不動産の個人売買の契約書|ひな形に足りない項目
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士買主がもう決まっていて、あとは契約書だけ、という段階の方に向けた記事です。
結論から書きます。
インターネットのひな形で埋まるのは、売主・買主・物件・代金の欄までです。
引渡しまでの段取りと、引渡し後に不具合が出たときの取り決めは空白のまま残ります。
その空白が、半年後の「言った言わない」になります。
個人の売主には、不動産会社が売主になるときの制限(宅地建物取引業法40条)が及びません。
買主に不利な特約も有効になる一方で、書かなかったことは民法の原則で処理されます。
つまり、契約書に書くか書かないかを決めているのは、売主自身です。
この記事で説明するのは、契約書に必ず入れる項目、契約不適合責任の期間の決め方、設備と不具合を残す書面、福岡市で先に取っておく資料の4つ。
当社は福岡市博多区で不動産売却の仲介をしています。
個別の条文をどう書くかは法律相談にあたるため、この記事では文例を出しません。
2. 個人売買の契約書に必ず入れる項目は何ですか
3. 契約不適合責任は、契約書でどこまで軽くできますか
4. 設備の不具合は、どの書面に残せばよいのですか
5. 福岡市で契約書を作る前に、取っておく資料
6. 契約書を自分で作る前に、確かめる3つのこと
不動産の個人売買の契約書は、ひな形で作ってよいのですか
作ってかまいませんが、ひな形は「誰が・何を・いくらで」の3つを埋める枠でしかありません。
不動産の売買は、契約した日と引渡しの日がふつう1か月以上離れます。
その間に起きることをどう扱うかが、ひな形には書かれていません。
ひな形が埋めてくれるのは、物件と代金の欄だけ
ひな形の前半は、売主と買主の住所氏名、物件の表示、売買代金、手付金の額で構成されています。
ここは誰が作っても同じ形になります。
問題は後半です。
引渡しの時期、所有権が移る時点、解除できる条件、固定資産税の分け方、引渡し前に物件が壊れたときの負担の5つです。
ここは物件ごとに答えが違うため、ひな形では空欄か、当たりさわりのない一般条項になっています。
一般条項のまま署名すると、自分の物件に合わない取り決めで合意したことになります。
足りないのは、契約から引渡しまでに起きることの取り決め
台風で屋根が壊れた、買主のローンが下りなかった、境界の杭が見つからなかった。
どれも契約から引渡しまでの1〜2か月に実際に起きることです。
このときに代金を減らすのか、契約を白紙に戻すのか、修理してから引き渡すのかを、先に決めておくのが契約書の役目です。
決めていないと、その場で交渉することになります。
買主が知り合いや親族であっても、ここは同じでしょう。
お金が動いたあとの話し合いは、関係が近いほど言いにくくなるためです。
個人売買の契約書に必ず入れる項目は何ですか
物件の特定、代金と支払いの時期、手付金と解除、公租公課の精算、引渡しの時期、契約不適合責任の6つです。
この6つのどれかが抜けていると、その部分は民法の原則か、当事者の記憶で埋めることになります。
収入印紙も忘れないでください。
不動産の譲渡に関する契約書には印紙税がかかり、2027年3月31日までは軽減措置があります。
売買代金が1,000万円を超えて5,000万円以下なら1万円、5,000万円を超えて1億円以下なら3万円です。
売主と買主がそれぞれ1通ずつ持つなら、印紙は2通分かかります。
物件の特定は、住所ではなく地番と家屋番号で書く
郵便物が届く住所(住居表示)と、登記されている地番は別の番号です。
契約書に住所だけを書くと、どの土地を売ったのかが後から特定できません。
土地は所在と地番と地目と地積、建物は所在と家屋番号と種類と構造と床面積を、登記事項証明書の表示どおりに写します。
1つの敷地が2筆や3筆に分かれていることは珍しくありません。
