契約が解除されても仲介手数料は払う?報酬請求権の裁判例
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士売買契約を結んだあとに契約が白紙になり、それでも仲介手数料を払うのかどうかで迷っている売主の方へ書いています。
結論は、売買契約がいったん成立していれば、その後の解除でも不動産会社の報酬請求権は失われないと解されている、というものです。
「引き渡しが終わっていないのだから払わなくてよい」という理解は、媒介契約の約款の書き方と食い違います。
ただし手付解除のように取引が完了せずに終わった場合は、報酬の全額までは認めなかった判断もありました。
この記事で扱うのは、報酬が発生する時点・実際の裁判例・媒介契約書の見るべき条項・福岡市の価格帯での実額の4つです。
個別の事案の当否は弁護士や司法書士の判断になるので、ここでは売主が自分で確かめられる範囲を書きます。
2. 裁判所はどう判断していますか
3. 解除の理由によって、扱いは変わりますか
4. 媒介契約書のどこを見ればよいですか
5. 福岡市の価格帯では、いくらの話になりますか
6. 解除になったとき、売主は何から始めればよいですか
売買契約が解除されたら、仲介手数料は払わなくてよいのですか
払う必要が残るのが原則です。
国土交通省が所管する不動産適正取引推進機構は、この点を次のように説明しています。
売買契約が成立した場合には、その後に専ら当事者間の問題で契約が解約になっても、媒介業者の報酬請求権は失われない、という整理です。
つまり解除という出来事は、すでに発生した報酬の請求権を消す働きを持ちません。
報酬が発生するのは「売買契約が成立したとき」
媒介契約の中身は、国土交通省が定めた標準媒介契約約款が土台になっています。
その約款には、媒介によって目的物件の売買の契約が成立したときは報酬を請求することができる、と書かれています。
条件が付いた契約として成立したときだけは、その条件が成就した場合にのみ請求できる、という別の定めです。
報酬の発生を決めているのは、売買契約書に署名と押印をした時点だと読めます。
引き渡しの前でも発生し、受け取りは契約書の交付後
当社に届く質問でいちばん多い誤解は、決済と引き渡しが済むまで手数料は発生しない、という理解です。
約款が置いている線は「成立したとき」なので、引き渡しの前でも報酬そのものは発生しています。
支払いの時期は別の話で、売買契約時に半額、引き渡し時に残額とするのが一般的な定め方です。
当社もその形で受け取っています。
そのため契約後に解除になると、すでに払った半額と、まだ払っていない半額の両方が論点です。
約款には、宅地建物取引業法37条の書面を作って契約の当事者に交付した後でなければ、約定報酬を受領できないという定めもあります。
口頭で話がまとまっただけの段階で請求書が届いたら、その根拠を尋ねてかまいません。
見るべきは、売買契約書がすでに作られて手元に渡っているかどうかです。
裁判所はどう判断していますか
買主の債務不履行によって契約が解除された事案で、媒介業者の報酬請求を認めた判決があります。
残代金が払われず解除になった事例(東京地裁 令和4年11月10日)
売買契約が成立したあと、買主の債務不履行によって契約が解除された事案です。
媒介業者が売主に対して約定の媒介報酬を請求し、裁判所はその請求を認めました。
判断の軸になったのは、媒介契約の目的が売買契約を成立させることにあり、成立した後の事務は付随的なものだという考え方です。
売主自身も売買契約に基づいて手付金を受け取り、契約が有効に成立した前提で動いていた点も挙げられています。
この判決を読むと、解除の原因が買主側にある場合は、売主の支払義務が残りやすいと分かります。
手付解除では全額を認めないこともあり、一般化はできません
解除の理由が手付解除だった場合、同じ結論になるとは限りません。
手付解除で当初予定していた取引が完了せず、媒介業務の量が軽減されたことなどを理由に、報酬全額の請求までは認めないこともあると説明されています。
媒介業者の側から見れば、契約の成立までは働いたが、決済と引き渡しの実務は残ったまま終わった形です。
その差を報酬額に反映させた判断がある、という読み方になります。
手付解除がいつまでできるのかという期限の話は、この報酬の話とは別の論点です。
ここまでの2つは、解除の原因が違うために結論が分かれました。
契約が解除されたのだから手数料はゼロになる、とまとめてしまうと、実際の判決と合いません。
逆に、業者の請求がどの場面でも全額そのまま通ると決まっているわけでもありません。
当社が売主の立場で相談を受けるときも、まず解除の原因と、どの条項に基づく請求なのかを確かめています。
解除の理由によって、扱いは変わりますか
変わります。
見分ける入口になるのは、契約が条件付きで成立していたのか、それとも無条件で成立していたのかという点です。
融資が付かなかったときは、契約書の条件の書き方を見る
住宅ローンが承認されなかった場合に契約を白紙に戻す定めは、売買契約書に置かれます。
標準媒介契約約款は、条件が付いた契約として成立したときは条件が成就した場合にのみ報酬を請求できる、と定めています。
そのため、融資の承認が契約の条件としてどう組まれていたかを見ないと、報酬の扱いは決まりません。
売主が確かめるのは、売買契約書の融資に関する条項と、媒介契約書の報酬の条項の2か所です。
この2つを並べて読まないまま請求の可否を決めるのは、判断材料が足りません。
話し合いで解除したときは、合意書に報酬の扱いを書く
売主と買主が話し合って契約をやめる合意解除でも、売買契約はいったん成立しています。
