民泊に使っていた家の売却と告知|告知書に書く4つのこと
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士民泊をやめて家を売ると決めたとき、「民泊に使っていたことは買主に言わないといけないのか」と迷う方がいます。
先に結論を書きます。
民法にも宅地建物取引業法にも、「民泊に使っていたこと」を名指しで告げるよう定めた条文はありません。
そのかわり、買主の判断に影響する事実を知っていて黙ると、引渡しのあとに売主の責任が残ります。
民泊の家で、その事実にあたりやすいのは変えた設備・宿泊客が使った傷み・近所からの苦情・届出や許可の履歴の4つです。
書く先は、物件状況報告書(売主が家の状態を書いて買主に渡す書類)です。
この記事は、福岡市で民泊を運営してきたオーナーが、その1枚に何をどう書くかを決められるように書きました。
やめるときの届出の順番と期限は民泊をやめて家を売る手順にまとめたので、ここでは「伝える中身」だけを掘り下げます。
2. 民泊のために変えた設備は、どう書けばいい?
3. 宿泊客が使った傷みは、どこまで書く?
4. 近所からの苦情は、告知書に書く必要がある?
5. 届出や許可の履歴は、何をそろえて渡す?
6. 告知書を書いたあと、売却はどう進める?
民泊に使っていたことは、買主に告知する義務がある?
民泊に使っていた事実そのものを告げるよう求める条文はなく、問われるのは、買主の判断に影響する事実を伝えたかどうかです。
ただ、民泊の家ではその事実の多くが「民泊に使っていたから」生まれています。
そのため、使い方の経緯を一言添えておくと、残りの記載が買主に通じやすくなるのです。
民法が見ているのは「契約の内容と合っているか」
引き渡した家が契約の内容と合っていなければ、買主は売主に修理を求められます(民法562条)。
修理されなければ代金の減額(563条)、さらに損害賠償や契約の解除(564条)まで進む道もあります。
これが契約不適合責任と呼ばれるものです。
裏を返せば、告知書と契約書に書いてあった傷みや変更は「契約の内容」に入ります。
書いてあったことを理由に、あとから買主が修理を求めることはできません。
もう1つ押さえておきたいのが566条です。
買主は不具合を知ってから1年以内に売主へ知らせないと請求できなくなります。
ところが、売主が引渡しの時に不具合を知っていた場合は、この1年の区切りが当てはまりません。
知っていて書かなかったことは、時効(不具合を知った時から5年、引渡しから10年)まで請求されるおそれがあるということです。
出典:e-Gov法令検索 民法
不動産会社は「判断に重要な影響」のある事実を隠せない
宅地建物取引業法47条は、不動産会社が、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事実を故意に告げないことを禁じています。
ただし、不動産会社が知ることができるのは、売主から聞いた話と調べて分かったことだけです。
国土交通省の人の死の告知に関するガイドラインも、仲介する会社は売主に告知書(物件状況等報告書)への記載を求める、という形を基本に置いています。
つまり、買主へ届く情報の元になるのは、売主が報告書に書いたことです。
民泊の経緯は、報告書の備考欄に期間と結末を1行で書けば足ります。
たとえば「2021年から2025年まで住宅宿泊事業の届出をして民泊に使用、2025年に廃業の届出済み」という形です。
民泊のために変えた設備は、どう書けばいい?
