マンションを相続放棄すると売れない?売却と放棄の分かれ目
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士親のマンションについて、相続放棄をするか、相続して売るかで迷っている方に向けた記事です。
先に結論をいうと、売ってから放棄することはできません。
相続した財産を売る行為は民法921条1号の「処分」にあたり、単純承認したものとみなされます。
つまり、放棄するかどうかは売る前に決める順番です。
この記事で整理するのは4つです。
放棄すると売る権利がどうなるか、3か月の期限と福岡市での申述先、放棄と売却を比べる数え方、相続して売る場合の流れ。
2. 相続放棄は3か月で何を決める手続きか
3. 放棄と売却、どちらが手元に残るかを数える順番
4. 相続して売る場合、何から始めるか
5. 福岡市でこの判断をするとき、当社がしていること
マンションを相続放棄したら、もう売れない?
売れません。
放棄が受理されると、その人は最初から相続人ではなかったことになるため、売主になれないからです。
相続放棄は、マンションを売る権利そのものを手放す手続きです。
「売ってから放棄」ができない理由
民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときに、単純承認をしたものとみなすと定めています。
買主との売買契約を結ぶのは、この「処分」にあたります。
契約した時点で放棄の道が閉じるので、あとから順番を戻すことはできません。
売却代金を受け取ってから放棄する、という使い分けを封じている条文です。
ただし、同じ条文は保存行為と、民法602条の期間を超えない賃貸を処分から除いています。
玄関の鍵を交換する、雨漏りを止める、といった現状を保つための行為は、そちらに入ります。
迷っているあいだに気をつけたいのが、売買より手前の行為です。
家財を持ち帰る、形見分けをする、親の預金を解約して使う、といった行為も「処分」と評価されるおそれがあります。
放棄を選ぶ可能性が残っているうちは、部屋の中のものに手を付けないのが安全です。
個別にどこまでが処分にあたるかの判断は、弁護士へご確認ください。
出典:e-Gov法令検索 民法
放棄したあと、そのマンションを売るのは誰か
次の順位の相続人か、相続人全員が放棄したあとに家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人です。
売却代金は、放棄した人の手元には1円も入りません。
逆に、滞納していた管理費や修繕積立金も、放棄した人が相続によって負う債務ではなくなります。
ただし、放棄の時点でその部屋を現に占有していた場合は、民法940条の保存義務が残ることがあります。
もう1つ忘れやすいのが、放棄で相続権が次の順位へ移る点です。
子が全員放棄すると、親の兄弟や甥・姪へ順番が回り、その方々も同じ3か月の判断を迫られます。
先に一言伝えておくほうが、あとから「黙って押し付けられた」という話になりません。
管理費の請求が届いたときの考え方は、相続放棄後のマンション管理費は誰が払う?にまとめています。
相続放棄は3か月で何を決める手続きか
家庭裁判所へ申述する手続きで、期限は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。
親の死亡を知った日ではなく、自分が相続人になったことを知った日から数えるのが原則。
この3か月のあいだに、負債とプラスの財産を並べて結論を出すことになります。
福岡市のマンションなら、申述先はどこか
申述先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
福岡市内に最後の住所があったのなら、福岡家庭裁判所の本庁へ出します。
本庁の所在地は福岡市中央区六本松4-2-4です。
マンションがある区の区役所ではなく、裁判所が窓口になる点が、相続登記や戸籍の取得と違います。
費用は申述する相続人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手。
切手の額は裁判所ごとに違うため、郵送する前に福岡家庭裁判所へ確かめてください。
出典:裁判所 相続の放棄の申述
マンションだけを放棄することはできない
放棄すると、マンションだけでなく預貯金も他の不動産もまとめて手放します。
「借金だけ放棄して、預金は受け取る」という選び方は認められていません。
管理費の滞納が80万円あっても、同じ相続に預貯金が500万円あるなら、放棄は420万円を捨てる判断になります。
だからこそ、負債とプラスの財産を全部出してから決める順番が要ります。
負債のほうが大きいかどうかが3か月で分からないときの第3の道が、限定承認です。
相続で得たプラスの財産の範囲内でだけ債務を引き継ぐ方法です。
こちらも家庭裁判所への申述が要ります。
期限は放棄と同じ3か月。
ただし、相続人が複数いるなら全員で申述しなければなりません。
いったん受理されると撤回できない
民法919条1項は、相続の承認と放棄は3か月の期間内であっても撤回できないと定めています。
あとで思ったより高く売れる見込みが分かっても、放棄を取り下げて売ることはできません。
財産を調べきれないまま3か月が近づいたときに使えるのが、熟慮期間の伸長の申立てです。
財産の状況を調べてもなお決められないときに、家庭裁判所が申立てによって3か月を伸ばすことができます。
この申立ても3か月以内に出す必要があるので、気づいた時点で動くほうが選択肢が残ります。
放棄と売却、どちらが手元に残るかを数える順番
順番は3つで、負債を全部出す、売れる見込みを確かめる、差額を見る、の順です。
この3つが出れば、放棄が得か損かは引き算で分かります。
