表面利回りと実質利回りの違い|売主が査定書で見る数字
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士福岡市で一棟マンション・一棟ビル・アパートを売ろうとしていて、査定書や広告に並ぶ「利回り」の数字に引っかかっている方に向けた記事です。
表面利回りは、年間賃料を価格で割った数字になります。
実質利回りは、年間賃料から運営費を引いたうえで価格で割った数字です。
同じ建物でも2つの数字が出るので、どちらの話をしているのかが食い違うと、価格の話がかみ合いません。
2. 運営費には、何を入れるのですか?
3. 「満室想定」と「現況」では、どちらの利回りですか?
4. 広告や査定書の利回りは、どこを確かめますか?
5. 売主は、自分の物件の数字をどう用意しますか?
6. 次に何をすればよいですか?
表面利回りと実質利回りは、何が違うのですか?
分子から運営費を引くかどうか、その1点だけが違います。
分母はどちらも価格で、そこは変わりません。
計算式は2つだけ
表面利回りは、年間賃料 ÷ 価格 × 100 です。
実質利回りは、(年間賃料 − 運営費)÷ 価格 × 100 になります。
呼び方は、表面利回りが「グロス」、実質利回りが「ネット」です。
売主が自分で使う場面では、この2語を覚えておけば足ります。
では、売主はどちらを見ておけばよいのでしょうか。
買主に最初に見られるのは表面利回りで、融資の審査で効いてくるのが実質利回りに近い数字です。
片方だけを持っていると、買主から出てきたもう片方の数字に答えられません。
売り出す前に、両方を自分の手で計算しておいてください。
「運営費」に何を入れるかは、会社によって違う
引っかかりやすいのが、実質利回りのほうです。
どこまでを運営費に入れるかは、法律で決まった1つの定義があるわけではありません。
分母に購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用・不動産取得税など)を足す会社もあります。
同じ建物でも、資料を出した会社が違えば実質利回りの数字は変わる、という前提で読んでください。
数字そのものより、どの費目を入れたのかを聞くほうが早道です。
仮の物件で、両方を計算してみる
下の数字は、計算の形を見るための仮のものです。
福岡市の相場でも、当社が扱った物件の数字でもありません。
| 項目 | 金額・計算 |
|---|---|
| 価格 | 1億円 |
| 年間賃料(満室想定) | 700万円 |
| 年間の運営費 | 140万円 |
| 表面利回り | 700万 ÷ 1億 = 7.00% |
| 実質利回り | (700万 − 140万)÷ 1億 = 5.60% |
| 購入諸費用400万を分母に入れた場合 | 560万 ÷ 1億400万 = 5.38% |
同じ建物で、7.00%・5.60%・5.38%の3つが出ました。
どれも誤りではなく、数え方が違うだけです。
買主から「利回りが低い」と言われたとき、まず確かめるのはこの数え方のほうになります。
表面と実質がどれだけ離れるかは、賃料に対する運営費の割合で決まります。
上の例では運営費が年間賃料の20%なので、実質利回りは表面利回りの8割の水準になりました。
エレベーターのあるビルや、築年数の進んだ建物は、この割合が上がりやすい形です。
表面利回りだけで他の物件と見比べても、手元に残る金額は比べられません。
運営費には、何を入れるのですか?
建物を持ち続けるために毎年出ていく費用です。
国の基準に、賃貸用不動産の費用として挙げられている費目があります。
鑑定の基準が挙げている費目
国土交通省の不動産鑑定評価基準は、賃貸用不動産の総費用の中身を挙げています。
並んでいるのは、減価償却費、維持管理費(維持費・管理費・修繕費等)、公租公課(固定資産税・都市計画税等)、損害保険料等の諸経費です。
このうち減価償却費は、償却前の純収益を求める場合には計上しないと書かれています。
実務で実質利回りを出すときも、この並びをそのまま使えば抜けが出ません。
エレベーターの保守、消防設備の点検、受水槽の清掃、共用部の電気代は、維持管理費に入る費用です。
福岡市の固定資産税・都市計画税は、年4回に分かれる
公租公課のうち金額が大きいのが、固定資産税と都市計画税です。
福岡市の税率は、固定資産税が1.4%、都市計画税が0.3%になります。
都市計画税がかかるのは、市街化区域内の土地と家屋です。
納期は年4回で、令和8年度は4月・7月・12月・翌年2月に分かれています。
年税額を4で割り、1,000円未満の端数は第1期に合算する決まりです。
運営費に入れるのは、期別の金額ではなく年税額のほうになります。
年額がその場で分かるのは、手元の納税通知書1枚です。
税務の必要経費と、利回りの運営費は別物
確定申告で不動産所得の必要経費に入れた金額を、そのまま運営費に持ってくると数字がずれます。
借入金の利息は、必要経費には入りますが、利回りの運営費には入れないのが通例です。
利回りは建物が生む力を見る数字なので、買い方(現金か借入か)を混ぜないという考え方になります。
個別の税額や、どちらが有利かという判断は、顧問の税理士にお尋ねください。
もう1つ、空室損と未収金の扱いにも線があります。
この2つは費用ではないので、運営費には入れず、収入の側から引くのが筋です。
費用に混ぜても計算結果は近くなりますが、買主が内訳を検算したときに合わなくなります。
「満室想定」と「現況」では、どちらの利回りですか?
