民泊を運営したまま売るには|引き継げるもの・できないもの
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士福岡市で民泊を運営していて、そのまま次のオーナーに売れないかと考えている方へ書いています。
家具も予約も口コミもそろった状態なら、まとめて引き継いでもらえそうに見えます。
ところが、住宅宿泊事業の届出は届け出た人に付くもので、建物と一緒に買主へ移すことはできません。
買主はあらためて自分で届出をし、売主は廃業の届出をする、というのが国の決まりです。
この記事では、運営ごと売る場合に引き継げるもの・引き継げないものを表にまとめました。
入っている予約や売上の実績の扱いまで、売る前に決めておくことを順に書いています。
届出の制度そのもの(年180日・届出前の書類・宿泊税など)は空き家を民泊にするにはで説明しているので、ここでは繰り返しません。
2. 運営ごと売るとき、引き継げるもの・引き継げないものは
3. 入っている予約は、引渡しの日をまたぐとどうなりますか
4. 賃貸のオーナーチェンジとは何が違うのですか
5. 売上の実績を資料で出すときは、何に気をつけますか
6. 運営ごと売るか、民泊をやめて売るか、どう決めますか
民泊を運営したまま、次のオーナーに売れますか
建物と家具・設備は運営中のまま売れますが、住宅宿泊事業の届出は売れないため、買主は自分の名前で新しく届出をしなければなりません。
「民泊ごと売る」といっても、法律の上で移せるのは物と一部の契約だけです。
届出は「人」に付く。買主は新規の届出、売主は廃業の届出
国の住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)は、住宅宿泊事業者に変更があった場合の扱いをはっきり書いています。
変更の届出ではなく、いまの事業者が廃業の届出をし、別の事業者が新規で届出をする、という形です。
売主の廃業の届出は、事業を廃止した日から30日以内に出します。
さらに、1つの住宅に届出ができるのは1つの事業者だけで、すでに届出がある住宅に重ねて届け出ることはできません。
売主の届出が残ったままだと、買主の届出が受け付けられないということです。
福岡市内の物件なら、届出も廃業の届出も、窓口は市ではなく福岡県の生活衛生課になります。
年180日の日数は、家ごとに通算される
見落としやすいのが、泊めた日数の数え方です。
同じガイドラインは、日数を事業者ごとではなく届出住宅ごとに数え、事業者が変わっても通算すると定めています。
数える期間は4月1日から翌年3月31日までの1年度です。
たとえば売主がその年度に120日泊めていれば、同じ年度のうちに買主が泊められるのは残りの60日まで。
ガイドラインは、新しく始める人がその家の宿泊実績を都道府県に確かめるよう求めています。
買主から聞かれる前に、年度ごとの泊めた日数を売主のほうで出せるようにしておくと、話が早く進みます。
なお、旅館業法の許可で営業している場合は扱いが違い、2023年12月13日からは事業譲渡でも営業者の地位を引き継げるようになりました。
許可の場合の手続きは、届出の民泊とは別に保健所への相談から始まります。
許可を事業ごと買主へ引き継ぐ方法は、旅館業の許可は売却で引き継げる?にまとめました。
運営ごと売るとき、引き継げるもの・引き継げないものは
建物・家具・設備は売買で買主に渡せますが、届出・予約サイトのアカウント・管理業者との契約は売主個人に結び付いているため、そのままは移りません。
主なものを表にまとめました。
| 項目 | 買主に引き継げるか | 売る前にやること |
|---|---|---|
| 建物と家具・家電 | 引き継げる | 売買に含める家具の一覧を作る |
| 予約サイトのアカウントと口コミ | 引き継げるとは限らない | 各サイトの規約を確かめる |
| すでに入っている予約 | そのままは引き継げない | 引渡し日より後の予約を数える |
| 管理業者との契約 | そのままは引き継げない | 解約の予告期間を確かめる |
| 消防の設備と書類 | 設備は残る。書類は確認が要る | 点検の記録と通知書の写しをそろえる |
| 住宅宿泊事業の届出 | 引き継げない | 売主は廃業の届出、買主は新規の届出 |
建物と家具は、売買契約に一覧で書き込む
ベッドや寝具、家電、食器などの家具も、建物と一緒に売れる対象です。
