海外在住のまま日本の家は売れる|源泉徴収10.21%と納税管理人
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士海外に住んだままでも、福岡市の不動産は売れます。
所有権の移転は、売主がどの国に住んでいるかとは関係がありません。
ただし、日本に住民票が無いまま売ると、国内に住む売主には起きない手続きが3つ増えます。
買主が代金から税金を預かる源泉徴収、税務署と区役所への納税管理人の届出、在外公館で取る本人確認の書類の3つです。
海外赴任や移住で福岡市の家や土地を持ったままになっている方へ、この3つの段取りと、1つだけある期限の数え方を順に書きました。
2. 買主が代金の10.21%を預かるのは、なぜですか?
3. 納税管理人は、誰にいつまでに頼むのですか?
4. 住民票が無いとき、本人確認はどうするのですか?
5. 3,000万円控除は、海外に住んでいても使えますか?
6. 海外から売るときの段取り
海外に住んだまま、日本の不動産は売れますか?
売れます。
日本に住所が無くても、登記の名義人であれば売主になれます。
工程そのものは、県外に住んだまま売る場合と変わりません。
査定、媒介契約、売買契約、決済という順番は同じです。
海外だから増えるのは、税金の預かりと受け皿、それに本人確認の3点だけ。
県外からの売却と重なる部分は、そのまま使える
郵送での持ち回り調印、電子交付、オンライン面談、司法書士の立会いは、海外でも同じ道具です。
工程ごとに何が郵送で済むかは、県外からの売却を扱った記事にまとめました(福岡へ一度も行かずに売れる?)。
物件が福岡市内にあって、ご本人が県外や海外というご相談は当社の主な依頼のひとつです。
当社は県外のご自宅の売却も扱ってきました。
地元の不動産会社との協力とオンライン内覧を組み合わせて進める形です(遠方からの売却)。
売りたい物件が福岡市以外にある場合は、別の窓口になります(福岡市以外の物件)。
日程を決めるのは、郵送の往復と公館の予約
海外から売るとき、日程を左右するのは価格の交渉より書類の往復です。
売買契約書と登記の書類は、原本に署名したものを日本へ戻す必要があります。
国や地域で国際郵便の日数は変わるため、当社は決済日を決める前に発送日数を確かめます。
在外公館の証明も、いつでも取れるとは限りません。
予約が取れる日が限られる地域もあります。
決済日を先に決めてから書類を取り始めると、間に合わない回が出ます。
順番は逆にしてください。
証明が取れる日を確かめてから、決済日を置く形が安全です。
買主が代金の10.21%を預かるのは、なぜですか?
売主が税法上の非居住者に当たる場合、買主には代金の10.21%を源泉徴収して国へ納める義務があります。
非居住者とは、日本国内に住所が無く、1年以上続けて居所も無い個人のこと。
海外赴任や移住で住民票を抜いていれば、この扱いに入る可能性があります。
預かられた分は、売主が日本で確定申告をするときに精算されます。
納めすぎていれば還付されるので、最終の税額が10.21%ぶん増えるわけではありません。
変わるのは、決済日に手元へ入る金額です。
3,000万円で売ったら、いくら先に引かれるか
売買代金が3,000万円なら、源泉徴収される額は306万3,000円になります。
買主は差額の2,693万7,000円を売主へ払い、預かった分を支払った月の翌月10日までに納めます。
この306万3,000円は、売却益にかかる税金の前払いです。
注意したいのは、源泉徴収が「利益」ではなく「代金の全額」にかかる点。
売却益が1円も出ていない取引でも、いったん306万3,000円が引かれます。
税率そのものは、所有期間で20.315%と39.63%に分かれます(譲渡所得税の短期と長期の違い)。
住宅ローンの残債を決済で返す予定なら、差額で足りるかを契約の前に計算してください。
源泉徴収されない例外は1つだけ
例外は、買主が個人で、自分または親族が住むために買い、かつ代金が1億円以下の場合です。
このときだけ、買主は源泉徴収をしません。
買主が法人なら、1億円以下でも源泉徴収が必要になります。
店舗と住宅が一緒になった建物について、国税庁は居住用部分が主たる部分なら例外に当たるとしています。
目安として示されているのは、床面積の2分の1以上が居住用かどうか。
福岡市内の戸建てやマンションの多くは1億円以下なので、買主が個人のご家族なら引かれない取引です。
同じ物件でも、買主が賃貸用に買う法人だった場合は10.21%が引かれます。
買主が個人か法人かは、契約の前に分かる
当社が売出しの段階で売主へ伝えているのは、この点です。
誰が買うかで、決済日に入る金額が変わります。
買付の申込みが入れば、買主が個人か法人か、居住用か賃貸用かは契約の前に確認できます。
土地や収益物件は法人が買う割合が高く、源泉徴収される前提で資金計画を組むほうが安全です。
決済で残債を返しきれるかどうかは、代金ではなく手取りで判断してください。
引かれるお金を順番に並べた試算は、サイト上でも試せます(売却シミュレーター)。
納税管理人は、誰にいつまでに頼むのですか?