そのうち1筆を書き漏らすと、買主の土地の中に売主名義の細長い土地が残ったままになります。
手付金は、解除の条件とセットで決める
手付金の額だけ書いて、解除の条件を書かないひな形が少なくありません。
手付金は「買主が手付金を放棄すれば解除できる、売主は手付金の倍額を返せば解除できる」という取り決めと組みで意味を持ちます。
売買代金の5〜10%が目安です。
3,000万円の取引なら150〜300万円で、この額をそのまま失う覚悟がないと解除の抑止になりません。
いつまで手付解除ができるかも、日付で書いてください。
この期限を書かなかった場合の争いは、手付解除はいつまで?履行の着手と手付倍返しの裁判例にまとめています。
固定資産税の精算は、起算日を書かないと計算できない
固定資産税は、その年の1月1日に所有していた人に1年分が課税されます。
引渡し日で日割りにして買主から受け取るのが商慣習ですが、法律の決まりではありません。
起算日を1月1日にするか4月1日にするかで、受け取る金額が変わります。
当社が福岡市で扱う売買契約では、1月1日を起算日にするのが一般的です。
年税額12万円の家を9月1日に引き渡す場合、買主の負担は起算日1月1日で40,109円、4月1日で69,698円になります。
その差は29,589円で、年税額の4分の1にあたります。
福岡市の納期は4月・7月・12月・翌年2月の4回です。
精算金を受け取ったあとも、12月と翌年2月の納付書は売主あてに届きます。
出典:福岡市 固定資産税
契約不適合責任は、契約書でどこまで軽くできますか
個人が売主なら、期間を短くする特約も、責任を負わない特約も有効です。
ただし、売主が知っていながら買主に告げなかったことは、免責の特約があっても責任を免れません(民法572条)。
つまり、軽くできるのは「知らなかった不具合」の部分だけです。
民法の原則は「買主が知った時から1年以内に通知」
引き渡した物件が契約の内容に適合していないとき、買主が売主に求められるのは4つです。
修理(追完)、代金の減額、損害賠償、契約の解除(民法562条から564条)。
種類または品質の不適合については、買主がそれを知った時から1年以内に売主へ通知しないと、これらを求められなくなります(民法566条)。
起算点は引渡しの日ではありません。
買主が雨漏りに気づいた日から数えるため、引渡しから3年後に気づけば、そこから1年が動きます。
なお、売主が引渡しの時にその不適合を知っていた場合、この1年の制限は使えません。
期間の数え方は契約不適合責任はいつまで?個人が売主のときの期間の数え方で詳しく書いています。
個人の売主に宅建業法40条は及ばない
不動産会社が自ら売主になる場合、民法より買主に不利な特約は無効です(宅地建物取引業法40条)。
例外は、通知期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約だけ。
この制限は、宅地建物取引業者が売主のときの決まりです。
売主が個人なら適用されません。
そのため、個人売買では「引渡しから3か月」や「責任を負わない」という特約も、書けば効きます。
当社が仲介する売買では、引渡しから3か月を標準としています。
逆に言えば、買主の側は個人から買うほうが不利になりやすいということ。
買主が納得できる範囲かどうかを、契約前に口頭ではなく書面で確かめてください。
知っていて告げなかったことは、免責の対象外
「現況有姿」「一切の責任を負わない」と書いても、知っていて黙っていた不具合には効きません。
効かなかった裁判例は契約不適合責任の免責特約は有効?現況有姿の限界に集めてあります。
免責特約の効き方を先に押さえたい方は、契約不適合責任で損しない3つの備えと免責の範囲もあわせてお読みください。
順番としては、免責特約を書くより先に、知っていることを全部書き出すほうが売主を守ります。
書いて伝えた不具合は、そもそも「契約の内容」に取り込まれるため、不適合になりません。
設備の不具合は、どの書面に残せばよいのですか