先に見た機構の整理では、当事者間の問題で解約になった場合に報酬請求権は失われません。
合意の内容を書面にするときに、媒介報酬をどう扱うかを含めて決めておくと、あとの行き違いが減ります。
手付金の返還だけを書いて報酬に触れないままにすると、あとで請求が届いたときに拠りどころがありません。
媒介契約書のどこを見ればよいですか
見るのは「報酬額」「報酬の支払時期」「契約の解除」の3つの条項です。
報酬額と支払時期の条項、すでに払った半額の扱い
報酬額の欄には、売買代金にかける率と加算額、そして消費税の扱いが書かれています。
支払時期の欄にあるのは、いつ何割を払うかという定めです。
この2つを読むと、解除の時点で自分がどこまで払い終えているかが分かります。
媒介契約書が見つからないときは、依頼した会社に写しを求めてください。
宅地建物取引業法は、媒介契約を結んだときに書面を作って売主に交付することを会社に義務づけています。
売買契約時に半額を払っている売主から、これは返ってくるのかと聞かれます。
報酬請求権が残るという整理に立つなら、支払った分がそのまま戻る前提にはなりません。
手付解除のように全額を認めなかった判断がある以上、金額の落ち着く先は事案によります。
返還を求めるかどうかは、弁護士に事実関係を見てもらってから決める話です。
約款と違う特約が入っていないか
標準媒介契約約款は雛形なので、会社ごとに特約が足されていることがあります。
解除のときの費用負担について別の定めがあれば、そちらが先に効きます。
広告費や測量費を実費で請求できるという条項が入った契約書も見かけました。
媒介契約そのものの3つの種類と違いは媒介契約の種類にまとめてあります。
福岡市の価格帯では、いくらの話になりますか
博多区の3LDKマンションの中央値である2,700万円だと、仲介手数料は95万7,000円です。
区ごとの中央値と、その価格での手数料(800万円以下の特例も)
当社は国土交通省の取引価格情報をもとに、福岡市7区の中央値を集計しています。
下の表は3LDK系マンションの中央値と、その価格で計算した仲介手数料(税込)です。
| 区 | 3LDKの中央値 | 仲介手数料(税込) |
|---|---|---|
| 東区 | 2,600万円 | 92万4,000円 |
| 博多区 | 2,700万円 | 95万7,000円 |
| 中央区 | 4,200万円 | 145万2,000円 |
| 南区 | 2,300万円 | 82万5,000円 |
| 城南区 | 3,000万円 | 105万6,000円 |
| 早良区 | 3,550万円 | 123万7,500円 |
| 西区 | 2,700万円 | 95万7,000円 |
計算の形は、売買代金の3%に6万円を足して消費税を掛けたものです。
集計の対象は2024年第2四半期から2026年第1四半期までの取引で、区ごとの内訳は福岡市の売却相場に載せています。
博多区だけの間取り別・面積別の数字は博多区の相場で見られます。
中央区と南区では手数料に62万円以上の開きが出るので、同じ「解除」でも争う金額の重さが変わりました。
売買価格が800万円以下の低廉な空家等に当たる場合、受け取れる額は30万円に消費税を足した金額が上限です。
この取り扱いは令和6年7月1日から使えるようになり、媒介契約を結ぶ前に売主へ説明して合意しておくことが求められています。
当社はこの形で計算しているので、契約前の説明で金額が示されているかを確かめてください。
計算の詳しい手順は800万円以下の仲介手数料で書いています。
そもそも上限いっぱいの金額を相談できるのかという話は、売却の仲介手数料は値引きできる?上限と定価の違いで扱いました。
解除されても戻らないお金があります
売買契約書に貼った収入印紙の代金は、契約が解除されても戻りません。
売買代金が1,000万円を超えて5,000万円以下なら、契約書1通あたりの印紙は1万円です。
印紙税の軽減措置が当たるのは、2027年3月31日までに作成される契約書です。
手数料と税を合わせた見込みは手取りの試算で、価格を入れ替えながら確かめられます。
解除になったとき、売主は何から始めればよいですか
順番は3つで、事実を書き出す、請求の根拠を聞く、専門家に判断を仰ぐ、という並びです。
手付金と違約金の動きを1枚に書き出し、請求の根拠を聞く
最初にやるのは、いつ・誰が・どの条項で解除したのかを、日付とともに1枚に書き出す作業です。
手付金を受け取ったままなのか、返したのか、違約金が動いたのかも並べて書いてください。
この1枚があると、弁護士に相談したときの説明が短く済みます。
売買契約から引き渡しまでの標準的な段取りは売却の流れで確認できます。
請求書だけが届いた状態で、払うかどうかをその場で決めないでください。
媒介契約書の何条に基づく請求なのか、金額の計算根拠はどこなのかを尋ねます。
答えが約款の書き方と噛み合わないときは、そのやり取りを記録に残しておきます。
売却にかかる費用の全体像は福岡市の費用の内訳にまとめました。
次に何をすればよいですか
手元でできることは3つです。
- 媒介契約書の「報酬額」「支払時期」「解除」の3条項を読む
- 解除の経緯を日付つきで1枚に書き出す
- 手数料と税の見込みを試算しておく
公表された裁判例の傾向はここまでのとおりですが、結論は事案ごとの事実関係で変わります。
そのうえで、払う義務があるかどうかという個別の判断は、弁護士や司法書士に相談してください。
当社は福岡市博多区で、媒介契約書と売買契約書を一緒に読む時間を取っています。
福岡市とその周辺で売却を考えている方は、15分の無料相談からお使いください。
