一棟の売却理由はどこまで伝える?買主が気にする4つ
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟のアパートやビルを売りに出すと、ほぼ必ず聞かれる質問があります。
「どうして売られるのですか」です。
この質問に答えづらさを感じる方は多いのですが、買主が知りたいのは売主の身辺の事情ではありません。
買主が確かめたいのは1つだけ。
この物件に、自分が買ったあとで困るような問題が隠れていないか、という点です。
この記事は、福岡市内で一棟ものをお持ちで、売却理由をどこまで伝えるか決めかねている方に向けて書きました。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入り、囲い込みをしません。
一棟ものの売却の全体の流れは福岡市の一棟ビル・一棟マンション・アパートの売却にまとめています。
2. 買主が気にする4つは何ですか
3. 告げなければならない事実と、言わなくてよい事情の線はどこですか
4. よくある理由は、どう書けば疑われにくいですか
5. 福岡市では、売却理由とあわせて何を聞かれますか
6. 売る前に、何を用意すればよいですか
買主はなぜ売却理由を聞くのですか
物件に隠れた問題が無いかを確かめるためです。
収益物件を買う人が見ているのは、売主の人生ではなく、引き継ぐ資産の中身です。
買主が頭の中で置き換えている質問
「なぜ売るのか」は、買主の側では「自分が持ったら同じ問題を抱えるのか」という問いに置き換わります。
だから、売却理由そのものよりも、理由と物件の状態がつながっているかを見られます。
資産の組み替えという理由でも、直近で空室が3つ増えていれば、買主はそちらを疑うでしょう。
答えがぼやけると、価格の交渉材料になる
はっきりしない答えが返ってくると、買主は「言えない事情がある」と読みます。
そのうえで、分からない部分を見込んだ指値を入れてきます。
答えを用意していないことが、そのまま金額に跳ね返る形です。
聞いてくるのは買主だけではない
買主側の仲介会社も聞きますし、融資を出す金融機関も稟議のために理由を知りたがります。
同じ質問が3方向から来るので、答えは一度決めて揃えておくほうが楽です。
そのとき、相手によって違う理由を言わないでください。
買主側の仲介と金融機関は、同じ案件の情報をやり取りします。
買主が気にする4つは何ですか
大きな修繕が近い、空室と滞納が増えている、周辺の環境が変わった、テナントと係争がある、の4つです。
この4つのどれかが理由なら、買主は価格か条件で調整しようとします。
1. 大きな修繕が近い
外壁、屋上の防水、給排水の立管、エレベーター。
どれも金額が大きく、買った翌年に出ていくと買主の計画が崩れます。
直近の修繕の履歴と、見積もりを取ったことがあるなら、その金額も一緒に出してください。
隠して売ると、引き渡し後に責任の話になります。
2. 空室や滞納が増えている
買主は、満室想定の数字ではなく、いまの入居の状況を見ます。
ここ2年の稼働の推移と、滞納している部屋があるかどうかは、聞かれる前に出すほうが印象がよいでしょう。
空室を埋めてから売るか、空室のまま売るかの判断は満室にしてから売る?空室のまま売る?一棟の判断基準にまとめました。
3. 周辺の環境が変わった
近くに大きな競合物件が建った、主要なテナントの通りの人通りが減った、道路の計画が動いた。
こうした変化は、買主が自分で調べれば分かります。
調べれば分かることを黙っていると、交渉の途中で信頼を失うことになります。
ただし、こちらから先の見通しを語らないでください。
価格や家賃がこの先どうなるかを断定的に言うことは、宅地建物取引業法47条の2で禁じられています。
4. テナントとの係争がある
賃料の減額を求められている、退去をめぐって話がついていない、原状回復の費用で揉めている。
係争は買主がそのまま引き継ぐので、売却理由のなかで最も重い項目です。
内容証明や調停の記録があるなら、資料ごと開示するのが前提になります。
テナントへ売却を伝える時期は一棟ビル売却でテナントにいつ伝える?通知の時期と文面をご覧ください。
4つに当てはまらないなら、そう言ってよい
4つのどれも当てはまらない売却なら、それをはっきり伝えるのが得です。
「修繕は3年前に外壁をやっていて、空室は1戸、係争はありません」と先に言う。
買主はそこから価格の話に進めるので、調査の期間も短くなります。
告げなければならない事実と、言わなくてよい事情の線はどこですか
物件と取引条件に関わる事実は告げる、売主の個人の事情は告げる義務がない、という線です。
この2つを分けておけば、どこまで話すかで迷うことはありません。
宅建業法は、重要な事実を隠すことを禁じている
宅地建物取引業法47条1号は、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事実を、故意に告げないことを禁じています。
事実と違うことを告げる行為も、同じ条文で禁じられています。
これは不動産会社に課された義務ですが、売主が会社に伝えていなければ、会社も告げられません。
売主から会社への情報の出し惜しみが、結果として違反につながる構図です。
物件状況報告書と設備表に、分かっていることを書き出しておいてください。
免責の特約でも、知りながら黙っていた事実は残る
民法572条は、担保責任を負わない特約をしても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れないと定めています。
