机上査定と訪問査定で金額が違う理由|どちらが正しいか
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士机上査定の金額を受け取ったあと、訪問査定で数字が変わって戸惑う方からのご相談が、当社にはよく届きます。
結論から申し上げると、2つの金額が違うのは普通のことです。
どちらかが間違っているわけではなく、見ている材料が違うためです。
この記事では、机上査定と訪問査定がそれぞれ何を見ているのかを整理します。
そのうえで、訪問で初めて分かることは何か、受け取った2つの数字をどの判断に使えばよいのかまで書きました。
福岡市で不動産を売ろうとしている方が、査定書を前にして「次に何を聞けばよいか」が分かる状態を目指します。
2. 訪問査定で初めて分かることは何ですか?
3. 福岡市では、役所調査が金額を動かすことがあります
4. どちらの金額が正しいのですか?
5. 金額が変わったとき、何を聞けばよいですか?
6. 次に何をすればよいですか?
机上査定と訪問査定は、何が違うのですか?
違いは、査定する人が手元に持っている材料の量です。
机上査定は登記情報と成約事例だけで計算した概算で、訪問査定はそこに現地の状況と役所で調べた内容を足したものになります。
机上査定が見ているのは、紙の上の情報だけ
当社の机上査定では、所在地・面積・築年・間取り・権利関係を登記情報で確認し、近隣の成約事例と突き合わせて金額を出します。
事例を集めてくるのは、当社が会員になっているレインズ(不動産会社間で物件情報を共有する仕組み)の成約記録と、国土交通省の取引価格情報からです。
金額の確かさを決めるのは、近隣で似た条件の成約が何件あったかという点です。
この段階では、まだ誰もその家を見ていません。
そのため、同じマンションの同じ間取りであれば、3階と12階でもほぼ同じ金額が出ます。
所要時間は最短で当日です。
売るかどうかを決める前の、いちばん手前の数字だと考えてください。
家の中を見られたくないという理由で机上査定を選ぶ場合の読み方は、査定は室内なしでできる?にまとめました。
訪問査定は、現地と役所の調査を足す
訪問査定では、机上の材料に加えて、現地で見たことと役所・法務局で取った資料を反映させます。
当社の場合、現地の確認は30〜60分です。
そのあと役所調査と事例の精査を行い、報告書のご提出までに2〜3営業日いただいています。
現地で30分しかかからないのに報告が2〜3営業日かかるのは、時間の大半が現地ではなく調査に使われているからです。
不動産会社は、金額の根拠を示す義務があります
宅地建物取引業法では、不動産会社が売るべき価額について意見を述べるとき、その根拠を明らかにしなければならないと定めています。
根拠として認められているのは、価格査定マニュアルか、同種の取引事例など合理的な説明がつくものです。
つまり「経験上このくらいです」だけで金額を出すことは、制度の上で認められていません。
机上でも訪問でも、金額の横に根拠を聞いてよいということになります。
訪問査定で初めて分かることは何ですか?
登記簿にも成約事例にも載っていない要素が、現地に行くと見えてきます。
当社が訪問査定で必ず確認しているのは、日当たり・眺望・室内の状態・境界・越境の5つです。
日当たりと眺望は、同じ建物の同じ間取りでも差が出る
南向きでも、目の前に建物が迫っていれば昼間でも照明が必要になります。
マンションの場合、同じ3LDKで同じ面積でも、階数と向きで買主の印象が変わるのが実際のところです。
机上査定ではこの差を織り込めないので、建物の平均値あたりの金額が出ます。
平均より上なのか下なのかが決まるのは、現地で窓の外を見てからです。
室内の状態は、買主が「あと何百万かかるか」で見る
買主は、室内を見て自分が入居するまでの費用を頭の中で引き算します。
水まわりの交換が必要だと感じれば、その分だけ出せる金額が下がるという計算です。
逆に、10年前に浴室とキッチンを入れ替えてあれば、それは机上査定に入っていない加点になります。
リフォームの履歴は登記簿に載らないため、訪問のときにお伝えください。
当社が見ているのは、壁紙の汚れのような入居後すぐ直せるものと、給湯器・配管・屋根のように工事が大きくなるものの区別です。
前者は買主の値引き交渉の材料にはなっても、査定額を大きく動かしません。
後者は交換に数十万円から百万円単位かかるため、買主が出せる金額から差し引かれます。
境界と越境は、金額より前に「売れるかどうか」に関わる
戸建てと土地でいちばん重いのが、境界標の有無と越境の確認です。
境界が確認できていないと、引き渡しの直前で買主から確定測量を求められます。
境界確定測量は40〜60万円程度かかるため、誰が負担するのかで契約が止まることがあります。
隣の塀やブロックがこちらの敷地に入っている、こちらの軒が隣に出ている、といった越境も現地でなければ分かりません。
越境がある場合は、覚書を交わしてから売り出すのが通常の進め方です。
覚書に書くのは、いまの越境を認めたうえで、建て替えのときに解消するという隣地の方との取り決めです。
これを売り出し前に済ませておくかどうかで、契約から引き渡しまでの日数が変わってきます。
隣地の方と連絡が取れないときは覚書に日数がかかるため、売り出しの前に着手してください。
福岡市では、役所調査が金額を動かすことがあります
現地の見た目と同じくらい、福岡市の窓口で取る資料が査定額を左右します。
当社が訪問査定の前後で足を運ぶのは、福岡法務局(福岡市中央区舞鶴)と福岡市の各部署です。
前面道路の幅が4m未満だと、有効面積が減る
福岡市 道路下水道局で道路台帳と道路査定図を確認し、前面道路の幅員と種別を調べます。
幅員が4m未満なら、建て替えのときに敷地を後退させるセットバックが必要です。
後退した部分には建物を建てられないので、使える面積が実際より小さくなるという結果になります。
登記簿の面積だけで計算した机上査定と、訪問査定の金額が大きくずれるのは、この種の事情があるときです。
博多区・中央区は埋蔵文化財包蔵地の範囲が広い
福岡市は市街地の広い範囲が埋蔵文化財包蔵地に指定されています。
当社の実務で照会を前提に調べているのは、該当の可能性が高めな博多区と中央区です。
該当すると、買主が建築に入る前に届出と試掘調査が必要になります。
工期が延びる土地は買主が敬遠するため、同じ面積・同じ立地でも売りやすさが変わるのです。
水道の引込みとガスの種別も確かめる
福岡市水道局で配水管の位置図を見て、前面道路のどこに管が入っているかを確認します。
引込みがない土地で買主にかかるのは、数十万円の工事費です。
ガスについては、西部ガスの供給区域に入っているかどうかで、都市ガスが引けるかが決まります。
どこに何を照会するかは、福岡市7区の手続き窓口ガイドをご覧ください。
どちらの金額が正しいのですか?