ただし「家具付き」とだけ書くと、引渡しの日に何が残っていればよいのかで食い違いが起きます。
品名と数を一覧にして、売買契約の付帯設備の表か別紙に書き込んでおくと、残す物と持ち出す物の線が引けます。
壊れている物や交換が近い家電も、その一覧に書き添えておけば後から揉めません。
家の不具合をどの順番で伝えるかは、家の不具合は先に伝える?で整理しました。
予約サイトのアカウントと口コミは、規約しだい
予約サイトのアカウントは、運営している人や会社とサイトとの契約です。
建物の売買で自動的に買主のものになるわけではなく、譲れるかどうかは各サイトの規約で決まります。
口コミも、そのアカウントの掲載に付いているものなので、引き継げるとは限りません。
もう1つの壁は届出番号です。
ガイドラインは、仲介サイトに届出番号などの適法性の情報を表示するよう定めています。
買主の届出番号は売主のものと別になるため、掲載を続けるとしても中身の書き換えが要ります。
口コミの評価を売り文句にするなら、引き継げるかどうかを先に確かめてからにしてください。
消防の書類と管理業者の契約は、買主の名前で取り直す前提で
自動火災報知設備や誘導灯などの消防の設備は、建物に付いているので買主に残ります。
一方、県への届出には消防法令適合通知書を添える決まりがあり、買主の新しい届出にも必要です。
福岡市では、通知書の申請先は民泊を始める区の消防署で、申請書に平面図と登記などを添えて出します。
売主が受けた通知書を買主の届出に使えるのか、買主の名前で取り直すのかは、区の消防署予防課で確かめてください。
どちらになっても、設備の点検の記録と通知書の写しを渡せば、買主の手間は減ります。
売るときにそろえる消防の書類の一覧は民泊の消防設備と適合通知書に書きました。
住宅宿泊管理業者との管理の契約も、売主と管理業者の間の契約です。
買主が同じ業者に頼むとしても、契約は結び直しになり、届出にも委託先として書き込みます。
売主の側は、いまの契約書で解約の予告期間を確かめ、引渡し日に合わせて解約を申し出る段取りが要ります。
入っている予約は、引渡しの日をまたぐとどうなりますか
売主の届出で受けた予約は、売主が事業をやめたあとは売主の名前で泊めることができず、買主も届出番号の通知を受けるまでは泊められません。
つまり、引渡しの前後には泊められない期間ができる前提で、予約を整理しておく必要があります。
引渡し日より後の予約を数えて、売買の条件に入れる
まず、引渡し予定日より後の日付で入っている予約を数えます。
その予約を売主が断るのか、買主が受け直すのかを、売買契約の前に買主と決めておくのが順番です。
買主の届出は、形式の整った書類が県に届いて受け付けられ、届出番号が通知されてからでないと営業を始められません。
ガイドラインは、番号の通知前に事業を始めると標識に番号を書けず、罰則の対象になると書いています。
買主の届出には消防の通知書や管理業者との契約も要るので、引渡しの翌日から泊められるとは考えないでください。
予約を断るときの客への連絡や返金は、売主の届出で受けた予約である以上、売主の仕事です。
引渡しの日を決める考え方は、売買契約から引渡しまでにやることも参考になります。
福岡市の宿泊税は、買主が新しく申告する
福岡市では、民泊の宿泊客にも宿泊税がかかり、運営者が客から預かって市に納めます。
この預かって納める役目(特別徴収義務者)も、建物と一緒には移りません。
福岡市のよくある質問は、営業譲渡や相続などの場合は変更の届出ではなく、新しい特別徴収義務者による申告が必要だと答えています。
新しく経営を始める人は、始める日の5日前までに経営申告書を市に出す決まりです。
売主の側は、廃業の届出書の写しを付けて、宿泊税の「経営休止・再開・廃止届出書」を出します。
最後の月の分の申告と納入も、売主の仕事として残ります。
賃貸のオーナーチェンジとは何が違うのですか
賃貸のオーナーチェンジでは家賃の契約が買主に引き継がれますが、民泊は1泊ごとの宿泊の契約で、売上が引き継がれる契約は何も残りません。
同じ「入居者や客がいる家を運営ごと売る」話でも、買主が手にするものはまるで別物です。
賃貸は契約ごと移る。民泊の客との契約は1泊ごと
入居者がいる賃貸住宅を売るときは、民法605条の2により、貸主の立場がそのまま買主に移ります。
入居者の同意は要らず、家賃も契約期間も今の条件のまま続きます。
買主から見れば、引渡しの翌月から入ってくる家賃が、契約書という形で手元に残るわけです。
