相続した実家は売る・貸す・民泊のどれ?比べ方と決める順番
執筆・監修:野上俊彦株式会社おもいで不動産 代表取締役/宅地建物取引士
執筆・監修:野上俊彦代表取締役/宅地建物取引士親から相続した福岡市の実家を、売るか、普通に貸すか、民泊にするかで迷っている方へ。
この記事は、3つの道を同じ物差しで並べて、どれを選ぶかを決めるためのものです。
物差しは、手間・お金が入る時期・やめやすさ・税金の4つにしました。
結論を先に書くと、決める順番は「税の期限」「家の条件」「手間を誰が持つか」「いつ現金が要るか」です。
家賃や宿泊料がいくら入るかは、その4つを確かめたあとで考えても遅くありません。
相続した空き家を売るときの3,000万円控除は、一度でも貸すか民泊にすると使えなくなるからです。
2. 売る・貸す・民泊は、どの順番で考えれば決められる?
3. 実家を売ると決めたら、手間と税金はどうなる?
4. 普通に貸す・民泊にするなら、何を引き受ける?
5. 決めきれないとき、まず何をすればよい?
実家を売る・貸す・民泊にする、何がどう違う?
売るはお金が一度に入って手間もそこで終わり、貸すと民泊は毎月お金が入る代わりに手間が続き、やめるときにも手続きが要ります。
3つを4つの物差しで並べると、次の表のようになります。
手間・お金が入る時期・やめやすさ・税金の比較表
| 比べること | 売る | 普通に貸す | 民泊にする |
|---|---|---|---|
| 手間 | 売り出しから引渡しまでの数か月に集中する | 入居者の募集・修繕・連絡の窓口が貸している間ずっと続く(管理会社に任せられる) | 県への2か月ごとの報告、宿泊者名簿、24時間の苦情対応、宿泊税の申告が続く |
| お金が入る時期 | 決済の日に一度に入る | 入居が決まってから毎月入る。修繕費は先に出る | 泊まった日の分だけ入る。消防設備などの費用は先に出る |
| やめやすさ | 引き渡したら元に戻せない | 普通借家は貸主の都合だけでは終われない | 予約を止めて廃業の届出をすれば終えられる |
| 税金 | 要件を満たせば相続空き家の3,000万円控除が使える | 貸した時点で相続空き家の控除は使えなくなる | 事業にあたり、相続空き家の控除は使えなくなる |
表の中で、あとから取り返しがつかないのは「税金」の行です。
手間やお金の入り方は途中で変えられますが、控除の要件は一度外れると戻りません。
「お金が入る時期」は、出ていくお金と並べて読む
売る場合は、決済の日に売却代金がまとめて入ります。
仲介手数料や税金はそこから払うので、売主が先に大きなお金を用意する場面は多くありません。
貸す場合と民泊の場合は、入るお金より先に、出ていくお金があります。
貸すなら壁紙や水回りの修繕、民泊なら消防法令に合わせる設備などです。
民泊では、福岡市の宿泊税を宿泊客から預かって毎月納めます。
税額は1人1泊200円か500円(県の分を含む)で、これは売上ではなく預かったお金です。
泊まった人がいない月も、0円で申告書を出す決まりになっています。
「やめやすさ」で差がつくのは、相手に権利があるかどうか
普通の賃貸借契約(普通借家)では、貸主が「売りたいので出てほしい」と言うだけでは契約を終えられません。
借地借家法28条は、更新を断るには「正当の事由」が要ると定めています。
期間が来たら終わる定期借家なら終わりを決められますが、書面で契約し、更新がないことを先に説明する手続きが要ります。
民泊の宿泊客は数日で帰るので、立ち退きの話し合いは起きません。
その代わり、予約サイトの掲載を止め、県へ廃業の届出を出す手順があります。
民泊をやめてから売り出すまでの順番は、民泊をやめて家を売る手順にまとめました。
売る・貸す・民泊は、どの順番で考えれば決められる?
