マンションに建替えの話が出たら|売却前に確認する費用と決議
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士総会の案内に「建替え」や「再生」の文字が入ると、驚く方は少なくありません。
費用を負担できるのか、今のうちに売ったほうがよいのかと、答えの出ない悩みが続きます。
この記事は、福岡市内の分譲マンションで建替えなどの話が出た区分所有者に向けて、売却を考える前に何を確かめるかを書いたものです。
先に結論を書きます。
建替えの話が出ていても、部屋を売ること自体は止められていません。
急いで決める必要もありません。
話がどの段階にあるかで、確認する資料と、売却に与える影響が変わるためです。
2. 検討中・計画具体化・決議済みで、確認する資料はどう変わるか
3. 令和7年法律第47号で、売主の判断に関わる部分は何か
4. 建替えや再生にかかる費用は、いつ誰が負担するのか
5. 今売る場合と持ち続ける場合は、何で比べるか
6. 福岡市で使える相談先と、おもいで不動産への相談
建替えの話が出たマンションは売れるのか
売れます。
建替えの話があるというだけで、売却が法律で制限されるわけではありません。
ただし、買主が見る情報は増えるのが実情です。
売却の検討は、話が出た時点で止められていない
建替えが正式に決議される前の部屋は、通常のマンションと同じく売却を検討できる状態です。
決議のあとは、建替えに参加するかどうかの回答を求められるなど、手続きの中で選ぶ場面が出てきます。
その場面でも、売るかどうかは、届いた資料を見て選びます。
買主は何を気にするか
買主が気にするのは、建替えの話がいつ決まりそうか、買ったあとにどれだけの負担が来るかの2点です。
話が検討中で内容が固まっていなければ、買主にも説明しようがありません。
そのため、売主として分かっている範囲の資料を、早めに不動産会社へ見せておくことが、買主への説明の土台になります。
資料を見せずに進めると、契約の直前で買主が条件を変えたり、見送ったりする原因になります。
管理組合の運営や修繕計画の一般的な確認事項は、マンション売却で伝えるべきトラブルの記事が先です。
築年数による売れ方の違いは、築古マンションが売れない理由の記事にあります。
この記事の範囲は、建替えや再生の話が出た場合だけです。
検討中・計画具体化・決議済みで、確認する資料はどう変わるか
確認する資料は、話の段階で変わります。
検討中・計画が具体化した・正式に決議された、の3段階に分けて考えると整理しやすくなります。
検討中の段階|総会の案内と議事録を見る
理事会や総会で「建替えも選択肢」と話が出たばかり、という段階です。
見るのは、総会の案内と議事録、理事会の報告です。
議事録に書いてあるのは、話題に出ただけなのか、調査費を使うことが決まったのかの違いです。
調査や勉強会の費用が決まっていれば、その負担方法も一緒に確認します。
建替えの金額や時期が決まっていることは、この段階ではまずありません。
先にすべきなのは、決まっていないことを決まったように読まない姿勢でしょう。
計画が具体化した段階|再生計画と負担金の見込みを見る
専門家が入り、建替えのほかに改修や売却などの案が比べられている段階です。
見るのは、各案の概算費用、1戸あたりの負担金の見込み、スケジュールの3つです。
負担金が「見込み」なのか「確定」なのかで、数字の重みは全く違います。
見込みの数字は、工事費の変動や参加者の数で動きます。
資料の日付と、誰が作った資料かも見ておくと、あとで読み返したときに迷いません。
正式に決議された段階|決議の内容と、自分に求められる回答を見る
総会で建替えなどが決議された段階です。
見るのは、決議の内容、費用の分担方法、決議のあとに自分が回答する期限の3つです。
国土交通省の建替えマニュアルによると、建替え決議のあと、賛成しなかった区分所有者には、建替えに参加するかどうかを書面で尋ねる手続きがあります。
回答の期間は催告から2か月で、期間内に答えなかった場合は不参加の扱いになります。
この手続きの詳細は改正後の条文や管理組合の案内で変わりうるため、実際の期限は届いた書面で確かめてください。
建替え決議のための集会は、招集通知を開催日の2か月前までに出すとされています。
話が出てから決議までには、通常、時間がかかります。
この時間があるので、総会の案内が届いた日に売却を決める必要はありません。
令和7年法律第47号で、売主の判断に関わる部分は何か
区分所有法などの改正(令和7年法律第47号)のうち、区分所有法の改正部分は、令和8年4月1日から施行されています。
建替え以外の再生の手法が加わり、決議の数え方が整理されました。
ここでは、売主の判断に関係する部分だけを取り上げます。
施行は3段階|済んでいるものと、これからのもの
改正法の施行は、令和7年11月28日、令和8年4月1日、令和9年4月1日の3段階です。
令和7年11月28日は、都道府県知事などの権限の強化と、マンション管理適正化支援法人の登録制度の開始です。
令和8年4月1日は、区分所有法・被災区分所有法の改正が中心です。
この記事で扱う再生の決議の規定は、ここに入ります。
令和9年4月1日は、管理計画認定制度の拡充を含むマンション管理適正化法の部分で、これから施行される予定の段階です。
つまり、決議に関わる部分は、もう施行済みという扱いになります。
改正前に済んだ集会の決議の効力は、改正によって変わりません。
再生の手法が5つになり、決議の数え方が整理された
多数決で進められる再生の手法は、建替えだけではなくなりました。
建替え、建物の更新(一棟丸ごとのリノベーション)、建物と敷地の一括売却、建物を取り壊して敷地を売る方法、建物の取壊しの5つです。