民泊の客は入居者ではなく、泊まる日ごとに予約をする旅行者です。
次の月に誰が泊まるかは、引渡しの時点では決まっていません。
一棟の賃貸を入居者付きで売る場合の敷金や契約の引き継ぎは、一棟のオーナーチェンジ売却に書きました。
出典:e-Gov法令検索 民法
売上の実績は参考資料であって、約束ではない
このため、民泊のこれまでの売上は、賃貸の家賃のように「これからも入る」と言える数字ではありません。
運営者が変われば、予約サイトの掲載も、管理業者も、値付けも変わります。
売主が出せるのは「この期間にこれだけの売上があった」という過去の記録だけです。
買主がそれをどう読むかは買主の判断で、売主が将来の売上を保証する形にはなりません。
買主が民泊をやめて住まいや賃貸に使う道も、引渡しのあとなら自由に選べます。
売主の側も、民泊の売上を抜きにした建物と土地そのものの値段を先に知っておくと、出てきた条件が高いのか安いのかを判断できます。
査定でその値段がどう出されるかは、民泊に使える家の査定にまとめました。
売上の実績を資料で出すときは、何に気をつけますか
売上の実績を出すなら、期間を明記して途中を抜かず、将来の売上を約束する書き方をしないことです。
都合のよい月だけを並べた資料は、あとで買主との争いの種になります。
期間を書き、よい月も悪い月も全部並べる
売上の資料は、届出をしてから今までの全期間を月ごとに並べるのが基本の形です。
繁忙期の数か月だけを取り出すと、1年を通した姿とかけ離れた数字に見えてしまいます。
資料には「何年何月から何年何月まで」と期間を必ず書き、泊められなかった月もそのまま載せます。
売上と一緒に、清掃や管理の委託料、宿泊税の事務、2か月ごとの県への報告など、運営に掛かっていた手間も書き出しておきましょう。
買主が知りたいのは売上だけでなく、自分が引き継いだら何をすることになるか、だからです。
宿泊者名簿は、売主が3年間保存する決まりのもので、客の個人情報が入っています。
資料に添えて買主に渡すものではないので、売上の資料とは分けて扱ってください。
「この先も同じだけ稼げる」とは書かない
売上の資料に、来年の見込みや将来の数字を書き足すのはやめておきましょう。
宅地建物取引業法47条の2は、不動産会社などが契約を勧めるとき、利益が出ることが確実だと誤解させる断定的な判断を示すことを禁じています。
当社は売主の資料を預かる立場として、過去の記録を記録として出すところまでにとどめます。
「民泊にすれば高く売れる」「この家なら利回りが上がる」といった言い方もしません。
売上の数字に買主が納得しなければ、民泊としてではなく、住まいや賃貸として検討してもらえば済む話です。
運営ごと売るか、民泊をやめて売るか、どう決めますか
運営ごと売るか、民泊をやめて空き家や住まいとして売るかは、民泊を続けたい買主が見つかるかどうかと、家そのものの値段の両方を見てから決めます。
民泊として買う人は、届出ができる家か、その年度の180日があと何日残っているかまで見るため、住まいとして買う人より条件が細かくなります。
運営ごとの売り方だけに絞ると、買主の幅を自分で狭めることになりかねません。
民泊をやめてから売る場合の流れは、廃業の届出と宿泊税の廃止の届出を出し、予約を閉じてから空き家として売り出す形になります。
住まいとして買い手が付きにくい家でも、民泊の買主が検討する場合がある
古い家や増築を重ねた家は、住まいを探す家族には選ばれにくいものです。
それでも、民泊や賃貸の買主が条件に合えば検討する場合があります。
運営中の家なら、届出の番号・年度ごとの宿泊日数・設備の一覧をそろえておきましょう。
民泊を続けたい買主は、その書類を見て引き継げるかを判断するからです。
民泊を続けない買主にとっては、家具を片付けたあとの住まいや賃貸用の建物という見え方になります。
ただし、民泊の買主が必ず見つかるわけではなく、民泊向けに売り出したから高く売れるということもありません。
家そのものの値段は、住まい・賃貸・民泊のどの買主を想定しても土台になる数字です。
運営中の家をどちらの形で売るか迷っているなら、まず無料査定でその値段を確かめてください。
民泊で運用する道と、売る場合との比べ方は、民泊で運用する(福岡市)のページにまとめました。
売るかどうかがまだ決まらず、民泊のまま持ち続ける場合の費用も比べたい方は、15分の無料相談でご相談いただけます。

