個人間売買のトラブル|本人確認と資金確認は誰がやる
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士親族や知人との売買を、不動産会社を通さずに進めたいというご相談をいただきます。
契約書のひな形は手に入りますし、登記は司法書士に頼めます。
それでも、誰かがやらないと取引が成立しない仕事が2つ残るのです。
相手が名乗っている本人かどうかの確認と、代金を払えるお金が本当にあるかの確認です。
仲介の会社が入る取引では、この2つを会社が先にやっています。
個人どうしの売買では、どちらも誰の義務にもなりません。
この記事は、福岡市で親族間や知人間の売買を考えている売主に向けて、揉めやすい場所と、揉めたあとの受け皿がどこまであるかを整理しました。
結論を先に書くと、いちばん重い問題は手数料ではなく、こじれたときに持ち込む先が無いことです。
2. 相手の本人確認は、誰がやることになりますか?
3. 代金を払えるお金があるか、どう確かめますか?
4. 口頭の約束は、あとで何になりますか?
5. 揉めたとき、どこに相談できますか?
6. 費用を抑えたいときは、どこを削りますか?
個人間売買では、どんなことで揉めますか?
揉めるのは、契約の前・契約のとき・引渡しのあとの3つの場面です。
契約の前は、相手の身元と資金。
契約のときは、約束を書面に落とさなかったこと。
引渡しのあとは、建物の不具合と、残置物や期日の行き違いが中心になります。
この順番には理由があります。
前の場面で止めなかった問題が、次の場面でより高い値段になって出てくるためです。
資金の確認を省くと決済日に止まり、書面を省くと引渡し後に請求が来る。
仲介が入る取引では、誰かが止めている
不動産会社が入る売買では、会社が途中で何度も手を止めます。
所有者と名乗っている人が登記名義人と一致するかを確かめ、買主の資金の裏付けを見て、契約書の条項を物件に合わせて直す。
この作業は請求書に明細として出てこないため、外からは見えません。
見えないものを外すと、作業そのものが消えるのではなく、売主の仕事に移るだけです。
止めている場所を具体的に挙げると、次の4つになります。
- 売主が登記名義人と同じ人かどうか
- 買主の資金に裏付けがあるか
- 物件の調査で出た事実が、契約書と説明書に反映されているか
- 決済の日に、代金と鍵と登記書類が同時に動く段取りができているか
4つ目は、個人売買でいちばん軽く見られています。
代金を受け取る前に鍵と書類を渡してしまうと、取り戻す手段が民事の手続きしか残りません。
同じ相手でも、関係が近いほど書面が薄くなる
親子、兄弟、長く付き合いのある知人との売買では、書面が薄くなりがちです。
信頼があるから書かなくてよいという判断は、当事者が元気なあいだだけ成り立ちます。
相続が起きて当事者が代わると、残っている紙だけが根拠になるのです。
口約束の部分は、相続人には引き継がれません。
相手の本人確認は、誰がやることになりますか?
売主自身がやることになります。
宅地建物取引業者は犯罪収益移転防止法の特定事業者にあたり、売買の媒介や代理をするときに取引時確認を行います。
確認の記録は7年間の保存が義務で、やらない選択肢がありません。
この義務は業者に課されたもので、個人どうしの売買には適用されません。
売主が確かめる3点
相手が買主として立つとき、売主が見るものは3つです。
- 本人かどうか(顔写真付きの公的な身分証と、本人の顔の一致)
- 登記名義人と一致しているか(売主側も同じで、買主は売主の名義を見ています)
- 代理人なら、その権限があるか(委任状と、委任した本人の印鑑証明書)
いちばん見落とされるのが3つ目です。
高齢の親に代わって子が交渉に出てくる形は、福岡でもよくあります。
親の意思がはっきりしている段階で委任状を整えておかないと、意思能力が問題になったあとでは登記が通りません。
身分証の見方にも、押さえどころがあります。
氏名と住所が登記簿の記載と一致しているかを、その場で突き合わせてください。
結婚や引越しで変わっていることは珍しくなく、一致しないときは住民票や戸籍の附票で変遷をつなぎます。
登記の住所が古いままのときの手続きは登記の住所が昔のままでも売れる?売却前の住所変更登記に書きました。
決済のときは司法書士が見ている
個人売買でも、所有権移転の登記を司法書士に頼めば、決済の席で司法書士が当事者の本人確認をします。
ここは個人売買に残っている数少ない関門です。
ただし司法書士が見るのは登記の当事者で、代金を払えるかどうかは見ません。
司法書士に頼める範囲は不動産の個人売買と司法書士|自分で登記できる範囲と費用に分けて書きました。
代金を払えるお金があるか、どう確かめますか?
