旅館業の許可は売却で引き継げる?|民泊の事業譲渡と承継
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士旅館業の許可を取って民泊を営んでいる建物を、売ろうか迷っている方がいます。
そのとき最初に気になるのが「この許可は買主に引き継げるのか」という点でしょう。
先に答えると、建物だけを売れば許可は付いていかず、事業ごと譲って譲渡の前に承認を受ければ引き継げます。
この記事は、福岡市で旅館業(簡易宿所など)の許可を受けて宿を運営しているオーナーが、どちらの売り方を選ぶかを決めるために書きました。
民泊の制度そのもの(届出と許可の違い・年180日・宿泊税・売るときの3,000万円控除との関係)は、空き家を民泊にするにはにまとめてあります。
ここで掘り下げるのは、売るときの許可の行方だけです。
2. 建物だけを売る場合と、事業ごと譲る場合は何が違う?
3. 事業譲渡で許可を承継するには、何が要る?
4. 福岡市では、承継の手続きをどこでする?
5. 住宅宿泊事業の届出で民泊をしている家は、引き継げる?
6. 民泊に使ってきた建物、売るか続けるか迷ったら?
旅館業の許可は、建物を売ると買主に引き継げる?
建物の売買だけでは引き継げず、事業ごと譲って承認を受けたときに限り、買主が営業者の地位を承継できます。
この承認の仕組みができたのは、2023年12月13日の改正からです。
根拠は旅館業法の第3条の2です。
福岡市のように保健所を置く市では、承認するのは市長になります。
2023年12月13日の改正で何が変わったか
改正の前は、事業を譲る場合でも、売主が廃業の届出を出し、買主が一から許可を申請する流れでした。
2023年12月13日からは、合併・分割・相続と同じく、承認の手続きだけで地位を引き継げる形に変わりました。
条文の書き方は「譲渡人及び譲受人がその譲渡及び譲受けについて都道府県知事の承認を受けたときは、譲受人は、営業者の地位を承継する」。
つまり、売主(譲渡人)と買主(譲受人)の両方が承認の当事者になります。
許可は「建物」ではなく「営業する人」に出ている
旅館業法第3条は、旅館業を営もうとする者が許可を受けると定めています。
許可を受けているのは建物ではなく、そこで宿を営む人(営業者)です。
この違いが、売り方による差を生みます。
建物の名義が買主に移っても、許可は売主の手元に残ったままになるからです。
反対に、建物は持っているだけで、宿の営業は別の人や会社が許可を取って行っている場合もあるでしょう。
その場合、許可を持っているのは営業している側なので、建物を売っても許可の名義は動きません。
貸している契約を買主がどう扱うかは、売買の条件として決めることになります。
建物だけを売る場合と、事業ごと譲る場合は何が違う?
建物だけを売ると、買主は今の基準で新しく許可を取り直し、事業ごと譲ると、承認によって今の許可の内容と条件を原則そのまま引き継ぎます。
違いを表にまとめました。
| 項目 | 建物だけを売る | 事業ごと譲る |
|---|---|---|
| 買主の手続き | 新規の許可申請 | 売主と買主で承認の申請 |
| 福岡市の手数料 | 22,000円 | 7,400円 |
| 許可の内容 | あらためて審査 | 原則として変わらない |
| 売主の届出 | 廃止の届出 | 承認で地位が移る |
建物だけを売る:買主は許可を取り直す
建物と土地だけを売る場合、買主が宿を続けたいなら、買主自身が新規に許可を申請します。
福岡市の案内では、新規の申請手数料は22,000円で、書類を出してから許可書の交付まで14営業日ほどかかります。
気をつけたいのは、新規の申請では施設の構造設備や設置場所が、申請した時点の基準で見られることです。
売主が許可を取ったときには通った建物でも、買主の申請で同じ結果になるとは言い切れません。
福岡市の手引きでは、低層住居専用地域などにはホテル・旅館を置けないとされています。
買主が「民泊を続ける前提」で買うのか「住まいや別の用途」で買うのかは、契約の前にはっきりさせておくべき点です。
売主の側は、営業をやめたら区の衛生課へ廃止の届出を出すことになります(福岡市の案内では、廃止した日から10日以内)。
事業ごと譲る:許可の内容と条件が原則そのまま移る
建物とあわせて宿の事業そのものを譲る場合は、承認を受ければ買主が営業者の地位を引き継ぎます。
厚生労働省の資料では、承継の前後で許可の内容は原則として変わらず、許可に付いていた条件も原則として引き継がれるとしています。
福岡市の承認の手数料は7,400円で、新規の22,000円のおよそ3分の1です。
ただし、どんな譲り方でも対象になるわけではありません。
1つの許可で2つの棟をまとめて営業している人が、片方の棟の事業だけを譲るような「一部の譲渡」は、この仕組みの対象外とされています。
譲ったあとに部屋を増やすなどの工事をするなら、承継とは別に変更の届出が要り、同じ施設と言えないほどの変更なら新規と同じ扱いになります。
事業譲渡で許可を承継するには、何が要る?