所得税については、確定申告書を出すまでに納税管理人を決め、納税地の所轄税務署へ届出書を出します。
納税管理人とは、日本国内で税務署からの書類を受け取り、納付を代わりに行う人のこと。
個人でも法人でも引き受けられます。
ご家族に頼むか税理士に依頼するかは、申告の手間をどちらが持つかで決めてください。
届出のあとは、税務署からの通知が納税管理人宛てに届きます。
確定申告書そのものは、非居住者の納税地を所轄する税務署へ提出します。
所得税の納税管理人は、税務署へ
出すのは「所得税・消費税の納税管理人の届出書」という書類です。
提出の期限は、確定申告書を出すときまで。
非居住者の確定申告の期限は、売った年の翌年3月15日になります。
決済が12月なら、残りは3か月。
この間に納税管理人を決め、届出を済ませ、申告書を作る流れになります。
納税地の判定は事情で変わるので、当社は申告の段取りを税理士に確かめてから決済日を決めます。
固定資産税の納税管理人は、区役所へ
納税管理人が必要なのは、所得税だけではありません。
市税にも同じ仕組みがあります。
福岡市は、出国前に納税を済ませられない場合、本人の代わりに納める人を区役所へ届け出るよう案内しています。
固定資産税がかかるのは、その年の1月1日の所有者です。
1年分がまとめて課税されます。
福岡市の納税通知書が届くのは4月10日ごろで、納期は4月・7月・12月・翌年2月の年4回。
つまり、通知書を受け取る前に出国すると、請求が届かないまま納期が過ぎます。
売却の年に引渡しをすると、買主との日割り精算も発生します(売却年の固定資産税の日割り精算)。
出典:福岡市 出国と税金
届出をしないまま出国すると、どうなるか
所得税の側では、届出が無いとき、税務当局が一定の者を納税管理人に指定できる取り扱いがあります。
市税の側で困るのは、納税通知書の宛先が無くなること。
海外の住所へ自動で転送されるわけではありません。
納期を過ぎれば延滞金がつき、決済で清算する金額も増えます。
当社が売主にお願いしているのは、売る予定が決まった段階で区役所と税務署の2か所を確かめることです。
福岡市の窓口の場所と受付時間は、一覧にまとめてあります(売却の窓口一覧)。
住民票が無いとき、本人確認はどうするのですか?
在外公館で2種類の証明を取ります。
住所の証明が在留証明、実印と印鑑証明書の代わりが署名証明(サイン証明)です。
どちらも日本国籍と有効な日本の旅券が必要で、手続きは領事の面前で行います。
この2つが揃えば、売買契約の署名も登記の申請も海外から進められます。
在留証明は、住所の代わり
在留証明は、申請者がどこに住所を持っているかを在外公館が証明する書類です。
不動産登記や年金の手続きで、住所の証明として求められる場合に発給されます。
日本の住民票が無い売主について、登記の名義と現住所をつなぐ役目を持ちます。
必要書類や条件は公館ごとの案内が異なるので、申請の前に管轄の公館のページを読んでください。
日本側で取る書類もあり、そちらの取り方は国内の売主と同じです(不動産売却の書類は自分で取れる?)。
署名証明(サイン証明)は、印鑑証明の代わり
日本に住民登録が無ければ、印鑑登録も抹消されています。
そこで法務局や金融機関が印鑑証明書の代わりに求めるのが、署名証明です。
形式は2つあり、形式1は公館の証明書と署名した書類を綴り合わせて割り印する方式。
形式2は、署名だけを単独で証明する方式になります。
どちらが必要かは提出先の意向で変わるため、司法書士に先に確認してもらってください。
証明書は発行日から3か月以内のものを求められる場合があり、決済が延びれば取り直しです。
代理人を立てるときの委任状の考え方は、共有名義の売却と同じです(共有名義の売却で使う委任状)。
3,000万円控除は、海外に住んでいても使えますか?
分かれ目になるのは、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れるかどうかです。
国税庁は、以前に住んでいた家屋を売る場合の要件として、この期限を挙げています。
海外に住んでいること自体が、この期限を前後に動かすわけではありません。
非居住者の申告で適用を受けられるかは、添付書類とあわせて税務署で確かめてください。
期限を1日過ぎた場合、あとから取り返す方法はありません。
期限の起算は、出国日ではなく住まなくなった日
読み違えが起きやすいのは、3年をどこから数えるかです。
起算は出国した日ではなく、その家に住まなくなった日。
赴任の前に実家へ移って半年暮らしていたなら、その半年も3年の中に入ります。
例えば2024年3月に住まなくなった家なら、3年を経過する日は2027年3月。
その日の属する年の12月31日なので、期限は2027年12月31日になります。
年をまたぐ取引では、譲渡の日をどちらで取るかで結論が変わるので、申告の前に税務署へ確認してください。
貸していた家、別荘だった家は条件が変わる
赴任のあいだ人に貸していた家は、申告で貸していた期間の扱いを問われます。
国税庁が対象外として挙げているのは、別荘や、一時的な目的で住んでいた家屋。
単身赴任で配偶者や扶養親族だけが住んでいた場合は、扱いが分かれるため税務署への確認が要ります。
相続した実家の空き家の3,000万円控除は、一度でも貸すか民泊にすると使えません。
当社にも、売る・貸す・民泊のどれがよいかというご質問が届きます。
迷っている段階で、先にどちらの控除を使う予定かを決めてください。
海外から売るときの段取り
最後に、やることを時期の順に並べます。
| 時期 | やること | どこへ |
|---|---|---|
| 売ると決めた時点 | 納税管理人を頼む人を決める | 税務署・区役所 |
| 売出しの前 | 在留証明と署名証明の取り方を確認 | 在外公館 |
| 買付が入ったとき | 買主が個人か法人かを確認 | 不動産会社 |
| 契約の前 | 源泉徴収の有無で手取りを計算 | 不動産会社・税理士 |
| 決済の1か月前 | 署名する書類の往復日数を確認 | 公館・司法書士 |
| 翌年3月15日まで | 確定申告で源泉徴収分を精算 | 税務署 |
この6つのうち、売主にしかできないのは納税管理人を決めることと、公館で証明を取ることです。
残りは当社と司法書士、税理士で進められます。
手取りの見込みと日程の見通しは、査定の段階でお出しします。
物件の情報と、いまお住まいの国と地域をお知らせください(無料査定のご相談)。