つまり「免責にしたから言わなくてよい」は成り立ちません。
雨漏りや給排水の不具合を知っていて黙っていれば、特約があっても後から請求される立場に戻ります。
免責の特約の範囲は一棟売却の契約不適合責任|買主が業者か個人かで変わる免責に書き分けました。
分からないことは「不明」と書く
物件状況報告書には、知っていることを書く欄と、分からないことを「不明」と書く欄があります。
前のオーナーから引き継いだ建物で、修繕の履歴が手元に無いこともあるでしょう。
そのときに「なし」と書くと、無いと告げたことになってしまうのです。
分からないものは「不明」と書く。
この書き分けだけで、引き渡し後の争いはずいぶん減ります。
築30年を超えた建物で不具合が1つも無いという書き方は、むしろ調べていない印に見えます。
言わなくてよい個人の事情
相続人のあいだでどう分けるか、離婚の経緯、どの銀行にいくら借りているか、手元にいくら残したいか。
これらは物件の状態でも取引条件でもないため、買主に伝える義務はありません。
それでも理由を聞かれたら、「相続した資産の整理のため」のように、物件の評価に関わらない形に置き換えて答えれば足ります。
嘘をつく必要はなく、話す範囲を決めておくだけです。
よくある理由は、どう書けば疑われにくいですか
理由を1行で言い切り、そのあとに物件の状態を数字で添える。
この順番にすると、理由だけが浮いて聞こえません。
理由だけを長く説明すると、かえって何か隠しているように読まれます。
相続・資産の組み替え
「相続した物件で、管理を続けられないため」「所有する不動産の構成を見直すため」。
どちらも買主が物件の欠点だと受け取りにくい理由です。
そこに「直近2年の空室は最大1戸、滞納なし」のように状態を添えると、理由と数字がつながります。
借入の返済・買い替え
返済のために売ると伝えると、急いでいると読まれて指値が入りやすいでしょう。
期限があるなら、理由ではなく条件として先に出すほうが効きます。
「3月までに決済できる方を優先します」と条件で示せば、急ぐ事情そのものは説明せずに済むはずです。
知られずに進めたい場合
テナントや近隣に知られたくない段階では、情報を出す順番そのものを設計します。
その進め方は収益物件を知られずに売る|情報を出す順番と媒介契約にまとめました。
当社は売主側に立つので、買主側に別の会社が付くこともあります。
福岡市では、売却理由とあわせて何を聞かれますか
定期報告の控えです。
福岡市は共同住宅の報告年度を区のグループで分けているため、売る年と報告年度が重なることがあります。
そのときは、買主から最新の報告を求められる場面が出てきます。
共同住宅は3年に1度、報告年度は区で分かれる
建築基準法12条の定期報告は、特定建築物について3年に1度です。
福岡市の共同住宅では、報告の年度が東区・城南区・早良区、博多区・南区、中央区・西区の3つのグループに分かれています。
どの年度が自分の物件に当たるかは、市が公開している一覧で確かめてください。
対象になるのは、共同住宅の用途に供する部分を持つ建築物のうち、5階以上の階にあるその用途部分の床面積の合計が100㎡を超えるものです。
報告年度と売却の年が重なったら
報告を出すのは所有者か管理者なので、引き渡しの前後どちらで出すかを決めておく必要があります。
調査結果表は報告の日より前3か月以内に作ったものでなければ受け付けられません。
売却の日程が決まっているなら、調査を頼む時期から逆算してください。
なお令和8年度からは、建築物の報告は電子申請が原則になりました。
昇降機は窓口が別
昇降機と遊戯施設の定期報告は、市ではなく福岡県建築住宅センターへの紙の申請です。
エレベーターのある物件では、提出先が2つに分かれることを押さえておいてください。
買主から「定期報告の控え一式」と言われたとき、片方だけ出すと不足を指摘されるでしょう。
売る前に、何を用意すればよいですか
4つの問いへの答えを1行ずつ書き、それぞれに裏付けの資料を1つ付ける。
これだけで、売却理由の準備は足りるでしょう。
答えと資料が揃っていれば、売却理由の質問に身構える必要はなくなります。
答えを1行ずつ書いておく
- 大きな修繕:直近の実施年と、見積もりの有無
- 稼働:ここ2年の空室の数と、滞納の有無
- 周辺:競合の新築や通行量の変化で、知っていること
- テナント:係争や交渉中の案件があるか
この4行を先に出すと、買主の質問は具体的な確認に変わります。
「なぜ売るのか」ではなく「外壁の見積もりは何社から取りましたか」という聞き方になるからです。
そこまで来れば、売却理由の話は終わっています。
資料で裏打ちする
修繕の履歴、レントロール、定期報告の控え、賃貸借契約書の一式。
必要な書類とその取得先は収益物件の売却に必要な書類|取得先と手数料の一覧にまとめています。
資料が揃っている物件ほど、買主の調査は早く終わるものです。
税金と手取りの相談先
売ったときの税率は、所有していた期間で分かれます。
所有が5年以下なら39.63%、5年を超えていれば20.315%です。
ただし一棟ものは減価償却で取得費が減っているため、手取りの計算は自宅とまるで違います。
当サイトの手取りの試算は自宅の売却を前提にしているので、一棟には当てないでください。
個別の税額と有利不利の判断は税理士の領域になるため、当社は税理士と連携してご案内します。
いまの価格を知りたい方は、無料査定で一棟アパート・一棟ビルを選んでお申し込みください。
代表が最後まで担当し、売却理由をどう伝えるかの整理からご相談を承ります。
