民泊を旅館業の許可で営業するには|福岡市の基準と初期費用
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士福岡市に家や一棟の建物を持っていて、民泊を年180日の上限なく営業したいと考えている方に向けた記事です。
上限なく営業するには、福岡市から旅館業法の許可(多くは「簡易宿所営業」)を受けることになります。
ここで知っておきたいのは、許可は家をそのまま使える手続きではなく、家を宿泊施設の基準に合わせる手続きだということです。
客室の広さ、フロントかその代わりの設備、建築基準法と消防の決まりに合わせるところで、初期費用がかかります。
この記事では、旅館業法施行令・福岡市旅館業法施行条例・福岡市の手引きの原文をもとに、普通の家と何が違うのかを順に書きます。
2. 簡易宿所の許可で、家に求められる基準は?
3. フロントがない家でも、旅館業の許可は取れる?
4. 建物の側では、建築基準法と消防の何を合わせる?
5. 旅館業の民泊で、初期費用はどこにかかる?
6. 福岡市で旅館業の許可を取る流れと相談先は?
民泊の届出と旅館業の許可は、何が違う?
届出の民泊は家を「住宅」のまま使って年180日まで泊められ、旅館業の許可は家を「宿泊施設」として扱う代わりに日数の上限がありません。
違いは日数だけではなく、窓口・手続き・建物の扱いまで変わります。
| 項目 | 届出の民泊(住宅宿泊事業法) | 旅館業の許可(簡易宿所) |
|---|---|---|
| 泊められる日数 | 1年度に180日まで | 上限なし |
| 福岡市の家の窓口 | 福岡県 生活衛生課 | 施設がある区の衛生課 |
| 手続き | 届出 | 許可(現地調査のうえ許可書の交付) |
| 建物の扱い | 住宅のまま | 宿泊施設(建築基準法のホテル・旅館) |
| 住居専用地域 | 営業できる | 営業できない |
| 申請の手数料 | — | 22,000円(現金のみ) |
届出の制度そのもの、宿泊税や売るときの控除は空き家を民泊にするには(届出と年180日)で詳しく扱いました。
届出の民泊は、住宅に台所・浴室・便所・洗面設備がそろっていれば、建物に大きな手を入れずに始められる場合があります。
旅館業の許可では、旅館業法の構造設備の基準、建築基準法の旅館の決まり、消防法の宿泊施設の決まりの3つに同時に合わせます。
「普通の家のままでは旅館業は取れない」と言われるのは、この3つが重なるためです。
以下では、この3つを1つずつ原文で確かめていきます。
簡易宿所の許可で、家に求められる基準は?
中心になるのは、客室の延床面積33㎡以上(10人未満なら1人3.3㎡以上)、フロントかその代わりの設備、換気・採光と水回りの設備です。
骨組みを決めるのは国の旅館業法施行令で、福岡市の条例が細かい決まりを足す形です。
客室の広さは33㎡、10人未満なら1人3.3㎡
旅館業法施行令の第1条第2項第1号は、簡易宿所の客室の延床面積を33㎡以上と定めています。
申請で宿泊者を10人未満とする場合は、3.3㎡に人数を掛けた面積以上でかまいません。
4人なら13.2㎡、8人なら26.4㎡が下限なので、客室の広さがそのまま泊められる人数の上限になります。
福岡市の手引きによると、床面積は壁の内側(内法)で測り、寝室・浴室・便所・洗面所など宿泊者がふだん入る部分を合計します。
押し入れやクローゼット、床の間、壁や床に固定した家具は含めません。
図面の延床面積から収納を引くと、思ったより客室の面積が小さくなる家もあるはずです。
客室の窓と換気、浴室・便所・洗面
福岡市の条例の第3条第2号は、客室に採光のための窓を外気に面して設けること、他の客室を通らずに出入りできることを求めています。
簡易宿所にも同じ号が当てはまると、第4条第1号が定めています。
窓のない納戸や、奥の部屋へ行くのに手前の客室を通る間取りは、そのままでは客室にできません。
施行令は、換気・採光・照明・防湿・排水の設備と、宿泊者の需要を満たす入浴・洗面設備、適当な数の便所を求めています。
条例はさらに、便所に手洗い設備を設けるよう定めているので、手洗いのないトイレは手を入れる対象です。
浴室は、外から中が見えない構造で、清掃しやすいことが条件です。
お湯をためる槽(貯湯槽)を使うなら60度以上に保つなど、細かな決まりが加わります。
出典:福岡市旅館業法施行条例
住まいと宿が混ざる建物と、学校から100m
条例は、宿泊に使う部分を一体で管理でき、住居とはっきり区画されていることを原則にしています。
マンションの一室のように住居と混ざる場合は、所有者を示す登記や、所有者の承諾書などを出して認められる形です。
分譲マンションでは、管理規約に旅館業を認める条項がはっきり書かれている必要があります。
国の標準管理規約にある「住宅宿泊事業に使用できる」という条項だけでは足りない、と手引きは注意しています(手引き17ページ)。
管理規約の調べ方はマンションの民泊は管理規約で決まるにまとめました。
場所の決まりもあり、対象は学校・保育園・図書館・児童公園などの周囲おおむね100mです。
その施設の環境を著しく害するおそれがあると市が認めると、許可されないことがあります(旅館業法第3条第3項)。
100m以内にこうした施設があると、市が関係機関に意見を求めるので、許可までの日数も延びます。
フロントがない家でも、旅館業の許可は取れる?