1. マンションに付いている負債を全部出す
集めるのは、住宅ローンの残高、管理費と修繕積立金の滞納額、固定資産税の未納の3つ。
ローン残高は、金融機関から届く残高証明書か返済予定表で分かります。
滞納額は、管理会社か管理組合へ問い合わせると金額が出ます。
この滞納額は、売ってしまえば消えるものではありません。
国土交通省の資料は、滞納した管理費等は売買で所有者が変わっても新しい所有者へ承継されると説明しています。
買主はそれを見越して値引きを求めるので、滞納額はほぼそのまま売却価格から引かれると考えてください。
福岡市の固定資産税の納期は4月・7月・12月・翌年2月の年4回です。
放棄を迷っている3か月のあいだに納付書が届くことがあるので、未納が何期分あるかもここで数えてください。
2. 売れる見込みを査定で確かめる
負債だけ見て放棄を決めると、売れば残ったはずの現金を手放すことになります。
国土交通省の取引価格情報をもとに当社が集計した、福岡市7区のマンション(3LDK系)の中央値は次のとおり。
| 区 | 3LDK系の中央値 | 集計した取引 |
|---|---|---|
| 中央区 | 4,200万円 | 216件 |
| 早良区 | 3,550万円 | 116件 |
| 城南区 | 3,000万円 | 67件 |
| 博多区 | 2,700万円 | 127件 |
| 西区 | 2,700万円 | 126件 |
| 東区 | 2,600万円 | 228件 |
| 南区 | 2,300万円 | 193件 |
対象期間は2024年第2四半期から2026年第1四半期で、同じ市内でも中央区と南区で1,900万円の開きがあります。
区ごとの内訳は福岡市の売却相場に、間取り別・面積別まで載せています。
中央値はあくまで目安で、同じ区でも築年数・階数・管理の状態で上下する数字。
管理費と修繕積立金が近隣より高い建物は、買主の月々の負担が増えるぶん価格が伸びにくくなります。
その場合の売り方は管理費・修繕積立金が高いマンションの売り方をご覧ください。
放棄の判断材料にするなら、無料査定でその部屋の見込みを確かめてください。
3. 差額を見る。マイナスなら売らない道も残る
博多区の中央値2,700万円に対して、ローン残高1,500万円、滞納80万円という組み合わせを考えます。
この場合は売却で負債を返しても手元に残る見込みがあるため、放棄すると現金を捨てることに。
逆に、負債が売却見込みを上回るなら、放棄や任意売却を含めて比べることになります。
仲介手数料や税金を引いたあとの金額は、手取りの試算でご確認ください。
相続して売る場合、何から始めるか
相続登記で名義を相続人へ移し、そのうえで売り出す順番です。
親の名義のままでは、買主へ所有権を移せません。
相続登記を済ませてから売る
相続登記は2024年4月から義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が必要です。
登記と売却の準備は同時に進められるので、登記の完了を待ってから査定を頼む必要はありません。
段取りは相続登記していない家は売れる?で詳しく書いています。
どこまでを登記の前にやれるかは、相続登記と売却は同時に進められる?順番と期間の目安で段階ごとに整理しました。
売却代金から引かれるお金
引かれるのは仲介手数料、抵当権抹消の費用、譲渡益が出た場合の税金です。
抵当権抹消の費用は1〜2万円台で、売却価格に対してはごく小さい部分。
譲渡所得税の税率は、所有期間が5年を超えていれば20.315%、5年以下なら39.63%です。
相続で引き継いだ場合、所有期間の数え方は親が買った時期から。
親が30年前に買ったマンションなら、相続した翌月に売っても長期譲渡の20.315%です。
買った値段が分からないときに使えるのが、売却価格の5%を取得費とみなす概算取得費。
相続税を納めた方なら、相続開始から3年10か月以内の売却で取得費加算の特例を使えます。
マンションで追加で要る書類
戸建てや土地と違い、マンションでは管理規約と長期修繕計画を買主へ見せます。
管理費・修繕積立金の額と、滞納があるかどうかも、買主が必ず確かめる項目。
管理会社へ依頼して出してもらう書面なので、売ると決めた時点で手配を始めてください。
一覧は売却に必要な書類にまとめてあります。
福岡市でこの判断をするとき、当社がしていること
当社は、放棄と売却のどちらが残るかを数えるための材料だけを先に出します。
放棄を選ぶ方に売却をお願いすることはありません。
放棄を選んだ場合でも、査定は無駄にならない
3か月の期限の中で必要なのは、「売ればいくらになるか」という1つの数字です。
その数字が出れば、家族で話すときの土台ができます。
当社は(公社)福岡県宅地建物取引業協会の会員です。
金額をお伝えするときは、国土交通省の取引価格情報と、近隣の成約の動きの両方を見ています。
相続した不動産の売却は相続した不動産の売却、マンション特有の確認は福岡市のマンション売却でご案内しています。
登記と税金は、司法書士・税理士へつなぐ
相続登記の代理は司法書士、税額の個別の判断は税理士の仕事です。
当社は宅地建物取引業者なので、そこは踏み越えず、連携している専門家へおつなぎします。
放棄そのものの判断や、債務の整理は弁護士へご相談ください。
まず何をするか
3か月の期限があるので、動く順番を決めておくと迷いません。
- 負債を3つ(ローン残高・滞納・未納の税)出す
- 売れる見込みを査定で確かめる
- 差額を見て、放棄か売却かを家族で決める
- 期限に間に合わないときは、熟慮期間の伸長を家庭裁判所へ申し立てる
どこから手を付けるか決まらないときは、15分無料相談でその日の状況を聞かせてください。
名前を出さずに聞きたい段階なら、チャット相談でも受け付けています。
