共有物分割請求とは?兄弟が反対する実家の売却と裁判例
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士兄弟で相続した実家を売りたいのに、1人が反対して話が進まない、というご相談です。
共有の不動産を売るには全員の同意が要りますが、同意が得られないまま止まる以外の道は民法に用意されています。
その1つが共有物分割請求で、話し合いが調わないときに裁判所へ分割を求める手続きです。
ただし相続した不動産では、この訴えをいきなり起こせません。
先に家庭裁判所の遺産分割という段を踏む決まりがあり、順番を取り違えると申し立てた手続きが使えません。
この記事では手続きの順番、裁判所が分ける3つの方法、実家に住んでいる兄弟の扱い、訴訟の前にできることを順に説明します。
個別の事案の当否は弁護士や司法書士の判断になるので、ここでは売主が自分で確かめられる範囲を書きました。
2. 裁判所はどう分けるのですか
3. 実家に住んでいる兄弟がいるときは、どうなりますか
4. 訴訟にする前にできることは何ですか
5. 連絡が取れない共有者がいるときは、どうしますか
6. 次に何をすればよいですか
共有者の1人が反対したら、売却はできないのですか
建物と土地をそのまま売るには全員の同意が必要ですが、同意が得られないときの道が民法に定められています。
共有物分割請求という手続きがある
民法258条は、共有物の分割について共有者の間で協議が調わないときに、裁判所へ分割を請求できると定めています。
連絡しても返事をもらえず、協議そのものができないときも同じです。
この条文は2021年の民法改正で見直され、2023年4月1日から新しい内容で動いています。
見直しの中身は、分割の方法と、どの順で検討するかの整理でした。
相続した不動産は、先に遺産分割をする
相続した実家は、亡くなった方の財産が相続人の共有になっている状態です。
この場合、共同相続人の間で遺産の分割をすべきときは、民法258条による分割はできないと定められています。
先に進める場所は地方裁判所ではなく、家庭裁判所の遺産分割です。
賃貸中の一棟アパートやビルを共有で相続した場合は、分割が決まるまでの家賃の扱いも絡みます。
そのあたりは相続した一棟ビル・アパートはいつまでに売る?3つの期限をご覧ください。
例外は、相続開始から10年を経過したときで、そのときは遺産共有の解消も共有物分割訴訟でできるようになりました。
ただし遺産分割の請求がされている場合に、相続人が訴えの通知を受けた日から2か月以内に異議を出したときは、この方法は取れません。
家庭裁判所の遺産分割に進む場合も、相続人全員の戸籍はそろえることになります。
集め方は相続した不動産の売却の必要書類|戸籍は広域交付で1か所にまとめました。
10年を過ぎると、主張できなくなるものがある
相続開始から10年という線は、使える手続きだけでなく、分け方の基準も変えます。
遺産分割の請求が相続開始から10年を過ぎてされた場合、家庭裁判所は法定相続分または指定相続分に応じて分割します。
生前に多く援助を受けた相続人がいる場合の調整(特別受益)や、介護などの貢献を反映させる寄与分は、そこでは考えられません。
親の介護を1人で担った、事業を手伝った、といった事情を分け方に反映させたいなら、10年の内に手続きを始める必要があります。
例外も置かれていて、10年を過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割を請求していた場合は、その線に当たりません。
期間が満了する前の6か月のあいだに、やむを得ない事由で請求できなかった場合の救いもあります。
自分の場合にいつまでなのかは、相続開始の日を伝えて司法書士か弁護士に確かめてください。
順番を取り違えると、手続きが空振りになる
進める順は、話し合い、家庭裁判所の遺産分割、そして10年を過ぎている場合の共有物分割訴訟という並びです。
加えて、名義が亡くなった方のままでは売却の登記ができません。
相続登記を先に済ませておく必要があり、福岡市内の不動産登記の窓口は手続き窓口ガイドにまとめてあります。
裁判所はどう分けるのですか
方法は現物分割・賠償分割・競売分割の3つで、この順に検討されます。
3つの方法と、検討される順番
現物分割は、土地を分筆するように物そのものを分ける方法です。
賠償分割は、1人に共有物を取得させ、その人に他の共有者の持分の価格を払わせる方法で、2023年4月の改正で条文に明記されました。
競売分割になるのは、現物分割と賠償分割のいずれもできない場合か、分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合です。
| 方法 | 中身 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 物そのものを分ける | 土地を分筆できるとき |
| 賠償分割 | 1人が取得し、他の共有者に持分の価格を払う | 建物があって分けられないとき |
| 競売分割 | 競売にかけて代金を分ける | 上の2つができないとき |
遺産分割の話し合いで使う言い方は、現物分割・換価分割・代償分割の3つです。
換価分割が売って分ける形、代償分割が1人が取得して他の相続人にお金を払う形なので、上の3つとおおむね対応しています。
1人が取得するには支払能力が要る(最高裁 平成8年10月31日)
賠償分割について、最高裁判所第一小法廷が要件を示した判決があります。
示された要件のうち2つは、特定の共有者に取得させるのが適当と認められること、その価格が適正に評価されることでした。
残る2つは、取得する者に賠償金の支払能力があること、共有者間の実質的公平を害しない特別の事情があることです。
この4つがそろうときに、全面的価格賠償の方法による分割ができるという判示になっています。