民泊のために付けた・外した・作り替えた設備は、場所と時期といまの状態を書き、残すものは付帯設備表(引き渡す設備と状態の一覧)にも載せます。
住まいとして買う人にとって、こうした変更は入居前に手直しするかどうかを決める材料になるからです。
消防の設備は、通知書と一緒に残すか外すかを決める
福岡市で届出の民泊を始めるときは、区の消防署から消防法令適合通知書を受け、福岡県への届出に添えます。
その過程で、住宅用の火災警報器より大きな設備や、誘導灯を付けた家もあるでしょう。
残すなら、いまも動くか、最後に点検したのはいつかを書いてください。
外すなら、天井や壁に残る取り付け跡をどう処理したかまで書いておきます。
消防法令適合通知書と、そのとき出した平面図の控えは、報告書と一緒に買主へ見せられるように残しておくと話が早く進みます。
買主が同じように民泊を考えていれば、どこまで設備がそろっているかを確かめる手がかりになるためです。
間仕切り・鍵・水回りの増設は、工事の記録ごと渡す
泊められる人数を増やすために、部屋を仕切った家があります。
暗証番号やカードで開ける鍵に付け替えた家、シャワーやトイレを足した家もあるでしょう。
どれも住まいとして使う買主には、元に戻すか、そのまま使うかの判断が要る変更です。
書くのは「どこを」「いつ」「誰が工事したか」の3つで、見積書や請求書が残っていれば添えます。
電子錠は、管理用の暗証番号やアプリの登録を消してから引き渡すことも報告書に書いておくと、買主の不安が1つ減ります。
水回りを足した家では、配管を延ばした先で水漏れや詰まりが起きていなかったかも、知っている範囲で書いてください。
旅館業の許可を受けるために建物の用途変更の手続きをした家なら、その書類も渡します。
用途変更がどんなときに要るかは古くて売れない実家を民泊の買主へで触れました。
宿泊客が使った傷みは、どこまで書く?
売主が知っている傷み・故障・修理の履歴は、民泊の期間のものも含めて全部書きます。
人の入れ替わりが多いぶん、床や水回りや建具の使われ方は住まいより重くなりがちで、買主もそこを気にして内覧に来ます。
記憶ではなく、管理業者や清掃の記録から拾う
家主が住んでいない民泊では、清掃や苦情の対応を住宅宿泊管理業者に任せていたはずです。
その場合、家の状態をいちばん知っているのはオーナーではなく、管理業者や清掃の担当者かもしれません。
報告書を書く前に、清掃のたびの報告、修理の請求書、宿泊客が壊した物の記録を集めてください。
そこに「浴室の排水が流れにくい」「網戸が外れた」とあれば、それはオーナーが知っていたことになります。
直した不具合も、直した時期と業者を書けば、買主には安心材料に変わるでしょう。
一方で、記録にも記憶にも無いことまで調べ直して書く義務は、売主にはありません。
分からない欄は「不明」と書き、どこまで分かっているかを添えれば十分です。
書き方の目安は物件状況報告書はどこまで書く?必ず書く4項目に詳しく書きました。
壊れたままの設備を直してから売るか、伝えて価格で調整するか。
その判断の目安は住宅設備が壊れていても不動産は売れる?に挙げました。
宿泊中に人が亡くなっていたら
民泊の期間に宿泊客が亡くなった場合も、売主が知っていれば報告書に書く欄があります。
国土交通省のガイドラインが対象にしているのは、住まいとして使う不動産です。
病死や老衰などの自然死と、入浴中の事故のような日常生活の中の死は、原則として告げなくてよいとしています。
ただし、発見が遅れて特殊清掃や大がかりなリフォームをした場合は、買主の判断に重要な影響を及ぼしうるとして、告げる側に入れています。
賃貸にある「おおむね3年」という区切りは、売買には書かれていません。
民泊の家を住まいとして売るなら、この考え方を目安に、迷う段階で担当者に話しておくのが確実です。
期間の考え方は事故物件の告知義務はいつまで?にまとめています。
近所からの苦情は、告知書に書く必要がある?
続いていた苦情や、話し合いで近所と約束したことがあるなら、時期・内容・どう収まったかを書きます。
民泊をやめれば止む苦情でも、近所の受け止め方は残っていて、買主は住み始めてからそれに気づくことになるからです。
苦情の記録を管理業者の報告書からそろえる方法は、民泊の近隣トラブルに書いています。
近所の人は、民泊だったことをたいてい知っている
届出の民泊は、玄関や門の見やすい場所に標識を掲げる決まりです。
福岡県は標識にQRコードを付け、県のホームページで届出住宅かどうかを確かめられるようにしています。
スーツケースを引いた宿泊客の出入りも、近所の人は見ていたはずです。
民泊だったことを伏せても、買主が近所にあいさつに行った日に知る、という流れになりかねません。
そのときに苦情の話まで一緒に耳に入れば、売主が隠していたと受け取られるでしょう。
先に報告書へ書いておけば、同じ話でも「聞いていたとおりだ」で終わります。
何を書くか:時期・内容・収まり方
届出の民泊では、近所からの苦情に深夜や早朝も応じる体制が求められています。
管理業者に任せていたなら、苦情を受けた日と内容と対応の記録が業者の手元にあるはずです。
書くのは「2024年夏、夜間の話し声について隣家から3回苦情、管理業者が宿泊客に注意し、以後は収まった」のような粒度で足ります。
ごみ出しの場所や駐車について近所と取り決めたことがあれば、それも書いてください。
マンションなら、民泊について理事会や総会で議題になったかどうかも買主が知りたい情報です。
近所とのやりとりを書いたうえで売る流れそのものは、家の不具合は先に伝える?契約不適合責任と伝え方の順番と同じ考え方で進められます。
届出や許可の履歴は、何をそろえて渡す?
