容積率オーバー・既存不適格の一棟を売る|買主と融資の現実
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士「この建物は既存不適格です」「いまの基準だと容積率オーバーです」と言われて、売れるのかどうか不安になった方に向けた記事です。
結論として、既存不適格の一棟ビル・アパートは売れます。
建てた当時の基準に適合していた建物なので、違法な建物ではありません。
いまある建物をそのまま使い続けることも、売ることもできます。
変わるのは、建て替えや増築のときの条件と、買える人の層です。
この記事で整理するのは4つです。
既存不適格と違反建築の違い、買主が何を買うつもりで検討するのか、融資でどこが止まるのか、福岡市でどう確かめるのかという順で見ていきます。
接道がなくて建て替え自体ができない再建築不可とは別の話なので、混ぜずに読んでください。
2. 容積率オーバーだと、何が起きるのですか
3. 買主は、何を買うつもりで検討するのですか
4. 融資は付きますか
5. 福岡市では、どこで容積率を確かめますか
6. 税金はどう考えればよいですか
7. 次に何をすればよいですか
既存不適格とは何ですか。違反建築とどう違うのですか
既存不適格は、建てた当時は適法だったのに、あとからの法改正や都市計画の変更で現在の基準に合わなくなった建物です。
違反建築は、建てた当時から基準に違反していた建物で、扱いがまったく違います。
建築基準法3条2項が、現行の規定を適用しないと定めている
根拠になるのは建築基準法3条2項です。
施行または改正のときに既に存在していた建築物で新しい規定に適合しないものには、その規定を適用しないと定めています。
つまり、法律のほうが「いまの基準には当てはめない」と決めている状態です。
容積率が後から引き下げられた区域の建物や、建蔽率の指定が変わった敷地の建物が、これに当たります。
所有者が何か悪いことをしたわけではありません。
違反建築は是正の対象になる
一方の違反建築は、確認を受けずに増築した部分がある、確認の内容と違う建て方をしているといった建物です。
特定行政庁から是正を求められる立場になるため、売るときの説明も別の重さになります。
買主側の金融機関は、違反部分があると融資をほぼ出しません。
既存不適格と違反建築が同じ言葉で語られることがありますが、売却では分けて扱ってください。
売るときの扱いが、この2つで変わる
既存不適格なら、現況と、建て替えのときに同じ規模が建たない旨を買主へ説明したうえで売る形です。
違反建築で先に来るのは、是正してから売るのか、是正を前提に価格を決めるのかという判断です。
どちらなのかが曖昧なまま売り出すと、買主の調査で出てきて契約の直前で止まります。
自分の建物がどちらなのかは、確認済証・検査済証と建築計画概要書を並べれば判断の材料がそろいます。
容積率オーバーだと、何が起きるのですか
いまの建物はそのまま使えますが、建て替えると同じ延床面積が建ちません。
増築や大規模の修繕をしようとしたときにも、制限がかかってきます。
建て替えると、いまの容積率まで縮む
建て替えは新築なので、現行の容積率が適用されます。
仮に敷地200㎡で、いまの建物の延床が500㎡あるとしましょう。
その敷地の指定容積率が200%なら、建て替えで建つのは400㎡までです。
延床が100㎡減れば、貸せる面積も家賃収入もその分だけ落ちるという計算です。
この落ち込みが、建て替え前提の買主にとっての減点になります。
増築にも、面積の上限がかかる
既存不適格の建物を増築するときは、建築基準法86条の7と建築基準法施行令137条の7が緩和の条件を定めています。
条件のひとつが、増築後の延べ面積を基準時の1.2倍以内に収めることです。
つまり、既存不適格のまま無制限に増やせるわけではありません。
緩和の範囲は規定ごとに違い、実際の計算は特定行政庁の取扱いにも左右されるのです。
大規模の修繕や用途変更でも確認が必要になる
外壁や屋根を大きくやり直す工事では、建築確認が必要になる場合があります。
テナントビルを住居に変える、事務所を店舗に変えるといった用途変更でも確認が絡んできます。
買主が建物の使い方を変えたい場合に、計画が止まりやすいのがここです。
この壁は、検査済証が残っていない建物でも同じ形で現れます。
そちらは検査済証がないビル・アパートは売れるかに書きました。
買主は、何を買うつもりで検討するのですか
買主は2通りです。
いまの賃料収入を買う人と、土地として買う人に分かれるのです。
どちらに当てるかで、売り出すときに前へ出す材料が変わってきます。
賃料収入を買う人は、建て替えを前提にしない
いまの入居状況で収益が回っているなら、建て替えずに持ち続ける買主がいます。
この買主にとって、容積率オーバーは直ちに損にはなりません。
見られるのは、現在の賃料と空室、修繕の履歴、残りの使用年数の4点です。
逆算の仕組みは利回りから売却価格を逆算をご覧ください。
土地として買う人は、建つ延床で価格を決める
建て替えや開発を前提にする買主は、いまの建物ではなく建つ延床面積を見ます。
先ほどの例なら、500㎡の建物があっても400㎡しか建たない土地として評価されます。
既存建物の解体費も、買主の計算から引かれるためです。
そのため、賃料収入を買う人のほうが高い金額を出す場合があります。
どちらに当てるかを、売り出す前に決める