この事案で最高裁は、取得する共有者に賠償金の支払能力があることを確認しないまま全面的価格賠償を採用した原審の判断を違法としました。
結論は、広島高等裁判所の判決を破棄して差し戻すというものです。
売主の立場で読むと、兄が家をもらって弟にお金を払うという解決は、兄に払えるお金があるかを裁判所が確かめる、ということになります。
競売になると、進め方が変わる
賠償分割ができないと判断されたとき、残るのは競売分割です。
競売では買主を自分たちで選べず、引渡しの時期も条件も自分で決められません。
売り方が変わるので、手元に残る金額の見込みも変わってきます。
そのため、競売に至る前に話し合いで売る道を探すのが実務の順序です。
仲介と買取の違いは仲介・買取・リースバックの比較、手取りの見込みは手取りの試算で確かめられます。
実家に住んでいる兄弟がいるときは、どうなりますか
すぐに明渡しや家賃を求められるとは限らず、最高裁は遺産分割が終わるまで無償で使える関係を認めた判断をしています。
最高裁 平成8年12月17日の判断
被相続人の許諾を得て同居していた共同相続人の1人について、最高裁判所はこう判断しました。
特別の事情がない限り、遺産分割が終わるまで無償で使用させる合意があったものと推認されます。
貸主は他の共同相続人、借主は住んでいる相続人という形になります。
その関係が成立するのは、被相続人が亡くなった時から、少なくとも遺産分割が終わるまでのあいだです。
出て行ってほしい、家賃を払ってほしいという主張が、この判断を前提にすると通りにくい場面があると分かります。
「特別の事情がない限り」という条件が付いている
この判断は条件付きで、被相続人の許諾があったか、実際に同居していたかで結論が変わります。
そのため、必ず住み続けられる、あるいは必ず明け渡してもらえる、という話ではありません。
どちらに転ぶかは事実関係の細かいところで決まるので、弁護士に資料を見てもらう場面です。
当社が相談を受けるときも、誰がいつから住んでいるのかを最初に確かめています。
訴訟にする前にできることは何ですか
できることは3つで、相続登記を済ませる、金額を共通の土台にする、家庭裁判所の調停を使う、という順です。
相続登記を先に済ませる
福岡市内の不動産登記を扱うのは、福岡市中央区舞鶴にある福岡法務局の本局です。
登録免許税は固定資産税評価額の0.4%で、ほかに戸籍などの取得費用がかかります。
期限は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内です。
そろえる書類は、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍謄本と住民票、固定資産評価証明書、登記申請書です。
相続人が複数なら、全員の実印と印鑑証明書を付けた遺産分割協議書も要ります。
司法書士に依頼する場合の報酬は5〜10万円が目安で、戸籍の取り寄せもまとめて頼めます。
いちばん手間がかかるのは戸籍の収集で、本籍を移している方の場合は複数の市区町村に請求することになりました。
相続登記は2024年4月から義務になり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になりました。
必要な書類と区ごとの窓口は手続き窓口ガイドに一覧で載せています。
金額を共通の土台にする
反対の理由が「安く売られるのではないか」という不安なら、話を動かすのは金額の根拠です。
査定書と手取りの試算を全員が同じものを見る状態にすると、議論が感情から数字に移ります。
福岡市7区の相場は福岡市の売却相場、査定の依頼は無料査定から進められます。
相続した不動産の売却そのものの段取りは相続した不動産の売却にまとめました。
家庭裁判所の調停を使う
遺産分割調停の申立先は、相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所です。
反対している兄弟が福岡市内に住んでいるなら、福岡市中央区城内の福岡家庭裁判所が申立先の1つになります。
その兄弟が県外に住んでいる場合は、その住所地の家庭裁判所です。
実家は福岡市にあっても手続きの場所が県外になることがあるので、早めに確かめてください。
出典:裁判所 遺産分割調停
連絡が取れない共有者がいるときは、どうしますか
所在が分からない共有者の持分を、裁判所の手続きで取得する道があります。
所在等不明共有者の持分取得の裁判
共有者を知ることができない、またはその所在を知ることができない場合に使える手続きです。
地方裁判所へ申し立てて、その共有者の持分を申立人に取得させる裁判を求めます。
申立人が供託するのは、持分の時価相当額を考慮して裁判所が定める金額です。
所在の分からない共有者は、供託された金額の還付を請求できます。
持分が相続財産に属する場合は、相続開始から10年を経過しているときなどに申し立てられます。
申立てには、対象となる共有持分1個につき1,000円分の収入印紙が必要です。
まず登記で、共有者と持分を確かめる
誰がどれだけ持っているかは、登記事項証明書を取れば分かります。
相続人をたどるための戸籍は、本籍地以外の市区町村でも請求できる広域交付の制度の対象です。
どちらも窓口と手数料を手続き窓口ガイドに載せてあります。
共有名義のまま売るときの進め方は共有名義の不動産売却にまとめています。
次に何をすればよいですか
手元でできることは3つです。
- 登記事項証明書で、共有者と持分の割合を確かめる
- 相続開始から何年経っているかを数える
- 査定と手取りの試算を、相続人全員が同じものを見る状態にする
相続開始からの年数は、どの手続きが使えるかを分ける線なので最初に数えてください。
そのうえで、誰がどの手続きを取るべきかという個別の判断は、弁護士や司法書士に相談する話になります。
公表された裁判例の整理はここまでのとおりで、結論は事案ごとの事実関係によって変わりました。
当社は福岡市博多区で、相続した不動産の売却のご相談を15分の無料相談で受け付けています。