届出や許可を受けたこと、廃業や廃止の届出を済ませたことが分かる控えを、報告書と一緒に買主へ見せられるようにそろえます。
買主は、民泊の事業がきちんと閉じているか、自分が使うときに何を取り直すかを、この控えで確かめるからです。
福岡市内の家なら、記録は4か所に分かれている
福岡市内の民泊は、制度ごとに窓口が分かれています。
控えが見つからないときに、どこへ問い合わせればよいかの目安にもなるので、表にしました。
| 書類の控え | 出した先 | 買主にとっての意味 |
|---|---|---|
| 住宅宿泊事業の届出と廃業の届出 | 福岡県(生活衛生課) | 届出の民泊が閉じているか |
| 旅館業の許可と廃止の届出 | 区の衛生課 | 許可の営業が閉じているか |
| 消防法令適合通知書と図面 | 区の消防署 | どこまで設備を付けたか |
| 宿泊税の廃止の届出 | 福岡市(宿泊税係) | 税の手続きが残っていないか |
届出の民泊と旅館業の許可は、どちらか一方だけの家がほとんどでしょう。
自分が使った制度の行だけそろえれば足ります。
届出と許可の違いや、年180日の上限などの制度そのものは空き家を民泊にするにはで説明しました。
許可を事業ごと引き継げるかは旅館業の許可は売却で引き継げる?にあります。
宿泊者名簿は渡さない。件数や期間で伝える
届出の民泊では、宿泊者の氏名や住所を書いた名簿を3年間保存する決まりがあります。
この名簿は、廃業したあとも売主が保存するもので、買主に渡す書類ではありません。
宿泊客の個人情報が並んでいるので、家を売るときに資料として出すのは避けてください。
民泊として使われていた様子を伝えたいなら、運営していた期間と、おおよその年間の宿泊日数のように、名前の出ない形で十分です。
売上の資料を出すときの注意は民泊を運営したまま売るにはに書きました。
告知書を書いたあと、売却はどう進める?
報告書に書いた内容が契約書と重要事項説明書に写っているかを確かめ、契約不適合責任を負う期間を決めてから契約に進みます。
報告書に書いただけで契約書に反映されていないと、書いた事実が契約の内容に入っていないと争われる余地が残るためです。
免責の特約は、書いたことにだけ効く
個人が売主の取引では、契約不適合責任を負わない、または期間を短く区切る特約を入れるのが一般的です。
当社では、引渡しから3か月を標準にしています。
ところが民法572条は、売主が知りながら告げなかった事実については、こうした特約があっても責任を免れないと定めています。
民泊の期間に起きた水漏れを知っていて書かなければ、免責の特約を結んでいてもその分は残る、ということです。
特約の限界は契約不適合責任の免責特約は有効?に、期間の数え方は契約不適合責任はいつまで?に分けて書いています。
実際に裁判になった例は雨漏りを隠して売却したらで読めるので、迷ったときの判断材料にしてください。
住まいとして売るか、民泊の買主も含めて探すか
報告書に書く中身は、誰に売るかで重みが変わります。
住まいとして買う人には、間仕切りや消防の設備は手直しの対象です。
一方で、住まいとしては買い手が付きにくい家でも、民泊の買主が条件に合えば検討する場合があります。
ただし、民泊に使える家として売り出しても、実際に買うのが民泊の買主とは限りません。
どちらの買主にも伝わるよう、民泊に使っていた事実と設備の状態は報告書にそのまま書いておきます。
民泊で運用する道と、売る場合との比べ方は、民泊で運用する(福岡市)のページにまとめています。
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