広告に出ている利回りの多くは、満室想定のほうです。
いま空いている部屋を、埋まっているものとして数えた数字になります。
満室想定は、空室を想定賃料で埋めて数える
10室のうち2室が空いていても、満室想定では10室ぶんの賃料で計算します。
空室に充てる賃料の出どころは、いま入っている部屋の賃料か、近隣の募集賃料です。
この置き方が強気だと、表面利回りだけが高く出ます。
売主側が気づかないまま高い数字を出すと、買主の調査で下がり、交渉で価格を削られる形になります。
現況利回りは、いま入っている賃料だけで数える
現況利回りは、実際に入金のある賃料だけを分子に置いた数字です。
2室空いていれば、8室ぶんで計算します。
買主が融資を申し込むとき、金融機関が見るのはこちらの数字です。
満室想定と現況の差が大きい建物ほど、買主は現況の数字で価格を考えます。
両方を並べて出すほうが、話が早い
売主の側から、満室想定と現況の2つを並べて出してください。
隠した側の数字は、買主が調査の過程で必ず見つけます。
あとから出てきた数字は、最初から出した数字より低く評価されます。
差がある理由(退去直後、募集中、改装中など)を1行添えれば、差そのものは減点になりません。
一括借り上げ(サブリース)が付いている建物では、分子の置き方がもう一段変わります。
オーナーに入るのは入居者の賃料ではなく、サブリース会社から支払われる賃料だからです。
契約の中身と売却への影響は、サブリース付きの一棟は売れる?解約の条件と買主の見方にまとめてあります。
広告や査定書の利回りは、どこを確かめますか?
確かめるのは3か所、利回りの種類・分母・分子です。
この3つが書いていない資料は、他社の資料と比べられません。
「どの利回りか」が書いてあるか
「利回り7.0%」とだけ書かれた資料は、表面か実質かが読み取れません。
満室想定か現況かも、同じく書き分けが要ります。
査定書を受け取ったら、まずこの2点を担当者に聞いてください。
答えられない資料を、価格の根拠には使えません。
査定の手法そのものの違いは、収益物件の査定方法3つ|収益還元法と積算の違いに分けて書いてあります。
分母と分子に、何が入っているか
分母は、売出価格なのか、諸費用を足した総投資額なのかで変わります。
分子に入るのが賃料だけなのか、駐車場・看板・自動販売機の収入まで含むのかも確かめてください。
共益費を賃料に含めたかどうかでも、出てくる数字は別物です。
複数社の査定を並べるときは、この内訳をそろえてから比べてください。
用語の意味を確かめたいときは、不動産売却の用語集にまとめてあります。
年間賃料に、消費税が入っていないか
事務所や店舗が入っているビルでは、ここがずれやすい箇所です。
国税庁によると、住宅の貸付けは消費税が非課税で、事務所などの建物の家賃は課税の対象になります。
同じ建物に住宅と店舗が混ざっている場合、住宅として貸した部分だけが非課税です。
税込の賃料と税抜の賃料を混ぜて足すと、分子だけがふくらんで利回りが高く出ます。
レントロールには、どちらで書いたのかを明記してください。
売ったときの消費税そのものの扱いは、収益物件の売却と消費税に分けて書いてあります。
売主は、自分の物件の数字をどう用意しますか?
賃借人の一覧と、直近1年の実際の支出から積み上げます。
買主の調査で崩れるのは、推計で出した数字のほうです。
レントロールから、賃料を積み上げる
部屋ごとに、賃料・共益費・敷金・契約期間・入居日を一覧にしてください。
空室は空室と書き、募集中の賃料を別の列に置きます。
滞納がある部屋は、滞納と分かる印を付けてください。
この一覧がそろうと、満室想定も現況も、同じ表から出せる形になります。
運営費は、直近1年の実額で出す
管理会社への支払い、清掃、点検、修繕、保険、そして公租公課。
通帳と請求書から、直近1年ぶんを拾ってください。
大規模修繕のように数年に一度の支出は、年額に均さず、別枠で書き添えます。
年額に均すと、その年だけ実質利回りが落ちた理由が読めません。
数字を出すときは、条件を1行添える
利回りの数字だけを渡すと、受け取った側が自分の定義で読み替えます。
添える1行は、「表面/実質」「満室想定/現況」「分母に諸費用を含むか」「賃料は税込か税抜か」の4点です。
たとえば「表面・満室想定・分母は売出価格・賃料は税抜」と書けば、他社の数字と横に並べられます。
この1行があるかどうかで、買主の側の検算が1日で終わるか、1週間かかるかが変わります。
次に何をすればよいですか?
順番は3つです。
1つ目に、レントロールと直近1年の支出を1つの表にまとめます。
2つ目に、表面・実質・満室想定・現況の4通りを、自分で計算しておきます。
3つ目に、査定書を受け取ったら、どの数え方かを必ず確かめてください。
当サイトの手取りの試算は自宅の売却を前提にした計算なので、一棟ものには当てはめないでください。
一棟の売却で何がどの順に起きるかは、福岡市の一棟ビル・一棟マンション・アパートの売却にまとめてあります。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入り、囲い込みをしません(買主側に別の会社が付くこともあります)。
最後まで担当するのは代表です。
税や登記は、税理士・司法書士と連携して進めます。
数字がそろった段階で、無料査定からご相談ください。
