一棟を民泊の運営会社に貸す|借り上げと運営委託の違い
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士空室の多い一棟アパートやビルを、民泊の運営会社に丸ごと任せられないかと考えるオーナーがいます。
任せ方は2つあり、運営だけを頼む「運営委託」と、運営会社が建物を借りて自分の事業として民泊にする「借り上げ」です。
この記事は、福岡市で一棟の建物を持ち、空室が多く、できるだけ手間をかけたくない方に向けて書きました。
先に結論を書くと、借り上げは運営を任せる契約ではなく、建物を貸す契約です。
収入は売上に連動しない賃料になる一方、借地借家法がかかります。
そのため賃料の見直しや、やめるとき・売るときの扱いが、運営委託とまったく違ってきます。
民泊の届出と年180日の上限など制度の基本は空き家を民泊にするにはにまとめたので、ここでは繰り返しません。
2. 運営委託と借り上げを表で比べると?
3. 借り上げの契約で確かめることは?賃料の見直し・期間・原状回復
4. サブリースの決まり(賃貸住宅管理業法)は民泊の借り上げにも当たる?
5. 借り上げ中の一棟を売るとき、運営会社との契約はどうなる?
6. 借り上げにするか迷ったら、売る・貸すと並べて相談する
一棟の民泊の「借り上げ」とは?運営委託とどう違う?
借り上げとは、民泊の運営会社がオーナーから部屋や一棟を借り、運営会社自身の事業として民泊を営む形です。
運営委託では民泊の事業者はオーナーのままで、運営会社は手足として動きます。
どちらも宿泊客の対応や清掃は運営会社がしますが、「誰の事業か」が逆になる点が根本の違いです。
運営委託は、オーナーが事業者のまま運営を頼む形
運営委託では、届出や許可の名義も、売上も、オーナーの側にあります。
運営会社は宿泊客の受け入れ、清掃、苦情の対応などを請け負い、オーナーは委託料を払います。
売上が上がればオーナーの手取りも増え、空いた日が続けば減るという、事業の結果がそのまま返ってくる形です。
家主が住まない家の届出民泊では、国に登録した住宅宿泊管理業者への委託が法律で決まっています。
任せられる範囲と選び方は民泊の運営代行とはで詳しく書きました。
借り上げは、運営会社が建物を借りて自分の事業にする形
借り上げでは、オーナーは運営会社の「大家」になります。
オーナーが受け取るのは民泊の売上ではなく、運営会社との契約で決めた賃料です。
民泊がよく埋まった月も空いた月も、受け取る額はその月の売上では動きません。
ただし後で書くとおり、賃料は契約期間の途中でも見直しを求められることがあり、ずっと同じ額だと考えるのは誤りです。
提携している運営会社の話では、一棟のビルを丸ごと借りて民泊を運営している例があり、場所によっては一棟まるごと空室の建物でも運営できるそうです。
同じ運営会社の目安では、海外からの宿泊客を見込むため、博多・天神から車で5〜10分、徒歩で30分圏内がひとつの線になります。
一棟まるごとではなく、空室の部屋だけを民泊に回す場合の確かめどころはアパートの空室を民泊で埋めるに書きました。
稼働が下がってもよければ範囲は広がるとのことなので、この線の外だから無理だと決めつける必要はありません。
分譲マンションは管理規約で民泊を禁じていることが多く、オーナーが1人で持つ一棟のほうが話を進めやすいという点も、同じ運営会社から聞いています。
運営委託と借り上げを表で比べると?
