借地権の家を売る手順|地主の承諾と譲渡承諾料の話
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士借地の上に建つ家を相続し、売れるのかどうかが分からないまま年を越す方がいます。
結論を先に書くと、借地権付きの建物は売れます。
ただし、所有権の家と同じ手順では進みません。
買主を探す前に、地主の承諾という関門を通る必要があるためです。
この記事では、承諾をもらう順番と、承諾が出ないときに残っている手立て、福岡市で税金がどう動くかを並べました。
借地の家をどうするか決めかねている方に向けて書いています。
2. 地主の承諾をもらう順番
3. 承諾がもらえないときは、裁判所に申し立てられる
4. 借地権はいくらになるのか
5. 税金と、福岡市での実務
6. 次にやること
借地権付きの家は売れるのか
売れます。
建物は借地人の所有物で、建物と借地権をまとめて買主へ渡す形です。
所有権の売買と違うのは、土地の賃借権を他人に移すときに地主の承諾が必要になる点です。
承諾なしで進めると、契約を解除される余地が残る
民法第612条は、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権を譲り渡すことを認めていません。
承諾を取らないまま売ってしまうと、地主から契約の解除を主張される余地が残ります。
買主にとっては、土地を使う根拠が揺らぐ買い物になります。
だから売買契約には、地主の承諾が得られることを条件に入れるのが通例です。
承諾の見込みが立たない段階で売り出すと、申込みが入ってから白紙に戻る展開になりかねません。
買主に住宅ローンが付きにくい
借地権付きの建物を買う人は、金融機関の審査で所有権の家より厳しい条件に当たります。
担保に取れるのが建物と借地権で、土地そのものが入らないためです。
金融機関が地主の承諾書や、承諾の内容を書いた覚書を融資の条件に挙げることもあります。
そのため買主は、現金で買える人か、借地に慣れた不動産会社に寄っていきます。
買主が絞られるぶん、売り出してから決まるまでの期間は所有権の家ほど読めません。
買える人が限られると価格が下がるという点は、入居者がいるまま売る場合にも同じことが起きます。
そちらは賃貸中のまま売るか、空室にしてから売るかで整理しています。
登記されているのは建物だけ
借地の家は、土地の登記簿に借地人の名前が出てきません。
権利の裏付けになるのは、建物の登記と、地主との賃貸借契約書です。
建物が未登記のままだと、買主は借地権を主張する足場を持てません。
売却を考えるなら、まず建物の登記事項証明書を法務局で取り、名義が誰になっているかを確かめてください。
相続した家であれば、亡くなった方の名義のままになっている場合もあります。
地主の承諾をもらう順番
順番は、契約書の確認、地主への相談、条件の調整、買主探しの4段階です。
この順番を飛ばして買主を先に決めると、条件の交渉を買主の期限に追われながら進めることになります。
先に契約書で5つを確かめる
地主に会う前に、手元の契約書で確かめるものがあります。
- 借地権の種類(旧借地法のものか、借地借家法のものか)
- 契約の期間と、残っている年数
- いまの地代と、改定の取り決め
- 更新料や譲渡承諾料についての条項
- 建物の建て替えや増改築に地主の承諾が要るかどうか
契約書が見つからない場合の手がかりは、地代の振込記録と建物の登記です。
残存期間が短いほど買主の評価は下がるため、更新の時期も合わせて見ます。
借地借家法が施行される前に結ばれた契約には、いまも旧借地法の扱いが続きます。
更新や期間の決まりが新しい契約と違うので、どちらの法律で始まった契約かを先に押さえてください。
古い借地では、契約書そのものが当事者の代で作られていない例もあります。
地代の支払いが遅れていないか
承諾の交渉に入る前に、地代の入金が滞っていないかを通帳で確かめてください。
滞納があると、地主は承諾の話よりも先に未払いの話をします。
相続した家では、名義人が亡くなったあと地代の引き落としが止まっている例があります。
口座が凍結された月から止まっているので、気づかないまま数か月が過ぎている状態です。
先に清算しておけば、交渉の入口で立ち止まらずに済みます。
地主への相談は、買主を決める前に
地主に伝えるのは、売りたいという意向と、買主に求める条件の2つです。
この段階で、地主自身が借地権を買い取りたいと言ってくることもあります。
地主にとっては、自分の土地を完全な所有権に戻せる機会になるためです。
相談を売主本人だけで進めると、長年の関係の話と条件の話が混ざりやすくなります。
当社がお手伝いするのは、売主の代理として承諾の条件と期日を文書で詰めるところです。
譲渡承諾料は相場表で決まらない
譲渡承諾料は、地主が承諾の見返りとして受け取るお金で、名義書換料とも呼ばれます。
金額を定めた法律はなく、契約書の条項と交渉で決まります。
借地権の価格に対する割合で話をすることが多いものの、公的に決められた料率はありません。
先に「いくらが相場です」と言う不動産会社には、その根拠を聞いてください。
税金の扱いははっきりしていて、借地権を売るために地主へ払った名義書換料は譲渡費用に含まれます。
譲渡費用になると、譲渡所得を計算するときに売却代金から差し引けます。
承諾料を売主と買主のどちらが負担するかは、売買契約で決める事柄です。
どちらが払うかを決めずに話を進めると、決済の直前で揉めます。
なお、土地の賃借権の譲渡に伴う名義書換料や更新料は、消費税がかかりません。
承諾がもらえないときは、裁判所に申し立てられる