売買契約書とは別に、物件状況等報告書(告知書)と設備表の2枚を作って、買主の署名をもらいます。
契約書の条文は「責任の範囲」を決める紙で、この2枚は「何を伝えたか」を残す紙です。
役割が違うので、片方では代わりになりません。
物件状況等報告書には、時期と場所まで書く
「雨漏りあり」だけでは、どこがいつ漏れたのかが分かりません。
「2019年の台風で北側和室の天井にしみが出たので屋根を部分補修し、以後は再発していない」のように、時期・場所・対処の3つまで書いてください。
過去に修理した不具合、シロアリの駆除歴、給排水の詰まり、近隣との申し合わせ、浸水の経験もここに書く対象です。
思い出せない部分は「不明」と書いてください。
空欄にすると「無し」と読まれ、あとから争いになります。
設備表は「有・無・故障」の3つで埋める
給湯器、コンロ、換気扇、エアコン、網戸、照明、インターホン、便器のウォシュレットまで、1つずつ状態を書く表です。
「有」と書いたものが動かなければ、修理か減額の話になります。
動かないものは「故障」、置いていくが保証しないものは「有(故障の可能性あり)」と分けます。
残していく家具や物置も、この表に書いて引き渡す対象かどうかを決めておきましょう。
書かずに残した物は、買主が処分費を請求できる残置物になります。
福岡市で契約書を作る前に、取っておく資料
登記事項証明書、公図、地積測量図の3点を先に取ります。
福岡市内の不動産登記を管轄するのは福岡法務局の本局(福岡市中央区舞鶴3-9-15)です。
郵送やオンラインでも請求できるため、遠方にお住まいでも取れます。
福岡法務局で取る3点と、その手数料
登記事項証明書は窓口の書面請求で600円、オンラインで請求して郵送を選ぶと500円、法務局の窓口で受け取ると480円です。
請求には地番か家屋番号が必要で、郵便の住所では検索できません。
地番が分からないときは、固定資産税の納税通知書に書かれた番号を使ってください。
1筆あたり600円なので、3筆に分かれた敷地なら1,800円です。
売買代金3,000万円の取引で1,800円は、1万分の1に満たない出費。
境界は、契約書に書く前に現地で確かめる
公図と地積測量図を見て、境界の杭が現地にあるかどうかを歩いて確かめてください。
杭が見つからない場合、契約書に「境界を明示して引き渡す」と書くと、売主が測量を手配することになります。
確定測量の費用は40〜60万円程度で、隣地の所有者の立ち会いが必要なため1〜3か月かかります。
3,000万円の売却なら代金の1〜2%にあたり、引渡し日にも影響する金額と期間です。
どちらが費用を負担して、いつまでに終わらせるのかを契約書に書いておかないと、引渡し日が動きます。
登記や税の窓口は福岡市7区の手続き窓口ガイドに区ごとにまとめてあります。
契約書を自分で作る前に、確かめる3つのこと
1つ目は、その物件が本当に個人売買で完結するかどうかです。
買主が住宅ローンを使うなら、金融機関が重要事項説明書の提出を求めることがあり、宅地建物取引士の記名が要ります。
2つ目は、買主が契約書の内容を理解しているかどうか。
売主が作った契約書に買主が署名する形なので、説明していない条項は後から「知らなかった」と言われます。
3つ目は、完成した契約書を専門家に1回見せるかどうかです。
司法書士は所有権移転登記を担当するため、契約書の物件の表示と登記の表示が合っているかを見られます。
何が自分でできて、何ができないのかは不動産の個人売買はどこまで自分でできる?できること一覧で線引きを一覧にしました。
売却に必要な書類そのものは売却に必要な書類に並べてあります。
契約書の作成と重要事項説明は当社が引き受けて、売却の準備と内覧の案内を売主が担当する売り方もあります。
当社のじぶん売却は、その分担のかわりに当社の通常料金から仲介手数料を割り引く仕組みです。
契約書のどこを埋めればよいか迷った段階でしたら、15分無料相談でご質問ください。
