自分で家を売る人はアメリカでも5%|日本で広がらない理由
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士「海外では不動産会社を通さず、自分で家を売るのが普通らしい」
売却のご相談の中で、年に何度かうかがう話です。
結論から申し上げます。
全米リアルター協会(NAR)が2025年に公表した調査では、自分で売った人(FSBO=For Sale By Owner)は5%でした。
同じ調査で、不動産会社に頼んだ売主は91%です。
自分で売る文化があるとされる国でも、9割は業者に頼んでいます。
では、日本で自分で売る形が広がらないのは、売主のやる気の問題でしょうか。
違います。
閉じているのは、買主への露出・価格の情報基盤・買主の決済という3か所です。
しかも3つが同時に、業者側で閉じたままになっているのが日本の形です。
この記事は、費用を抑えたくて「自分で売れないか」と調べている方に向けて書いています。
米国の数字を正しく読み、日本で実際にどこが閉じているのかを確かめたうえで、売主が担える範囲はどこまでなのかまで進みます。
2. 米国の売主は、業者をどう使っているのですか?
3. 日本で自分で売る人が少ないのは、何が閉じているからですか?
4. 福岡市では、価格の根拠を自分で作れますか?
5. 売主が自分で担える範囲はどこまでですか?
6. 次にやること
アメリカでは自分で家を売るのが普通なのですか?
普通ではありません。
2025年の調査で5%、つまり20軒に1軒です。
しかもこの5%は、NARの記録の中でいちばん低い数字でした。
1985年は21%あった。減り続けて5%になった
同じNARの発表によれば、1985年のFSBOは21%ありました。
5軒に1軒が自分で売っていた時代から、20軒に1軒まで下がったことになります。
日本で「海外では自分で売るのが普通」と語られるとき、参照されているのは、たいていこの減る前の姿です。
ネットが普及して情報が集まりやすくなれば、自分で売る人は増えそうに思えます。
米国で起きたのは逆でした。
なお、この調査が対象にしているのは2024年7月から2025年6月までの取引です。
価格差を「自分で売ると安くなる」の根拠にしない
同じ調査には、もう1つ目を引く数字があります。
FSBOで売れた価格の中央値は36万ドル、業者を通した取引は42万5千ドルでした。
差は6万5千ドルです。
この差を見て「自分で売ると安くなる」と結論づけたくなります。
当社はそう書きません。
FSBOには、親族や知人への売却のように、売り出す前から買主が決まっていた取引が含まれます。
売れた物件に地方の安い住宅が多く含まれていれば、売り方とは関係なく中央値は下がります。
比べられているのは売り方だけではなく、物件と事情の集まり方も違うということです。
売り方の違いだけを取り出した比較にはなっていないので、金額の差をそのまま自分に当てはめることはできません。
米国の売主は、業者をどう使っているのですか?
全部任せるか、全部自分でやるかの二択ではありません。
米国には「掲載だけを買う」という中間の選び方があります。
掲載だけを買う「Flat-fee MLS」という仕組み
米国の物件情報は MLS(Multiple Listing Service)という業者間のデータベースに集まります。
日本のレインズに当たるものです。
この MLS へ載せる作業だけを、免許を持つ業者に定額で頼める形が Flat-fee MLS と呼ばれています。
売主は掲載だけを買い、問い合わせ対応や内覧は自分で担当します。
ただし、どの州でも使えるわけではありません。
仲介業者に最低限の業務を義務づけ、結果としてこの形を認めていない州もあります。
日本には「掲載だけ買う」入口が無い
日本でこれに当たる仕組みを、当社は見つけられていません。
レインズへの登録は、媒介契約を結んだ不動産会社が行います。
掲載の作業だけを切り売りする窓口が、制度としても商品としても用意されていないわけです。
米国のFSBOが5%でも成り立っているのは、業者を完全に外しているからではなく、部分的に買える入口があるからだと言えます。
ここが、日米でいちばん違うところです。
日本で自分で売る人が少ないのは、何が閉じているからですか?
露出・情報基盤・決済の3か所です。
1つが閉じているだけなら回り道ができます。
3つが同時に閉じていると、売主が自力で開けられる場所が残りません。
1つめ 露出 — 大手ポータルは業者経由で載る
買主が最初に見るのは不動産ポータルサイトです。
主要なサイトは、宅地建物取引業の免許を持つ会社との契約で物件情報を受け取る形になっています。
所有者が自分で直接載せる窓口は、原則として用意されていません。
個人が投稿できる掲示板型のサービスは存在しますが、不動産を探している人の数が桁違いに少ないのが実情です。
仕組みの詳しいところはSUUMOに個人で物件を掲載できる?売主が知っておきたい仕組みにまとめています。
2つめ 情報基盤 — レインズは宅建業者だけが使う
レインズは、国土交通大臣が指定した機構が運営する業者間のネットワークです。
東日本レインズの案内では、会員になれるのは宅地建物取引業者で、宅地建物取引士の登録を受けただけでは会員になれないと書かれています。
一般の方が直接検索することもできません。
売主が全く見られないわけではありません。
専任媒介・専属専任媒介で依頼した売主は、依頼した会社から案内された方法で、自分の物件の登録情報だけを確認できます。
見られるのは自分の1件で、周辺の成約事例ではないという線引きです。
確認できる画面はレインズは個人でも見られる?売主が確認できる画面で説明しています。
3つめ 決済 — 買主の住宅ローンで止まる
買主が現金で買うなら、ここは問題になりません。
住宅ローンを使う場合は、事実が2つあります。
1つめは、書類を作れる人の話です。
重要事項説明書を作成し、記名できるのは宅地建物取引士だけです。
個人同士の売買には宅地建物取引業法の説明義務が及ばないため、この書類はそもそも作られません。
2つめは、金融機関が何を見るかという話です。
審査では売買契約書が必ず求められ、重要事項説明書も多くの場合に求められます。
「重要事項説明書が無いとローンは通らない」と言い切ることは、当社はしません。
金融機関ごとに扱いが違い、必要書類の案内も「必要となる場合がある」という書き方が多いためです。
確かめる順番は不動産の個人売買で住宅ローンは使える?福岡の銀行が求める書類に書いています。
福岡市では、価格の根拠を自分で作れますか?
