土砂災害警戒区域の家は売れる?指定前の調査箇所と売る前の確認
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士自宅や相続した実家が土砂災害警戒区域に入っていても、家は売れます。
ただし買主へは、契約の前に必ず説明が入ります。
売る前に自分の土地の状況を知っておけば、契約の直前で話が止まる心配は小さくなります。
この記事は、福岡市内に斜面や擁壁のそばの家を持つ方に向けて書きました。
区域の種類による違い、まだ指定されていない「調査中の箇所」の見方、支援制度の確かめ方の順に並べています。
2. 県が調べている「指定前の箇所」は、売却に関係しますか?
3. 売る前に、どんな順番で確かめればよいですか?
4. 支援制度は使えますか?どこに聞けばよいですか?
5. 持ち続けるか、売るか。どう整理すればよいですか?
6. 何を相談すればよいですか?
土砂災害警戒区域にある家は、売れないのですか?
売れます。
区域に入っているだけで、売買が禁止されることはありません。
効いてくるのは、買主への説明と、買主が建てる建物への規制です。
警戒区域(イエロー)と特別警戒区域(レッド)は別物
福岡県砂防課は、2つを次のように分けています。
警戒区域は、土砂災害が起きたとき、住民の生命や身体に危害が生じるおそれがある区域です。
特別警戒区域は、建物が壊れて、住民の生命や身体に著しい危害が生じるおそれがある区域です。
より危険度の高い範囲に絞られるのは、後者のほうです。
自分の土地がどちらなのか。
ここで、このあとの話がかなり変わります。
出典:福岡県砂防課 区域指定
特別警戒区域では、建物の構造と開発に規制がかかる
福岡県砂防課の説明では、特別警戒区域に居室のある建物を建てるとき、土砂の衝撃に耐える構造かどうかが建築確認で確かめられます。
住宅の分譲などの開発行為には、知事の許可も要ります。
知事が、建物の所有者へ安全な区域への移転を勧告できる仕組みもあります。
買い手の側から見ると、建て替えに構造の費用や手間が上乗せされる土地です。
だから特別警戒区域は、売却条件に響きやすくなります。
警戒区域だけの土地は、こうした構造規制が前面に出る区域とは別の扱いです。
どの規制がどこまで及ぶかは、物件ごとに県や市で確かめてください。
価格が何%下がる、という決まった数字はありません
区域に入っていると一律に何%下がる、という基準を示した公的な資料は確認できませんでした。
値段を左右するのは、区域の種類、敷地の形、建物の築年、道路との関係、周りの取引といった個別の事情です。
「レッドだから半値」のような話は、根拠のない決めつけと考えてください。
県が調べている「指定前の箇所」は、売却に関係しますか?
関係します。
いま区域図に載っていなくても、調査の途中にある土地では、将来指定される可能性があるからです。
購入したときと、指定の状況が変わっていることがあります。
県は高精度の地形図から、新たな調査箇所を選んでいる
福岡県は、高精度の地形図を使って、新たに区域指定を行うための調査箇所を選び出しています。
2025年6月26日の県の発表では、2021年度から2023年度にかけて抽出した調査箇所は13,662箇所でした。
現地調査は2024年度に始まり、終わった箇所から順に区域が指定されます。
最初の指定は、2025年6月27日の太宰府市の15箇所でした。
数字は発表時点のものです。
その後の進み具合は、県砂防課のホームページの「お知らせ」で随時更新されるので、売り出す直前に見直してください。
調べても、指定されないことも、範囲が変わることもある
調査の対象になったからといって、そのまま指定されるとは限りません。
現地で調べた結果、範囲が広がることも狭まることも、指定に至らないこともあります。
基礎調査のあとに、関係者への説明を経て指定されるのが県の流れです。
調査の対象と聞いただけで、慌てて安売りする必要はありません。
かといって、知らないふりをして売り出すのも得策ではないでしょう。
買主から聞かれたときに答えられる状態にしておくのが、売主のできる準備です。
調べ方は、県の公開図面と県土整備事務所への照会
福岡県砂防課のホームページには、指定済みの区域を見られる地図があります。
指定前の調査の状況は、地図だけでは分かりにくい箇所もあります。
その場合は、土地を管轄する県土整備事務所が窓口です。
福岡市内の土地なら、県のページで案内されているのは福岡県土整備事務所です。
実際の照会は、不動産会社が行います。
当社では、問い合わせた日付、担当者名、回答の内容を記録に残します。
売主様にお願いしたいのは、手元の資料を担当者へ渡していただくことです。
区域指定の通知書、役所から届いた案内、購入時の重要事項説明書の控えがあれば、そのまま渡してください。
売る前に、どんな順番で確かめればよいですか?