賃料収入で見せるなら、そろえるのは入居者ごとの契約一覧と修繕の記録です。
土地として見せるなら、先に要るのは敷地の測量図と、現行基準で建つ規模の整理です。
両方の買主に同時に当てることもできますが、資料の作り方は変わってきます。
売り出しまでの手順は一棟ビル・アパートの売却の流れにまとめています。
当社は売主側の仲介として入り、囲い込みをせずに買主を広く探す方針です。
融資は付きますか
買主の融資は、所有権で現行基準に適合した建物より付きにくくなることがあります。
理由は、担保として評価する前提に、法令への適合と残りの使用年数が入ってくるからです。
金融機関が先に見る書類
確認済証、検査済証、確認申請の図面がそろっているかを見られます。
そろっていれば、既存不適格であることを前提にした審査に進める形です。
書類が欠けていると、適法かどうかを確かめる作業から始まるため、時間がかかります。
買主の検討を止めないために、売主の側で先にそろえておいてください。
築年数が融資の期間に効く
容積率が引き下げられた区域の建物は、引き下げより前に建っているぶん築年数が進んでいるはずです。
融資の期間が短くなれば、買主の毎月の返済額は上がります。
返済額が上がるぶん、買主が出せる価格は下がるという関係です。
旧耐震の時期に当たる建物では、買える人の層がさらに動きます。
その違いは旧耐震ビル・一棟マンションの売却をお読みください。
結果として、自己資金の厚い買主に寄る
融資の条件が厳しくなると、現金や自己資金の割合が高い買主が残ります。
買える人の数そのものが減るので、売り出してから決まるまでの期間は読みにくいのが実際です。
価格を下げれば早く決まるという単純な関係でもありません。
融資が付かない買主は、価格ではなく資金の都合で検討から外れるためです。
そのため、売り出す前にどの属性の買主へ当てるかを決めて、資料をそろえる順番になります。
現金で動ける買主に当てるなら、価格を下げるより先に、意思決定に必要な資料を厚くするほうが効きます。
既存不適格であることを隠して売り出すと、買主の調査で出てきたときに一から仕切り直しになるためです。
福岡市では、どこで容積率を確かめますか
まず福岡市Webまっぷの都市計画情報マップで概要を見て、そのあと市の窓口で確定させる流れです。
地図で見た数字をそのまま売却の資料に使ってはいけません。
Webまっぷは確認用で、取引には窓口の確認が要る
福岡市は、Webまっぷの情報が確認用であることを明記しています。
土地・建物の取引のように権利や義務が発生する場面と、建築確認申請のときは、来庁して窓口備え付けの図面と係員で確認するよう案内されています。
用途地域や建蔽率・容積率の境界付近にある土地も、窓口での確認を求められる扱いです。
一棟ものは敷地が広く、境界付近にかかることもあるので、ここは必ず窓口で押さえてください。
敷地が2つの用途地域にまたがると、容積率は面積に応じた加重平均で計算します。
この計算を地図の見た目で済ませると、建つ延床面積の見積りがそのままずれてしまうのです。
売る前に押さえる数字としては、ここがいちばん効きます。
窓口は、都市計画と建築指導で分かれている
用途地域・容積率・建蔽率の指定そのものは、都市計画を担当する課が扱います。
建築確認や、既存不適格の建物の増築・用途変更の取扱いは、建築指導を担当する課です。
どちらに聞けばよいか分からないときは、先に都市計画の側で指定を確かめてください。
福岡市は、重要事項説明で建築基準法に関してよくある問い合わせを別にまとめています。
建てた当時の数字は、建築計画概要書で見る
いまの指定と並べて見たいのが、建てた当時の容積率と延床面積です。
確認を受けたときの数字が残っているのは、建築計画概要書と建築確認台帳の記載事項証明です。
当時と今を並べると、どの規定でいつから不適格になったのかが見えてきます。
概要書が残っていない年代の建物もあるので、無ければ次に当時の図面と登記の建物表示を当たります。
どこへ何を請求するかは福岡市7区の手続き窓口ガイドをご覧ください。
税金はどう考えればよいですか
一棟ものの売却には、自宅を売ったときの特例は使えません。
譲渡所得にかかる税率は所有期間で決まり、5年超の長期譲渡なら20.315%です。
賃貸に出していた建物は減価償却をしているので、取得費はその分だけ小さくなります。
法人で持っている場合は、そもそも譲渡所得の計算ではなく法人の所得として扱われます。
個別の税額と有利不利の判断は、当社ではなく税理士の領域です。
当社は税理士・司法書士と連携して進めますが、税額の計算そのものは引き受けません。
サイトの手取りの試算は自宅の売却を前提にしているので、一棟には当てないでください。
手取りの考え方は一棟の売却と手取りに書いています。
次に何をすればよいですか
手元でできることは3つです。
- 確認済証・検査済証・建築計画概要書を探し、建てた当時の延床面積と容積率を書き出す
- 福岡市Webまっぷでいまの指定を見たうえで、市の窓口で確定させる
- 入居者ごとの契約一覧と、直近の修繕の記録をそろえる
この3つがそろうと、賃料収入を買う買主と土地として買う買主の、どちらに当てるかを決められます。
一棟の売却の進め方は福岡市の一棟ビル・一棟マンション・アパートの売却にまとめています。
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