違いが出るのは、収入の形、初期費用、届出・許可の名義、やめるときの手間、売るときの扱いの5つです。
| 項目 | 運営委託 | 借り上げ |
|---|---|---|
| 収入の形 | 売上から委託料などを引いた残り。売上に連動する | 契約で決めた賃料。売上には連動しない |
| 初期費用(家具家電・内装) | オーナーの事業の設備。負担は話し合いで決める | 運営会社の事業の設備。負担は物件ごとに決める |
| 届出・許可の名義 | オーナー | 運営会社 |
| やめるときの手間 | 委託契約の解約の定めに沿って終える | 建物の賃貸借なので、オーナーからの解約には正当の事由が要る |
| 売るときの扱い | 届出は買主に渡せない。委託契約の扱いは三者で決める | 賃貸人の立場が買主へ移り、運営会社との契約が続く |
収入の形と初期費用は、誰が事業のリスクを持つかで決まる
運営委託では売上の増減をオーナーが受け止め、借り上げでは運営会社が受け止める、というのが基本の構図です。
そのぶん借り上げの賃料は、運営会社が自分の手元に残す分を見込んだうえで決まります。
どちらの形が得かは、建物の場所と、オーナーがどこまで売上の波を受け止められるかで変わるので、一律には言えません。
家具・家電と内装の初期費用も、提携している運営会社の話では、誰が持つかは形と物件で変わるそうです。
海外の方に受ける和の内装のように手を入れる場合は、工事の範囲と負担を契約書に書き分けておくと、やめるときの原状回復でもめません。
改装・消防・委託料などの項目ごとの考え方は、空き家を民泊にする費用で整理しています。
届出・許可の名義と、民泊への転貸の承諾
借り上げでは民泊を営むのは運営会社なので、届出や許可も運営会社の名義で受けるのが基本です。
福岡市内の物件の場合、住宅宿泊事業の届出は福岡県の生活衛生課へ、旅館業の許可は施設がある区の衛生課へ出します。
届出の民泊は年180日までですが、旅館業の許可を受ければ日数の上限はありません。
旅館業の申請は、借り上げなら運営会社が自らの名義で行います。
物件によって、許可が取れる場合と取れない場合があります。
借りた建物を宿泊客に使わせることは、法律上の「転貸」にあたる行為。
民法612条は、賃貸人の承諾が無い転貸を禁じ、無断で転貸すれば賃貸人は契約を解除できると定めています。
観光庁の案内でも、賃借人が届出をするときは、賃貸人が住宅宿泊事業を目的とした転貸を承諾していることが届出の事項に入っています。
借り上げの契約書には、民泊(または旅館業)に使うための転貸を承諾する旨を、はっきり書いておきましょう。
借り上げの契約で確かめることは?賃料の見直し・期間・原状回復
確かめるのは、賃料の見直しの条件、契約期間と中途解約、原状回復、許可が取れなかったときの扱いの4つです。
借り上げは建物の賃貸借なので借地借家法がかかり、賃料は途中で見直されることがあり、オーナーの側からはやめにくくなります。
民泊への転貸の承諾は、上の「届出・許可の名義」で書いたとおり、どの契約にも欠かせない一文です。
賃料は途中で見直されることがある
経済事情の変動などで賃料が不相当になれば、運営会社は契約の条件にかかわらず減額を求められます。
「賃料は契約期間中ずっと同じ」と考えて資金の計画を立てると、見直しを求められたときに返済などの予定が狂うでしょう。
借地借家法32条1項が増減の請求を認めるのは、賃料が不相当になったときです。