最初に相続空き家の3,000万円控除が使える家かを確かめ、次に貸せる・泊められる家か、手間を誰が持つか、いつ現金が要るかの順に絞ります。
順番を逆にして「いくら入るか」から考えると、控除の期限を過ぎてから気づくことになりかねません。
1番目:相続空き家の3,000万円控除が使える家か
親が一人で住んでいた家を相続して売る場合、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を差し引けます。
主な要件は、1981年5月31日以前に建てられた家で、区分所有のマンションではなく、売却代金が1億円以下であることです。
そのうえで、国税庁は「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと」を求めています。
普通に貸しても民泊にしても、この要件から外れるということです。
売る期限は、相続の開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。
2026年3月に親が亡くなったなら、3年を経過するのは2029年3月なので、期限は2029年12月31日です。
特例そのものは、2027年12月31日までの売却が対象になっています。
延長されない限り、この例でも実際の期限は2027年12月31日です。
相続人が3人以上いる場合、1人あたりの控除は2,000万円までです。
控除の効き方を数字で見ると、譲渡所得が1,000万円の長期譲渡なら、税率20.315%で約203万円の税金になります。
控除が使えれば、この税金がかからない計算です。
貸すか民泊にするかを考えるのは、この差を家賃や宿泊料で取り戻せるかを見てからでも間に合います。
期限の数え方は空き家3,000万円控除の期限に詳しく書きました。
2番目:その家は貸せるか、民泊に使えるか
控除が使えない家、または控除より持ち続けるほうを選ぶ家なら、次は家そのものの条件です。
民泊は、家の中がきれいでも書類の上で止まることがある使い方です。
- 市街化調整区域にあり、特定の人だけが住める家として建てられている
- 分譲マンションで、管理規約や総会の決議が民泊を禁じている
- 建物が登記されていない、または増築部分が登記されていない
- 1年を通して泊めたいのに、用途地域が旅館業の許可を取れない地域にある
どれに当たるかの調べ方は、その家は民泊に使える?用途地域と建物の調べ方で福岡市Webまっぷの使い方から順に紹介しました。
普通に貸す場合も、水回りや給湯器が使えない家は、貸す前の修繕費が膨らむ点は同じです。
3番目と4番目:手間を誰が持つか、いつ現金が要るか
手間を誰が持つかは、実家の近くに住んでいるかどうかでほぼ決まります。
家主が住んでいない民泊では、清掃や苦情対応などを国に登録した住宅宿泊管理業者に任せなければなりません。
県外に住む相続人が自分で回せる形ではないため、委託の費用を含めて考えることになります。
委託料のほかに民泊を始める前と続けるあいだにかかる費用の項目は、空き家を民泊にする費用に並べました。
任せられる範囲と会社の選び方は、民泊の運営代行とはにまとめました。
最後は、いつ現金が要るかです。
兄弟で実家を分ける場合、持ち続ければ家賃や宿泊料を毎月分け続けることになり、誰が管理するかで揉めやすくなります。
相続税を納めた方なら、相続開始から3年10か月以内に売ると、納めた相続税の一部を取得費に足せる特例もあります。
現金で分けたい事情や、こうした期限があるなら、売る側に寄せて考えるほうが話はまとまりやすいでしょう。
兄弟でまだ方針を話し合えていない方は、実家が空き家になりそうなときの家族会議から始めてください。
実家を売ると決めたら、手間と税金はどうなる?