現金なら預金残高の写し、融資を使うなら金融機関の承認の書面で確かめます。
口頭で「払えます」と言われただけで契約日を決めると、決済の当日に止まることがあります。
止まったときに困るのは買主だけではありません。
売主も住み替え先の契約を進めていると、こちらの決済が連鎖で崩れます。
融資を使う買主には、承認の書面を見せてもらう
個人売買では、買主が住宅ローンを組みにくくなります。
重要事項説明書が無い取引を、金融機関が嫌うためです。
融資を前提にするなら、事前審査ではなく本審査の承認まで進んだ書面を見てください。
福岡の金融機関が何を求めるかは不動産の個人売買で住宅ローンは使える?福岡の銀行が求める書類にまとめています。
手付金は、売主側の防波堤になる
手付金を受け取っておくと、買主が勝手に降りたときに手付金が売主に残ります。
実務の目安は売買代金の5〜10%で、2,000万円の取引なら100万〜200万円です。
親族間の売買では手付金を省く例が多いのですが、省くと買主はいつでも降りられる立場になります。
金額の決め方は手付金はいくらが相場?5〜10%の目安と上限2割の決め方に書きました。
融資特約が無い契約は、売主の側も危ない
融資特約は、買主のローンが通らなかったときに契約を白紙に戻す条項です。
売主にとっては、入れないほうが得に見えます。
ところが特約が無いまま決済ができないと、違約金の請求や解除の交渉を売主が自分で進めることになります。
相手が親族だと、その交渉そのものができません。
特約の働き方は買主のローンが通らなかったら?融資特約で契約は白紙にで読めます。
口頭の約束は、あとで何になりますか?
何にもなりません。
残っているのが契約書だけなので、書いていない約束は「言った・言わない」に変わります。
そして個人売買では、仲立ちをして記憶を突き合わせる第三者がいません。
行き違いが起きるのは、物と日付
当社が仲介で入っていても、確認が甘いと行き違いが起きる項目は決まっているのです。
- 残していく物と、撤去する物の線引き(エアコン、物置、仏壇、庭木)
- 引渡しの日と、鍵を渡す時刻
- 固定資産税の精算の起算日
- 引渡し後に不具合が出たときの連絡先と期間
どれも契約書と付属の書面に欄が用意されているものです。
欄が空いたまま署名すると、空欄のまま引渡しの日が来ます。
とくに残置物でこじれる例が目立ちます。
売主は「使えるから置いていく」と考え、買主は「処分費を払わされた」と受け取るためです。
品目を1つずつ書き出して、残すものに丸を付けるだけで、この行き違いは消えます。
書面に落とすのは2枚
売買契約書と、物件状況報告書(告知書)の2枚です。
告知書に書いた不具合は、責任の対象から外せます。
告知書の書き方は物件状況報告書はどこまで書く?必ず書く4項目に書きました。
契約書のほうは不動産の個人売買の契約書|ひな形に足りない項目にまとめています。
揉めたとき、どこに相談できますか?
個人どうしの売買を正面から扱う公的な相談先は、見当たりません。
不動産取引の相談窓口は、宅地建物取引業者との取引を前提に作られています。
相手が業者ではなく個人だと、その前提から外れるのです。
福岡県の窓口は、業者相手の取引が対象
福岡県の宅建業の相談は、建築都市部建築指導課の宅建業係が受けています。
場所は福岡市博多区東公園7-7の県庁で、電話は092-643-3718、受付は平日の8時30分から17時15分までです。
ここが扱うのは宅地建物取引業法の規制が及ぶ取引で、免許を持つ業者の行為が対象になります。
個人どうしの売買で代金が払われないという相談は、この枠に入りません。
国の側にも不動産業相談ダイヤルがあり、九州地方整備局の建政部建設産業課が受け付けています。
こちらも不動産業者の取引を前提にした窓口です。
RETIOの紛争処理も、受け皿は業者との取引
不動産適正取引推進機構(RETIO)には特定紛争処理事業があり、費用は原則として無料です。
ただし対象は、都道府県の宅建業法主管課で解決しなかった紛争のうち、両当事者が同意したものに限られます。
第1次処理機関が県の宅建業の窓口である以上、個人間の売買はそこへたどり着けません。
残る道は当事者どうしの話し合いと、民事の手続きです。
民事の手続きに入ると、弁護士費用と時間がかかります。
4,000万円の物件で代金の一部が未払いになった場合、請求のために動く費用が仲介手数料を上回ることもあるのです。
親族間だと、そもそも訴える判断そのものができないという声もいただきます。
売買契約にクーリング・オフは効かない
国民生活センターは2021年6月、高齢者の自宅の売却トラブルについて注意喚起を出しました。
そこで示されているのは、自宅の売却契約をクーリング・オフで無条件に解除することはできないという点です。
これは業者が買主のときの話ですが、個人が買主ならなおさら無条件の解除はできません。
売ると決めて署名したら、そこから巻き戻す仕組みは用意されていないのです。
この点は、個人売買でも仲介でも変わりません。
違うのは、署名の前に止めてくれる人がいるかどうかだけです。
費用を抑えたいときは、どこを削りますか?
削るのは手続きそのものではなく、担当者が動く範囲です。
博多区の戸建ての売却価格は中央値で4,000万円(87件・2024年第2四半期〜2026年第1四半期)。
この価格の仲介手数料は、法定の上限で約138万円になります。
売却代金の3.5%ほどにあたる金額です。
この金額を丸ごと無くす代わりに、本人確認、資金確認、重要事項説明、契約書の作成のすべてが売主の側に移ります。
どこまで自分でできるかは不動産の個人売買はどこまで自分でできる?できること一覧で確かめてください。
売却の全体の流れは売却の流れに、手続きの窓口は手続き窓口ガイドに区ごとに載せました。
当社には、売主が担当する範囲を決めて、当社の通常料金から仲介手数料を割り引くじぶん売却という仕組みもあります。
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