理由として挙げられているのは、税などの負担の増減、土地・建物の価格や経済事情の変動、近くの同じような建物の賃料との比較の3つ。
条文が特約で例外を認めているのは「一定の期間増額しない」という特約だけです。
国土交通省もサブリースの契約前の説明で、この点を伝えるよう求めています。
「一定期間は減額しない」と契約に入っていても、減額の請求はできるという説明です。
一方で、請求を受けたオーナーがその額を必ず受け入れなければならないわけではない、という点も同じ資料にあります。
話し合いで決まらなければ、調停や裁判で相当な額を決めることになります。
賃料の見直しについて、契約の前に確かめたいのは次の4点です。
- 賃料をどう決めたか(設定の根拠)を書面で説明してもらえるか
- 見直しの時期(何年ごと、どの時点か)が書いてあるか
- 見直しのときに何を基準にするか(近くの賃料、運営の実績など)
- 定期建物賃貸借(更新の無い契約)にして、賃料の改定の決まりを特約で定めるか
4つ目の定期建物賃貸借では、賃料の改定に関する特約があれば32条は適用されないと、借地借家法38条9項に書かれています。
見直しの方法を前もって決めておける形なので、運営会社にこの形を取れるか聞いてみてください。
契約期間と中途解約は、オーナーと運営会社で重さが違う
オーナーの側から借り上げをやめるのは、運営委託の解約よりずっと難しくなります。
借地借家法28条により、賃貸人からの更新拒絶や解約の申入れには「正当の事由」が要るためです。
期間の定めのある建物の賃貸借では、期間満了の1年前から6か月前までに通知が要ります(借地借家法26条)。
更新しない旨を通知しなければ、同じ条件で更新したものとみなされる仕組みです。
通知をしても、正当の事由が無ければ更新拒絶は認められません。
正当の事由は、双方が建物を使う必要性、これまでの経過、建物の利用状況や現況、立ち退き料の申し出などを考え合わせて判断されます。
「数年したら売る」「子どもが建て替える」という予定があるなら、更新の無い定期建物賃貸借で期間を区切ることを検討してください。
反対に、運営会社の側から中途解約できる定めがあると、オーナーは思ったより早く空室の建物を返されることがあります。
運営会社から解約するときの予告期間と、その間の賃料の扱いは、契約書で必ず見ておきたいところです。
原状回復と内装、許可が取れなかったときの扱い
民法621条は、賃借人は通常の使用による損耗と経年変化を除いて、受け取った後の損傷を元に戻す義務を負うと定めています。
民泊は宿泊客の出入りが多く、どこまでが通常の損耗かで解釈が分かれがちです。
引き渡すときの写真と設備の一覧を残しておけば、返されるときに比べる材料になります。
運営会社が入れた和の内装や畳・建具は、借地借家法33条の「造作」にあたる場合があります。
オーナーの同意を得て付けた造作なら、契約が終わるときに運営会社は時価での買い取りを求められる、という決まりです。
この条文は特約で外せるので、「造作の買い取りは請求しない」「撤去して返す」のどちらにするかを契約で決めておきましょう。
旅館業の許可が取れなかったときの扱いも、契約を結ぶ前に決めておく項目です。
許可が下りなければ、運営会社は通年の営業ができません。
「許可が取れなければ契約は白紙」「届出の民泊に切り替える」のどちらに進むかを書いておきましょう。
決めていないと、賃料の始まる日や工事費の負担でもめる原因になります。
出典:e-Gov法令検索 民法
サブリースの決まり(賃貸住宅管理業法)は民泊の借り上げにも当たる?
