買う側は生成AIで相場を調べる|売主の値付けと出す情報
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士福岡市で家を売り出す予定の方に、先にお伝えしたい結論は1つです。
いまの買う側は、問い合わせる前に生成AIやポータルサイトで相場と地域を調べています。
そのため、相場から離れた価格で出すと、内覧どころか比較の段階で候補から外れます。
この記事は、売り出し価格をいくらにするか、そして物件のどんな情報を出すかを決める前の方に向けて書きました。
根拠にするのは、全宅連(全国宅地建物取引業協会連合会)が2026年9月に公表した調査と、国土交通省の取引価格データです。
2. 生成AIで下調べした人は、最後に何で家を決めていますか?
3. 相場から外れた価格は、なぜ比較の段階で外されるのですか?
4. AIが答える相場を、売主がそのまま値付けに使ってよいですか?
5. 買う側が「あると便利」と答えた情報を、売主はどう用意しますか?
6. 生成AIの時代に売り出すなら、売主は何から始めればよいですか?
住まい探しに生成AIを使う人は、どれくらいいますか?
全宅連の調査では、住まい探しや物件の比較で生成AIを何らかの形で使った人が33.9%いました。
ChatGPTやGeminiのような、質問に文章で答えるAIのことです。
3人に1人が、物件を探す途中でAIに何かを尋ねた計算になります。
調査の対象は「買う人」だけではない
この調査は、全国の20〜65歳の男女5,000人に2026年7月30日から8月5日にかけて行われたインターネット調査です。
いま家を買おうとしている人だけに聞いたものではありません。
賃貸を探した人も、しばらく引っ越していない人も含まれます。
ですから「買主の33.9%がAIを使う」と読むのは誤りです。
住まいを探す人全体の傾向として読むのが正しい使い方になります。
地域別の集計は「九州」までで、福岡市だけの数字は出ていません。
使った人の目的の1位は「地域情報の比較」
AIを使ったことがある1,695人に目的を聞くと、上位は次の3つでした。
| 生成AIを使った目的(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 希望エリアの地域情報の収集・比較 | 33.5% |
| 不動産や契約の専門用語の解説 | 28.4% |
| 物件のメリット・デメリットの整理・比較 | 27.6% |
いちばん多いのは、エリアどうしを比べる使い方です。
「博多区と東区ならどちらが通勤に便利か」「このあたりの中古マンションはいくらくらいか」と聞く姿が浮かびます。
つまり買う側は、あなたの物件を見る前に、そのエリアの「だいたいの値段」を頭に入れてきます。
年代別の利用経験は、20代53.4%、30代42.3%、40代31.4%でした。
50代は19.6%、60歳以上は14.8%にとどまります。
50代と30代を比べても、利用経験には2倍以上の開きがあります。
売る側がAIを使っていなくても、買う側はAIで調べた前提で話を進めてくる。
この差を知らずに値付けをすると、買う側との認識がずれたまま売り出すことになります。
生成AIで下調べした人は、最後に何で家を決めていますか?
同じ調査で「いまの住まいを探した方法」を聞くと、SUUMOが20.9%、不動産会社からの提案・紹介が13.6%でした。
生成AIからの提案は3.8%です。
AIは下調べの道具として広がっているものの、家を見つける決め手はまだポータルサイトと不動産会社にあります。
AIは「下調べ」、比べるのはポータルサイト
流れを追うと、買う側の動きは次のようになります。
- AIやネットで、エリアの特徴と大まかな相場をつかむ
- ポータルサイトで、条件に合う物件を並べて比べる
- 気になった物件だけを、不動産会社に問い合わせる
売主の家が買う側の目に入るのは、2つ目の「並べて比べる」場面です。
そこでは同じエリア・似た広さの物件が、価格つきで一覧になっています。
AIを過大に見積もらなくてよい理由
「AIに紹介されないと売れない」と心配する必要はありません。
AIの提案で住まいを見つけた人は3.8%で、SUUMOの20.9%の5分の1以下です。
気にかけてほしいのは、AIが直接家を紹介するかどうかではありません。
AIで下調べを済ませた人が、どんな相場観を持ってポータルサイトを開くかです。
相場から外れた価格は、なぜ比較の段階で外されるのですか?
