収益物件を売った翌年の確定申告|必要書類と減価償却の扱い
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士一棟アパートやビルを売ったオーナーが、翌年の確定申告で何を用意するのかを整理した記事です。
自宅の売却と大きく違う点が1つあります。
出す申告が、1つではありません。
譲渡所得のほかに、売った年の1月1日から引渡しまでの不動産所得の申告が要ります。
消費税を納める義務があるオーナーなら、そこへ消費税の申告も加わります。
この記事では、期限、必要な書類、減価償却費の扱い、固定資産税の精算金をどちらの所得に入れるかを並べました。
個別の税額や有利不利の判断は、税理士か税務署にご確認ください。
2. 譲渡所得の申告で、何を用意しますか?
3. 減価償却は、譲渡所得でどう扱いますか?
4. 売った年の不動産所得は、別に申告しますか?
5. 税理士に何を頼み、売主は何をしますか?
収益物件を売ったら、いつ確定申告をしますか?
所得税の申告は、売った年の翌年2月16日から3月15日までです。
提出先は物件の所在地ではなく、売主ご自身がお住まいの地域を管轄する税務署です。
福岡市博多区にお住まいなら、博多駅東2-11-1の博多税務署が窓口になります。
区ごとの窓口は福岡市7区の手続き窓口ガイドにまとめました。
なお、ここで書くのは個人が持っている一棟の話です。
法人の名義で持っている物件は、法人税の申告の中で扱うため手続きが別になります。
| 出すもの | 期限 | 使う用紙 |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 翌年2月16日〜3月15日 | 確定申告書+譲渡所得の内訳書(土地・建物用) |
| 売った年の不動産所得 | 翌年2月16日〜3月15日 | 確定申告書+青色申告決算書か収支内訳書 |
| 消費税(義務がある場合) | 翌年3月31日 | 消費税及び地方消費税の確定申告書 |
消費税の申告だけ、期限が2週間あとになる
個人事業者の消費税の申告と納税の期限は、翌年3月31日です。
所得税の3月15日と同じ日ではないので、別の期限として控えておいてください。
納める義務があるかどうかは、売った年ではなく2年前の課税売上高で決まります。
判定と土地建物の按分は収益物件の売却と消費税|土地建物の按分と契約書の書き方で分けました。
年末の引渡しは、準備の期間が2か月しかない
12月に引渡した場合、申告の受付が始まるまで2か月ありません。
買った時の契約書を探す、過去の決算書から償却費を集める、税理士に依頼する。
この3つが年末年始をはさんで重なります。
引渡しの日を自分で決められる段階なら、年明けに回せば準備の時間が1年ぶん増える計算です。
契約が年内で引渡しが年明けになる取引では、どちらの年の譲渡になるかで申告の年が変わります。
原則は引渡しの日で判定し、契約の日で申告することも認められています。
年をまたぐ日程になりそうなときは、契約の前に税理士へ相談してください。
譲渡所得の申告で、何を用意しますか?
必要なのは、売った時と買った時の売買契約書、仲介手数料などの領収書、減価償却の明細の3点です。
譲渡所得は、売った金額から取得費と譲渡費用を引いた額です。
この3点は、そのまま「引けるもの」の証拠になります。
売買契約書では、土地と建物の内訳が分かれているかを先に見てください。
建物の金額が分からないと、減価償却費を引いた取得費も消費税の課税売上も出せません。
買った時の契約書が一括の総額だけだった場合に使うのが、固定資産税評価額の比で按分する方法です。
買った時の契約書が無いと、取得費は5%になる
取得費が分からない場合、売却価格の5%を概算取得費として使う方法があります。
一棟ものでは金額が大きいので、この5%で計算すると譲渡所得がふくらみます。
この5%は土地と建物を合わせた売却価格に対する割合で、建物だけを別に計算する形ではありません。
相続で引き継いだ物件なら、亡くなった方が買った時の契約書を探してください。
5%の使いどころは取得費が不明な実家の売却、概算5%の注意点で説明しました。
譲渡費用になるもの、ならないもの
譲渡費用は、売るために直接かかった費用です。
仲介手数料、売買契約書の印紙税、測量費などが入ります。
一棟ものでは、売るために借家人へ支払った立退料も譲渡費用になります。
土地を売るために建物を取り壊した場合の取壊し費用も、同じく譲渡費用です。
一方、固定資産税や修繕費のように資産の維持や管理のためにかかった費用は、譲渡費用になりません。
領収書が見つからない支出は、振込の控えや通帳の記録で代わりにならないかを税理士に確かめてください。
手数料の金額の出し方は一棟マンション・ビル売却の仲介手数料|1億〜5億円の早見表で計算しました。
使う用紙は、確定申告書とは別にある
譲渡所得は「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」に書いて、確定申告書に添付します。
収入金額、取得費、譲渡費用の順に並べる形になっています。
分離課税なので、不動産所得や給与と合算して1つの税率で計算するわけではありません。
共有で持っていた一棟なら、持分の割合で分けてそれぞれが申告します。
1人がまとめて出す形は取れないので、共有者の人数ぶん同じ書類が要ります。
減価償却は、譲渡所得でどう扱いますか?
