自社ビルを売って借り続ける|一棟のセール&リースバック
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士自社ビルを売って、同じ建物を借りたまま事業を続ける取引を、セール&リースバックと呼びます。
この記事は、福岡市内に自社ビルを持つ会社の経営者に向けて、仕組みと決めることを整理したものです。
先に結論を書きます。
売却価格と、売ったあとに払う賃料は、切り離して決められません。
賃料を高く設定すれば価格は上がり、その代わりに毎月の支払いが重くなるという関係にあります。
個人の自宅で使われるリースバックとは、当たる決まりも契約の形も違うので、そこも分けて説明します。
2. 国交省のガイドラインは居住用が対象
3. 価格は、賃料と契約期間で決まる
4. 定期借家か普通借家か、買戻しをどうするか
5. 税金と会計は税理士へ|確かめる順番だけ
6. まとめ|賃料を決めてから、価格の話をする
自社ビルのセール&リースバックとは
セール&リースバックは、会社が持っているビルを売り、同じ建物を買主から借りて使い続ける取引です。
登記の名義と賃料の支払いが変わるだけで、机も看板も動きません。
移転の費用と手間がかからないため、本社や工場のように場所を変えにくい建物で検討されます。
売る側の目的は3つに分かれる
目的は、資金化・借入の返済・貸借対照表の軽量化の3つです。
1つめの資金化では、建物と土地が現金に変わるぶん、設備投資や運転資金に回せます。
2つめは、そのビルを担保にした借入の返済です。
この場合、売り出す前に取引銀行へ話を通す順番になります。
売却代金で全額を返せるのか、足りないときに残りをどう扱うのかで、売り出し価格の下限が決まるためです。
売却代金で返して抵当権を外せば、毎月の返済が賃料に置き換わります。
3つめは、貸借対照表の軽量化です。
固定資産が減るため、総資産に対する利益の割合の見え方も変わります。
どの目的が中心かで、価格を優先するか賃料を優先するかが逆になります。
借りる側として負うものを先に書き出す
売ったあとに会社が負うのは、賃料だけではありません。
- 毎月の賃料と、その改定の条件(何年ごとに、どの指標で見直すか)
- 契約期間と、期間が来たあとの扱い(更新できるのか、終わるのか)
- 修繕の負担(屋上防水や空調のような大きな工事を、貸主と借主のどちらが持つか)
- 原状回復の範囲と、解約するときの予告の期間
- 敷金や保証金の額と、返還の条件
このうち見落とされやすいのが修繕の負担です。
所有者だった間は自分の判断で直せたものが、売ったあとは貸主との交渉事になります。
もう1つ読んでおきたいのが、賃料の改定条項です。
見るのは、何年ごとに見直すのかと、何を根拠に見直すのかの2点になります。
「3年ごとに協議する」とだけ書いてあると、協議が決裂したときの扱いが残りません。
自宅のリースバックと同じに考えない
自宅のリースバックは、売主がそのまま住み続けることを前提にした取引です。
そちらには2026年10月1日から国の指針が当たり、説明すべき事項が細かく決まりました。
中身はリースバックの新ルール総まとめにまとめています。
自社ビルの場合、借主は会社であって、そこに住むわけではありません。
この違いが、次の節で見る決まりの当たり方に直結します。
国交省のガイドラインは居住用が対象
2026年10月1日に施行された国土交通省のリースバックのガイドラインは、居住用の取引を対象にしています。
正式には「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」という文書です。
売買のあとも相手方がそこに居住し続けることを目的とした取引が、ここで想定されています。
自社ビルはこの指針の想定に入らない
会社が事務所として借り続ける取引は、居住を目的としたものではありません。
そのため、住宅向けに整理された説明義務が、そのままの形で当たるとは言えません。
売主が中小企業であっても、建物が事業用であればこの線引きは同じです。
自宅の売却と並べると、もう1つ見落としやすい差があります。
個人の自宅なら、住み続けられなくなったときの行き先は引っ越し先の1つです。
事業用のビルでは、移転先の確保と、移転のあいだ止まる業務まで費用として乗ります。
ただし宅地建物取引業法そのものは当たる
指針の対象外であることと、何も規制が無いことは別です。
宅地建物取引業法は、事業用の建物の売買を扱う会社にも当たります。
賃料や契約期間のように判断の決め手になる事実を、故意に告げない行為は法律で禁じられています。
将来の賃料や価格について「必ずこうなる」と言い切る説明も、同じ法律が禁じているものです。
つまり、守る会社かどうかを売主が見分ける材料は、事業用でも残っています。
住宅向けの20項目は、事業用でも質問表として使える
住宅のリースバックで会社が告げるべき項目は、20ほどに整理されています。
賃料、契約期間、更新の有無、修繕の負担、買戻しの条件といった中身です。
一覧はリースバックの告知20項目にまとめました。
事業用では義務として当たらないとしても、買主候補へ渡す質問表としてはそのまま使えます。
答えが返ってこない項目があれば、そこが交渉の論点になります。
買主候補が複数いるなら、同じ質問表を全員に渡して答えを並べてください。
価格だけを並べた比較表では、賃料と期間の違いが消えます。
価格は、賃料と契約期間で決まる
買主がこの取引で見ているのは、その建物からいくらの賃料が、何年のあいだ入るかです。
自宅の売買のように、周辺の成約価格だけで決まるわけではありません。