買う側が先に相場観を持っているため、相場より高い物件は「理由のわからない高い物件」として一覧の中で読み飛ばされるからです。
当社の代表・野上は、これを「単純に価格が高いだけの物件」と呼んでいます。
全宅連の調査で、物件情報に「あると便利」な情報を聞くと、周辺物件の相場が31.5%でした。
物件の写真、品質情報に続く3番目です。
買う側は、その物件の価格が周りと比べて高いのか安いのかを、自分で確かめたがっています。
そこへAIが「このエリアの中古戸建てはこのくらい」と答えていれば、比べる物差しはもう手元にある状態です。
「単純に価格が高いだけの物件」とは
相場より高く出すこと自体が悪いわけではありません。
リフォームしたばかり、駅に近い、日当たりがよいなど、高い理由が物件情報から読み取れれば、買う側は納得して問い合わせます。
外されるのは、高い理由が一覧のどこにも書かれていない物件です。
買う側から見ると「相場を知らない売主が強気に出している」としか映りません。
問い合わせが来ないまま数か月が過ぎ、値下げを重ねてから売れるという流れになりがちです。
値下げの前に確かめる点は家が売れないとき、値下げの前に確かめることで詳しく書いています。
福岡市では「区の相場」がそのまま使えない
AIに「福岡市西区の土地の相場は?」と聞くと、区全体の数字が返ってくることがあります。
ところが当社が国土交通省の取引価格を集計したところ、西区の土地の㎡単価は区全体の中央値で130,000円でした。
駅ごとに分けると、姪浜が285,000円、九大学研都市が77,000円で、同じ区の中で3.7倍ひらいています。
姪浜の土地を持つ方が区の数字で値付けすれば、安く出しすぎる計算です。
九大学研都市の方が同じことをすれば、今度は高く出しすぎます。
区より細かい単位で相場を見ないと、「高いだけの物件」になるか、損をして売るかのどちらかに振れるわけです。
駅ごとの数字は福岡市西区の不動産売却相場に載せています。
AIが答える相場を、売主がそのまま値付けに使ってよいですか?
そのまま使うのは避けてください。
AIの答えは、いつの取引を、何件もとに出したのかが示されないことが多く、数字が古い場合もあります。
値付けの材料にするなら、取引の時期と件数が分かる一次データで確かめ直します。
AIの相場が当てにならない3つの場面
AIの答えをうのみにすると危ないのは、次のような場面です。
- 数年前の記事や広告をもとに答えていて、いまの取引価格とずれている
- 売り出し価格(売主の希望)と、実際に売れた価格が混ざっている
- 区や市の平均を答えていて、駅や町名による差が消えている
とくに2つ目は見落としがちです。
ポータルサイトに並ぶのは売り出し価格なので、その数字をならすと、実際に売れた価格より高めに出やすくなります。
買う側もAIを使いますから、売主だけが古い数字や高めの数字を信じていると、話がかみ合いません。
国土交通省「不動産情報ライブラリ」で確かめる
売主ご自身で相場を確かめるなら、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」が使えます。
実際に取引された価格が、場所・種類・時期つきで公開されている国のサイトです。
見るときは、次の順で絞り込みます。
- 場所を、区だけでなく町名や最寄り駅の近くまで絞る
- 種類を、マンション・戸建て・土地のうちご自分の物件に合わせる
- 時期を、直近の2年ほどに絞る
- 広さと築年数が近い取引を拾う
近い取引が数件しか無いときは、1件の特殊な取引で数字が大きく動きます。
その場合は無理に自分で結論を出さず、査定で個別の事情を足してもらうほうが確かです。
当社の福岡市の売却相場のページは、この不動産情報ライブラリの取引価格を、7区ごとに集計したものです。
対象は2024年第2四半期から2026年第1四半期までの直近8四半期で、マンション・戸建て・土地の中央値と件数を載せています。
件数を一緒に見られるので、AIの答えを確かめる物差しとしても使えます。
調べ方の手順は不動産の相場の調べ方にもまとめました。
買う側が「あると便利」と答えた情報を、売主はどう用意しますか?