まず区域の種類、次に建物と擁壁の状況、最後に支援制度の順です。
先に値段を決めてしまうと、前提が崩れたときに見直しが必要になるからです。
手順1 区域の種類と、敷地のどこまでが入っているか
区域が敷地の一部にだけかかっていることも、よくあります。
建物が建つ場所が入っているのか、庭や斜面だけなのかで、買主の受け止め方は違います。
境目を地図で印刷しておけば、説明は早く済みます。
手順2 擁壁や斜面の状況を、写真と書類で残す
斜面や擁壁がある土地は、現在の状態を写真で残しておくところから始めます。
検査済証や過去の工事の書類が残っているなら、一緒に出してください。
擁壁そのものの見方は、高低差・擁壁のある物件を売る方法にまとめました。
水害の想定も重なる土地かどうかは、浸水想定区域の家は売れる?ハザードマップの説明義務が参考になります。
手順3 過去の崩れや、手を入れた履歴を整理する
敷地や周辺で、土が崩れたことがあるかどうか。
排水や擁壁の補修をしたことがあるか。
これらは地図には載らず、売主しか知らない情報です。
知っていて伝えずに引き渡すと、あとから揉めやすくなります。
思い出せる範囲の年と状況を、メモにして担当者へ渡してください。
支援制度は使えますか?どこに聞けばよいですか?
使える可能性はありますが、制度ごとに対象が決まっています。
対象になる区域や建物の条件があるので、まず窓口へ事前に相談するのが先です。
どれも、工事や契約を先に進めると対象外になることがあります。
福岡市の宅地防災対策助成金(擁壁・崖の工事)
福岡市のページによると、擁壁の築造や、補強・補修の工事費の一部が助成されます。
助成額は、対象経費の3分の1か、上限額のどちらか少ないほうです。
上限は、擁壁工事と補強工事が300万円、補修工事が100万円です。
対象には条件があり、崖の高さが2メートルを超えること、影響の及ぶ範囲に建築物・公共施設・私道があることなどが挙げられています。
既存の擁壁がある場合は、築造から20年が過ぎているか、変状があると判断されたものが対象です。
営利目的の不動産事業用の土地は対象外とされています。
流れは、事前相談、交付申請、交付決定、工事契約・着工の順です。
交付決定の前に工事契約や着工をすると、対象外になります。
売却のために使えるかどうかは、ページに書かれていません。
募集期間の記載も見当たりませんでした。
窓口は、福岡市住宅都市みどり局建築指導部の開発・盛土指導課です(092-707-3902)。
福岡市の土砂災害対策改修・移転の助成
福岡市の広報(2025年5月15日号)には、土砂災害対策の改修や移転などの費用を助成する案内が載っています。
対象は、特別警戒区域などにあって、土砂災害に対する構造上の安全性を備えていない住宅です。
申し込む前に、開発・盛土指導課への相談が要ります。
補助の割合と上限は、最新の要綱で窓口に確かめてください。
対象が「特別警戒区域など」と書かれているため、警戒区域だけの家が使えるかは、窓口で確かめてください。
福岡県のがけ地近接等危険住宅移転事業
危険な区域にある住宅を取り壊して、安全な場所へ移る人に費用を補助する制度です。
福岡県のページでは、対象区域に特別警戒区域や、その指定が見込まれる区域が入っています。
対象になる住宅は、昭和49年6月以前から区域内に建つものか、市町村が移転や是正などを勧告した住宅です。
取り壊し費などは、1戸あたり97.5万円が限度とされています。
申請の手続きは、住んでいる市町村に尋ねる形です。
福岡市は、制度がある市町村として県のページに載っています。
県の窓口は建築都市部の建築指導課(092-643-3721)です。
売却を考えている家が対象になるかは、事前に確かめないと分かりません。
持ち続けるか、売るか。どう整理すればよいですか?
費用と手間を並べて、どちらが楽かを比べます。
区域の指定は、売る理由にも、売らない理由にもなりません。
売る場合に、先に決めておくこと
まず、買主へ説明する資料を売り出す前に揃えること。
次に、対策費をかけて売るのか、現状のまま条件を示して売るのかを決めること。
どちらの場合も、買主の住宅ローンが通るかどうかは、金融機関ごとに見方が違います。
土地の条件を伝えて、早めに事前審査を試してもらう方法もあります。
買主から出やすい質問を、先に用意しておく
買主から聞かれやすいのは、区域の種類、建て替えのときの制限、擁壁の状態の3つです。
どれも、手元の資料で答えられるものと、県や市に確かめないと答えられないものに分かれます。
答えられないものを、その場で推測して返すのは避けてください。
「確認して、書面でお伝えします」と返せば足ります。
建築の制限が気になる買主には、福岡市の建築審査課が出している既存擁壁の取り扱いの案内が使えます。
検査済証がない擁壁でも、外観の調査と報告書の提出で対応できる運用が、同ページに書かれています。
検査済証がないというだけで、建てられないと決まるわけではありません。
どこまでの確認が要るのかは、建築の計画ごとに市へ尋ねることになります。
持ち続ける場合に、先に知っておくこと
売らずに持つなら、擁壁や斜面の点検と補修が、これからも続きます。
助成制度が使えるかどうかで、費用の見通しが変わります。
相続した実家で、遠方から管理している方は、まず現状の確認から始めてください。
何を相談すればよいですか?
次の3つを持って、相談に来てください。
- 物件の住所と、手元にある区域の通知や資料
- 斜面・擁壁の写真と、過去の補修や崩れの記憶
- 売るか持ち続けるか、まだ決まっていないという状況
当社が確認するのは、区域の種類、県への照会、擁壁と建物の状況の3点です。
そのうえで、売る場合と持つ場合の費用を並べてお示しします。
無理に売却や買取をお勧めすることはありません。
区役所や県の窓口を回る場面は、福岡市7区の手続き窓口ガイドにまとめています。
気になる点は、15分の無料相談でお聞きします。