福岡市では、フロント(玄関帳場)の代わりにビデオカメラ・各客室の通話機器・駆けつけ拠点をそろえれば、許可の対象になります。
戸建てや一棟の空室を使う民泊では、多くがこの「代替措置」の形になるはずです。
原則は玄関帳場、代わりに求められる設備
条例の第4条第2号は、簡易宿所に適当な規模の玄関帳場を置くよう定め、規則の要件を満たせば置かなくてよいとしています。
手引きの8〜13ページが、その要件の中身です。
- 従業者と話せる通話機器を、原則として各客室に置く
- 宿泊者専用の出入口すべてに、入る人の顔が分かるビデオカメラを置く(録画は72時間以上)
- 緊急連絡先・消火器の場所・ごみの出し方・避難経路などを書いたマニュアルを各客室に置く
- 対面でないチェックインなら、顔と旅券の画像を確かめる機器か、照合用の機器を置く
どれも普通の家には付いていない設備なので、ここに初期費用がかかります。
駆けつけ拠点は福岡市内、10分以内
フロントの代わりに、事故や緊急のときに施設へ駆けつける従業者がいる拠点が要ります。
手引きでは、拠点は福岡市外に置けず、車のように動くものも原則として認められていません。
施設まで10分以内に着ける範囲に置き、徒歩なら1分80mの目安で距離を審査する、という書き方です。
徒歩だけなら800mほどが目安になり、オーナーが市外や県外に住んでいる場合は、自分で拠点を持つのは難しいでしょう。
この業務は第三者に任せられ、その場合は委託契約書を申請に添えます(手引き20ページ)。
建物の側では、建築基準法と消防の何を合わせる?
建築基準法では家が「ホテル・旅館」という特殊建築物に変わり、用途地域・非常用照明・内装の決まりと、200㎡超の確認申請がかかります。
消防では、家主が住まない家の多くが宿泊施設と判定され、消防設備を足すことになるでしょう。
200㎡を超えたら確認申請、以下でも基準は同じ
建築基準法の別表第一は、ホテル・旅館を特殊建築物に挙げています。
第87条第1項により、用途を変えてその用途に使う部分が200㎡を超えると、確認申請が要ります。
延べ30坪(約99㎡)ほどの戸建てなら200㎡の半分ほどで、確認申請までは要らないことが多いでしょう。
ただし同じ条の第2項と第3項は、用途を変えるときに用途地域や避難、内装などの規定を当てはめると定めています。
確認申請がないのは手続きが軽いという意味にすぎず、旅館の基準に合わせる義務は残ります。
旅館業が置けない用途地域の一覧と調べ方はその家は民泊に使える?用途地域の調べ方に書きました。
非常用照明と、火を使う台所の内装
建築基準法施行令の第126条の4は、ホテル・旅館などの居室と、そこから外へ出る廊下や階段に非常用の照明装置を求めています。
一戸建ての住宅はこの決まりの対象外ですが、旅館に変えると住宅ではなくなるので、原則として対象に入ります。
内装では、木造で旅館に使う部分が200㎡以上なら、居室の壁と天井を燃えにくい仕上げにします(第128条の4・第128条の5)。
200㎡未満でも、住宅以外の建物でガスこんろなど火を使う台所は、壁と天井を準不燃材料で仕上げる決まりの対象です。
住宅のときは2階建ての1階の台所など一部だけが対象だったので、旅館にすると台所の仕上げを確かめ直すことになります。
2階に宿泊室が多い大きな家では、階段を2つ求められる場合もあります(第121条)。
どこまでが対象になるかは建物ごとに違うため、福岡市の手引きは住宅都市みどり局建築審査課(092-711-4577)への相談を挙げています。
消防設備は、許可の申請前に立入検査
福岡市消防局は、家主が同居し、かつ宿泊室が50㎡以下なら一般住宅、それ以外は宿泊施設と判定するとしています。
空き家や一棟の空室を使う旅館業は家主が住んでいないので、宿泊施設として考えるのが現実的です。
必要になることが多い設備として、消防局は消火器・自動火災報知設備・誘導灯を挙げています。
旅館業では、手引きが「許可申請の前に立入検査を受ける」よう求めているので、消防の確認が先になります。
区ごとの消防署の連絡先、延べ300㎡未満で選べる簡易な火災報知設備、工事の届出の期限は民泊の消防設備と適合通知書にまとめました。
旅館業の民泊で、初期費用はどこにかかる?