譲渡の効力が生じる前に売主と買主がそろって承認を申請し、買主が法律の欠格事由に当たらないかの審査を受けます。
順番を間違えると承継の仕組みそのものが使えなくなるため、契約の日付の決め方から考えましょう。
譲渡の「前」に承認を受ける
厚生労働省の資料には、譲渡の効力が承認より前に発生する場合は新規の許可が必要になり、承認の制度は使えないと書かれています。
福岡市の案内にも同じ趣旨の記載があります。
たとえば決済と引渡しを先に済ませてから申請すると、その時点で買主は新規の許可を取り直すしかありません。
申請に添える「旅館業の譲渡を証する書類」は、譲渡が終わったことではなく、これから譲ることを示す書類です。
基本は譲渡契約書などの写しで、当事者の譲渡の意思・譲渡の事実・譲渡の効力発生日の3つが読み取れる必要があります。
守り方は、売買契約の中で事業の譲渡の効力発生日を承認の見込みより後に置くことです。
買主が当てはまってはいけない条件
承認では、新規の許可と同じく、買主(譲受人)が欠格事由に当たらないかが見られます。
旅館業法第3条の2第2項が、第3条第2項の申請者についての部分を「譲受人」と読み替えて当てはめているためです。
主な欠格事由は次のとおりです。
- 破産手続開始の決定を受けて、復権を得ていない人
- 旅館業法の許可を取り消され、取消しの日から3年を経過していない人
- 暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない人
- 法人で、業務を行う役員に上の事由に当たる人がいる場合
学校や児童福祉施設などの周囲おおむね100mにある施設の扱いを定めた第3条第3項も、承認に準用されています。
買主がどんな人なのかを、売主の側も契約の前に知っておく必要があるということです。
福岡市では、承継の手続きをどこでする?
福岡市では、施設がある区の衛生課が窓口で、譲渡を予定している日の1か月前を目安に相談するよう案内されています。
許可を申請したときと同じ窓口なので、最初に許可を取った区の衛生課を思い出してください。
区の衛生課へ、譲渡予定日の1か月前に相談
福岡市の「旅館業の営業について」には、事業譲渡は譲渡予定日の1か月前を目途に相談するよう書かれています。
添付書類は状況によって変わるため、市は施設所在地の区の衛生課に確かめるよう求めています。
承認の手数料は7,400円で、現金のみ、納めたあとの返金はできません。
1か月前という目安は、売買の段取りに置き直すと「契約書の案ができた頃には相談を始める」という時期にあたります。
承継したあとには、保健所が承継した人の業務の状況を調べる決まりです(厚生労働省の案内)。
この調査は、当分の間、承継の日から6か月を経過するまでに少なくとも1回行うと、改正法の附則第3条第2項に定められています。
相続で引き継ぐときは死亡後60日以内
売る前に、営業者だった親が亡くなって相続が起きることもあります。
旅館業法第3条の4では、相続人が宿を続けるなら、亡くなった日から60日以内に申請して承認を受けなければなりません。
相続人が2人以上いるときは、全員の同意で引き継ぐ1人を選びます。
申請をしていれば、承認か不承認の通知を受けるまでの間、亡くなった人の許可は相続人に出ていたものとみなされます。
福岡市の案内では、相続の承認申請の手数料も7,400円です。
60日は相続の手続きに追われているうちに過ぎてしまう長さなので、宿を続けるかどうかは葬儀のあと早めに家族で決めておくと慌てません。
届出の民泊では届出そのものが相続人に引き継がれないことも含め、家族で先に決めておきたい点は民泊のやめどきはいつ?にまとめています。
相続した宿を事業ごと売りたいなら、まず60日以内に相続人が地位を引き継ぎ、そのあとで事業譲渡の承認を受ける、という2段の順番になります。
住宅宿泊事業の届出で民泊をしている家は、引き継げる?