地主が承諾しない場合、借地借家法第19条の申立てという道が残っています。
借地人が建物を第三者に譲ろうとするとき、地主に不利になるおそれがないと認められれば、裁判所が承諾に代わる許可を出せる仕組みです。
19条の申立てができる場面
この制度は、借地の上に建物がある状態を前提にしています。
建物を取り壊して更地にしてから相談に来られると、19条の申立ては使えません。
古家が傷んでいても、売る算段が付くまでは解体しないでください。
どの裁判所へ申し立てるかは、借地借家法第41条が定めています。
申立てを考える前に見るのは、建物が残っているか、地代の滞納が無いか、買主の資力が示せるかの3点です。
どれかが欠けていると、地主に不利益が無いという説明が通りにくくなります。
許可が出るときに付く条件
裁判所は、許可と引き換えに地主へ財産上の給付を命じることがあります。
つまり、承諾料に相当するお金を払う形で決着する場合があるわけです。
借地条件の変更を命じる形も、同じ条文に書かれています。
手続きには時間がかかるので、引き渡しの期限が決まっている売却とは相性がよくありません。
借地権はいくらになるのか
売買の値段は、地代の水準、残存期間、承諾が取れる見込みの3つで動きます。
相続税の評価で使う借地権割合は、売買価格そのものではありません。
路線価図の記号で借地権割合を読む
国税庁の路線価図では、路線価の右隣にAからGの記号が付いています。
記号の意味はAが90%、Bが80%、Cが70%、Dが60%、Eが50%、Fが40%、Gが30%です。
記号が付いていない地域の借地権割合は20%として扱われます。
たとえば「215D」と書かれていれば、1平方メートルあたり21万5千円で、借地権割合は60%という読み方になります。
これは相続税を計算するための数字で、買主が出す値段とは別物です。
実際の売り出し価格は、同じ地域の所有権の取引価格から、借地であることによる減額を見て決めます。
地代が高い土地では、買主が払える金額はそのぶん伸びません。
出典:国税庁 路線価図の説明
底地と一緒に売る、という選び方
借地権だけを売るより、地主の底地と一緒に売ったほうが高くなる場合があります。
買主から見れば、借地の制約が付かない普通の土地建物になるためです。
代金は借地権と底地の割合で分けます。
地主が高齢で相続を控えている場合、売却は地主の側にも利のある話です。
他にも、借地権を地主に買い取ってもらう形や、借地権と底地の一部を交換して所有権にそろえる形があります。
どれが現実的かは、地主との関係と残存期間で変わるので、最初の相談で並べて検討してください。
地主と話が付かない場合に残るのは、借地権だけを買い取る業者に売る形です。
手取りは下がりますが、承諾の交渉から手を離せます。
税金と、福岡市での実務
借地権を売ったときの利益は、土地と同じ分離課税の譲渡所得です。
所有していた期間で税率が変わるため、買った時期を先に押さえます。
税率と、取得費に入れられるもの
所有期間が5年を超える長期譲渡所得の税率は20.315%、5年以下の短期譲渡所得は39.63%です。
相続で取得した借地権は、亡くなった方が取得した時期を引き継いで数えます。
過去に地主へ払った更新料は、取得費に加えられる扱いになっています。
当初の権利金から時の経過に応じた減価分を控除した額と、更新料の合計が取得費です。
領収書や契約書が残っていないと、この加算ができません。
建物の名義が故人のままなら、登記が先
相続した借地の家は、建物の名義が亡くなった方のままになっている場合があります。
名義が変わっていないと、買主へ所有権を移す登記ができません。
2024年4月から、相続で不動産を取得した人には登記の申請義務があります。
相続で取得したことを知った日から3年以内が期限です。
借地の建物も対象なので、売る前の段取りとして先に片付けておいてください。
福岡市では固定資産税の扱いが分かれる
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課されます。
借地の場合、土地の分は地主に、建物の分は借地人に届きます。
福岡市の令和8年度の納期限は、第1期が4月30日、第2期が7月31日、第3期が12月28日、第4期が3月1日です。
年の途中で引き渡すときは、建物の分を日割りで精算するのが通例になっています。
土地の分は地主が払い続けるため、精算の対象ではありません。
福岡市で評価証明書や公課証明書を取る窓口は、資産がある区の納税課です。
手数料は1件300円で、天神の市役所1階や博多区役所2階の証明発行コーナーでも受け取れます。
名寄帳や字図、路線価図を見たいときの担当は、同じ区役所でも課税課です。
郵送での請求は、博多区役所9階の福岡市税証明郵送請求センターが受け付けています。
取れるのは自分が納税義務者になっている資産の分なので、地主の土地の証明は地主に頼む形です。
建物の登記事項証明書や、区役所で取る書類の窓口は福岡市7区の手続き窓口ガイドに区ごとにまとめています。
次にやること
最初にやるのは、契約書と建物の登記を手元にそろえることです。
そのうえで、地主へ相談する順番を決めます。
代表の野上が過去に受けた相談にも、借地権で前面道路も私道という土地がありました。
すでに数社から声がかかっていて、その条件が適正なのか分からないというご相談でした。
借地の売却は、価格の話よりも先に段取りの話になります。
段取りの順番を間違えると、承諾が出ないまま時間だけが過ぎます。
地主との関係が長い売主ほど、第三者を入れて条件を文書にしたほうが話が早い場面です。
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