きに説明があるか
収益還元法の価格が、積算価格(土地と建物を積み上げた価格)と大きく離れることがあります。
その場合、どちらを重く見たのかと、その理由が書かれているかを確かめてください。
旧耐震の建物や、融資が付きにくい物件では、開きの説明がそのまま売り方の話につながります。
築年数が古い一棟の進め方は、旧耐震の一棟ビルの売却に書きました。
税金と手取りは、査定書とは別に確かめる
査定書の金額は売買価格の見込みで、手取りではありません。
運営費として引いた修繕費や固定資産税は、売却時の譲渡費用には含まれないと国税庁が示しています。
査定書の金額どおりに売れても、手元に残るのは仲介手数料や登記費用を引いたあとの金額です。
一棟の場合は、ここに建物部分の消費税の扱いも加わります。
一棟の手取りの考え方は一棟売却の税金と手取り、仲介手数料は一棟の仲介手数料にまとめました。
建物部分の消費税は一棟売却と消費税のほうです。
当社の売却シミュレーターは自宅の売却を前提にしているので、一棟の計算には使わないでください。
個別の税額や有利不利の判断は、税理士とご一緒に確認してください。
当社は福岡市博多区の売却専門で、一棟の売却も売主側の仲介としてお受けしています。
囲い込みはしないので、買主側に別の会社が付くこともあります。
サービスの内容は福岡市の一棟ビル・一棟マンション売却にまとめました。
査定書の5つの数字を一緒に読み直すところからで構いませんので、無料査定からお知らせください。
