法人名義のビルを売る前に|税理士に聞いておく10のこと
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士資産管理会社や事業会社の名義で一棟ものを持っている場合、売却益の課税は個人とまったく違う形になります。
個人なら譲渡所得として切り離して計算し、長期譲渡で20.315%、短期譲渡で39.63%という税率が決まっています。
法人では、その切り離しがありません。
売却益はその事業年度の所得に合算され、本業の利益や繰越欠損金と一緒に計算されます。
そのため、いくら税金がかかるかは決算の全体を見ないと出てきません。
税額と有利不利を決めるのは税理士の仕事なので、売主側がやるのは、売る前に聞く項目を決めて渡すことです。
この記事では、その項目を10に絞って並べました。
2. 決算期と引渡し日で、何が変わるのですか
3. 帳簿の数字は、売る前にどこを見ますか
4. 税理士に聞いておく10のこと
5. 不動産会社が税額を計算しないのは、なぜですか
6. 次に何をすればよいですか
会社名義で売ると、個人とは何が違うのですか
売却益が独立した所得ではなく、その事業年度の法人の所得の一部になる点です。
本業が赤字なら売却益と相殺され、本業が黒字なら上に積み上がります。
同じ物件を同じ価格で売っても、会社の状況で税額が変わるという作りです。
分離課税ではなく、所得に合算されます
個人の譲渡所得は、給与や事業の所得とは別に計算します。
所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わるのも、個人の仕組みです。
法人には、この所有期間による区分がありません。
5年持っていた建物でも、2年で売った建物でも、所得への乗せ方は同じです。
売って損が出た場合も、同じ理屈で本業の利益から引くことになります。
個人の譲渡損失とは扱いが違うので、ここも税理士に確かめる項目です。
個人名義の一棟でかかる税金は一棟アパート・ビル売却の税金で減価償却から追いました。
税率は、法人の区分と所得で決まります
法人税の税率は、資本金の規模と所得の金額で分かれています。
令和7年4月1日以後に始まる事業年度では、中小法人等の年800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.20%です。
ただし、所得が年10億円を超える事業年度は、800万円以下の部分も17%になります。
前3年の所得の年平均が15億円を超える法人は、軽減税率の対象から外れて19%です。
この表を自分の会社に当てはめる作業が、すでに税理士の領域になります。
福岡市では、市民税の法人税割も一緒に増えます
法人税が増えれば、その法人税額をもとに計算する法人市民税の法人税割も増える形です。
福岡市の法人税割の税率は、令和元年10月1日以後に始まる事業年度で2つに分かれています。
資本金等の額が1,000万円を超える法人は8.4%、1,000万円以下の法人は7.6%です。
福岡市は、この法人税割に制限税率を、均等割には標準税率の1.2倍を採用していると説明しています。
理由として市が挙げているのは、地下鉄の整備などの財政需要です。
同じ売却益でも、本店をどの市に置いているかで市民税の金額が変わるということになります。
均等割のほうは区ごとの課税で、事務所や事業所を置いていた月数で按分する形です。
売ったあとに事務所を他の区へ移した場合は、その月数も計算に入ってきます。
申告先は、博多区役所9階の財政局税務部法人税務課です。
決算期と引渡し日で、何が変わるのですか
売却益がどちらの事業年度に乗るかが変わり、使える繰越欠損金の額も変わります。
引渡し日が決算期をまたぐかどうかは、売買契約の日程で動かせる部分です。
だからこそ、契約の前に税理士へ伝えておく必要があります。
売却益は、どの事業年度に乗りますか
物件の引渡しがどの事業年度に入るかで、売却益を計上する年度が決まります。
3月決算の会社なら、3月末の引渡しと4月初めの引渡しで、乗る年度が1年ずれる計算です。
1年ずれれば、相殺できる赤字も、使える特例の判定も変わります。
日程の希望は、買主との交渉が始まる前に決めておいてください。
繰越欠損金が残っているとき
青色申告書を出した事業年度に生じた欠損金は、10年にわたって繰り越せます。
平成30年4月1日より前に始まった事業年度の欠損金は、繰越しが9年です。
控除できる額には上限があり、中小法人等以外の法人は、控除前の所得の50%までとなっています。
使うのは古い年度の欠損金からという決まりなので、残っている期限の確認が先です。
期限が切れる直前の欠損金があるなら、引渡し日の置き方そのものが検討の材料になります。
申告と納税の期限
法人税の確定申告は、事業年度が終わった日の翌日から原則2か月以内です。
福岡市の法人市民税も、同じく原則2か月以内に均等割と法人税割を納めます。
売却益が大きい年ほど、この2か月に用意する納税資金も大きくなる形です。
売却代金を借入の返済に充てきってしまうと、納税の段で足りなくなります。
福岡市では、事業所税の申告も同じ法人税務課が受け付けています。
こちらの期限は、事業年度が終わった日から2か月以内です。
売った建物を事務所として使っていた場合、床面積と従業者数の申告内容が変わります。
帳簿の数字は、売る前にどこを見ますか
見るのは、土地と建物それぞれの帳簿価額、消費税の課税事業者かどうか、そして按分の3つです。
この3つは税理士が持っている資料で確かめられます。
査定の段階で分かっていると、手取りの見通しが立てやすくなります。
帳簿価額と売買価格の差が、売却益になります