買う側が求めているのは、写真に加えて、物件の品質と街の様子が分かる情報です。
全宅連の調査では、物件の写真46.8%、品質情報35.8%、周辺物件の相場31.5%、街の環境情報30.5%の順でした。
相場と比べて価格の理由を示せる情報を、売り出す前にそろえておきます。
写真はいまも最多ですが、前年から7.5ポイント下がりました。
写真がいらなくなったのではなく、写真だけでは判断しない人が増えたと読むのが自然です。
明るい時間に撮る、生活用品を片づけて部屋の広さが伝わるようにする、といった基本は変わりません。
そのうえで、写真に写らない情報をどう出すかが価格の納得感を左右します。
品質情報は35.8%で上昇。売主が出せる資料
品質情報(耐震・省エネ・防音・バリアフリーなど)は35.8%で、前年から1.9ポイント上がりました。
売主の手元にあるもので、品質を示せる資料は次のとおりです。
| 資料 | 買う側に伝わること |
|---|---|
| リフォームの履歴(時期・工事内容・見積書や領収書) | いつ、どこに手が入っているか |
| 設備の点検や交換の記録(給湯器・屋根・外壁など) | 入居後すぐに直す場所がどこか |
| 建物の状況調査(インスペクション)の報告書 | 専門家が見た建物の状態 |
| マンションの管理状況(修繕の履歴・長期修繕計画) | 建物全体の手入れと今後の負担 |
インスペクションとは、建築士などの専門家が建物の傷みや不具合の有無を調べることです。
どれもそろっている必要はありません。
手元にある紙を1つでも多く出せれば、「相場より少し高いのは、ここに手を入れてあるから」と説明がつきます。
リフォームを新たにするべきか迷う方は、家を売る前にリフォームは必要かを先にお読みください。
街の環境は、住んでいる人にしか書けない
2026年に新しく加わった選択肢「街の環境情報」も30.5%でした。
AIが答えられるのは、ネットに書かれている一般的な地域情報までです。
朝の通学路の様子、近所のスーパーの混み具合、夜の静かさは、住んでいる売主がいちばんよく知っています。
不動産会社に伝えておけば、物件の紹介文や内覧での説明に生かせます。
生成AIの時代に売り出すなら、売主は何から始めればよいですか?
最初にやるのは、ご自分の物件に近い取引価格を一次データで確かめることです。
そのうえで、価格の理由を示せる資料を集め、査定で根拠を聞きます。
売り出す前の3つの手順
- 不動産情報ライブラリや当社の区ページで、近い取引の価格と件数を見る
- リフォームの履歴や点検の記録など、品質を示せる紙を集める
- 査定を頼み、査定額がどの取引をもとにしているかを聞く
3つ目で根拠を答えられない会社の査定額は、値付けの材料になりません。
売り出し価格を査定額からどう決めるかは、売り出し価格の決め方で解説しています。
会社の選び方そのものは、同じ調査から書いたAI時代の不動産会社の選び方をご覧ください。
価格や金利の先行きで値付けしない
AIに「来年は上がりますか」と聞くと、それらしい答えが返ってくることがあります。
けれども、相場や金利がこの先どう動くかは、誰にも言い切れません。
値付けの根拠にできるのは、すでに成立した取引の価格と、ご自分の物件の状態だけです。
金利が買う側の予算にどう響いているかは金利上昇と買主の予算で、「買い時」の数字の読み方は買い時の数字の読み方で扱いました。
当社は、ご要望と相場感を洗い出したうえで、売却のゴールを一緒に決めていきます。
AIで調べた数字をお持ちいただければ、実際の取引と何がずれているのかを一緒に確かめます。
リフォームや点検の記録が手元にあれば、あわせてお持ちください。