住宅宿泊事業法には、旅館業法の第3条の2のような地位の承継の規定がありません。
届出をした人だけがその住宅で事業を営めるという仕組みなので、買主が民泊を続けたいなら、買主自身が届出をすることになります。
許可と届出では、売るときの手続きが違う
旅館業の許可なら事業ごと譲って承認を受ける道がありますが、届出の民泊にはその道がありません。
売主は事業をやめた時点で廃業の届出を出し、買主は買主で新しく届出をする、という別々の手続きになります。
届出の民泊を運営ごと売るときの段取りは、民泊を運営したまま売るにはで説明しています。
届出の要件・年180日の上限・廃業の届出の期限は、空き家を民泊にするにはで一次情報をもとに説明しています。
売る前に手元でそろえておく書類
許可でも届出でも、買主がまず知りたいのは「この建物で宿を続けられるか」です。
旅館業の許可の場合、厚生労働省は、譲受人が売主の許可や変更届のときに出した図面などの控えを管理するよう求めています。
許可書・申請時の図面・変更届の控えが手元にあれば、買主はそれを見て判断できるでしょう。
無くした場合は、まず区の衛生課に、写しを取り寄せられるかを問い合わせることから始めましょう。
不動産の売却そのものに要る書類(登記・固定資産税・図面など)は、売却に必要な書類の一覧へ。
民泊に使ってきた建物、売るか続けるか迷ったら?
売るなら建物だけか事業ごとかで買主の層が変わり、続けるならいまの許可を前提に持ち方を考えることになります。
どちらが合うかを分けるのは、建物の条件と、ご自身がいつまで営業に関われるかです。
住まいとして売りにくい家でも、民泊の買主が検討する場合がある
住まいとしては買い手が付きにくい家でも、民泊の買主が条件に合えば検討する場合があります。
旅館業の許可を取って使ってきた建物なら、許可書や図面の控えが買主の判断の材料です。
民泊の買主は現金か事業向けの融資で買うことが多く、住まいとして買う人より数も限られます。
住まい・賃貸の買主と並べて探し、どの相手に向けて売り出すかを決めていくのが現実的な進め方です。
ただし、民泊向けにすれば高く売れると決まっているわけではありません。
まず査定で、売り方ごとの見え方を確かめる
建物だけを売るか、事業ごと譲るかで、売り出しの相手も契約書の書き方も変わります。
許可書や図面の控えがあるなら、査定のときにお見せいただくと、どちらの売り方で出すかを一緒に考えられます。
売った場合の価格を知りたい方は、無料査定からご依頼ください。
民泊で運用する道と、売る場合との比べ方は、民泊で運用する(福岡市)のページにまとめました。
売らずに民泊を続けるか迷っている段階なら、15分無料相談をお使いください。
持ち続ける場合と売る場合のどちらが合うかを、一緒に整理するための時間です。
承認の手続きそのものは福岡市の区の衛生課が窓口なので、事業ごと譲る方向が固まったら、早めに衛生課へも相談してください。