売主の会社が借主になるので、売主の事業そのものが買主の判断材料に入ります。
賃料を上げれば価格は上がり、毎月の負担も増える
この2つは、同じつまみの両端にある関係です。
仮に賃料を年1,200万円から年1,500万円に上げると、買主が見込む年間の収入は300万円増えます。
そのぶん売却価格は上がりますが、会社は毎年300万円を多く払い続けます。
10年使い続ける前提なら、増えた家賃の総額は3,000万円です。
価格がそれより上がらないなら、手元の現金は増えても、10年で見ると損な取引になります。
どちらを取るかは、その資金を何に使うかで決まります。
契約期間が短いと、価格は下がりやすい
買主から見た契約期間は、収入が続く年数そのものです。
3年で終わる契約なら、4年目以降は空室か、別のテナントを探す前提になります。
一方、長い期間で縛れば価格は安定しますが、会社が出たくなったときに出られません。
中途解約の条件と、そのときの違約金をいくらにするかが、ここでの交渉になります。
解約を申し入れる何か月前に伝えるのかも、同じ条文で決めておく項目です。
移転の計画は半年単位で動くので、予告の期間が短すぎると使えません。
自宅用の試算ツールは使えない
当サイトの手取りの試算は、個人が自宅を売る前提で作っています。
自社ビルの売却では、法人の税金の扱いも消費税の有無も前提が別です。
数字を当てはめても答えになりませんので、一棟の試算には使わないでください。
一棟の査定の考え方は収益物件の査定方法3つに分けて書いています。
定期借家か普通借家か、買戻しをどうするか
使い続けられる年数を決めるのは、価格ではなく賃貸借契約の形です。
選ぶのは定期借家か普通借家の2つで、ここを曖昧にしたまま売買を進めると後で戻せません。
定期借家は、期間が来たら終わる
定期建物賃貸借は、契約で定めた期間の満了で終了し、更新がありません。
結ぶときに、書面で「更新がない」ことを説明する手続きが必要になります。
貸主から見れば出口が読めるので、価格の交渉では有利に働きやすい形です。
借主の会社から見ると、期間が来たあとは再契約の合意ができるかどうかが頼りです。
普通借家は、正当な事由が無ければ終わらない
普通借家の契約では、貸主が更新を断るのに正当な事由が要ります。
借主の立場は定期借家より強いので、使い続ける年数の見通しが立てやすい形です。
その代わり、買主は出口が読みにくいぶん価格を抑える判断に傾きます。
違いの詳しい整理はリースバックで何年住める?にまとめました。
売買と賃貸借は、同じ日に同じ内容で固める
売買契約と賃貸借契約は、同じ日に固めてください。
売買を先に結び、賃貸借の条件を後から詰める形にすると、交渉の主導権が買主に移ります。
引渡しが終わった時点で、会社はその建物にいる借主の1社という立場になります。
賃料も期間も買戻しも、売買契約に添える賃貸借契約書の案として先に見せてもらう順番です。
買戻しを入れるなら、条件まで書面にする
将来その建物を買い戻したい場合は、売買契約の段階で条件を決めておきます。
- 買い戻せる期間(いつからいつまで)
- 買戻しの価格、または価格の決め方
- 買主が第三者へ転売したときに、その権利が残るのか
- 買戻しの意思を伝える方法と期限
口約束で「そのときは相談しましょう」としか決めていないと、相手が変わった時点で消えます。
買戻しの仕組みはリースバックの家は買い戻せる?で説明しました。
税金と会計は税理士へ|確かめる順番だけ
自社ビルの売却では、消費税と法人の決算の両方が動きます。
税額や有利不利の判断は税理士の仕事なので、ここでは確かめる順番だけを書きます。
売るときは、土地と建物で扱いが分かれる
土地の譲渡は消費税が非課税で、建物の譲渡は課税の対象です。
そのため、売買代金を土地と建物にどう分けるかが契約書の論点になります。
分け方と契約書の書き方は収益物件の売却と消費税にまとめました。
借りるときの賃料には、消費税がかかる
住宅の家賃は消費税が非課税ですが、非課税になるのは住宅としての貸付けに限られます。
事務所や店舗として借りる場合の賃料は、課税の対象です。
毎月の負担を見るときは、賃料に消費税を足した金額で比べてください。
当社は税額の判断をしません
税理士法52条により、税理士でない者が税務相談を行うことはできません。
当社は、売買の条件と契約の形をお手伝いする立場です。
売却益の額、どの決算期に入れるか、消費税の申告の方法は、顧問税理士に確かめてください。
税理士に何を聞けばよいかは法人名義のビルを売る前にに一覧があります。
まとめ|賃料を決めてから、価格の話をする
自社ビルのセール&リースバックは、価格と賃料を同時に決める取引です。
先に「いくらなら毎月払えるか」を決めてから、価格の話に入ってください。
順番が逆になると、価格に引かれて払えない賃料を飲むことになります。
契約の形も同じで、定期借家か普通借家かは売買の条件を固める前に決めるものです。
テナントや従業員、金融機関へ知らせる順番は収益物件を知られずに売るに書きました。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入ります。
情報を止める囲い込みはしません。
買主側に別の会社が付くこともあり、そのぶん声をかけられる相手は増えます。
代表が最後まで担当し、登記は司法書士、税務は税理士と連携して進めます。
一棟の売却の全体像は福岡市の一棟ビル・一棟マンションの売却にまとめました。
いまのビルで試算したい方は、無料査定から一棟アパート・一棟ビルを選んでご相談ください。