建物の取得費は、買った金額から所有期間中の減価償却費相当額を引いた額です。
賃貸に使っていた建物なら、引く額は取得してから売るまでの毎年の減価償却費の合計です。
経費にしてきた分だけ取得費が小さくなるので、譲渡益は帳簿上の残高より大きく出ます。
必要経費にしなかった分も、引く
国税庁は、必要経費に算入しなかった部分があっても合計の考え方は変わらないとしています。
赤字の年に償却を止めていたつもりでも、計算上は引かれる扱いです。
過去の決算書や青色申告決算書の減価償却の明細を、取得した年までさかのぼって集めてください。
給排水やエレベーターなどの附属設備、外構や塀などの構築物を建物と分けて償却していた場合は、その明細も要ります。
耐用年数が建物と違うぶん、残っている金額も別の計算です。
相続で引き継いだ物件では、亡くなった方の取得日と取得価額をそのまま引き継ぎます。
相続した日が取得日になるわけではないので、亡くなった方が計上してきた償却費も集める対象です。
古いアパートほど、この書類探しが申告の作業時間を決めます。
仕組みと耐用年数の表は一棟アパート・ビル売却の税金|減価償却で手取りが減る理由にまとめました。
売った年の償却費は、不動産所得のほうで数える
売った年の減価償却費は、1月から引渡しの月までの分を不動産所得の経費にします。
1年分をそのまま計上する形ではありません。
月数で按分した残りは、取得費の計算に回ります。
年の途中で売ると、家賃収入は数か月分しか入りません。
一方で固定資産税の1年分や保険料は残るので、売った年の不動産所得が赤字になることもあります。
その赤字を分離課税の譲渡所得と相殺できるかどうかは、税理士にご確認ください。
所有期間は、売った年の1月1日で数える
税率が変わる5年の境は、引渡しの日からさかのぼって数えるのではありません。
売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかで判定します。
5年超の長期譲渡なら20.315%、5年以下の短期譲渡なら39.63%で計算します。
数え方の例は譲渡所得税の短期と長期の違い|5年でどう変わるに置きました。
売った年の不動産所得は、別に申告しますか?
要ります。
1月1日から引渡しまでに受け取った賃料と、その間の経費を不動産所得として申告します。
管理委託料、修繕費、固定資産税、借入金の利息、減価償却費が経費の中身です。
青色申告をしていた場合は、青色申告決算書(不動産所得用)に売った月までの数字を書きます。
白色なら収支内訳書です。
いつもの年と同じ用紙に、12か月ではなく引渡しまでの月数を書く形になります。
滞納されたまま回収できていない家賃も、受け取る権利が確定した分は不動産所得の収入です。
入金が無かったぶんを黙って外すと、賃料の台帳と申告の数字が合わなくなります。
固定資産税の精算金は、不動産所得ではない
引渡し日で日割り精算して買主から受け取る固定資産税相当額は、賃料と同じ扱いにできません。
国税庁は、この未経過固定資産税等に相当する額を譲渡所得の収入金額に算入するとしています。
売買代金に足して、譲渡所得の側で数える金額です。
そもそも固定資産税を課税されるのは、その年の1月1日の所有者です。
年の途中で売っても納税通知書は売主に届くので、買主から受け取るのは税金ではなく売買条件としての精算金になります。
精算書の数字をそのまま不動産所得の雑収入に入れると、どちらの所得も違う額になります。
敷金・保証金の引き継ぎは、収入に入らない
入居者から預かっている敷金や保証金は、退去時に返すお金です。
買主へ引き継ぐぶんを決済で差し引いても、それは収入ではありません。
引き継ぎ方と精算書の書き方は一棟のオーナーチェンジ売却|敷金・保証金はどう引き継ぐ?にあります。
税理士に何を頼み、売主は何をしますか?
書類を集めるのが売主、計算と判断が税理士の役割です。
当社は福岡市博多区の売却専門で、売主側の仲介として入っています。
税務の申告は行わないため、連携している税理士へのお取り次ぎまでが当社の役割です。
売却では囲い込みをしないので、買主側に別の会社が付くこともあります。
最後まで代表が担当し、精算書と契約書の数字は申告に使える形でお渡しします。
売却の側から出る書類
売買契約書、重要事項説明書、仲介手数料の領収書、決済時の精算書が売却で出る書類です。
この4点は、譲渡所得の収入金額と譲渡費用の根拠になります。
精算書には固定資産税の精算金、賃料の日割り、敷金の引き継ぎが1枚に並びます。
どの行がどちらの所得に入るのかは、この記事の前半で分けたとおりです。
買った時の契約書と過去の決算書は、オーナーの手元にしかありません。
売却を決めた時点で探し始めると、申告の時期に慌てずに済みます。
税理士へ渡す前に、A4で1枚の年表を作っておくと話が早く進みます。
取得した日と金額、土地と建物の内訳、各年の減価償却費、大規模修繕の金額と年、売却の日と金額を1枚に並べるだけです。
この5つがそろえば、取得費と譲渡費用の計算に必要な材料はほぼ埋まります。
自宅用の試算は、一棟に使わない
当サイトの売却シミュレーターは、自宅の売却を前提にしています。
減価償却で取得費が減る計算も、消費税も入っていません。
一棟ものの手取りを見るときは、この試算を当てにしないでください。
申告で困るのは、たいてい買った時の契約書と過去の償却費です。
売ったあとも、契約書と精算書は申告が終わるまで手元に残してください。
一棟の売却の進め方は福岡市の一棟ビル・一棟マンション売却、価格の目安は無料査定からご相談いただけます。