当たるとは言い切れません。
賃貸住宅管理業法のサブリースの決まりが対象にしているのは、「賃貸住宅」を転貸する事業のための契約です。
ところが国土交通省の解釈では、民泊や旅館業に使われている建物は、この「賃貸住宅」に入らないとされています。
民泊のための借り上げを名指しして、当たる・当たらないを示した国の記載は、私たちが調べた範囲では見つかりませんでした。
国の解釈では、民泊・旅館業の建物は「賃貸住宅」に入らない
賃貸住宅管理業法は、サブリースの契約(法律では特定賃貸借契約)について、誇大な広告や不当な勧誘を禁じ、契約前の書面での説明を義務づけています。
特定賃貸借契約とは、賃借人が賃貸住宅を転貸する事業を営むことを目的として結ぶ、賃貸住宅の賃貸借契約のことです。
国土交通省の「解釈・運用の考え方」が賃貸住宅から外しているのは、届出の民泊に使われている住宅です。
現に人が泊まっているか、予約や募集をしている状態のものを指します。
旅館業の許可を受けて宿泊料を取り、人を泊めている施設も同じ扱いです。
ただし、民泊に使われていない間は賃貸に使われることもあり、その場合は賃貸住宅に当たるとも書かれています。
このため、民泊のための借り上げにサブリースの決まりが当たるかどうかは、建物の使われ方しだいで、一律に決まるものではありません。
当たるか分からなくても、同じことを書面で求める
法律が当たらない場合でも、サブリースの決まりが求めている説明の中身は、借り上げの契約を判断する材料としてそのまま使えます。
- 賃料の額と設定の根拠、見直しの時期と方法
- 建物の修繕や点検を誰がどこまで行い、費用をどう分けるか
- 契約期間、更新の方法、中途解約の条件
- 契約が終わったときに、宿泊の予約や内装をどう引き継ぐか
この4つを契約の前に書面で出してもらえない会社とは、長い期間の契約を結ばないほうが安全です。
どの法律が当たるか迷うときは、契約書の案を持って弁護士に相談してください。
借り上げ中の一棟を売るとき、運営会社との契約はどうなる?
運営会社との賃貸借契約は、そのまま買主に引き継がれます。
建物の引渡しを受けている賃借人がいる不動産を売ると、民法605条の2により賃貸人の立場が買主へ移るためです。
オーナーが売る前に運営会社の承諾を取る必要はなく、買主は運営会社が民泊を続けている建物を、賃料が入る状態で買うことになります。
民法605条の2で、賃貸人の立場と敷金が買主へ移る
建物の賃貸借は、登記が無くても建物の引渡しがあれば、その後の所有者に対抗できます(借地借家法31条)。
一棟を借り上げた運営会社は建物の引渡しを受けているので、売買で所有者が替わっても契約は続きます。
預かっている敷金を返す義務も、民法605条の2第4項で買主が引き継ぐため、決済の日に売主と買主で精算するのが一般的な流れです。
精算の方法や、売る前に作っておく一覧表は一棟のオーナーチェンジ売却で詳しく書きました。
運営委託の場合は事情が違い、民泊の届出は届け出た人に付くので買主へは渡せず、運営会社との委託契約を買主が引き継ぐかは三者で話し合って決めます。
借り上げ付きで売るか、契約を終えてから売るか
借り上げ付きのまま売る場合、買主の中心は賃料の入る建物を探している投資家です。
査定でも、建物そのものの値打ちより、賃料と契約の中身から見た収益の力が問われます(収益物件の査定方法3つ)。
自分で使いたい人や建て替えたい人にとっては、正当の事由の壁が残る建物になるため、候補から外れやすくなります。
どちらの買主に売りたいかで、普通の賃貸借にするか定期建物賃貸借にするかの判断も変わります。
貸す前に「いつか売るか」を決めておけば、契約の形を選びやすいはずです。
民泊に使えることは買主の幅を広げる材料になりますが、買う人が民泊をするとは限りません。
借り上げにするか迷ったら、売る・貸すと並べて相談する
借り上げは、一棟の空室を手間をかけずに使う方法の1つですが、長い賃貸借で建物を縛る選択でもあります。
当社は福岡市で民泊を運営する会社と提携しており、ご希望があれば提携先と一緒にお話をうかがいます。
査定のときに、売る・普通に貸す・民泊で使うを並べ、運営委託と借り上げのどちらが合うかも含めて一緒に考えるのが私たちのやり方です。
民泊の提案と運営は提携先の運営会社が行い、当社は売却と建物の扱いの面からご一緒する形です。
民泊での運用と売却の比べ方は民泊で運用する(福岡市)に、一棟の売却全体は一棟ビル・マンション・アパートの売却にまとめています。
まず今の値打ちを知りたい方は無料査定から、借り上げの話を聞いたばかりで整理したい方は15分の無料相談からお声がけください。