かかるのは、下の表の5つの項目に、家具家電と内装、申請手数料22,000円を加えた7つです。
工事の金額は建物の状態で大きく変わり、公的なページに相場は載っていないため、この記事では金額を書きません。
| かかる場所 | 中身の例 | 決める基準 |
|---|---|---|
| 設計・調査 | 建築士による法令の確認、200㎡超なら確認申請 | 建築基準法 第87条 |
| 建物の工事 | 非常用照明、台所の内装、客室の窓 | 建築基準法施行令・市の条例 |
| 消防設備 | 自動火災報知設備・誘導灯・消火器 | 消防法(区の消防署) |
| 衛生設備 | 便所の手洗い、洗面・浴室の規模 | 旅館業法施行令・市の条例 |
| フロントの代わり | ビデオカメラ、通話機器、チェックイン機器 | 市の条例・細則・手引き |
申請の手数料22,000円とそろえる書類は、次の章の流れの中で説明します。
民泊の費用の顔ぶれと、売った場合の手取りとの比べ方は空き家を民泊にする費用で扱いました。
家具・家電・内装は、誰が負担するかが形で変わる
当社が提携している福岡市の民泊の運営会社の目安では、海外からの宿泊客を想定するため、家具・家電・内装(和の内装など)に初期費用がかかります。
オーナーが持ったまま運営だけを任せる「運営委託」と、運営会社が部屋や一棟を借りて民泊にする「借り上げ」では、誰が負担するかが変わります。
同じ形でも物件によって分け方が違うので、契約の前に負担の範囲を書面で確かめてください。
運営を任せる範囲と選び方は民泊の運営代行とはに書きました。
福岡市で旅館業の許可を取る流れと相談先は?
流れは、区の衛生課への事前相談、近所への周知、許可申請、現地調査、許可書の交付の順で、申請から交付まで通常14営業日ほどです。
窓口になるのは、施設がある区の衛生課(環境係)。
事前相談から許可書までの順番
手引きは、計画の段階でできるだけ早く、平面図を持って区の衛生課に相談するよう求めています(要予約)。
都市計画課・建築審査課・区の消防署への相談も、並行して進める形です。
住宅を使う施設なら、申請の前に近所への周知が要ります。
共同住宅の場合は、申請予定日の3週間前から1週間前までの2週間に、その棟の全居住者(テナントを含む)へ対面かポスティングで知らせるよう、市の手引きが求めています。
戸建ても、これに準じて周知するよう求められています。
許可の申請では、区の衛生課に手数料22,000円を現金で納めます。
手引きの書類一覧に載っている金額はこの1つだけで、広さや客室の数による区分は書かれていません。
書類は、申請書、施設を中心に半径300mの円を書いた地図、各階の平面図と立面図です(手引き14ページ)。
法人なら、登記事項証明書と定款の写しも加わります。
検査済証の写し(用途変更をしたなら確認済証の写し)と消防法令適合通知書の写しがあれば、一緒に出す扱いです。
| 施設がある区 | 相談先 | 電話 |
|---|---|---|
| 東区 | 東衛生課 | 092-645-1112 |
| 博多区 | 博多衛生課 | 092-419-1125 |
| 中央区 | 中央衛生課 | 092-761-7351 |
| 南区 | 南衛生課 | 092-559-5161 |
| 城南区 | 城南衛生課 | 092-831-4219 |
| 早良区 | 早良衛生課 | 092-851-6602 |
| 西区 | 西衛生課 | 092-895-7094 |
区役所の窓口の場所と受付時間は福岡市7区の手続き窓口ガイドに載せました。
申請の手続きは任せられるが、取れない物件もある
当社は民泊を運営する会社と提携しています。
旅館業の申請は、借り上げなら運営会社が自らの名義で行います。
運営委託の場合は、行政書士をご紹介して書類を作成してもらいますので、ご安心ください。
ただ、任せられるのは手続きであって、基準に合わない建物で許可が取れるようになるわけではありません。
用途地域、学校などからの距離、客室の取り方、建物の構造によって、許可が取れる物件と取れない物件があります。
提携先の運営会社の目安では、立地は博多・天神から車で5〜10分、徒歩で30分ほどの範囲が中心です。
稼働が下がってもよければ、範囲は広がるとのこと。
許可を取ったあとも、宿泊者名簿の3年間の保存や、ごみを事業系ごみとして出すといった運営の決まりが続きます。
旅館業にするか、売るかで迷ったら
旅館業の許可を取るかどうかは、工事と設備の費用をかけて持ち続けるか、そのまま売るかの比べ方です。
当社の査定では、売る・貸すに加えて、民泊で運用する選択肢もお出ししています。
ご希望があれば、提携先の運営会社と一緒にお話をうかがいます。
民泊の提案と運営を行うのは、当社ではなく運営会社です。
民泊で運用する道と、売る場合との比べ方は、民泊で運用する(福岡市)のページにまとめました。
民泊を想定して売り出しても、買主の使い道が民泊になるとは限りません。
まずは家の平面図と延床面積、用途地域を手元にそろえてください。
売った場合の価格を知りたい方は無料査定から、旅館業にするか売るかを整理したい方は15分無料相談からご連絡ください。
許可を取った民泊をのちに売るときの引き継ぎは旅館業の許可は売却で引き継げる?で扱っています。
民泊で得た収入や売ったときの個別の税額は、税理士か税務署にご確認ください。