決議の多数決は、原則として区分所有者と議決権のそれぞれ5分の4以上です。
次の5つのうち1つでも当てはまると、4分の3以上に下がります。
- 耐震性の不足
- 火災に対する安全性の不足
- 外壁などの剝落のおそれ
- 給排水管の腐食による衛生上の害
- バリアフリー基準への不適合
連絡の取れない所有者が決議の妨げになっていた点も、見直されました。
裁判所が認定した所在等不明の区分所有者は、決議の母数から除外されるようになりました。
売主の立場で押さえたいのは、建物の売却や取壊しも多数決の対象になったことです。
反対の立場でも、決議が成立すれば手続きは進んでいきます。
決議の前から自分の部屋の行き先を考えておく意味は、ここにあります。
賃貸中の部屋を持っている場合は、さらに別の規定があるのをご存じでしょうか。
建替え決議があったときは、賃貸借の終了を請求でき、請求から6か月で終了します。
その際に貸主側が負うのは、借主への補償金の支払いです。
投資用に持っている方は、この補償金が自分の負担になることを頭に置いてください。
建替えや再生にかかる費用は、いつ誰が負担するのか
費用の負担は、決議の内容と時期で決まります。
売主と買主のどちらが負うかは、売買契約で個別に決める事項です。
すでに決まった負担と、これから決まる負担を分ける
まず、総会で決議済みの負担金があるかを確かめます。
決議済みで、納期が決まっている負担金は、請求の相手が誰になるかを契約で決めておく必要があります。
これから決まる負担は、金額も時期も確定していません。
見込みの数字を契約書に書き込むと、あとで食い違ったときに争いのもとになります。
確定していないことは、確定していないと書いておくほうが、売主にも買主にも安全です。
賃貸中の部屋では、先ほどの補償金のような負担も別に出てくる可能性があります。
売買契約で確認しておくこと
売買契約の前に、次の4つを不動産会社と書面で確かめます。
- すでに決議された負担金の有無と、その負担者
- 総会で検討中の事項と、買主へ説明する範囲
- 引渡し日の前後に納期が来る請求の扱い
- 管理組合から取り寄せる資料の範囲と日付
管理組合の資料は、管理会社や管理組合に不動産会社が請求するのが通常です。
取り寄せには日数がかかることがあるため、売却の相談の早い段階で依頼します。
どこまでを売主が説明し、どこからを不動産会社が説明するのかも、ここで整理しておくと、買主への説明がぶれません。
今売る場合と持ち続ける場合は、何で比べるか
比べる軸は、費用、期間、住み替えの3つです。
どちらが得かは、部屋の状況と家計しだいです。
数字は断定せず、自分の場合の見込みを並べて比べましょう。
| 比べる軸 | 今売る場合 | 持ち続ける場合 |
|---|---|---|
| 費用 | 売却にかかる費用と、手元に残る金額を計算する | 負担金と管理費、修繕積立金の見込みを足していく |
| 期間 | 売却活動と引渡しまでの期間が必要 | 決議や工事の完了まで、時間がかかる可能性がある |
| 住み替え | 先に次の住まいを決める必要がある | 建替え中は仮住まいが必要になる場合がある |
表のとおり、どちらの道にも費用と手間が伴います。
費用は、建替えの負担金の見込みと、今売った場合の手取りを並べたとき、初めて比べられます。
大規模修繕の一時金が絡む場合は、大規模修繕前後の売り時の記事で扱った考え方もあわせて使えます。
期間は、建替えの場合、決議から工事の完了まで長くなることが一般的です。
住み替えは、建替え中の仮住まいの費用や、完成後に戻るかどうかも含めて考えます。
「今が売り時」とは、この記事では言いません。
売るほうが得な場合も、持つほうが落ち着く場合もあるためです。
福岡市で使える相談先と、おもいで不動産への相談
福岡市には、築年数の古い分譲マンションを支える制度があります。
ただし、申し込めるのは管理組合です。
高経年マンション運営支援事業|築40年以上
対象は築40年以上の分譲マンションで、福岡市がアドバイザーの派遣と特別相談を無料で実施しています。
特別相談は約1時間で、福岡市役所3階の住宅相談コーナーで受けます。
アドバイザー派遣は約3時間で、マンションの集会室などへ専門家が来ます。
申し込めるのは管理組合の役員(理事長・理事など)で、区分所有者が個人で申し込むことはできません。
建替えの話が出ているなら、理事会へ「この事業を使えないか」と声をかける方法があります。
受付状況や年間の件数の上限は変わりうるため、市の窓口(住宅計画課)でご確認ください。
旧耐震マンションの耐震補助
昭和56年5月31日以前に建築確認を得て着工した共同住宅には、福岡市の耐震化の補助があります。
対象は3階建て以上で、延べ面積1,000平方メートル以上など、条件が決まっています。
補助を使うには、事前の相談が必要です。
設計や工事の契約は、市の交付決定の通知が届いてから結ぶ決まりで、先に契約すると補助の対象から外れます。
窓口は福岡市の建築物安全推進課(電話092-711-4580)です。
建替えか耐震改修かで管理組合の議論が分かれている場合、この補助の条件も議事録に出ているか確かめてください。
一棟のビルやマンションを丸ごと持つ方の旧耐震の話は、旧耐震ビル・一棟マンションの売却の記事で別に扱っています。
おもいで不動産に相談するときに持ってくるもの
当社へのご相談は、売ると決めていない段階で構いません。
総会の案内、直近の議事録、長期修繕計画、管理規約があれば、見せてください。
全部は揃わなくても、始められるのは手元の案内1枚からです。
当社では、その資料をもとに、話が3段階のどこにあるか、売却前に確かめることは何かを一緒に整理します。
整理した結果、売らずに持ち続ける結論になっても、その判断を尊重します。
よくあるご質問はよくある質問のページにもまとめています。