売却益のもとになるのは、売買価格と帳簿に残っている金額の差です。
建物は減価償却で毎年価値を落としてきているので、帳簿価額が実際の価値より小さくなっていることが珍しくありません。
その状態で売ると、価格が買ったときより低くても売却益が出る場合があります。
土地と建物で帳簿価額が別に管理されているため、両方の数字が必要です。
土地のほうは、減価償却をしないので取得したときの金額が残り続けます。
では、高い時期に買った土地はどうなるでしょうか。
帳簿価額が売買価格を上回り、土地の部分では売却損になることもあります。
減価償却で帳簿価額が下がった建物では売却益、土地では売却損、という組み合わせです。
どちらも同じ事業年度の所得で足し引きされるので、合計で見ないと結論が出ません。
土地と建物の按分は、どう決めますか
売買価格を土地と建物に分ける作業が、消費税と売却益の両方に効いてきます。
建物の譲渡は課税、土地の譲渡は非課税という扱いの違いがあるためです。
按分の決め方と契約書の書き方は収益物件の売却と消費税に分けて書きました。
どの数字を使うかは買主との合意事項でもあるので、契約書を作る前に税理士の考え方を聞いておいてください。
消費税の課税事業者かどうか
建物の売却代金には消費税が乗るため、納める義務があるかどうかで手取りが変わります。
免税事業者のまま売った場合に後から起きることも、上の記事で扱いました。
売った翌年の申告で何が必要になるかは収益物件を売った翌年の確定申告にまとめてあります。
税理士に聞いておく10のこと
下の10項目を、査定を頼む前後のどこかで一度まとめて聞いてください。
順番に意味はなく、どれか1つでも抜けると手取りの見通しがずれます。
聞く項目の一覧
- 土地と建物それぞれの帳簿価額
- 繰越欠損金の残額と、使える期限
- 消費税の課税事業者に当たるか
- 土地と建物の按分を、どの数字で決めるか
- 決算期と、引渡し日をどこに置くか
- 売却代金の使い道(返済、設備、次の物件)
- 借入の繰上返済にかかる費用と、担保を外す段取り
- 役員の退職金を出す予定があるか
- 物件ではなく株式で売るという選択肢があるか
- 事業用資産の買換えの特例が使えるか
この一覧をそのまま印刷して渡していただいても構いません。
1番から4番は、税理士の手元にある決算書と総勘定元帳で確かめられます。
5番から7番は、売主側で決める部分なので、会社の資金計画と並べて考える項目です。
借入の繰上返済については、金融機関に違約金の有無と担保を外す段取りも聞いておいてください。
8から10は「選択肢があるか」まで聞きます
後半の3つは、使えるかどうかの判断が会社ごとに大きく変わる項目です。
役員退職金は、出す時期と金額の決め方で扱いが変わります。
株式で売る形は、買主が会社ごと引き受けられる場合にだけ成り立つ選択です。
事業用資産の買換えの特例には、法人の場合に圧縮記帳という仕組みがあります。
この特例は届出の期限が決められているので、売ったあとに相談すると間に合わないことがあります。
どれも「使えますか」ではなく「選択肢に入りますか」と聞くところから始めてください。
聞くのは、売り出す前です
10項目のうち5番から10番は、売り出したあとでは動かせなくなります。
引渡し日は買主との合意事項になり、株式で売る形は募集の仕方そのものが変わるためです。
では、いつ聞けばよいのでしょうか。
査定を頼んだ段階で、同時に税理士へ投げておくのがいちばん早い順番です。
価格の目安が出てから聞くと、そのあいだに買主の希望する日程が先に決まってしまいます。
不動産会社が税額を計算しないのは、なぜですか
税務相談と税務書類の作成は、税理士でなければ行えない業務だからです。
当社が税額の有利不利をお伝えすることはできません。
代わりに、税理士が計算するために必要な資料を、売買の側からそろえてお渡しします。
税理士法が決めている線
国税庁は、税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つを税理士の業務としています。
この3つは、無償であっても税理士でない者は行ってはなりません。
根拠は税理士法第52条。
違反した場合の罰則も、同じ法律に定められています。
不動産会社が「この売り方なら税金が安くなります」と言い切らないのは、ここに理由があります。
出典:国税庁 税理士法違反行為
当社が引き受ける範囲
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入る立場です。
囲い込みはしないので、買主側に別の会社が付くこともあります。
税理士と司法書士とは連携しているため、必要な資料のやり取りは当社が間に入って進められます。
代表が最後まで担当するので、途中で引き継ぎのために説明をやり直していただくことはありません。
お渡しするのは、売買契約書と重要事項説明書の案、価格の根拠、按分の考え方、引渡し日の候補です。
これがそろえば、税理士は試算に入れます。
なお、当サイトの手取りの試算はご自宅の売却を前提にしているため、法人名義の一棟には使えません。
次に何をすればよいですか
先に税理士へ上の10項目を投げて、並行して価格の目安を取ってください。
価格が分からないと税理士も試算ができず、税務が分からないと引渡し日を決められないからです。
売却の進め方と、一棟もので当社が見ているところは福岡市の一棟ビル・一棟マンションの売却に書いてあります。
決算期が近い会社は、残りの月数から逆に数えてください。
査定から引渡しまでの日程が決算期をまたぐなら、そこが最初の相談事項になります。
価格の目安だけを先に知りたい場合は、無料査定で一棟アパート・一棟ビルを選んでお申し込みください。