どちらも正しく、使う場面が違うというのが答えです。
机上査定は売るかどうかを決めるための数字で、訪問査定は売り出し価格を決めるための数字になります。
机上査定は「売るかどうか」を決めるために使う
住宅ローンの残債が1,800万円あるとして、机上査定が2,500万円なら、売って手元に残る見込みが立ちます。
この判断には、100万円単位の精度は要りません。
必要なのは、残債を上回るのかどうか、相続人の間で分けられる金額になるのかという見極めです。
手取りの計算は手取りの試算でご自身でも試せます。
訪問査定は「いくらで売り出すか」を決めるために使う
売り出し価格を決める段になると、100万円の差が内覧の数を変えてしまうのです。
ここで机上の概算を使うと、現地の加点も減点も入っていない価格で売り出すことになります。
高すぎれば問い合わせが来ず、安すぎれば本来取れた金額に届きません。
売り出しまでの流れは売却の流れ(全11ステップ)でご確認ください。
成約事例が少ない区・類型では、机上の幅が大きくなる
机上査定は成約事例に頼るので、事例が少ない地域では金額の幅が広がります。
当社が国土交通省の取引価格情報を集計したところ、福岡市のマンションの取引件数は区によって大きく違いました。
| 区 | マンションの取引件数 |
|---|---|
| 中央区 | 1,109件 |
| 博多区 | 951件 |
| 東区 | 559件 |
| 南区 | 463件 |
| 早良区 | 271件 |
| 西区 | 233件 |
| 城南区 | 153件 |
集計期間は2024年第2四半期から2026年第1四半期までの8四半期です。
城南区の153件は、中央区1,109件の7分の1ほどにあたります。
戸建てになるとさらに少なく、博多区は8四半期で87件、つまり1か月あたり3〜4件という水準でした。
事例がこの件数しかない類型では、机上査定は「近い事例」をかなり広い範囲から探すことになります。
そのぶん、訪問査定で物件そのものを見たときの振れ幅も大きくなるという関係です。
区ごとの中央値と件数は福岡市の売却相場に載せています。
金額が変わったとき、何を聞けばよいですか?
下がったときも上がったときも、聞くことは同じです。
どの要素で、いくら動いたのかを分けて説明してもらってください。
下がったときに聞く3つ
1つめは、下がった理由が物件固有のものなのか、相場の見直しなのかという切り分けです。
2つめは、お金をかければ戻る減点なのかどうか。
室内の清掃や設備の交換で戻るものと、道路の幅や境界のように動かせないものは、対応が別になります。
3つめは、仲介で売る前提の金額なのか、買取の金額なのかという確認です。
この2つは性質が違うので、同じ物差しで比べられません。
買取は不動産会社が自分で買うので、現金化は早い代わりに仲介の相場より下がります。
注意したいのは、訪問査定で大きく下がったように見えて、実は買取の金額が並んでいた例です。
違いは4つの売り方の比較で整理していますので、あわせてご覧ください。
上がったときも理由を聞いておく
訪問査定で金額が上がる場合もあります。
考えられる理由は、リフォーム済みだった、角地で日当たりが良かった、同じ建物で高い成約が直近に出ていた、などです。
理由を聞いておくと、買主への説明材料としてそのまま使えます。
根拠を聞いても具体的な説明が返ってこないなら、媒介契約を取るために高く見せていないかを疑ってください。
AI査定の数字と比べるときの注意
最近は人が計算する机上査定のほかに、AIが自動で出す査定もあります。
AI査定は机上査定よりさらに手前の目安で、登記情報の一部と統計から機械的に算出したものです。
どこまで信じてよいかはAI査定の金額はどこまで信じられるかで詳しく書きました。
次に何をすればよいですか?
机上査定の金額を見て売却を検討する段階に入ったなら、訪問査定に進むのが次の一歩です。
売ると決めていなくても構いません。
「家の中を見られたくない」というお声は、当社にも実際によく届きます。
その場合、机上査定だけで概算をお出しすることもできます。
訪問査定でも、見られたくないお部屋は外していただいて構いません。
片付いていない状態でも、査定額には影響しません。
机上査定は最短当日、訪問査定は現地30〜60分で報告書まで2〜3営業日です。
どちらも無料査定のご依頼から申し込めます。
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査定書の読み方そのものについては、査定額とは「3か月で売れる価格」もあわせてお読みいただけます。