売る場合の手間は、相続登記から引渡しまでの数か月に集まり、税金は売った年の翌年の確定申告で一度に片が付きます。
持ち続ける場合と違い、毎年の申告や固定資産税から離れられるのが売る道の特徴です。
手間は相続登記と売り出しの準備に集まる
相続した家を売るには、先に相続登記で名義を相続人に移します。
相続登記は2024年4月から義務になり、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に申請することになりました。
名義を移す手続きと売り出しの準備は並行して進めてかまいません。
福岡市の固定資産税は4月・7月・12月・翌年2月の年4回に分けて納める仕組みで、売るまでの間は毎年この納付が続きます。
相続した実家を売る流れの全体は、相続した実家を売却する流れで解説しました。
税金は「親が買った時期」と「取得費」で決まる
相続した家は、親が買った時期をそのまま引き継ぎます。
親が長く住んでいた家なら、所有5年超の長期譲渡(税率20.315%)になるのが普通です。
所有5年以下の短期譲渡なら39.63%で、税率はほぼ倍です。
親が買ったときの売買契約書が見つからない場合、売却価格の5%を取得費とする計算方法がありますが、そのぶん税金は重くなります。
3,000万円控除を使わない場合の手取りは、手取りの試算で先に見ておけます。
個別の税額や有利不利は、税理士に確かめてください。
住まいとしては売りにくい家でも、買い手の幅は広げられる
古い家や傾斜地の家は、住まいを探す家族には選ばれにくいことがあります。
それでも、民泊や社宅として使う買主が、条件に合えば検討する場合があります。
解体せずに古家付きのまま売り出せば、解体費を売る前に払う必要はありません。
民泊の買主が必ず見つかるわけではなく、買い手の候補を広げる1つの方法です。
古い実家を解体する前に考えることは、古くて売れない実家を民泊の買主へに書きました。
普通に貸す・民泊にするなら、何を引き受ける?
どちらも、持ち続けるかぎり手間と申告が続き、売るときには相続空き家の控除なしで税金を計算することになります。
そのうえで、貸すは「終わらせにくさ」、民泊は「続く事務の多さ」が、それぞれの重さです。
普通に貸すなら、終わり方を先に決める
貸す前に決めておきたいのは、いつ・どうやって貸すのを終えるかです。
数年後に売るつもりなら定期借家で期間を区切り、満了の通知の時期まで手帳に書いておけば、終わらせ損ねることはありません。
入居者がいるまま売るオーナーチェンジでは、買うのは家賃収入を目当てにする投資家に限られます。
家賃は不動産所得になり、毎年の確定申告が要る場合もあります。
契約の形や貸したあとの売り方は、空き家を貸す前に決めることに詳しく書きました。
民泊にするなら、年180日と県・市の手続きがつく
届出の民泊で人を泊められるのは、1年で180日までです。
届出先は福岡市ではなく福岡県で、偶数月の15日までに前の2か月の宿泊日数や人数を報告します。
宿泊者名簿は3年間の保存が必要で、近所からの苦情には深夜や早朝でも応じる体制が求められます。
1年を通して泊めたいなら旅館業の許可が要り、こちらは物件がある区の衛生課が窓口です。
届出と許可の違い、届出前の書類、宿泊税までの流れは、空き家を民泊にするにはで説明しています。
民泊で使ったあとに家を売るときの税金は、民泊に使った家を売るときの税金に分けて書きました。
決めきれないとき、まず何をすればよい?
売った場合の手取りと、持ち続けた場合に毎年出ていくお金を、同じ紙に並べてください。
この2つが並べば、貸すか民泊で毎年いくら残れば売るより得になるかの線が見えてくるはずです。
売った場合の見込みは、相続空き家の控除が使える家なら、控除ありとなしの両方で出しておくと比べやすくなります。
民泊に使える家かどうかも、査定の段階で一緒に確かめられます。
いくらで売れるかを先に知りたい方は、無料査定からご依頼ください。
売らずに民泊や賃貸で持ちたい方、まだ方針が決まらない方は、15分無料相談でお話をうかがいます。
民泊で運用する道と、売る場合との比べ方は、民泊で運用する(福岡市)のページにまとめました。
売らずに持つ場合の管理や賃貸の費用は、空き家を売らずに持つならで4つの選択肢ごとに書いています。