区によって、作れる区と作りにくい区があります。
分かれ目は取引の数です。
公開されている取引価格情報だけで値付けをしようとすると、事例が足りない区では比べる相手がいなくなります。
7区のマンション取引件数は7倍ひらく
当社が国土交通省の取引価格情報を集計した件数が、そのまま差を示しています。
対象は2024年第2四半期から2026年第1四半期までの2年間、マンションの取引です。
| 区 | マンションの取引件数 |
|---|---|
| 中央区 | 1,109件 |
| 博多区 | 951件 |
| 東区 | 559件 |
| 南区 | 463件 |
| 早良区 | 271件 |
| 西区 | 233件 |
| 城南区 | 153件 |
いちばん多い中央区と、いちばん少ない城南区で7倍以上ひらきます。
区ごとの中央値は福岡市の売却相場から各区のページでご覧いただけます。
城南区の153件は、月あたり6件という意味
城南区の153件を2年で割ると、月あたり6件ほどです。
この6件の中に、ご自宅と同じ間取り・同じ広さ・近い築年数の住戸が入っている月は、そう多くありません。
一方の中央区は2年で1,109件、月あたり45件を超えます。
同じ「公開データで調べる」という作業でも、手元に残る比較対象の数がまったく違うわけです。
城南区や早良区南部のように事例が薄い場所では、公開データの平均をそのまま売り出し価格にすると、相場から離れた金額になります。
離れた方向が上なら売れ残り、下なら安く手放すことになります。
業者が見ている成約事例は、レインズに蓄積されたものです。
売り出し価格ではなく、実際に決まった価格と、決まるまでにかかった日数が残っています。
ここは売主が自分で開けられない場所なので、価格の根拠づくりは業者に残すのが現実的です。
出典:福岡市7区の売却相場(国土交通省の取引価格情報を当社が集計)
売主が自分で担える範囲はどこまでですか?
価格と契約を業者に残したまま、準備と伝達は売主が担えます。
言い方を変えると、「業者を外す」のではなく「業者を残して、売主ができる部分を戻す」という形です。
書類の取得は、福岡市の窓口で自分でできる
売却に使う書類の多くは、所有者本人が窓口で取れます。
登記事項証明書や地積測量図は法務局、固定資産評価証明書は区役所の窓口です。
どの書類をどこで取るかは福岡市7区の手続き窓口ガイドに区ごとにまとめています。
必要な書類の一覧は売却に必要な書類のページをご覧ください。
この取得作業を売主が担えば、そのぶん業者の移動と待ち時間が減ります。
住み心地を伝えるのは、売主のほうが正確
日当たり、風の通り、夜の静けさ、ごみ出しの場所、近所のお付き合い。
どれも住んでいる方にしか答えられません。
写真の撮影も同じで、良い時間帯を知っているのは暮らしている方です。
一方で、価格の交渉と重要事項説明は宅建業者の仕事として残ります。
どこまでが自分でできて、どこからができないのかは不動産の個人売買はどこまで自分でできる?できること一覧で一覧にしています。
売ったあとの責任は、自分で売っても残る
手数料を払わなければ責任も軽くなる、ということはありません。
引き渡した家に、契約の内容と違うところがあった場合、売主は買主に対して修補や代金の減額、場合によっては損害賠償の責任を負います。
民法が定めた契約不適合責任で、売主が個人であっても適用されます。
違うのは、期間の決め方のほうです。
宅地建物取引業者が売主の取引には、引渡しから2年以上とする規定が宅地建物取引業法にあります。
個人が売主の場合、この規定は及びません。
そのため期間や免責の範囲は、売買契約書と物件状況確認書の書きぶりで決まります。
ひな形をそのまま使うと、この部分が空いたまま契約に進んでしまうので注意してください。
足りない項目は不動産の個人売買の契約書|ひな形に足りない項目に挙げています。
次にやること
まず、ご自宅のある区の取引の数を見てください。
事例が薄い区では、公開データだけで値付けをする方法が最初から選びにくくなります。
比べる相手が足りないためです。
そのうえで、売却の準備のうち自分で担える作業を決めてください。
ここまで決まると、ようやく費用の話に進めます。
4つの売り方を並べた仲介・買取・じぶん売却・リースバックの比較をご覧いただくと、関与の度合いと費用の関係が1枚で分かります。
当社が福岡市・近郊のマンションで用意しているのは、売主様が作業の一部を担当されるプランです。
書類の準備・撮影・物件情報の入力を担当される場合は当社の通常の仲介手数料から20%、内覧のご案内まで担当される場合は30%を割り引きます。
利用審査と面談があり、交渉・契約・決済は当社が担当します(じぶん売却)。
価格の目安だけ先に知りたい場合は、無料査定からお申し込みください。
